アセットマネジメント業界の魅力(4)

この記事では、アセットマネジメント業界の魅力を何回かに分けてお伝えします。
1.アセットマネジメント業界とは?
2.アセットマネジメント業界におけるキャリア形成
3.アセットマネジメント会社の待遇や労働環境
4.アセットマネジメント会社のコンプライアンスというキャリア(本記事)
5.新規参入が相次ぐ資産運用業

本記事では、自分が築いてきた「アセットマネジメント会社のコンプライアンスというキャリア」についてご紹介したいと思います。

アセマネ会社というと、やはりファンドマネージャーやアナリスト、あるいは商品企画といった花形部門に注目が集まり、アセットマネジメントというビジネス・仕組みを支えているミドル・バック部門は陰に隠れがちです。

実際、アセマネ会社の新卒採用の仕事紹介のコンテンツを見ていても、運用部門や商品企画、営業部門を前面に出していて、ミドル・バックの業務の紹介は少なかったりします。
コンプライアンスに至ってはほとんど見かけたことがありません(涙)

しかし、ミドル・バックが存在しなければ、アセマネというビジネス自体が成り立ちませんし、中でもコンプライアンスは規制業界という性格上重要な存在です。

ということで、世の大手資産運用会社の代わりに、「アセマネ会社の中の人」として資産運用会社のコンプライアンスというキャリアについてご紹介します。
(本当は大手資産運用会社のコンテンツにあるべきだと思うんですけどね。。。)

 

資産運用会社のコンプライアンスとは

コンプライアンスとは「法令遵守」と訳されますが、運用会社の業務が法令を含めた色んなルールを遵守することを確保していくことがその役目です。

運用会社は規制業種であるため、運用や営業、ミドル・バックそれぞれが法令その他のルールの制約を受けるため、コンプライアンスの活躍の場は会社全体にわたります。
運用や営業、その他の各業務を理解し、どのようにすればそれらの業務で法令違反を起こさないようにできるかを考え、実行していくのがコンプライアンス担当者の役割です。

 

コンプライアンスとライセンス

資産運用会社は金融商品取引法で「投資運用業者」として登録し、ライセンスを保持することが求められています。
そのライセンスがないと資産運用業のビジネスを行うことができないため、ライセンスは会社の生命線といえます。

そして、そのライセンスを取得・維持するためにはコンプライアンスが最重要になります。
まず、新しく資産運用会社を設立したいと思ったら投資運用業者として登録することが必要ですが、その要件は細かく定められており、その中の一つに「資産運用業者のコンプライアンス経験が豊富なコンプライアンスの責任者がいること」があります。

また、資産運用業務を開始してからは法令遵守をしっかり行うことが求められ、その体制が脆弱で法令違反を繰り返していると、最悪の場合はライセンスの剥奪という可能性もあります。
そのため、現に資産運用ビジネスを行っている資産運用会社にとってもコンプライアンスは非常に重要です。

 

コンプライアンス業務

前述のとおり、会社の多くの業務が法令の制約を受けており、そのすべてで法令遵守を確保する必要があるため、コンプライアンスの業務も多岐にわたります。
その中でも主なものを挙げると下記のものがあります。

文書のレビュー

資産運用会社は投資信託の広告や目論見書・運用報告書、契約締結前交付書面・契約締結時交付書面といった投資家向け資料のほか、各種の届出書、お知らせ文書など様々な書面を社外に出しています。
それらのほとんどは法令などのルールで書くべきこと、書いてはいけないことが決められています。そのため、その内容をコンプライアンス部門が事前にチェックして、直す必要があれば直したうえで、社外に出すことになります。
その際に求められるのは、法令上記載内容が問題ないか、読み手の誤解を招かないか、という観点の確認になります(ときどき「てにおは」ばかり指摘するような人も見かけますが、それはコンプライアンス担当者として求められる確認事項ではありません)。

運用モニタリング

資産運用会社は運用においても法令や運用方針などで制約を受けています。
そのため、コンプライアンス部門が運用担当者による取引の発注前や発注後にその取引内容が問題ないか、ポートフォリオ(運用資産の構成)に問題がないかなどを確認します。
その結果、取引前に問題が発覚すれば運用担当者にその取引が認められない旨を伝え、ポートフォリオに問題があれば、すぐに調整して法令や運用方針で認められる構成にしてもらうように依頼します。

運用やポートフォリオのことが理解できないと問題を正確に認識できないため、運用や投信計理に関する知識も求められる(得ることができる)仕事です。

社内規程の改定

法令や業界ルールでは様々な規制がありますが、それを具体的にどのように守るかを示すため、あるいはそれら以上に厳しいルールを設けて自らを律するために、それぞれの会社は社内規程を設けています。
そして、社内規程は法令等のルールを守るものであるため、法令その他の社会環境の変化に応じて改定する必要があります。
コンプライアンス部門では特に法令の動向をチェックし、必要があれば社内規程の改定を進めていくことになります。

コンプライアンス研修

運用会社のそれぞれの業務に法令その他のルールによる制約があるため、法令遵守はコンプライアンス部門の人間だけでなく、すべての役職員が意識する必要があります。
そのためコンプライアンス部門では、役職員向けに基本的な業界のルールや重大な法令改正などについてコンプライアンス研修を行い、役職員の意識を高めるようにしています。

当局とのコミュニケーション

資産運用業界は規制業種であるため、当局とのコミュニケーションは重要です。
会社の業務内容や役員などに変更があったり、不祥事があったりした場合は当局に届出を行う必要がありますし、新しい事業を行う場合に法令の解釈に疑問があれば解釈を確認する必要もあります。
また、当局や業界団体がオフィスに来て検査を行うことがあれば、それ以外にも書類の提出を求められることもあります。
そのような当局とのコミュニケーションの窓口はコンプライアンス部門が担うことが多いようです(コンプライアンス部門だけで完結しないことが多いので、その場合はコンプライアンス部門がとりまとめを行います)。

他部署へのアドバイス

運用会社の業務の細部にまで規制による制約があることから、大小さまざまな相談がコンプライアンス部門には寄せられます。
トラブルが発生した時はもちろん、新規の商品を考えるとき、新しいのキャンペーンを行うとき、システムの変更を行うとき、ちょっとしたお客様向け文書を送るとき、など挙げていけばきりがないほどです。
考慮すべき法令も金商法や投信法といったいわゆる業法から、個人情報保護法や景表法、著作権法といった一般的な法令など様々です。
そういったときに、法令上の問題点がないか、あるいはどのようにすれば問題を解消できるか、といったことをアドバイスします。

 

社内におけるコンプライアンスの立ち位置

前述のとおり、運用会社の業務の大半は法令等による制約を受けるため、コンプライアンス部門が何らかの関与をすることになります。
多くの場合、コンプライアンス部門が承認しなければ話が前に進まないので、それなりに力を持つ部署ともいえます。
(運用業務についてはコンプライアンス部門が逐一承認するわけではありませんが、ルール違反の懸念がある取引が抽出されると、コンプライアンス部門等の承認がなければ発注できない仕組みになっています)

したがって、立場上多くの部署から許可・承認を求められるわけですが、それゆえに煙たがられたり、怖がられたりする部署でもあります。
また、時としてブレーキ役になるがゆえに、物事をスムーズに進めるための柔軟性やスピード感が求められます。
少し前までは保守的で融通が利かず代替案も出さないコンプラは「『No』しか言わないコンプラ」と揶揄されたものです。さすがにこの手のコンプライアンスは少なくなってきたようですが、そのようなコンプライアンスがいる会社は物事が進められず不協和音が噴出しそうです。

そして、他部署からあまりいい顔をされず、敬遠されがちな部署であるからこそ、コンプライアンス担当者にはコミュニケーション能力や積極的に解決案を提示できるクリエイティブな能力が求められるのだと思います。

この辺は被害妄想(?)が入っているのかもしれませんが、何かあってコンプラに話を持ってくる人はたいていどんよりした顔をしている気がします。。。
だからこそ、愛想よく振る舞って円滑なコミュニケーションをとることがお互いのためになるのだと思います。

コンプライアンスというキャリアの魅力

経験

繰り返しになりますが、コンプライアンスの領域は運用会社の業務のほぼ全域にわたります。
したがって会社のビジネス全体を見渡すことが容易で、また情報も幅広く入ってきます。
そのため、他の部署に比べて資産運用業の仕組み全体について把握することが可能であると言えます。

もちろん各部署の実務に精通するわけではありませんが、どの部署が何をしていて、各部の業務がどのようにつながっているのかということを理解できることは好奇心を満たせますし、応用も利く経験になると思います。

安定性

運用や営業のポジションは市況や会社の業績に大きな影響を受けますが、コンプライアンスは市況や会社の業績が悪かろうと一定の人数が必要なポジションです。
また、運用業を新たに行おうと思った場合には、コンプライアンスの経験者が求められます。
また業務が定型的でないこともあり、アウトソースのあおりを受けて人員削減ということも今のところあまりないようです。

したがってリストラに遭う可能性が比較的低く、また人材マーケットにおけるニーズもかなり多いので、雇用の安定性という点では非常に優れていると思います。

報酬

残念ながらコンプライアンスという役割は利益を生むものではないこともあり、運用や営業といった収益部門と比べると給与は高くないと思われます。
とはいえ、運用会社にとっては生命線ともいえる役割であることからそれなりの扱いはされていると思います。
また、フロント部門と比べると業績による給与の変動は少ないと思われます。
(そもそも、自分の評価がそれほど上下しないことが多いです)

・・・と、今回はアセマネ会社のコンプライアンスというキャリアの魅力を書いてみました。

自分ももともと意図していなかったキャリアではありますが、担当してみると結構好奇心を刺激されることも多く、自分に合った仕事だと思うようになりました。

視野も広がるし、待遇も安定しているので悪くないキャリアだと思うのですが、なぜか注目されないコンプライアンス(若手の人が移動の希望を持っていると聞いたことは一度もありません…)。
今後Fintechや国際的な規制環境の変化などもあり、コンプライアンスの重要性は高まることはあっても下がることはないと思います。
そのような環境にある中で、花形とはいかなくても、もう少し多くの人に注目され、そしてどんどん上を目指せるキャリアパスになってほしいと切に願います。

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