放送大学大学院入学試験結果

放送大学大学院入学試験結果

放送大学大学院の二次試験を11月中旬に受けていましたが、結果は12月23日に簡易書留で発送ということが事前にわかっていましたので、1か月半くらい悶々としながら結果を待っていました。
放送大学の本部から自宅までだと翌日に届くようなので(簡易書留は土日も配達)、今日届くのだろうと朝から落ち着きませんでした。

いまさら何をしても結果が変わるわけがないのですが、少しでも後悔しないように朝から風呂に入って身を清め、勅使を迎えるような気分で待っていました(大げさ…)。

ドキドキしながら待つこと数時間、ついに郵便局の方がインターホンを鳴らします。
来たか!と急いで出てみると数日前に注文した通販の商品。
確かに今日の午前中に指定していたのですが完全に忘れてました。

ちょっと気が抜けたところでボーっとしていると、またインターホンが。
今度は別の運送会社ではなかろうな、と思いつつ様子を見るとまた郵便局の方。
これは決まりだなーと思って心を落ち着けて応対。

そして、こちらの書類を受領。

この封筒を郵便局の方が持っているのを目にした瞬間、心の中で祝福のベルが鳴りました。というのも、ネットに出ている情報では合格していたらその後の手続きのための書類があるため合格、小さい封筒だと結果だけなので不合格、ということがいわれており、大きい封筒だったので合格だ、と思った次第です。

ただ、実際に確認しないことには結果はわかりませんので、早速開封の儀に。

ドキドキ・・・。

ドキドキドキ。

・・・・・・・・・・・ヒラリ。

しっかり合格していました。
人文学プログラムは例年倍率が2倍程度あって、入学するにもそれなりの準備が求められ、不合格でもおかしくはないと思っていましたが、無事に合格できました。
これは奈良大学で卒業論文の作成を進めていて、その内容を放送大学大学院でさらに深掘りしていくという方向性がよかったのだと思います。

ともあれ、大学院に行けるか、行けないかで悶々するのはもう終わり。
これからは大学院で学業・研究をどのように進めるかを考えていきたいと思います。

 

目指せ二刀流

これで来年度からは一層歴史学の研究に励むことになりますが、一方で本業であるアセットマネジメントのコンプライアンスについてもおろそかにはできません。

仕事を頑張るのはもちろんですが、研究・発信活動にも一層力を入れていきたいと思います。来年初めにはアセマネ関係で初めての寄稿論文が公表されますが、今後は金融・法学関係の学会にも参加して学習・研究の機会を増やしたいと思います。
日本のアセマネ業界もいろいろ課題(最近だとESG投信などが話題ですね)に直面する中で実務家兼アマチュア研究者ならではの役割もあるでしょうし、ユニークな立ち位置を築けたらいいなと思います。

一方で歴史学についてもかねてより関心を持っていた学会がありますので、こちらも入会して研鑽を積みたいと思います。

そして将来的には法学・歴史学両方の分野で自分なりの知見をアカデミックな形で発信し、特に本業については自分のブランディングにもつなげていきたいと思います。

とはいっても今はまだスタートラインに立ったばかりなので、あまり大ぶろしきを広げず目の前の課題を一つずつ越えていこうと思います。

さあ、卒論頑張るぞ!!

 

ちなみに2023年は日本ファルコムさんからイースの新作「イースⅩ -NORDICS-」と「イース フェルガナの誓い」のリメイク版が発売されるらしく、誘惑に耐えられるか(笑)

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初の寄稿論文脱稿

初めての自分の名前での仕事

社会人になってからサラリーマンとしてそれなりに長い間働いていますが、仕事をしていていつも思うのは自分の名前で仕事をしてみたいということ。
多くのサラリーマンと同じように、自分の仕事は表に名前が出るようなものではないし、また会社の名前で仕事をしています。
資産運用会社や証券会社だと一部のスター的なファンドマネージャーやアナリストは個人の名前で仕事をして評価されるという面もありますが(ただし、資産運用会社の場合は運用もチーム制になっていることが多いです)、私のような管理部門ではそのようなことはほぼありません。

博士号を目指したのも、博士論文は引用元としては適していないとされることもあるようですが、一応公表されて自分自身の業績として残りますし、またそれをきっかけに論文などを学術誌に寄稿することができれば自分の名前で何かを残すことができると考えたことが背景にあります。

とはいえ伝手がなければそのような機会を得ること自体が難しいのですが、幸いとある学会誌にて寄稿する機会をいただき、先般無事に脱稿することができました。
最終確認のためにゲラをいただいたのですが、自分の名前が入っているのを見て感動しました。自分の名前でできた成果物をみると、自分の子ども(?)のような愛情さえ感じるのは言い過ぎでしょうか。
ともかく、自分のキャリアの新たな一歩を踏み出すことができたのは感慨深いです。

 

自分の名前で仕事をする怖さ

一方、公に組織とは関係のない形で自分の名前を出して寄稿するということは、その責任をすべて自分一人で負うことでもあり、その点については怖さも感じました。
業務上でも対外的に担当者として自分の名前を出すことはありますが、それはあくまで組織の一員としてであり、私の行動の責任は良くも悪くも会社が負うことになるので、その意味では気楽な面があります。

しかし、自分の名前で成果物を公表するということは、何か間違ったことを書いていたり、誰かを傷つけるような内容があった場合、自分で責任を取らなくてはなりません。
特にキャリア形成の一環として行っている場合、成果物の内容も自分の仕事に近いので内容に問題があった場合には自分の評価、キャリアへの影響も少なからず生じると思います。

今回の寄稿も自分の業界に関係する内容にしていますので、間違った内容が含まれていると業界の方から批判を受ける可能性も大いにあります。しかし、自分の意見を論じるということは、すでに答えのあることではなくまだ業界でも定見がないことを扱うということでもあるため、事実確認できることばかりでもありません。そもそもプライベートな活動でもあるので、いろんな人に確認することも難しいです。
もちろん最善は尽くすのですが、自分の意見が正しい方向を向いているのか、重要なポイントを見落としているのか、というのはやはりリスクとして残っている気はします。正直怖いです。

このようなリスクは学者の方でもそうでしょうし、歴史学のような他分野でもあるように思います。したがって、自分の名前で勝負する以上、自分がアクセスできる限られたリソースを最大限に生かしてもなお残るリスクは自分で引き受けなければなりません。
そのかわり、通常の業務と異なり、その成果物は自分の名前とともに残ります。それこそがキャリアに影響を及ぼすリスクに対するリターンだと思います。

初めて自分の名前で成果物を作るという経験をして、今まで見ることができなかった景色やリスクに接することができたのは大きな収穫でした。
本業の分野で自分の名前で勝負できるように機会を求めていくのはもちろんですが、いずれは歴史学の方でも何かしら自分の名前で足跡を残していけたらと思いますが、まずは勉強ですね!

ああ、卒論の修正が進まない…

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卒業論文草稿(4)_卒業論文草稿返却

卒業論文草稿返却

奈良大学通信教育部にも卒業論文があり、研究計画書の合格→卒業論文草稿の合格(卒業論文提出許可)→卒業論文の合格→卒業という流れになります。

その卒業論文の草稿を10月上旬に提出して11月末頃の返却を待っていましたが、この度評価を添えて草稿が返却されました。
一応草稿完成時の記事を載せておきます。

結果としては、無事に合格となり卒業論文を提出することが許可されました。現時点では卒業論文の提出の許可であり、卒業論文自体の合格ではありません。
とはいえ、これが不許可だと卒業が延期されることが確定するため(研究計画書は再提出可能なのに対し草稿の再提出はできない)、まずは一安心です。

 

草稿の評価と今後の対応

草稿の評価(合否)に加え、指導教官のコメントも添付されていました。
ざっくりとまとめると考察したい方向性は理解できるが、考察の内容・結論としては弱いのではないかという感じでした。

実際、得られた結論は陳腐で当たり前と言えば当たり前という感じのもので、自分でも「考察はしたけど、結論はよくわからかったので今後の課題でもある」と書いてますし、インパクトが弱いのは自覚していたつもりです。ただ、それを突き付けられるとわかっていても少し辛いですね(汗)
学術の世界では「考察したけれど解明に至らなかった」という場合でもその考察過程の意義は認められるのですが、とはいえ薄い考察ではやはり意義も薄いんですよね…

改善の方向性としては考察を深めてさらなる結論を求めるか、見方を変えて同じような材料でも得られる考察の結果を変えていくか、というところでしょうか。
卒論は年明け早々に提出しなければならないので、残された時間は早く1か月半しかありません。その期間の間に根本的に作成し直すことはできないでしょうから、現実的かつ指導教官に受け入れ可能な対応を至急模索する必要があります。
一方で、卒業論文の研究テーマは(合格したら)大学院でも継続して取り組みたいので、そういう観点も考慮すべきと思います。

最後に重たい課題がのしかかってきたなあという感じですが、奈良大学ではこれが最後のハードルなので、自分なりにやり切って次につなげられるようにしたいものです。

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放送大学大学院入試二次試験

放送大学大学院入学試験の流れ

以前投稿したとおり、今年度で奈良大学での歴史学の学びが終了する見通しであることから、大学院でも通信で歴史学の学びを継続するため放送大学大学院の人文学プログラムの受験を行っています。

先日一次試験の筆記試験を受験して無事に通過し、二次試験の面接試験が予定されていました。入試は二次試験までのため、面接試験で入試は終わることになります。
ちなみに筆記と面接の配点は50:50ということでどちらも重視されているようです。
(筆記の英語と専門はプログラムごとに配点が異なり、人文学プログラムの場合は30:70で専門が重視されています)

二次試験の日程はプログラムによって出願時点で決まっていますが、開始時刻は一次試験の合格通知によって知らされます。

面接試験は以前は対面で行われていたようですが、現在はコロナ禍の影響もあってZOOMで行われています。
試験の前にテストの機会も設けられているので、ZOOMに不慣れな人も安心です。
(慣れている人は特に気にしなくても大丈夫だと思いますが、確認しておいた方が安心するとは思います)

そして本日、二次試験に臨むことになりました。

 

緊張の面接試問

面接の前に(1)服装

かしこまった場でZOOMを使用するときに悩むことの一つに服装があります。
自宅から外に出ないのにスーツを着るということに今一つ慣れないのでできればスーツを着ないという方向でいきたいのですが、一方で無駄なリスクを取らないためにはスーツを着るのが無難です。

就職活動だとまだスーツかな、という気がするのですが大学(院)の面接でどこまできっちりした服装をするのかは難しいところです。
対面だと就職活動と同じようにスーツで面接に臨むことを考えると入学試験もスーツが望ましいということになるのでしょうか。
博士論文の口頭試問の時はそこまでお堅い感じはしなかったのですが、どうなのでしょうか(その時もスーツにしましたが)。

今回はやはりリスクを取らない方向で、かっちりした感じに見えるビジネスカジュアルでネクタイをしておきました。

 

面接の前に(2)想定質問と対応

面接は試験官の方から質問をされ、それに対して回答する形で進められます。
そのため、どのようなことを聞かれ、どのように回答するかが肝心ですが、その場で回答を考えてもうまくまとまらないのである程度想定質問と回答を準備しておくことが重要です。

大学院の面接試験についてインターネットで調べてみると、高い確率で聞かれる内容としては、①研究したい内容、②研究計画(どのように進めるか)、③学習・研究の意義、④志望動機、といったところでしょうか。

これらについては出願書類の中で述べていることではありますが、改めて確認・整理して緊張しても説明できるくらいにはしておくのがよさそうです。
緊張していると、本当に頭が真っ白になって基本的なこともうまく話せなかったりしますので。

私もこれらの事項については出願書類を読み直して、簡潔に説明できるようにしておきました。

希望する指導教官がいる場合、その方の論文や著書に目を通しておくことも有効らしいです。
私も一応希望する指導教官の著書については目を通しておきました。自分の研究内容とは直接かかわるところが大きくなさそうなのであまり頭には残っていませんでしたが、指導教官の専門や関心を理解するためにも少しは目を通しておくのがいいと思います。
面接の中で言及することができればアピールにもなりそうですし。

 

面接本番

そのような準備をしていよいよ本番です。

面接開始時刻の5分前に事前に指定されたURLでミーティングに入ることが指示されていたため、早めに入室。
ミーティングが開始されるまでに少し時間がありましたが、深呼吸で息を整えます。

深呼吸していると画面が変わってミーティングに。
試験官は2人で、1対2の形でした。

放送大学大学院の入試について書かれたブログ記事を読むと結構厳しい感じの描写が多かったのでピリピリしているのかと思いましたが、最初は和やかに始まりました。
この辺は試験官の方の雰囲気にもよるのでしょう。

最初に受験番号と氏名を伝えて本人確認が行われ、それからが本番です。
最初の質問は想定通り、研究したい内容と計画について。試験官からするとそれが一番の関心事なので最初にこれが聞かれるのはほぼ確実だと思います。

研究内容・計画は現在進めている卒業論文と同じ内容なので、そちらを説明していきます。
というと淡々と答えたように見えますが、実際は緊張していて頭の中がぐるぐるして、理路整然とした説明にはなっていなかったと思います。それでも伝えるべきポイントは言及したので、言いたいことは伝わったようです。

その後には歴史学らしく、研究の中であたっていく史料について質問がなされました。
すでに研究を進めているので自分が取り組んでいることについては回答することができましたが、「そこまでは考えていなかった」「そういう見方をしたことはなかった」というポイントも多く、プロとアマチュアの視野の違いを突き付けられました。
これは大変勉強になりました。

事前の情報収集で厳しい面接だという情報がちらほらあったので不勉強な点を詰められたらどうしよう、なんてビクビクしていましたが、面接時間が10分程度ということもあって厳しい議論になるところまではいかず面接は終了しました。
緊張していることもあって100点満点の回答ができたとは言えませんが、現時点での自分の能力や視野は可能な限り伝えられたと思います。
それほど悪い出来ではないと思いますが、不本意な結果になっても悔いなく受け入れられそうな気がします。

この面接でそれなりの回答ができたのは卒業論文を進めていたからですので、こういう機会を与えてくれた奈良大学での学びには感謝したいところです。
願わくば、自分なりに満足のいく卒業論文を作成して奈良大学を卒業し、放送大学でそれを昇華させていきたいものです。

合格発表は12/23(金)発送予定で、早ければ12/24にも届きそうです。
せっかくのクリスマス(イブ)ならサンタさんにいい結果をプレゼントとしてもらいたいものですが、果たして。長い1か月になりそうです…。

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決戦!株主総会

コーポレートガバナンスとは?

安倍政権下で推進されたアベノミクスには様々な政策が含まれますが、重要なものの一つにコーポレートガバナンス・コードの導入が挙げられると思います。
すなわち、スチュワードシップコードによって機関投資家の企業価値向上への働きかけを促し、企業側にはコーポレートガバナンス(企業統治)1コーポレートガバナンス・コードでは「会社が、株主をはじめ顧客・ 従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行 うための仕組み」を指すとされている。(「コーポレートガバナンス・コード」前文)の向上による企業価値向上を促すというものです。

従前より日本企業は欧米の企業に比べて株主を重視しておらず、特に株式の政策持ち合いやメインバンク制(間接金融の相対的な存在感の大きさ)がそのような傾向の背景にあると指摘されています。
しかし、日本の成長戦略の一環として企業が投資家との対話や適切な企業統治によって持続的な成長を実現することを企図してコーポレートガバナンス・コードが東京証券取引所の規則として導入され、特に上場企業は同コードに沿った対応が求められるようになりました。
実際に関係者からの話を聞いていても、コーポレートガバナンス・コード導入後には機関投資家とのコミュニケーションの質が改善したという傾向がみられるようで、株主重視という点ではコーポレートガバナンス・コードの趣旨は実現されているようです。
(なお、同コードは株主以外のステークホルダーとの対話も促しています)

定量的な指標として独立社外取締役2東証の独立性の基準を満たした社外取締役を指す(https://www.jpx.co.jp/equities/listing/ind-executive/index.html)や取締役候補を決定する指名委員会3会社法第404条等の設置割合がわかりやすいと思いますが、これらについては東証の調査42021年8月2日「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」(https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000005poi8-att/nlsgeu000005polb.pdf)がわかりやすいです。

同調査によると、旧東証一部上場企業における独立社外取締役の設置割合(3分の1以上)はコーポレートガバナンス・コード導入の2015年以降増加しています(2人以上、過半数も同様の傾向にあります)。

3分の1以上の独立社外取締役の選任状況の推移(東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」2021年8月2日公表 P4)

 

また、指名委員会の設置割合も2015年後急速に上昇しています。

3分の1以上の独立社外取締役の選任状況の推移(東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」2021年8月2日公表 P9)

上場企業の状況について不勉強でそのコーポレートガバナンスがどのような状況なのかあまり知りませんでしたが、改めて調べてみると外形的にはずいぶん強化が図られているのだと勉強になりました。

しかし、現実問題として上場企業の不祥事は依然として多く発生していますし、コーポレートガバナンス・コードを受け入れた上場企業が全て適切な成長戦略を描いて力強い成長ができているとは思えません。
確かに経営陣をコントロールする組織の仕組みによって企業統治が改善するというのは理屈としてはわかるのですが、いささか講学的で実際の経営戦略やいわゆる現場の生産性にどのような改善をもたらすのかは実感がわきませんでした。社長が変わっただけでそこまで会社の戦略とか業績、企業文化って変わるものかな、とか(もちろん激変した事例も多くありますが)。

そのようなこともあって、コーポレートガバナンスの改善というのはどの程度企業の競争力に貢献するのかわからず、そもそもコーポレートガバナンスとはどういうものなのかということについても多少の関心はありながら踏み込んで学んでこなかった気がします。

 

コーポレートガバナンスのケーススタディ

話はそれますが、卒業論文で戦国大名北条氏の城下町である小田原の研究をしているところ、他の有力戦国大名の城下町も直で見てみたいと思い、当時の様子が良好な状態で残っていることで有名な朝倉氏の城下町・越前一乗谷(福井県)に行ってきました。

帰りに時間をつぶそうと書店をぶらついていると、以前からコーポレートガバナンスのケーススタディとして気になっていた『決戦!株主総会』という書籍が平積みされていたので、せっかくだから帰りの電車で読んでみようと思い購入しました。

 

本書はタイトルにもあるとおり、住宅設備大手のLIXILにおいて創業家会長(潮田洋一郎氏)によって外部から招かれたCEO(瀬戸欣哉氏)がその意向に沿わないとして突然解任されたことに対し、CEOがコーポレートガバナンス上の問題を指摘して復職(再任)を目指して戦ったプロセスが描かれています。

前述の会社法上の指名委員会等設置会社では指名委員会・報酬委員会・監査委員会が設置され、それぞれの委員の過半数が社外取締役で構成することでガバナンスの強化が図られており、LIXILも2011年に指名委員会等設置会社となっていました。コーポレートガバナンス・コードが導入される前のことで、上記の表を見ても当時そのような形態の会社は少なかったため、コーポレートガバナンスの優等生、とも呼ばれていたそうです。

しかし、実際には創業家とはいえ少数株主の会長によって恣意的に指名委員会が利用されその意に沿わないCEOが解任されるという、コーポレートガバナンス上も疑念が持たれる事態が発生しました。
当然ですが社外取締役も人間であり利害関係とは無縁でいられませんし、また経営陣の人脈によって選任されることも多く、社外の人間である=経営陣から完全に独立して意思を表示することができるというわけでもなさそうです。
したがって、社外取締役が多いことがコーポレートガバナンスの質を必ずしも保証するものではないということです。むしろ会社の実情には疎いという弱点がある分評価は難しくなるのではないでしょうか(本書でも指摘があります。P244-)。

さて、解任された瀬戸氏ですが、身の振り方については当初迷いもあったようですが、機関投資家の方から日本のコーポレートガバナンスが海外の投資家を失望させていることを聞いて、コーポレートガバナンスの改善という大義を認識して復職へ向けて立ち上がることにしたそうです(P89)。

ちなみに瀬戸氏のCEO就任前まではM&Aを活発に行っていたがそれが利益成長につながっておらず、瀬戸氏がその方向性を見直したことが潮田氏の意に添わなかった、逆にそれまでの経営陣は(創業家とはいえ少数株主の)潮田氏に忖度していたことが問題点として指摘されています(P116-)。

そこからは瀬戸氏側と会社側で激しい攻防がなされますが、最終的には株主総会で瀬戸氏側が提案した取締役候補が会社提案の取締役数を超えて選任されたことで瀬戸氏側が会社の主導権を握るという結果になりました(潮田氏は候補となっていないため不選任)。

瀬戸氏側の戦略が功を奏したという結果で、その中でLIXILや日本のコーポレートガバナンスが抱える問題が明らかにされましたが、私が本書で印象に残ったのは機関投資家の行動と仲間を作ることの大切さです。

前述のとおり、瀬戸氏が立ち上がるきっかけとなったのは機関投資家の後押しですが、その後も機関投資家は重要な役割を担います。そもそも株主の多数が機関投資家である以上(当時のLIXILの個人投資家株主は3割程度)、取締役選任という舞台で機関投資家が重要なのは当然ですが、機関投資家も投資先の企業価値が向上しなければ出資している投資家(あるいは従業員や保険の契約者)に対して責任を果たせないため投資先に対して企業価値向上を促します。

瀬戸氏によって業績の向上がみられた一方その退任によって会社が混乱することになれば当然機関投資家も会社に対して懸念を持たざるを得ません。実際世界最大級の資産運用会社であるブラックロックもLIXILの取締役会に書簡を送り問題となっている指名委員会や取締役会の状況について説明責任を果たすように促しています(P151-)。

一方、同じ機関投資家の動向として興味深かったのは議決権行使助言会社の動向です。資産運用会社などの機関投資家は多くの株式を保有していますが、すべての会社の株主総会の議案について精査することは人的要因の観点から難しい場合があります。
特にTOPIXのような指数構成銘柄をすべて保有する一方投資判断にかけるコストを削減するパッシブ運用の場合は議決権行使のために人員を確保することは現実的ではなくまた投資家の意図とも合致しないことになります。
そのため、機関投資家は議決権行使助言会社が推奨する議案への賛否に従って議決権行使を行う場合が少なからずあり、議決権行使助言会社が持つ影響力は非常に大きいといえます。

そのような背景もあり、日本版スチュワードシップコードでも議決権行使助言会社に向けた原則が設けられています。

原則8 機関投資家向けサービス提供者は、機関投資家がスチュワードシップ責任
を果たすに当たり、適切にサービスを提供し、インベストメント・チェーン
全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきである。

指針
8-1. 議決権行使助言会社・年金運用コンサルタントを含む機関投資家向けサービス提供者は、利益相反が生じ得る局面を具体的に特定し、これをどのように実効的に管理するのかについての明確な方針を策定して、利益相反管理体制を
整備するとともに、これらの取組みを公表すべきである。

8-2. 議決権行使助言会社は、運用機関に対し、個々の企業に関する正確な情報に基づく助言を行うため、日本に拠点を設置することを含め十分かつ適切な人
的・組織的体制を整備すべきであり、透明性を図るため、それを含む助言策定
プロセスを具体的に公表すべきである。

8-3. 議決権行使助言会社は、企業の開示情報に基づくほか、必要に応じ、自ら企業と積極的に意見交換しつつ、助言を行うべきである。
助言の対象となる企業から求められた場合に、当該企業に対して、前提とな
る情報に齟齬がないか等を確認する機会を与え、当該企業から出された意見も
合わせて顧客に提供することも、助言の前提となる情報の正確性や透明性の確
保に資すると考えられる。

しかし、今回の件では議決権行使助言会社(ISS・グラスルイス)に説明をしたにもかかわらず、ISS側は外形的な基準を重視した上、必ずしも正確ではない認識に基づき瀬戸氏側の多くの取締役候補に反対推奨を出したと指摘されています。この推奨には批判も出ており、スチュワードシップコードの観点からはISSも透明性や説明責任が求められていくのだと思います。

いずれにせよ、本件の取締役選任について機関投資家の判断が占める意味合いは大きく、改めて機関投資家の議決権行使の重要性を認識させられました。

また、大事をなすときの仲間の大切さもよくわかります。
瀬戸氏も多くの友人や機関投資家、そして面識がなかったにもかかわらず志を共有して社外取締役候補として共闘してくれた人たちに支えられて一連の戦いを乗り越えています。
優秀でパワフルな人であっても多くの人に支えられることでハード面だけでなく精神的に支えられてこそ、というのは歴史上よくみられることですが時代や舞台が違っても普遍的なものだと思わされます。
まして自分のような特段秀でたものがない人間が何かをなすためにはいかに人の力を借りられる人間になるか考えなくてはならないと思います。

もちろん、社外取締役として付き合うには馴れ合いを排除しなければいけないですし、瀬戸氏側の社外取締役候補はそのような観点で選ばれていました。一方である種の馴れ合いができる人間関係も必要で、いろんな形で人間関係を築いていくことの大事さにも気づきます。

 

自分にもまだやりたいことはたくさんありますが、法学も歴史学も道半ば。
それぞれもっと勉強して自分なりの見方や目標を信じられるようになりつつ(瀬戸氏にもそのようなものがあったからこその成功だったと思います)、一緒に何かを成し遂げられる仲間もどんどん増やしていけたらいいなと素朴ながら感じたのが一番の読後感でした。

 

福井から得たガバナンスの重要性に関する示唆

ちなみにガバナンスってトップ次第で変わるのか疑問と書きましたが、思い起こせば福井でそういう事例を見てきたのでした。

原子力発電所も城下町の発展も、トップがしっかりしているからうまくいき、そうでないと事故や滅亡を迎えると思うと、これらもまたガバナンスの重要性を説いているといえそうです(美浜原発にも事故がありましたし、一乗谷を本拠とした朝倉氏にいたっては織田信長に滅ぼされています)。

それはさておき、福井は食べ物もおいしく風光明媚なところでしたので、機会があればぜひ行ってみてください!

原子力発電所の安全確保(関西電力美浜原子力発電所PRセンター)

一乗谷城下町の様子(一乗谷朝倉氏遺跡博物館)

  • 1
    コーポレートガバナンス・コードでは「会社が、株主をはじめ顧客・ 従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行 うための仕組み」を指すとされている。(「コーポレートガバナンス・コード」前文)
  • 2
    東証の独立性の基準を満たした社外取締役を指す(https://www.jpx.co.jp/equities/listing/ind-executive/index.html)
  • 3
    会社法第404条
  • 4
    2021年8月2日「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」(https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000005poi8-att/nlsgeu000005polb.pdf)
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放送大学大学院入試一次試験結果

放送大学大学院入試

10月1日に三島にて放送大学大学院入試の一次試験(筆記試験)を受験しましたが、この度試験結果が郵送されてきました。

結果は・・・無事一次試験通過です!
手ごたえはあったので大丈夫だとは思っていましたが、やはり結果を見ると安心しますね。

二次試験

とはいえ、1次試験は毎年そこまで難易度が高いわけではない一方で合格者は受験者の半分以下なので、おそらく本当の関門は二次試験です。

二次試験はZOOMでの面接試験。インターネットで情報を探してみると、大体15分程度の面接のようです。

入試の本丸だけあって、面接は結構タフな感じでしっかり準備をして気を強く持っていないとうまく回答できないかもしれません。
こういうのは何度やっても緊張するんですよね。

ともあれ、せっかくの挑戦なので気負いすぎず、でも後悔しないように自分なりの考えを整理して面接に臨みたいものです。

やべ、今から緊張してきた。。。

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