アセットマネジメント業界の魅力(3)

この記事では、アセットマネジメント業界の魅力を何回かに分けてお伝えします。
1.アセットマネジメント業界とは?
2.アセットマネジメント業界におけるキャリア形成
3.アセットマネジメント会社の待遇や労働環境(本記事)
4.アセットマネジメント会社のコンプライアンスというキャリア
5.新規参入が相次ぐ資産運用業

就職・転職活動を行っている人の大きな関心事として、待遇や労働環境があると思います。
自分の人生の長い時間を預けるわけですし、生活の基盤ともなりますから、その要素は職業を選択するに当たって重要な要素です。

では、アセマネ会社の待遇や労働環境はどのような感じでしょうか。
あくまで個人的な見方で、会社によっても違うと思いますが、自分の経験を踏まえて紹介してみたいと思います。

 

給与水準

アセマネ業界の特徴の一つに労働市場が流動的ということがあります。
つまり中途採用で入ってきている人が多いということですが、中途採用の場合、経験や前職の給与によって個別に給与が決められます。
また、アセマネ業界には様々な業界から人が入ってきますし、入ってくるときのステータス(正社員、派遣社員)や年齢も異なるので、本当に人によって給与水準は異なります。
そのため、終身雇用を前提とした年齢・職階ごとの給与テーブルが機能しにくくなっています。

それを前提として、給与水準の傾向を考えてみたいと思います。

アセマネ会社の給与水準を考える際には、日系か外資か、で大きく異なります。
<日系>
日系の場合、大手金融機関の傘下にあることが多いです。
グループ会社の一員ですので、親会社にあたる金融機関の給与水準を参考にしているように思われます。
したがって、給与水準を推定するなら、その親会社(銀行や証券、保険会社)の給与水準を想定するとよいと思います。
もちろん親会社とは別会社なので、業績に影響される賞与や昇進速度によって給与水準に差は生じますが、大きく異なることはないのではないでしょうか。

<外資系>
外資系の場合、中途採用が一般的で、ほぼ経験年数と前職の給与、およびそれを基にした交渉で給与が決まりますので、人によって給与水準はまちまちです。
大手だからといって給与が高いとも限りませんし、小所帯だからといって給与が低いとも限りません。
ただ、個人的な印象では、独立系・証券系の会社は銀行・保険系より、米系の会社は欧州系の会社よりも給与水準が高い傾向にあるように思われます。
ただし、会社は千差万別ですし、個人によって給与の前提条件が異なるので、あくまで傾向として捉えてもらえればと思います。

日系と外資系を比べると、基本的には外資系の方が高水準です。
自分のケースだと20-30%程度は外資系の方が多かったですし、多くの場合、日系から外資系に移ると10-20%は上がるようです。
ただし、日系が終身雇用を保証する一方、外資系では日本からの撤退や業績不振に伴う解雇のリスクがあることは要注意です。
※日系と外資系の比較についてはこちらの記事も参考になるかと思います。

また、フロント部門とミドル・バック部門でも給与水準に差があります。
<フロント>
運用部門・営業部門といったフロント部門は稼ぎ頭でもあるため、ミドル・バック部門より高い給与水準であることが多いです。
一方、企業の業績に責任を負っているという性格もあるため、特に賞与が業績の影響を受けやすく、年収の振れ幅が大きくなっています。
これは日系でも外資系でも共通しているように見受けられます。

フロントの場合、場合によっては年収が青天井になることもあり、「年収を100億円稼いだファンドマネージャー」が話題になったこともあります。
その点は魅力だと思いますが、下がるときは大きく下がりますし、日々のプレッシャーも強いので、このような働き方が望ましいかどうかは人によると思います。

<ミドル・バック>
一方のミドル・バック部門はフロントに比べると給与水準は低めです。
といっても、金融業界水準の給与ですし、それほど低いわけでもありません。
また、フロント部門と異なり定量的な業績目標がなく、淡々と業務をこなすことが基本的な役割になるため、フロントに比べるとプレッシャーやストレスは小さいと思います。

前述のとおり、中途採用が多いアセマネ業界の給与水準は一概には言えないものですが、あえて業界のイメージを示すとすれば年収はこんな感じでしょうか。
30歳(全職種):700 – 1200万円くらい
40歳(フロント):1200 – ∞
40歳(ミドル・バック):1000 – 2000 くらい

この水準も日系・外資、経験年数、職位などで大きく異なりますので、あくまでイメージとしてみていただければと思います。

 

解雇のリスク

金融業界といえば気になるのは解雇のリスク。
特に外資系ともなればクビと隣り合わせというイメージも世間的にはあるようです。

解雇のリスクも日系と外資系で異なります。
<日系>
日系の場合、リストラによる解雇はあまりないと言っていいと思います。
リーマンショックの時には日系運用会社にいましたが、会社の方針として解雇は絶対にしないという強い意志が見えました。
もちろん人事異動などによる解雇回避もありますので、キャリアに影響がないとは言いませんが、大手金融機関グループに属していることもあり、雇用の安定性は魅力だと思います。

<外資系>
外資系の場合、業績不振になるとリストラの嵐が吹くことは珍しくありません
人件費削減で業績不振を乗り切り、落ち着いたらまた人を雇うという感じです。
その際に対象になりやすいのが、業績の責任を負い、また給与の高いフロント部門です。
特に給与の高いシニア層がターゲットになりやすいです。

逆にフロント・ミドル部門はフロント部門に比べると給与水準が低いことや、一定人数がいなければ会社の業務自体が回らないこともあり、リストラの際にも比較的解雇の対象になることは少ないようです。

また、外資系の場合、合併や社長交代の際に従業員の削減や入れ替えが行われることが多いので、この場合はフロントやミドル・バック関係なくリスクがありますので注意が必要です。
ちなみに、外資の場合はそもそも日本から撤退する可能性もあり、その場合は全員解雇となる可能性があります(その場合は十分な経済的補償があると思いますが)。

なお、業界全体の傾向としてアウトソースを活用する方向に動いており、例えば投信計理、レポーティングなどは削減される可能性がありますので、この点も注意が必要だと思います。

 

福利厚生

福利厚生は日系も外資系も一通り揃っていると思います。
有給休暇は比較的取りやすい業界だと思いますが、これも会社や部署の雰囲気によります(自分の場合は日系でも外資系でも結構消化できました)。

 

労働時間

労働時間は会社の雰囲気や慣行、ビジネスモデル及び職種によりますが、アセマネ業界は金融業界の中では緩い方だと思います。

フロントの場合は朝早くから出社して情報収集をしたり一日の行動を考えたり、ということも多いようですが、夜はそこまで遅くはならないようです。
(決算集中日など一部の時期は本当に多忙のようですが)

ミドル・バックは一日のうちにこなすべき業務がある程度固定されていますし、処理すべき時間帯も決まっているので、あまり業務時間が長くなることはないと思います。
もちろんこちらも、例えば四半期ごとの顧客報告や投資信託の決算時期など特定の時期には忙しくなることがありますが、基本的にはそこまで忙しくないようです。

ただし、忙しい会社は職種問わず忙しいこともありますので、その点は注意が必要です。
もっとも、忙しい会社というのは業界でも評判になっていることが多いので、転職口コミサイトやエージェントなどに確認してみるとよいと思います。

 

転勤

日系の大手アセマネ会社は国内外に拠点を持っていて、そちらに転勤になることがありますが、ほとんどの場合は本社(東京)にずっと勤務することになります。
転職してもほとんどのアセマネ会社は東京にオフィスがあるため転居の必要はあまりありません。

したがって、この点では人生設計を行いやすい業界といえそうです。

なお、外資系の場合、希望すれば海外のオフィスで勤務する機会をもらえることもあるようです。

 

企業文化・雰囲気

企業文化や雰囲気も会社によって異なります。

特に日系運用会社の場合、経営者や管理職、従業員が親会社から出向・転籍で来ることが多いので、親会社の文化や雰囲気に似てくるようです。
したがって、銀行系は厳格な管理をするし、保険会社は穏やかな社風である傾向にあるようです。
もっとも、銀行や証券系にいたときはそれほどギスギスした雰囲気でもなかったので、アセマネ業界になると多少穏やかになるようです。

外資系の運用会社も社風は様々でハードで知られる会社もあれば、のんびりした会社もあります。
米系の方がハード、欧州系はのんびりと言われることも多いですが、米系でものんびりした会社は多いですし、逆に欧州系でもハードで知られる会社もありますので、ひとくくりにはできないようです。
(特に少人数の)外資系運用会社は経営者の性格や考え方で社風が変わることもありますので、経営者の職歴が社風を読み取るヒントになるかもしれません。

以上、運用会社の労働環境や待遇についてご紹介しました。
キャリア形成の場としてもさることながら、労働環境や待遇についても長期的に働きやすくなっており、非常に魅力的な業界だと思います。
より多くの方にアセマネ業界の魅力を感じていただき、業界を盛り上げていっていただければ幸いです。

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アセットマネジメント業界の魅力(2)

この記事では、アセットマネジメント業界の魅力を何回かに分けてお伝えします。
1.アセットマネジメント業界とは?
2.アセットマネジメント業界におけるキャリア形成(本記事)
3.アセットマネジメント会社の待遇や労働環境
4.アセットマネジメント会社のコンプライアンスというキャリア
5.新規参入が相次ぐ資産運用業

前記事ではアセットマネジメント(資産運用)業界の概要について説明しましたが、この記事ではアセットマネジメント業界におけるキャリア形成について、個人的に考えていることをお伝えしようと思います。

 

アセットマネジメント業界の業務について

なお、資産運用業のうち、投資信託に関係する業務については下記の記事で説明していますので、ご参考になれば(投資運用業には投資信託委託のほか投資一任もありますが、基本的な性格はほぼ同じです)。
投資信託委託会社について③委託会社の業務

また、運用会社の業務については下記の記事(書評)も参考になるかと思います。
投資信託 基礎と実務
運用会社はどんな仕事をしているのか

 

アセットマネジメント業界でキャリアを積む魅力

資産運用会社の職種は細分化されていて、それぞれにやりがいや魅力があると思いますが、自分がそれぞれの職種を経験しているわけではないので、職種ごとの魅力を語ることはできませんが、一般論として個人的に考える資産運用業界でキャリアを積むことの魅力をお伝えしようと思います。

(1)各業務の専門性が高い

上記のリンク記事にも記載しているとおり、資産運用会社の業務は細分化されていて、かつそれぞれの専門性が高くなっています。

そのため、特に外資系や日系でも中途採用の役職員は特定の専門分野に特化したキャリア形成になることが多いです。

例えば、運用部門の方は一貫してファンドマネージャーやアナリスト・エコノミストを続けることが多く、管理部門に行くことはそれほど多くありません(日系の場合は必ずしもそうではありませんが)。
それは運用部門に限ったことではなく、法定開示・任意開示資料を作成する専門性(ディスクロージャー)を持った人はやはりその業務を一貫して担当してその分野の専門性を確立することが多いですし、コンプライアンス(法令遵守)の場合もやはり法務やコンプライアンス、あるいは隣接するリスク管理などの分野を継続して担当することが多いです。

これは、業務ごとに専門性が高いために各分野を細切れに担当するより、一つの業務で専門性を高めた方が競争力が高まるという経営上の判断があると思われます。
実際、私はコンプライアンス業務を10年ほど経験していますが、運用部門や営業、資料作成の分野に行くとほとんど戦力にならないでしょうし、その逆もしかりでしょう。

特に日本の一般の会社や公共部門の場合は幹部候補は総合職という形で採用され、様々な分野を経験させてジェネラリストとしてキャリア形成を行うことが一般的ですが、その場合は視野は広がるかもしれませんが個々の業務の経験を積む期間は限られるため、自分の専門分野というものが築きにくいと思います。
キャリア形成の途中で自分に合う仕事が見つかっても必ずしもそれを続けることができるわけではありません。

その点、資産運用会社の場合、自分に合う分野を見つけたらその分野でキャリア形成を進めていくことが比較的容易です。
会社自体が専門性を重視ししていることに加え、もしその分野を外されそうになったら転職してそのキャリアを継続することも可能です。
また、後述するように資産運用業界は転職市場が成熟しており、専門性に対して高い評価がなされるため、一つの会社でジェネラリストとしてキャリア形成を積むより特定の分野の専門家として経験を積んだ方が好待遇を得られやすい傾向にあります。

(2)各業務の内容・プロセスは基本的に業界共通

多くの業界では同じような業務でも会社によってプロセスや慣習が異なるということは少なくないと思いますが、資産運用業界の場合業務のプロセスやシステムが高度に標準化されており、ある会社で行っている業務は比較的容易に別の会社でも行うことができます。

それゆえに前述のとおり専門性が高ければその知識や経験を他の会社でもすぐに生かすことができます。
専門性が好待遇につながりやすいというのはこのような業界の性格もあると思います。

(3)転職することが一般的で会社に縛られにくい

専門性が高く、業界で業務やシステムが共通化しているという業界の性格や経験者を中心に採用している外資系企業が多いという業界の性格上、転職市場が充実しています。

したがって、ある程度の専門性を持っていれば転職を行うことは比較的容易であるため、例えば「大きい会社で小さい役割を背負うより、小さい会社で大きな責任を担いたい」、「外資系企業で英語を使った仕事をしたい」、「人間関係に疲れたから転職したい」といった希望や不満を持った時に、一般的な業種よりは転職をしやすいと思います。
※これはすべて自分の過去の転職の動機です(笑)

転職すると待遇の向上につながりやすいので、キャリア形成の選択肢を広げやすいというメリットがありますが、それに加えて転職によって希望をかなえたり嫌な環境から逃げることができるということはそれ自体が精神的にも支えになります。

(4)業界自体が成長・変革しているので活躍しやすい

前記事でも言及しましたが、家計の金融資産の半分が現預金であり、また投資の必要性が認識されつつある日本では、資産運用業界の成長余地は大きく、国内外から新規参入が相次いでいます。
また、Fintechの進展もあり、新たな分野からの新規参入者が新しい形の資産運用業を展開する動きも見られます。
※実際にFintechで新規参入を目指している会社のお話を伺いました(「ベンチャー運用会社の立ち上げ」)。

そのような環境では若手も活躍の機会が豊富ですし、むしろ新しいものに対する吸収力の高い若手の方が活躍できるかもしれません。
場合によっては各分野において早い段階で管理職や経営陣として活躍することもできるでしょう。
そういう意味でも、優秀でアグレッシブな人にとって魅力的な業界だと思います。

以上、アセットマネジメント業界ではどのようなキャリア形成が見込めるのか、キャリア形成上どのような魅力があるのかを考えてみました。
アセットマネジメント業界に関心のある方や自分に合う業界を検討されている方の参考になれば幸いです。

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アセットマネジメント業界の魅力(1)

年が明け、そろそろ就職活動を開始される学生の方も多いのではないでしょうか。

自分もそうでしたが、学生の頃は世の中にどのような仕事や業界があるのかほとんどわからず、暗中模索という感じでした。
今ならTwitterやブログなどをいろいろ見てみるということをしたと思いますが、学生の頃はどうしても自分の知っている業界や名前を知っている会社に意識を集中させてしまいがちです。

しかしながら、世の中には自分の知らない世界や会社が多くあり、今にして思えばもったいなかったと思います。

自分が所属しているアセットマネジメント(資産運用)業界もその一つ。
もちろん熱心に情報収集をしている方はご存知の業界ですが、普通に学生生活を送っていると資産運用をする機会は多くないですし、CMもほとんど出していないので知名度はそれほど高くないと思います。

しかしながら、資産運用の重要性やFintechに注目が集まる中、存在感が高まりつつありますし、優秀な人材の活躍の場が豊富な業界でもあります。

そこで、場末のブログながら、アセットマネジメント業界の魅力をシリーズで紹介し、少しでも就職活動をされている方のお役に立てたらと思いますので、関心のある方には是非ご覧いただければと思います。
読者の方から質問があれば適宜回答・紹介させていただきますので、お気軽にどうぞ!

下記の通りシリーズでお伝えしようと思いますので、乞うご期待(?)。
1.アセットマネジメント業界とは?(本記事)
2.アセットマネジメント業界におけるキャリア形成
3.アセットマネジメント会社の待遇や労働環境
4.アセットマネジメント会社のコンプライアンスというキャリア
5.新規参入が相次ぐ資産運用業

※投資信託会社の業務については下記記事も参考にしていただけるかと思います。
投資信託委託会社について①投資信託とは
投資信託委託会社について②投資信託委託会社の役割
投資信託委託会社について③投資信託委託会社の業務

 

アセットマネジメント業界とは?

アセットマネジメントとは、文字通り、アセット(資産)をマネジメント(管理・運用)することで、それゆえに資産運用と呼ばれます。

資産とは広義には財産一般を指しますので、お金はもちろん、土地等の不動産や貴金属なども資産といえます。
実際、信託銀行などは土地を運用するサービスを提供しています。

しかし、一般に資産運用会社とは、投資家からお金を預かって、それを株や債券などの有価証券で運用する会社のことを指します。
信託銀行も資産運用機能がありそのような業務を行っていますが、一般的には「〇〇アセットマネジメント」「〇〇投資信託」「〇〇投資顧問」といった名称の会社が資産運用会社と言われます
もっとも、アセットマネジメントという名の会社は多種多様で、必ずしも投資家からお金を預かって運用するという業務を行っているわけではありませんので注意が必要です。

 

アセットマネジメント業界のサービス

資産運用会社が投資家に提供するサービスは大きく分けて「投資信託」「投資一任」「投資助言」の3つがあります。

投資信託とは、主に銀行や証券会社で販売されている「XYZファンド」と呼ばれる金融商品のことで、多くの投資家のお金を集めて、株式や債券、不動産などに投資します。
投資信託は個人投資家向けのものと機関投資家向けのものがありますが、基本的には個人投資家向けの金融商品という性格が強いです。
投資信託は運用サービスを投資家に提供する箱ともいえ、運用業務だけでなく、日々の投資信託の取引価格の計算や投資信託の販売用資料の作成といったサービスもセットで提供することになります。

投資信託には契約型投資信託と会社型投資信託があり、前者は証券会社や銀行などで購入することができる投資信託、後者は主に証券会社を通じて証券市場で取引する投資信託で、不動産に投資するREIT(不動産投資信託)が中心になります。

投資一任は、その名の通り投資をお任せで行うというサービスです。
こちらも個人投資家向けと機関投資家向けのサービスがありますが、資産運用会社では原則として機関投資家向けにサービスを提供しています。
またお客様は年金基金であったり、他の運用会社や保険会社などの機関投資家であることが多いです。

特に日系の運用会社は海外資産の運用ノウハウが弱いことが多く、外資系の運用会社に投資一任という形で運用を委託していることがあります。
例えば日系運用会社の海外資産に運用する投資信託の目論見書を読んでみると、多くの場合、外資系運用会社の名前が載っています。
その場合、その日系の運用会社は実質的には運用を行っていないことになります。
言い換えると、投資一任サービスの直接のお客様は運用会社であっても、実質的には個人投資家に対して運用サービスを提供することができるということです。

投資助言についても多様なサービス形態があるのですが、具体的な投資判断を行う(実質的な投資一任)こともあれば、単なる情報提供ということもあります。

 

アセットマネジメント会社のカテゴリー

資産運用業務は誰でも行うことができるわけではなく、金融商品取引法に定められたライセンスが必要になります。
具体的には「投資運用業者」というライセンスが必要で、特に投資信託・投資一任の業務を行うためにはそれなりのハードルが課せられます。
ちなみにアセットマネジメント会社は投資信託協会日本投資顧問業協会に加入していますので、どのような会社があるかはそれらのホームページでも確認できます。

アセットマネジメント会社にはいくつかのカテゴリーがあります。
上記の通り、業務で分けると「投資信託」・「投資一任」・「投資助言」の会社。
それぞれ単独ではなく、兼業している会社も多いです(大手はほとんどが兼業)。

資本系列では「独立系」・「銀行系」・「証券系」・「保険系」などの種類がありあす。
独立系とは特定の金融グループに属さない会社です。日本の大手運用会社は基本的に銀行や証券会社の子会社ですので独立系というとベンチャー系の運用会社が多くなりますが、海外の大手運用会社は多くが独立系です。
日系の運用会社ですと鎌倉投信やレオス・キャピタルワークス、さわかみ投信、海外ですと世界有数の運用会社であるブラックロックやフィデリティ、バンガードなどが挙げられます。
特に海外の独立系運用会社には上場している会社も少なくありません。

銀行系は銀行あるいはそのグループの子会社です。
有名どころですとアセットマネジメントOne(みずほ系)、三菱UFJ国際投信、三井住友アセットマネジメント、三井住友トラストアセットマネジメントなどがあります。
ちなみに日興アセットマネジメントも三井住友信託銀行の系列ですので銀行系になります。

証券系は証券会社グループの運用会社。
野村アセットマネジメント、大和投信投資顧問、岡三アセットマネジメントなどがあります。

保険系は保険会社系の運用会社。
保険会社の主要業務として資産運用業務があるため、ほとんどの保険会社がグループ内に運用子会社を持っています。
ニッセイアセットマネジメントや東京海上アセットマネジメントなどが大手として知られています。
なお、第一生命はみずほFGと共同でアセットマネジメントOneを、住友生命や三井住友海上はSMFGと共に三井住友アセットマネジメントを擁しています。

特に日系の場合は取引上も人的な面でも親会社・グループ会社の影響を強く受けますので、社風もよく似ているような印象を受けます。

また、資本の性格としては日系外資系に分類することもできます。
日系はその名の通り、日本の企業がバックとなって設立した会社、あるいは日本人が(外資系企業に頼らず)設立した会社です。

外資系は外国の資産運用会社の日本法人または日本支店という位置づけの会社です。
本国の運用サービスを日本で展開するのが使命であるため、営業部隊という性格が比較的強いと言えます(日本に運用機能がある外資系運用会社も多いです)。
また、本国ないし世界中の拠点との連携が必要であることから、英語の使用頻度が高いのも特徴と言えます。

 

アセットマネジメント業界の将来性

アセットマネジメント業界のお客様は前述のとおり、個人投資家や年金基金、機関投資家など様々です。
年金基金については今後の少子高齢化などでマーケットが縮小する可能性もありますが、個人の金融資産に目を向けると、依然として現預金が大半を占め、投資に回されている割合はまだ小さいと考えられています。
それゆえに、特に個人の金融資産は開拓のある余地が大きいマーケットであり、海外からも多くのアセットマネジメント会社が参入を続けています。

昨今では投資の必要性の認知度も高まりつつあり、税制面でもNISAiDeCoなど投資促進策が打ち出されており、アセットマネジメント業界の重要性や規模はますます大きくなると考えられますし、業務の専門性も高いことから、就職活動を行っている学生さんや業界外にいらっしゃってアセットマネジメント業界に関心のある方には是非資産運用会社の門をたたいていただきたいと思います。

本記事では資産運用業界の概要をお伝えしましたが、運用会社で働くこととはどういうことなのか、ということはシリーズ形式で別の記事でお伝えしたいと思います。

※本記事の内容はすべて私見ですのでご留意ください。

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2018年も頑張ります

新年あけましておめでとうございます。
2017年もあっという間に過ぎ去ってしまい、何を達成したのかもよく覚えていませんが、一年の計は元旦にありとも言いますので、まずは今年の目標を考えてみたいと思います。

まず昨年の振り返りをしてみようと2017年正月の記事を読み返してみました。
具体的な目標は立てておらず、王安石のようになりたいということでした。
それはそれでいいことですが、やはり具体的な目標を立てた方が、振り返りや新しい目標が立てやすくていいですね。

ということで、今年は具体的な目標を立ててみようと思います。
個人の目標なんて日記にでも書いてれば?という感じもしますが、ブログは日記の延長線上にありますし、こういうことをしている人間がいる、という旗を掲げるツールでもありますので、お目汚しをご容赦ください。

1.資産運用会社のコンプライアンス責任者として独り立ちできるめどをつける
実は今月から、これまで勤務していた日系資産運用会社を退職し、外資系の資産運用会社のコンプライアンス担当者として働くことになります。
これまでのキャリアで、資産運用業のコンプライアンスについては一通り経験してきたので、知識的にはかなり蓄積ができてきたと思います。
とはいえ、コンプライアンス部門の責任者を目指すには、より深い理解であったり、プレッシャーに耐える力や人を巻き込む力、さらには海外とのやりとりが必要になります。
今年はそのような点を意識して、資産運用会社のコンプライアンス責任者への道を歩んでいきたいと思います。

もっとも、これ以上転職しないようにまずは生き残ることから考えないと…(汗)

2.博士論文の方向性を固める
昨年から大学院の博士課程で研究を進めていますが、具体的な方向性はまだ固まっていなかったりします。
今年は2年目になりますので、具体的なテーマと論文の構成を固めて、一気に前に進めるような基礎を作り上げたいと思います。
まずは今月中旬に大学院で研究概要の発表がありますので、そこで先生や学生の方にご意見をいただいて、方向性を見出したいところです。

3.身体を整える
何をなすにも、まずは身体の充実が大事です。
健康であることに加え、よりスーツが映える身体を作り上げたいところです。
昨年は前半はランニングを頑張っていたのですが、秋以降は継続できていなかったので、今年は年間通じてランニングを継続したいです。
またランニングのみならず、筋トレなどでよりきっちりした身体を作るとともに、整体やストレッチにもお金をかけて、快適な状態を維持したいものです(いつも首や肩、腰が痛くて辛いので)。
しばらくフルマラソンを走っていませんが今年は一度はエントリーして、計画的にランニングをするようにするのも一つの手かと考えています。

4.生活のリズムを確立する
2017年は仕事に学業にと比較的充実していたし、安定もしていたのですが、生活のリズムを固定できず、割とその時の気分で生活していたような気がします。
それはそれでいいのですが、生活のリズムを固定できた方が落ち着いて活動できるようにも思います。
今年から新しい職場なので仕事の時間がまだ読めませんが、できるだけ生活リズムを固定して、心身の状態の向上、キャリア・学業の充実、より洗練された生活スタイルを目指したいものです。

5.ゴルフの上達
家族の勧めでゴルフを始めて早2年。
昨日も元旦から家族とプレーしましたが、スコアはまだまだ初心者です。
これまではあまりレッスンも受けていなければ練習もしていないので当然なのですが、やはり気持ちよくプレーするにはそれなりの技術が必要です(思い通りにボールが飛ばないとイライラします…)。
今年はレッスン・練習も増やして、家族以外の人とプレーしても迷惑をかけないレベルにはなりたいと思います。


元旦にプレーしたゴルフ場。元旦でもお客さんが結構いました。
ちなみにここは戦国時代の古戦場で、それだけで胸が熱くなりました。

さて、今年はどれだけのことを達成できるのか。
計画倒れという結果にならないように、地道にコツコツ積み重ねる一年にしたいと思います。

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規制が変える業界構造

資産運用業界はその運用規模や家計における重要性から、様々な規制を受けています。
日本では金融商品取引法(+投資信託については投資信託法)、米国では投資会社法・投資顧問法、そしてEUではMiFIDやAIFMF、UCITSなどの規制があります。

これらの規制は一般的には投資家を保護するものであり、また原則として全ての業者に同様に適用されるため、本来であれば業界の構造に直接影響を与えるものではありません。
また、規制というもの自体、業者の競争力に対して中立であるべきであると思います。

規制というもののあり方についてはこのように考えているのですが、2018年1月から業界構造自体にも大きな影響を及ぼすことが想定されている規制が発効します。

MiFIDⅡ(第2次金融商品市場指令)と呼ばれるEUにおける規制で、この規制の導入に伴い、業界内でも注目を集めている経営統合も発生しました。
Financial Timesの”Big asset managers set to benefit from Mifid Ⅱ legislation“という記事では、JanusとHenderson、AberdeenとStandard LifeがMifidⅡ対応もあって合併したと指摘されています。

MiIFDⅡの最大のポイントは、資産運用業務において、これまで運用財産(=顧客・投資家のお金)からブローカー(証券会社)に支払っていた売買手数料の中に、ブローカーが運用会社に提供するリサーチの代金も含まれていたのですが、これを純粋な発注手数料とリサーチ料を分離し、リサーチ料金については運用会社が負担するか、運用財産から払うかを選択することが求められます。

ブローカー側から見ると、これまでは証券取引の仲介とリサーチをセットで提供できていたところ、完全に分離されることになるため、リサーチの質を高めていかないと証券取引の仲介しか求められないことになり、リサーチ業務の継続が難しくなります。
したがって、証券会社のリサーチ業務の規模にも影響が出ますし、またこれにビジネスの機会を見出した独立系リサーチ機関の成長も期待されるところです。

一方運用会社の側から見ると、これまでは証券会社に無料(のような感覚で)で提供を受けていたリサーチ情報にコストをかける必要があるため、リサーチの質を見極めて情報提供を受ける必要がありますし、場合によっては自社でリサーチを賄ってしまうという選択肢もあります。
また、リサーチのコストを自社で負担するか顧客に負担させるかの選択にも迫られることになり、この点も他社との競争力に大きな影響を与えます。
当然ながら、運用会社にリサーチコストを負担してもらう方が顧客としてもありがたいので、経営体力のある運用会社の方が有利になります。

このように、MiFIDⅡは経営体力格差が競争力格差につながる業界構造を生み出しかねないことから、中堅運用会社が合併して経営基盤の強化につなげようとしているものとみられます(前述したJanusその他の運用会社は大手の部類に属する会社だと思いますが)。

MiFIDⅡについては完全に運用業界、あるいは証券業界の話なのでそれ以外の業界の方にはあまり関係のない話かと思いますが、本来業者に対して中立的であるべき規制が業界内の競争に関して大きな影響を及ぼしうる、つまり業者に対して中立的であるとは限らないということについては個人的にも大変印象が大きかったですし、どの業界の方も留意が必要ではないかと思います。

もっとも、スポーツの世界においては特定の国の選手が表彰台を独占するとルールが変えられるというのはよくある話ですし、ルールが公平・公正なものであるとは限らないというのは常識かもしれませんが、ことビジネスになるとつい規制は公平・公正と考えがちなので、規制の下で経済活動を行う身としてはよくよく注意しなければならないと思います。

そのうえで、規制の背景や趣旨を十分にくみ取り、そのうえで会社の競争力向上に貢献できるコンプライアンスオフィサーになれるよう、今後も精進したいと思います。

気が付いたら紅白歌合戦も前半が終わり、いよいよ年の瀬が迫ってきました。
皆さま、よいお年を!!

※前半では竹原ピストルさんの「よー、そこの若いの」が特にグッときました。
(なぜかここを強調(笑))

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歴史と法の交わるところ

法律に近いところで仕事をしていると、法務に関する雑誌を読む機会がそれなりにあります。
法律と言っても雑多ですし、金融に限っても銀行業と保険業、証券業・資産運用業では適用される法律も違えば実務も異なるので、読む雑誌のすべての記事が業務に直接役立つわけでもないのですが、他業種の話も参考になることが多いので、極力いろんな記事を読むようにしています。

先日も雑誌を読んでいると興味深い記事がありました。
業務とは関連のない倒産手続き関連の論文なのですが、タイトルに「村上水軍」とあり、目を引かれました。
タイトルは、「今治海事クラスターにみる村上水軍の系譜(上)」(金融法務事情 No.2078、2017年11月)。著者は大手弁護士事務所・西村あさひ法律事務所の園尾隆司弁護士です。

書き出しも独特でした。
今治というと、多くの日本人が思いつくのは今治タオルとバリィさんであろう。
その通り、と言っていいかわかりませんが、個人的には確かにその二つくらいしかイメージがありませんでした。
もしかしたら今治がどの都道府県の市かも知らない人が大半かもしれません(愛媛県です)。

しかし、著者は続けて今治が世界有数の海事産業集積地であること、その拠点が中世の村上水軍の居城があった場所であることを指摘しています。

この論文の主旨は著者が担当した国際海運会社の民事再生事件の中で今治の船主の方に村上水軍哲学を感じたので、その哲学と日本型債権者行動の関連を明らかにするということなのですが、この論文の面白いところは、かつて今治付近で活躍していた村上水軍の歴史を滔々と語るところにあります。

歴史上、水軍・海賊はどのような存在であったのか、その中で村上水軍はどのような変遷をたどってきたのかを考察していきます。
まだ前半しか刊行されていませんが、前半はひたすら村上水軍の歴史の話です。
その前後は金融実務・法務の記事ばかりなので、かなり浮いています。
しかし、そのユニークさがかえって面白いと感じました。

民事再生については専門外のため、業務に活かすことは難しいですが、いずれは資産運用業界内や学術的な分野で情報発信をできるようになりたいと思っている身としては、自分の好きな歴史と専門分野である法律(コンプライアンス)をこのように掛け合わせて発信することもできるのかと大変参考になりました。

自分もいつか論文などを専門誌に発表することができたら、その時には是非自分の好きな歴史を絡めてみたいと思います。

ちなみに通っている大学院で「いつかは専門誌で論文を出せるようになりたいです」と先生に話したら、「まずは博士論文を書きなさい」と言われました。ごもっともですね。
ということで、まずは博士論文の構成や論旨の補強の仕方などを検討しようと思います。

ちなみにこの論文を読んだとき、年末どこか行きたいな、と考えていたので、せっかくなら風光明媚な松山・今治にしようと思っていってきました。
こういう出会いもまた楽しいものですね。


論文の題材になっていた今治造船を背景に。

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