「その後」の三国志

最近歴史関係の本を読んでないなーと思いながら図書館をぶらついていると、面白そうな本を見つけたので手に取ってみました。
タイトルそのまま、「その後」の三国志。

「三国志」は日本でも人気の物語ですが、たいていの人は諸葛亮(孔明)が司馬懿(仲達)と五丈原で対陣中に陣没し、「死せる孔明生ける仲達を走らす」という場面で終わっているのではないでしょうか。

そこまでも当然素晴らしいドラマなのですが、実は孔明が亡くなってからも50年近く統一までには時間を要します。
そして、それに至るまでにやはり素晴らしいドラマがたくさんあります。

といいつつ、自分も孔明死後の展開を整理しきれていなかったので、うまくまとめられている本を読んでみることにしました。

私が「その後」で特に好きな人物は、少々マイナーですが、諸葛誕羅憲(らけん)という人物です。諸葛誕はまだ有名な方ですが、羅憲というと蜀滅亡までフォローしている人でもなかなか知らないかもしれません。

だからこそ、この場で羅憲推ししてみたいと思います(!!)。

孔明没後、蜀ではしばらくは名臣たちが綱紀を引き締めていたものの、徐々に弛緩していきます。
孔明にもその才能を買われた勇将・姜維は外征を繰り返して国力を疲弊させ、宮中においては宦官・黄皓が腐敗政治をやりたい放題。
ガバナンスもなにもあったものではありません。

そんな黄皓に媚びなかった若き役人こそ、羅憲です。
しかし、黄皓に牛耳られている朝廷でまともな人事が期待できる訳もなく、彼は同盟国・呉との国境である永安に左遷されます。

平和な時代ならそれで人生を終えたのかもしれませんが、しばらくして蜀が魏に滅ぼされることになります。
羅憲も困惑したことでしょうが、そこは大将、将兵・住民を見事に落ち着かせます。
また、旧主の皇帝・劉禅への礼も忘れなかったそうです。

そうして落ち着いたと思ったら、今度は「どうせ蜀は滅びたから」と、同盟国の呉が永安を攻撃してきます。
この不義に憤慨した羅憲は、わずかな兵力ながら将兵を鼓舞し、1年もの間城を守り抜きます。
その間城には疫病が蔓延するなど絶望的な状況でしたが、逃げることを勧められても断り、城将としての責任を果たそうとします。

そして、最終的には魏の援軍が到着し、勝利を収めました。
その後は、魏、そしてその後を継いだ晋で活躍することになりました。

残念ながら彼には他の三国志の英雄ほど事績が残っている訳ではありませんが、少しの事績だけでも尊敬に値するだけの材料を与えてくれています。
こういう人物に触れるにつけ、本当に歴史って素晴らしいと思います。

ちなみに魏・呉・蜀ともに重臣が政治を牛耳った時期があるのですが、魏や呉は皇帝の廃立に及んでいるのに比べ、蜀は一度も皇帝の廃立はなく、またその滅亡に際しても魏や呉以上に忠臣の存在が際立っているように思います。
三国志という物語(あるいは史書)の性質もあるかもしれませんが、なぜなのか非常に関心があるところです。
もっとも、心ある人がいたところで、システムとして人事がきちんと回らないとうまくいかないのは国も企業も、今も昔も変わらないのかもしれませんが。

ちなみに諸葛誕は諸葛亮の一族でもあるのですが、蜀や孔明の兄が仕えた呉ではなく魏に仕えた人物で、最終的には魏に反乱を起こして敗死するのですが、彼の部下数百名が「諸葛公のために殺されるなら命は惜しくない」と刑死したエピソードに凄く感動しました。

彼らの能力や人望のほんの少しでもあったらなあ、と精進に努める今日この頃です。

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コーポレートガバナンスを考える

一昨年から昨年にかけて「日本版スチュワードシップ・コード」や東証の「コーポレートガバナンス・コード」が策定されたこともあり、それらに関する論点を自分なりに整理しようと昨年論文を書いていたこともあり、最近コーポレートガバナンスに関心を持ち、勉強してみたいなと思っていました。

そんな矢先、知人からコーポレートガバナンスに関連しそうな本の読書会に誘われたので、二つ返事で応じ、早速課題図書を読みました。

それが、ドラマ化されて話題になった「しんがり 山一證券最後の12人」でした。
ちなみに著者は、元読売巨人軍代表で、渡邉氏との確執(いわゆる清武の乱)で知られる清武英利氏です。

本書では、山一證券破綻後において、生活の糧を失いながらも、会社の清算処理と破綻の原因究明のために会社に残った12名の方の活躍が描かれています。

山一證券破綻の背景には、顧客の損失を引き受ける「ニギリ」を清算しなかった上に、それを簿外債務(いわゆる「飛ばし」)として隠蔽していたこともあり、そのような法令違反に当局が最終的には支援を拒否したという事情があります。
当然のことながらその事実はもとより、そのような問題を放置していた経営や組織のあり方、すなわちコーポレートガバナンスに根本的な問題があったとも言えるでしょう。

と言ってみたものの、そもそもコーポレートガバナンスとは何でしょうか。

ガバナンスというくらいですから、組織として意思決定のプロセスが適切に確立・運用されていることはもちろんですが、その意思決定の内容が適切である必要があります。
意思決定の適切性とは、一つは合理性であり、さらには遵法性という点が挙げられると思います。

合理性とはその判断が会社の利益に繋がるのか、さらにはリスク管理が適切に行われているのか、ということです。
意思決定のプロセスはしっかりしていても、その判断に合理性がなければ経営判断としてはアウトでしょう。
といっても神ならぬ人間の判断ですし、間違いは当然にあります。
だからこそ、できるだけ適切な判断ができるようなプロセスを整備する必要がありますし、その意味では判断の合理性と意思決定プロセスの適切性は本質的には不可分のものとも言えます。

また、どれだけ利益を生み出す選択肢があっても、法令違反ではそもそもその判断が社会的に容認されず、その結果に安定性がありません。
仮にしばらく顕在化しなかったとしても、永久に隠し通せるものでもなく、どこかでツケが来るのがほとんどではないかと思います。

山一の場合、まさに社内でも隠し、問題を改善するでもなく、当然違法性も容認しているという、コーポレートガバナンスが効いていない典型的な事例とも言えそうです。

コーポレートガバナンスが歪んでいく原因は色々あると思いますが、山一の場合も含め多くの場合、業績悪化の隠蔽や、社内の人間関係に伴うものであるように思います。

業績悪化は経営者の責任問題になると言うこともありますが、取引条件の悪化やリストラを伴うこともあり、そういうものを避けようという一心で不適切な判断をしてしまうというのは分かりやすい構造です。

また企業が合併すると、合併の理念に関係なくそれぞれの元役職員同士が反目するという話はよくありますし、また特定の部署の発言力が強いと、経営判断が会社全体の利益ではなくその部署の利益を基準に行われ、その結果会社の利益を損なったり、果ては違法行為ということになることもあるように思います。

そんなことを思っていたら、「しんがり」の直後に読んだ「小説 金融庁」がまさにそんな話でした。

「小説 金融庁」は、都市銀行同士の合併でできたとあるメガバンクを舞台に、金融庁とメガバンクがコーポレートガバナンスのあり方を巡り虚々実々の戦いを繰り広げる、といったお話です。
そして、そのコーポレートガバナンスを歪める要因になったのが、合併による社内の不協和音と業績の悪化でした。

本書でも触れられていますが、コーポレートガバナンスにとって大事なのは、経営者、あるいは各役職員の「バランス感覚・公平性」と「事実を見つめる勇気」、そして「それを実行に移す実行力」という、ある意味当たり前のことに尽きるのではないかと思います。

実際、コーポレートガバナンスという言葉が使われたり、注目される前から長く成功している会社はこれらの要素を兼ね備えていたと思います。
また、これらのことは企業だけでなく、行政や個々人の生き方にも当てはまるようにも思います(自分自身に照らし合わせると微妙な結果になりそうですが…汗)。

私の仕事はコンプライアンスという、コーポレートガバナンスの一つである遵法性を担保する仕事ですので、自分の役割を再確認することにもなり、非常に勉強になりました。
・・・と、自分の業務の重要性を考えたところで、改めて気合いを入れて業務に邁進しようと思います。

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2015年の締めくくり

今年もあっという間に年末になってしまいました。
今年はたくさんブログを書きたいと思ってましたが、結局達成できずじまい。
数年前の気力はどこに行ったのやら…

と嘆いていても仕方がないので、せめて今年一年の締めくくりでも。

今年の始めにいくつか目標を立てましたが、それを振り返ってみたいと思います。

1. 自信を持って仕事をする
これはなかなかうまくいきませんでした。
頑張って仕事をしていたものの、なかなか上司からは評価されず、ダメだなぁ…と思いながら仕事をしてました。

自分に自信を持つことは仕事の時間を楽しむためにも大事なことなので、もっと自信を持ちたいです。

先日元同僚と話したときももっと自信を持てばいいのに、と言われました。
みんなが(社交辞令でも?)評価してくれれば自信を持てるんですけど、難しいです。

2. 社会的責任投資・ソーシャルファイナンス関係の知識向上
こちらもセミナーに出てみたり、関係者とのネットワークングを少し進めましたが、知識面の向上という点ではまだまだですね。

でもそのうちESG投資には仕事で関わってみたいし、そのチャンスを淡々と狙っていこうと思います。

3. 身体のスリムアップ
怖くて体重を量ってないのでn/a?
残念ながら、お腹回りは変化がないようです。

先日フルマラソンを走った直後はお腹回りがスリムになった気がしたので、継続すればきっと効果が出るはず。
ということで、来年こそは…。

4. 新しいスポーツを始める
今年から家族のすすめでゴルフを始めました。
知人の伝手でゴルフレッスンにも通い、家族とならコースを回れるようになりました。

まだまだゴルフをする人はビジネスの世界にも自分の回りにも多いので、来年は友人とコースを回れたらと思います。
付き合ってくれる方募集中です。

あと、フルマラソンも初参加し、なんとか完走しました。
でも、6時間半強という(緩い)制限ギリギリだったので、来年はちゃんと練習してもう少し早い時間で走れるようにしたいです。
何回か参加してスリムアップもできれば最高ですね。

5. 情報発信を続ける
冒頭にも書いた通り、全然ダメでしたね(汗)
本当は情報発信しながらインプットも蓄積したいと思っていたのですが、なかなかブログに手が回らず。言い訳ですけど。

ただ、今年も懸賞論文を作成するなど、インプットとこっそりアウトプットは図っています。

来年はブログを含めいろんな形で情報発信して、知識の蓄積と自分のブランディング(キャラ立ち?)を図りたいと思います。

・・・と振り返って見ると全然目標を達成できてないですね。

ただ、今年(また)転職して、自分の希望するESG投資に力を入れている会社で働くことになりました。
すぐに自分の希望の仕事ができる訳でもないですが、それでも何らかの形で関与するチャンスはあると思うので、毎日地道に頑張っていきたいと思います。

むりやり年末の振り返りをしましたが、みなさまよいお年を!

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霞ヶ関から眺める証券市場の風景 -再び、金融システムを考える-

ゴールデンウィークが終わり意気消沈したのもつかの間、幸いにも2日で週末になったので、心も穏やかです。
もっとも、明日からまた仕事ですが・・・orz

ともあれ、この週末は精神的に余裕があったので、本を読むことにしました。
最近は仕事に関する書籍を読んでいないので、久々に仕事に関連しそうな本を読むことに。

私が担当しているのはコンプライアンスという業務で、ざっくり言うと、法令をはじめとする各種のルールを会社の各業務において遵守するように対応する仕事です。
遵守すべきルールは業界によって異なりますが、私は運用会社に所属していますので、主に金融商品取引法(金商法)や投信法、及び業界団体・自主規制団体の規則がその対象になります。

運用会社を含めた金融機関は規制業界で、ライセンス(運用会社は登録になりますが)がなければビジネスを行うことができず、そのライセンスを管轄する金融庁や、ビジネスが適切に行われているかをチェックする証券取引等監視委員会の動向を常に注視しています。
ちなみに証券取引等監視委員会とは、インサイダー取引など証券市場における不正取引をチェックしたり、証券会社や資産運用会社のビジネスが適切に行われているか検査を行う行政組織です(法的には金融庁に設置された国家行政組織法上の八条委員会ということになると思います)。

運用会社のコンプライアンスといっても単に法令の条文を知るだけでなく、金融商品や運用会社の実際の業務を知らなければ適切な対応ができないので、仕事のためにと言っても何を読んでもいいのですが、まずは法令についてもっと理解をしなければと思い、金融そのものというよりは規制方面の書籍を選ぶことにしました。

ルールを理解するためには、法令の条文そのものだけでなく、そのルールが作られた背景を理解することも大事です。
そうすることでそのルールの本質を理解し、形式的ではなく本質的な対応をすることが可能になります。逆に法令の条文ばかり見ていては、形式的には法令を遵守できるかもしれませんが、法令の趣旨に沿っているかどうかは別の話です(・・・ということを上司にもよく言われますので、自戒を込めて)。

そして、法令を理解する近道は、法令立案担当者の論文や著書を読むことです。
ここ数年金商法や会社法の大きな改正がありましたが、その背景や改正趣旨を把握するため、金融審議会の議事録だけでなく、法令立案担当者の論文を図書館で探してきて読んだこともありました。

最近はそういうことをしていないのですが、日常業務のベースとなっている法令の趣旨やその制定背景を知ることは大事なので勉強したいなと思っていたところ、我々の検査を担当している証券取引等監視委員会の実務トップである大森泰人事務局長がその実務経験を振り返りつつ各種規制の背景や認識を語る書籍があったので、それを読むことに。

ちなみに大森氏は以前から積極的に情報発信をすることで知られる方で、著書でもその特異性に言及されています。
しかし、上述の通り規制を利用する(服する)側としてもその背景や行政官の認識については関心があるところですので、そのような姿勢は大変貴重だと思います。

また、大森氏の文章は単なる無味乾燥な法令の解説ではなく、ご本人の趣味や毒舌(?)も交えた独特のテイストで、読んでいる方もついつい読み進めてしまう魅力があります。

そういうわけで、積ん読状態であった大森氏の著書を読み進めてみました。
タッチは軽いものの、決して内容が薄い訳ではなく、むしろ考察が深いだけに理解しながら読み進めるのは意外に容易ではありませんでしたが、それでも学ぶところは多かったです。

一番最初のお題は「インサイダー取引」。
今でこそ広く知られた(かつ、正しくは知られていない)インサイダー取引規制ですが、実はその歴史は意外に浅いのだとか。
最初に証券取引等監視委員会がインサイダー取引を摘発したのも1994年と、わずか20年ほど前になるそうです。
今では投資家間の公平性、ひいては証券市場の信頼の確保のための規制と理解されていますが、その制定の際には賛否両論あったようで、「常識」というものの難しさについても考えさせられました。

あと印象に残ったのが、大森氏の幅の広さ。
インサイダー取引の制定背景を語るのに映画が出てきたり、卑近な例が出てきたり。
自分はあまり映画を見たりせず、引き出しが多い方でもないので、もっと色んなことを知らないといけないと思いました。

ちなみにインサイダー取引の後は長銀・日債銀の破綻及びそれに伴う長銀・日債銀事件から規制のあり方やそれを取り巻く人間模様が描かれるのですが、肝心の長銀・日債銀事件についてあまり知らず、またその事件そのものの解説があるわけではなかったので(つまり、読者はそれを知っているのが前提)、改めて業界の歴史を知ることの大切さを感じました。

行政官という制約の中独自のテイストで情報発信を続けられている大森氏ですが、今後もその情報発信に期待すると共に、私もいつかは制約を超えて情報発信ができるようになりたいものです(=そのようなニーズがあるような人間になりたい)。

しかし、大森氏もまさかこんな若造が自分の著書を読んでいるとは思っていないだろうなあ・・・(笑)

※ちなみに、大森氏はこちらの書籍の書評もされていました。本当にインプットの量が凄いと頭が下がります。

大森 泰人
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動き出すソーシャルファイナンス

早いものでゴールデンウィークも最終日。
どうして休みの日はあっという間に過ぎていくのか…
と嘆いたところで仕方ないのが現実。
早々に仕事モードに切り替えてスムーズに現実世界(?)に戻りたいところです。

GW中はブラブラしつつも、関心のあるソーシャルファイナンス分野の動向についても見ていました。
今年に入ってから、日本においてもソーシャルファイナンス分野に色々動きが出ているように見受けられ、大変刺激を受けます。
その中で、関心を持ったものについて備忘をかねてご紹介します。

Fair Finance Guide Japan

日本の金融業界最大のセクターである銀行の投融資の社会性についてはかねてより関心を持っており、その故に社会的な投融資を掲げてビジネスを行っているトリオドス銀行のあるオランダに学びにいったのですが、そのオランダのNPOが音頭をとって銀行の投融資の社会性を評価し、消費者が金融機関を選択する際の参考に供するという取り組みを行っています。

そして今年、その取り組みが日本でも始まりました(こちら)。
今は大手銀行に限られていますが、今後対象となる金融機関が拡大することが期待されます。

リンクをご覧頂くと各銀行のテーマ毎の評価が分かりますが、軒並み低いです。
公開情報による一定の基準に基づいた加点方式なので、必ずしも高いスコアが出る訳ではないとは思いますが、それにしても低いです(なお、スコアは公表前に銀行担当者にも異議のないことを確認しているそうです)。

評価基準はグローバル共通なので、国際的な比較もある程度可能だと思いますが、例えばオランダのFair Finance Guideを見ると、どの銀行もそれなりのスコアが出ており、ASNやトリオドス銀行などの社会性を前面に出している銀行だけでなく普通の大手銀行も日本の金融機関以上に社会的な要素に配慮していることが伺えます。

米国や英国の金融機関の評価についても関心がありますが、こちらは現在呼びかけているところだそうで、どのような評価が出るのか楽しみです。

また、このような動きを受けて、日本の金融機関の投融資が、また消費者の意識がどのように変わるのか、引き続き注目していきたいと思います。

ちなみにFair Finance Guide JapanはFacebookでも情報発信を行っていますので、関心があればそちらもご覧ください(こちら)。

日本初のSocial Impact Bondプロジェクト

先日、日本財団が横須賀市などと連携して日本初のSocial Impact Bondのパイロットプロジェクトを始めるというニュースを見て、ついに日本でも始まるのかと、感慨のような、(プロジェクトを担当する方に対する)羨ましさのようなものを感じました。

SIBは政府・自治体が、社会課題の改善をNPO等に託して、その事業を運営する団体がSIBを発行して投資家から資金を募り、その成果に応じて政府・自治体がお金を支払い、それが投資家のリターンにも反映されるという仕組みです。

今回のプロジェクトでは、特別養子縁組の件数が増えることによって、横須賀市の財政負担が軽減されることが期待されています。
今回はパイロットプロジェクトのため、実際に債券を発行し投資家から資金を集めているわけではないのですが、今後はこの部分が重要になってくる訳で、そのときこそ金融業界のコンプライアンスの経験も活きてくるでしょうから、その時に向けて知識や経験を蓄えておこうと思います(今のところ、証券のリテール関連業務の知識や経験がないのがネックなんですが…)。

大手生保のエンゲージメントファンドへの投資

昨年、金融庁が音頭をとって、機関投資家が投資先企業と対話をしながら企業価値を高めていくという原則、いわゆる日本版スチュワードシップコードを英国に倣って策定し、多くの機関投資家がその趣旨に賛意を示し、対応を進めてきました。
当然投資信託委託会社もその対象であり、ほとんどの投信会社が日本版スチュワードシップコードの原則に基づき、方針の策定などの対応を行っています。
実は私も当時の会社でスチュワードシップコード対応の業務を行っていました。

一方で、実際のところ投信会社の運用がスチュワードシップコードの策定によってどのように変わったのかは、運用の意思決定プロセスに関わることがあまりないのでよくわかりません。一度日本株のファンドマネージャーや他社の方に聞いてみたいところです。

それでも、スチュワードシップコードを真剣に受け止め、活用しようとしている機関投資家の事例も散見され、そのうちの一つに注目しました。

大手生命保険会社の住友生命は、エンゲージメント(対話)型運用を専門とする「みさき投資」が運用するエンゲージメントファンドに30億円の投資を決めたとのことです。
30億円という数字は住友生命の中では大きな数字ではないかもしれませんが、大手金融機関がエンゲージメントの価値を認識し、それを専門の運用会社に託すという動きは、今後のアクティブ運用や社会的責任投資のあり方に影響を及ぼすのではないかと思います。
また、エンゲージメントという新たなビジネス分野ができていくことについても興味深いです。

一時期ブームになりながらも最近は低迷が続く日本のSRI(社会的責任投資)ファンドですが、このような潮流を受けてどのように巻き返すのか。
こちらについても、今後の動向に引き続き注目していきます。

・・・と、こんなにソーシャルファイナンス分野では動きがあるのに、自分は日々の仕事や生活に追われて、なかなか絡んでいけないなー、と少々焦りがあったりします。
とはいえ、自分のことがきちんとできない人間が他のことに手を出しても仕方がないので、まずは自分の足下をがっちり固めようと自分に言い聞かせています。

それでも、時々この分野に関心のある方が色んな形で声をかけてくださるのでありがたい限りです。

今は情報を集めて咀嚼して発信することしかできませんが、「人生は地道にコツコツ」と思って頑張ります。

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(一個人から見た)外資系の実態

最近時々キャリアについて話し合ったり、キャリアについて悩んでいる人を見かけたりします。

自分自身転職したり留学したりする中でキャリアについて考えることは多かったし、それなりに良い経験も悪い経験もしているので、できるだけそれをシェアしたいと思っています。

さて、キャリアの話をしているとよく出てくるのが「外資系ってどうなの?」という話題です。
給料がよく、グローバルな仕事ができ、英語が飛び交っていてカッコいいけど、結構シビアな世界、というイメージを持たれがちで、実際にそういう風に聞かれることがよくあります。

で、実際のところはどうなのでしょうか。
自分が経験してきた日系2社、外資系2社(北米系)の経験と知り合いから聞いた情報を基に比較してみたいと思います。
どの会社も最大手ではないので、業界内での立ち位置というバイアスはないと思います。

なお、外資系と一言で言ってもマクドナルドやジョンソン&ジョンソンのような事業会社からアップルやグーグルなどのIT系、ゴールドマンサックスやバークレイズのような外資金融(投資銀行)など様々あるなか、私の経験は基本的に運用会社になりますので、外資系全体から見たら偏りのある可能性があることをご承知置きください(そもそもサンプル数が限られている時点で偏りがある可能性がある訳ですが)。

1. 英語
私の担当はコンプライアンス(法令・ルール遵守)業務で、基本的には日本の法令をカバーする、という点では日系も外資系も同じです。
そのため、日常業務では外資系運用会社も日本語がベースです。

しかし、外資系の場合、グローバルにコンプライアンスポリシーがあって本社に合わせた取り組みが求められたり、ファンド設定や運用のオペレーションで海外オフィスと連携する必要があったりするため、海外オフィスとの間で英語によるコミュニケーションが求められます。
コンプライアンスだけではなく、例えば財務部門なども本社との連携が求められるので英語を使っているところをよく見かけます。
したがって、管理部門だからといって必ずしもドメスティックではなく、英語はそれなりに必要です

どのような形で求められるかは会社のポリシーやポジション・職位によって異なってくると思いますが、私の場合、最初の外資系ではほとんど英語を使いませんでしたが、現在は日々海外オフィスと英文メールをやりとりしたり、海外と電話会議をしたりしています。

職位が高くなるほど海外オフィスとのコミュニケーションが求められるようなので、今後英語の必要性が高まることはあっても、少なくなることはなさそうです(会社が変わらなければ)。

ちなみに運用部門などでは日系でも海外との連携が多く、英語も使っているでしょうから、職種的に海外とのやり取りが多い場合は、英語の必要性については日系も外資系も変わらないと思います。

2. オフィス環境
外資系のオフィスと言っても会社によって様々で一概には言えないでしょうが、私の経験だけで言えば、外資系オフィスの方が一人当たりのスペースが広く、パーテーションも高く、一人一人のスペースを重視しているように思います。

現在の私のスペースは、最初新卒で入った日系の会社の自分の2倍くらいあります(当時の部長のスペースより広い)し、日系にいたときはパーテーションはなかった(途中で設置されましたが)、外資系に移った後は両方の会社でパーテーションはありました。

また、外資系の方が職員が気持ちよく仕事できる環境を重視しているようで、コーヒーなどは無料で提供してくれることが多いです。
某外資系運用会社では某人気コーヒーチェーンのコーヒーが無料で好きなだけ飲めるそうです。
さらに某外資系金融情報ベンダーではコーヒーだけでなく果物やお菓子(スナック)も食べ放題で、逆に食べることに夢中になってしまうのではないかと思ってしまいます(笑)

もっとも、自分の勤務していない日系企業・日系運用会社のオフィスに入ったことがあまりないので、他の日系企業のオフィスがどんな風になっているかは結構興味がありますね。誰か招待してくれないかなー。お待ちしてます(笑)

3. 人間関係
人間関係は外資系の方がフラットな感じがします。
日系だと、上司のことは「◯◯課長」、「◯◯部長」、「◯◯常務」、「◯◯社長」と呼ぶのが一般的ですが、私の見聞きする限り、外資系では誰に対しても「◯◯さん」です。
社長でも「◯◯さん」ですし、海外にいる同僚や目上の人に対してはファーストネームで呼ぶことも珍しくありません。
呼び方だけでなく、普段のコミュニケーションも日系と比べると比較的気軽です。外資系でも規模が大きくなると社長にも気軽に、とはいかないでしょうが、それでも同規模の日系企業に比べると幹部の方ともかなりフラットに話せると思います。
言い方を変えると、外資系の偉い人は日系の同職位の方と比べ、職位を気にせず話してくれる傾向がありそうです。

ただ、今でも初めてメールを送る海外オフィスの同僚に対しては、「Hi, xxx-san」と書き出し、先方がファーストネームで返信してきたら、以降はファーストネームで呼ぶことにしています。
多国籍とはいっても、社会的・文化的な背景が異なる欧米系の同僚とアジア系の同僚で同じように接しても良いのか、今でも悩むことは多いです。特に目上の人に対しては。

あとは属人的な問題なので、日系か外資系か、というよりどういう人が会社にいるか、という問題になりそうです(社内政治やセクショナリズムなどは会社の規模や沿革などによるので日系でも外資系でも同じように存在するように思います)。

4. キャリア観
日系と外資系の最も大きな差は役職員のキャリア観だと思います。
日系の場合、その会社で勤め上げることが前提で、転職を前提に仕事をしている人はあまり多くないように思います。
もちろん最近は転職に関する話題はよくインターネット上でも見かけますし、資産運用業界は日系・外資系問わず比較的人材の流動性が高いので、日系でも転職して入ってきた方は多いのですが、それでも外資系に比べると転職に対する意識は強くない気がします。

一方外資系の場合、新卒ではな
く即戦力の中途採用がメインであることもあり、転職は当たり前、という意識が強いです。
担当する業務についても、「これが自分の履歴書にどのような付加価値があるか」を考えて行いますし、それは「自分がどのような人材になりたいか」「どのように市場価値を付けたいか」ということを考えているということでもあります。
それが積み重なれば、次の転職においても高い評価を受けられるということです。

外資系企業の場合、自分の専門分野が中途採用の場合はもちろん、新卒でも決められていることがある一方、日系企業の場合、担当業務は人事に決められ、定期的に異動があることが多いと思います。そうなると自分のキャリア・付加価値は会社にコントロールされます。
したがって、自分の強みも自分でコントロールしにくくなり、自分の専門分野を築くのも難しくなると思いますし、特定分野で転職活動をしようと思っても、その分野に特化してキャリアを積んできた人に対し競争優位に立てないと思います(もちろんローテーションのメリットも否定はできませんが)。
もちろん、日系企業で勤務している人の全てにこの話が当てはまる訳ではないでしょうか、傾向としてはあるのではないでしょうか。

ただ、よく言われるように、解雇については外資系の方がシビアです。
外資系だからといって常にクビと隣り合わせというわけではないですが、例えばリーマンショックのときなどは、運用業界を含め多くの外資系金融機関でリストラがあったと聞いています。
一方、日系の金融機関については外資系ほどばっさりリストラを敢行したという話はあまり聞きません。
グローバルで見た場合日系金融機関のダメージが小さかったという事情もありますが、ビジネスの撤退に対する判断は外資系の方が迅速に判断する傾向にあるようですし、その結果、当該ビジネスの担当者の解雇というのも少なくありません。
もっとも、その判断が迅速であるが故に会社全体のダメージを減らせるということもあるでしょうが、いずれにせよ、外資系企業で働いている人はそういう意識はどこかで持っているでしょうし、だからこそ自分の市場価値を意識して仕事をしているのだと思います。

実際、前職では「この仕事はこのように履歴書に載せる・履歴書に付加価値を付ける」ということをいつも話しながら仕事をしていましたし、転職のときもその意識をベースにPRしていました。

また、海外留学・MBAについては外資系企業の方が高い評価をする傾向にあります
これは英語力の必要性というのもありますが、その他に自分でキャリア開発をする意識自体を外資系企業の方が評価するからではないかと思います。
実際MBA留学から帰ってきたときの就職活動では、多くの日系企業にはその部分を評価されませんでしたが、採用してくれた会社(外資系運用会社)は、英語力だけでなく自分でリスクをとって留学したこと自体が素晴らしいという評価をしてくださいました。

また、外資系の方が女性が幹部・管理職として働いている傾向にあります
私が働いてきた企業だけでなく、外資系金融機関との面接の中で多くの女性幹部・管理職にお会いしました。一方、日系企業の面接ではほとんど女性の管理職の方にはお会いしませんでした。
こちらも職種・業界の偏りがある可能性は否定できませんが、外資系企業は多様性を重視する傾向がありますし、多くの業界で同じような傾向があるように推測します。
もちろん、家庭を持ち、育児をしながら活躍している女性も多いので、その点でいえば、特に仕事を頑張りたい女性には外資系企業も選択肢の一つに入れてもらいたいものです。

以上、私の経験から見た外資系企業と日系企業の比較です。
あくまで私の見聞きした範囲内で、特に運用業界という特定の業界+αの話に過ぎませんので、突っ込みどころは多いでしょうし、どこまで一般化できるかは不明です。
私が外資系企業の方でより充実した仕事ができているので外資系推しなトーンですが、日系企業の方が落ち着いて仕事ができる、という方も多いと思いますので、日系企業の方がダメとも言えません。

ただ、これを読んで外資系企業で働くことについて少しでも関心を持ってくださる方がいらっしゃれば嬉しいです。

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