卒業論文の準備

奈良大学の4年生になりました

先日2021年度の奈良大学通信教育部の成績をアップしましたが、4月になって特段プライベートの活動で動きがなくブログのネタに困っていました。とはいえ書くのをやめるとサボり癖がついてさらに更新しなくなりそうなので、場末のブログではありますがとりあえず徒然なるままに書き散らしてみようかと。

4月になって奈良大学の学生として新学期を迎え、4年生になりました。大学4年生になるのは2回目ですが、前回は就職活動と単位取得でヒイヒイ言っていたのに比べると今回は趣味のようなものなので気楽です。
大学4年生といえば、このブログを立ち上げたのは苦労した就職活動をつづるというきっかけがあったのを思い出します。かなり前になりますがよく続いていると我ながら感心します。ずぼらな運営ですけど、まずは奈良大学卒業まできちんと続けていきたいところです。

私のような人事異動や業務内容の変更がほとんどない業務環境だと人生の区切りを感じることがあまりないのですが(せいぜい年齢が〇十台に入ったとかでしょうか)、学生生活をしていることで〇年生という節目ができて新鮮な感じを受けます。日々目の前の仕事を片付けていくのも大事ですが、人生の節目・区切りを考えながら生きていくのも人生を充実させるために有効かも、と書きながら感じています。

 

4年生の手始め

新年度になりましたのでまず受講科目の履修届を提出する必要があります。
前年度にレポートを提出して単位習得試験待ちとなっている史料学概論・書誌学・東洋史特殊講義に加えていくつかのスクーリング科目をこなせば、必修の卒業論文・文化財学演習Ⅲと合わせて卒業に必要な単位を確保できるので、専門科目をいくつか保険で新規に履修するほか、自分の視野を広げるために自由選択科目(一般科目)も履修することにしました(自由選択科目は卒業単位にはカウントされません)。

単位取得自体はそれほど心配してませんが一番の関門は卒業論文でしょう。卒業論文をパスするためにはまず4月上旬の段階で卒業論文計画書を提出し、それが合格したら10月頃までに卒業論文の草稿を提出。そこで卒論提出の許可が出たら年明けに卒業論文を提出し最終合格すれば必要単位の取得をもって卒業となります。逆にどこかで躓くと卒業ができなくなりもう1年在学ということになります。

卒業論文計画書は履修届と合わせて4月上旬までに提出しなければなりませんので、それまでテーマや具体的な考察内容について考え抜いていました。
具体的にはテーマ・研究課題や現状の研究の進捗、そして今後の展望を記載しますので、現時点でも多少は研究が進んでいることが期待されているでしょうし、卒論の作成に向けてどのようなことを調べていくか道筋も考えておかなくてはなりません。
初めての大学の卒論の時は毎週ゼミがあり都度方向性の確認ができたので変な方向に行ってしまうことはありませんでしたが(そのかわり毎回シバかれました)、通信制の場合質問ができるとはいえ出たところ勝負という性格がありますので、指導教官の期待するレベル・方向性でなくて不合格になったらどうしようという不安はぬぐえません。
一応不可でも一度はコメントを踏まえて再提出できますので大丈夫とは思いますが、できればスムーズに進めたいところです。

 

ネタ集め

卒業論文計画書を作成するためには多少なりとも研究をしておくことが必要であるため、関係する資料を探すとともに実地を見てみることにしました。
卒業論文のテーマは小田原用水(早川用水)に関する内容を考えているので、小田原市内に残っている小田原用水の遺構を見てみることに。

小田原用水は芦ノ湖を源流とする早川から小田原城下に引かれた水道で日本最古の水道ともいわれます。設置は1545年頃に戦国大名の北条氏康が行ったとされています。1545年というと北条氏が関東に飛躍するきっかけとなる川越の戦いの前年であり北条氏領国の充実ぶりが伺えます。

早川から小田原城下なのでランニングがてら見ることができて非常に便利です。
文化財学や考古学の論文を書くなら自宅付近のテーマだと何度でも実物を見ることができるので深みを出しやすいかもしれません。
これは歴史学に限らず社会人の研究一般にいえるかもしれません。私の場合法学の研究も自分の実務経験からテーマを設定していますが、そのおかげで研究がしやすかったですし逆に自分の土地勘のないテーマ、アクセスの悪いテーマを選んでしまうと挫折しやすいように感じます。

早川沿いの小田原用水取水口

用水沿いに見ていくのが全容の把握に便利そうなのでまずは取水口から。
早川沿いにしっかりと小田原用水取水口がわかるようにしてくれています。

小田原用水(早川用水)取水口の説明

取水口の説明にはしっかり小田原北条氏時代に設置されたらしいと書かれています。
しかも江戸時代になっても利用されており、まさに時代を超えた小田原の民の財産です。

小田原市板橋(箱根板橋)にある小田原用水の説明

早川から小田原城下に向かう途中の板橋には小田原用水に関する説明が発掘調査の成果を挙げて説明されています。これは論文の参考になりそう!!

小田原城外にある小田原用水の説明

多くの観光客が訪れる小田原城でもしっかりアピールされています。
小田原用水は小田原城や曽我の梅林などと比べると地味な印象ではありますが北条氏の偉大さを如実に示す遺物なので大いにアピールしてほしいものです。水道は現代人の生活でも重要なものなのでその価値は理解されやすいでしょうし。

観光施設「なりわい交流館」にも小田原用水が再現されている

小田原城の近くには「なりわい交流館」という観光施設がありますが、その前には小田原用水が再現されています。小田原用水とつながってはいないのですが、小田原用水が小田原にとってどれほど重要な存在であるか伺えます。

とりあえず卒業論文計画書に向けた散策はこんなところです。
小田原用水の経路である早川から山王川まで歩いてところどころ写真は撮っていますが一般の民家が映り込んでいますのでアップは控えておこうかと。

さて、どんな卒業論文ができるか今から楽しみです。

 

おまけ

小田原の魅力は小田原城や新鮮な魚介、風光明媚な景色などたくさんありますが、食べ物屋さんも結構充実しています。

街中を歩いていると焼肉屋さんやホルモン屋さんの割合が高いように感じますが、ラーメンのお店も多いです。

その中で小田原を訪れる方にお勧めしたいのが小田原郵便局近く(小田原駅から徒歩5分くらい)の「城下町 どすん」さんの梅塩らーめん。

小田原郵便局近くの「城下町 どすん」さんの梅塩らーめん。あっさりしてうまし。

こちらのお店ではあごだしと鶏だしのラーメンを提供していますが、あごだしの梅塩らーめんはあっさりしているスープに塩味と酸味の利いた梅がよく合っています。小田原は梅が有名でこの梅も小田原産とのこと。

小田原にいらっしゃったら是非小田原用水と梅塩らーめんをご堪能ください!!

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2021年度成績

初年度の成績

奈良大学通信教育部での学びを始めて1年、多くの科目を履修していろんな角度から歴史学を学ぶことができました。通信課程という限定的な学習ではありますが得るものは多かったと思います。

それはそうと、そんな奈良大学での初年度の学習について成績表が送られてきたのでアップしておきたいと思います。誰得ではありますがね。

じゃーん!!

特筆すべき内容ではないですが、ある程度順調に学習は進められたのではないかと思います。歴史好きとはいえ学術的に歴史学を学んだことはないので当初は戦々恐々でしたが、ブログ記事にも綴ってきたとおり、それなりの学習はできたと思います。

この単位取得状況であれば2023年度は卒業論文の作成が認められるので、今年度は卒業に向けて卒業論文の作成を見据えた学習・研究がテーマとなります。
社会人になる前とは違い今回の卒業論文はただ卒業だけを見据えるものではないので、しっかり楽しみながら取り組んでいけたらいいと思います。昔よりは資力もあるので、必要があればお金もつぎ込んで充実した研究ができればなお良しです。
最初の大学時代は本当にお金がなかったなあ。。。

ともあれ、奈良大学初年度の学習はそれなりの成果を収めて終了することができました。
歴史の勉強・研究はこれからも続くと思いますので、この結果を自信に歴史学の道をマイペースに、しっかりと歩んでいけたらと思います。

ちなみにしばらく前に資産運用業界の敬愛する方とお話した時に、自己研鑽のためにはそれなりの額を書籍に投じねばならないという話を聞いたので、本業はもちろん歴史学にもきちんと投資しようと思います(本業にも!)。

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レポート返却(史料学概論・書誌学)_天と地と…

レポート返却:天と地と

今年度のレポートの提出を終え一安心という感じでしたが、レポートが合格していないと意味がないので早く結果が見たいと首を長くして待っていましたが、3つ出していたレポートのうち2つが今般同日に返却されました。

2つも同時に返ってくるのはありがたいなあ、と思ってノリノリで評価を見てみましたが、はたして…
ちなみに返却されたのは史料学概論と書誌学で東洋史特殊講義はもう少し待つようです。

 

レポート結果:史料学概論

まずは史料学概論。テキストは分厚く内容もかなり専門的な内容で結構ハードで、各種の史料の活用例を理解してまとめるのは大変でした。テキストで取り上げられている史料はなじみのないものが多く、しかも複数の史料を並行して活用して分析するという事例が多かったのでどの史料ををどのように用いて分析するかというのを理解するために何度もテキストを読み返しました。

ちなみに史料学概論のレポートについての記事はこちら。

 

そのように苦労したレポートの結果は…

 

ほぼA!!テキストの内容理解度だけBで惜しかったですが、これは自信がつきますね。
講評でも概ね褒めていただきました。褒められるとテンションが上がります。

試験も大変らしいですが、この勢いで乗り切ってしまいたいものです。
しばらく先なので記憶が薄れないか心配ですが。

 

レポート結果:書誌学

一方の書誌学。こちらは書籍の歴史や作り方というのは図画工作っぽく楽しんでテキストを読んでいましたし、テキストで説明されていることも結構頭に入ってきていたので、大学の掲示板では苦戦している声も見受けられましたがそんなに悪い評価にはならないと思っていました。

書誌学のレポートについてはこちらにまとめています。

 

さて、その書誌学のレポートの結果は…

 

・・・涙。っていうか血涙です。

一応合格なのでよかったですが、ほぼCというのはレポートとしては最低評価といえそうです。設題意図の把握がBということは設題の意図が理解できていながら中身がダメということなのでなおさら厳しい評価にも思えます。
西洋史概論のレポートの評価も凹みましたが、今回はその比ではありません。きつい。

 

しかし、西洋史概論もそうですが厳しい評価のレポートの方が実は講評が充実しているようにも感じます。評価がいいものについては良くも悪くもコメントすることがあまりないのかもしれませんが、そうでないものについては指摘すべき点が多く見つかったのでしょうし、それだけじっくりレポートを読んでいただいているのでしょう。コメントも本来の評価欄からはみ出るくらいびっしりと・・・。西洋史概論もすごかったですけど。
そう考えると厳しい評価はいわば愛のムチ(?)で、ありがたく受け止めた方がよさそうです。

色々コメントをいただいたのですが、特に印象に残ったのは漢数字とアラビア数字の混用を避けるようにというご指摘でした。私は意図的に和暦と西暦で使い分けていたのですが改めていくつか書籍を確認すると確かに西暦も漢数字で書かれていることが多かったです。せっかく意識するのであれば確認しておけばよかったと反省しています。

 

このように史料学概論の結果で浮かれて書誌学で落とされるというのは気持ち的には天と地と、という感じでした。
反省すべき点はありますが、とりあえず合格はいただいたのであとは何とか単位習得試験も乗り越えて早く卒業論文に集中したいものです。

もっとも、本業(資産運用業のコンプライアンス)関係でもプライベートの活動で報告・論文などのタスクがいくつかあるので同時進行となりそうでしばらくは歴史と法学で勉強と論文作成に追われそうです(汗)

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西洋史概論(4)_試験結果

西洋史概論の試験内容

今年度提出すべきレポートをすべて提出し、卒業論文関係の資料や本業の資産運用業関係の書籍をのんびりと読んでいたら、先月受験した西洋史概論の試験結果が返却されてきました。

先日も書いた通り西洋史概論のレポートの評価はかなり厳しく、何とか合格にはなったものの試験は大丈夫かと危惧していました。テキストは通読したとはいえ土地勘のない分野なので、知識が弱いところを問われると短時間で回答をまとめるのは厳しそうでした。
まあ事前に問題はわかっているので準備しておけばいいだけではありますが…

さて、当日。できるだけ時間をかけて回答したいので当然試験時間は1時間目(10:00-10:50)を選択します。在宅試験で当日中にポストに投函すればいいので、早い時間帯ほど時間をかけられるということです。

当日10:00、早速試験問題を確認。試験問題は「共和政ローマの発展について国制と対外関係について触れながら論ぜよ」というものでした。
古代ギリシアやキリスト教を論ずるのは難しいですが、古代ローマであればレポートで軍人皇帝時代(後期古代ローマ)を扱ったので、時代は異なるものの連続性もありますし比較的論じやすいテーマでした。問題を見た瞬間ほっとしました。

古代ローマ(西ローマ)は政体としては王政→共和政→元首政→帝政(→東西ローマ分裂)という変遷をたどります。すなわち共和政は貴族層が国王を追放して元老院主導の国体を形成してから、アウグストゥスが国家権力を集中させて政治を主導する元首政になるまでの期間となります。
したがって国制については元老院主導という政体の特徴、及び社会体制に大きな影響を及ぼす身分制度について論じることが中心となりました。
元老院主導というのは文字通り元老院が国家の意思決定の中心となるということで、国制組織としては元老院・政務官・民会があったところ、諮問機関にすぎない元老院が実質的に意思決定をリードしていることに共和政ローマの政体としての特徴があったと思います。もっとも民会も市民によって構成される立法機関として一定の影響力はあったようです。
身分制度についてはローマの中の身分制度とローマとローマ外の人たちの間の身分制度について論じました。前者は貴族と平民、後者はローマ市民とローマ以外の居住者との関係になります。前者については当初は貴族と平民の身分差の問題であったのが平民の中で経済格差ができるにつれてそちらの方が問題になったことが指摘できます。平民のうち富裕層は騎士身分として貴族層と同化する中、格差の解消のためにグラックス兄弟が改革に取り組んだことはよく知られていますが、この問題は共和政時代には解決を見なかったようです。
一方のローマ内外の居住者の法的権利の格差については同盟市戦争を経てイタリア半島の居住者全てにローマの市民権が付与されるという形で決着しており、格差の是正に成功しています。
これらの点が共和政ローマの国制・社会体制を規定するものであると考え、試験の回答にもこのような形で回答しました。

共和政ローマが発足したころ、ローマはまだイタリア半島の一都市国家に過ぎませんでした。しかし、イタリア半島の統一からカルタゴとの戦い、ギリシアや小アジア、その他の地中海沿岸地域へと勢力を拡大していきます。共和政ローマはオクタウィアヌス(アウグストゥス)の登場によって終焉を迎えますが、その時にはエジプトもローマ支配下になっており、共和政ローマの最大勢力圏は地中海の過半を覆っていました。さらに内陸でもガリアやイベリア半島を属州とするなど共和政ローマ時代の勢力拡大は著しいものでした。
この勢力拡大の背景には現地勢力との戦争があり、試験の回答では勢力拡大の動きとその背景となる戦争を論じることとしました。
この時代の勢力拡大の様子を見ると、共和政ローマは結構戦争をしていると感じます。そして戦争を続けるからこそ軍事力充実のために身分制度の改善も求められるわけで、この二つはリンクしていることも改めて考えさせられました。

 

試験結果

試験の回答は書きたいことをしっかり整理して書くことができたので単位の取得(60点以上)には自信がありましたが、どのような評価をされるのかはやはり気になります。

そして待っていた試験回答の結果は…

極上の結果とはいきませんでしたが一応優判定ということでよかったです。
でもあと20点分の論ずべきポイントがあったのかと思うと、心の隅っこで悔しい思いがあるような気もします。

それでも今年度最後の試験を無事に終えられたのはよかったです。
来年度はレポート提出済みの3科目を中心に試験を受けることになりますが、これらも躓かずに早めに試験を終わらせて卒業論文に集中したいところです。
ちなみに大学からは来年も当面は在宅試験となる見込みが伝えられており、確定ではないものの少々安心しています。
もっとも試験の準備で知識が身に定着することも多いので、本当は想定問題すべてを準備して試験会場で受験するというのが学習という面では望ましいとは思いますが、それを言うとヤブヘビになりそう…(汗)

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機関投資家に聞く

調査・取引だけでない機関投資家の運用

個人的なイメージとして、運用会社の運用部門の代表的な職務(あるいは花形)と言えばファンドマネージャー、そしてアナリスト(エコノミスト等を含む)という二つのポジションが頭に浮かびます。私は運用会社の運用部門に属したことがないのであくまで外から見たイメージに過ぎませんが、一般の投資家や運用会社への就職を希望する方のイメージも同様ではないかと思います。

そして運用のプロセスとして、アナリストが企業調査を行い、ファンドマネージャーがその情報に基づき有価証券の購入・売却という投資判断を行って取引する、というのが一般的なイメージではないでしょうか。
私自身、業界外の人から運用会社の運用って何をしているのかを聞かれたら上記のように答える気がします。

実際、古典的な運用会社の投資先企業への関与の仕方は「ウォール・ストリート・ルール」と呼ばれ、業績等に不満があれば株式を売却し、それによって株価が低下することで当該企業へのシグナルとする、というものでした。
しかし、現在の運用会社の運用、すなわち運用パフォーマンスの追求は取引以外の方法でも行われています。それが議決権行使であり、議決権行使の前提となる企業との対話です。企業との対話を通じて機関投資家の考えを当該企業に伝え改善を促す方法はエンゲージメントとも呼ばれます。

この背景にはまず議決権行使も運用会社の受託者責任の一部であることが法令上明確にされたことがあり、日本では1967年に証券投資信託法(現在の投資信託法)で投資信託委託会社の議決権行使義務が定められ、米国では1988年にエイボン・レターで議決権行使が企業年金の運用会社の受託者責任の一部であることが示されています。
さらに英国や日本でスチュワードシップ・コードが導入されることによって、それを採択した運用会社は投資先企業の企業価値向上のために議決権行使を行うだけでなく必要に応じて投資先企業と対話をし企業価値向上のための行動を促すことも求められるようになりました。

このように考えると、現在の運用会社の運用行為は大きく分けると「(企業)調査」・「投資判断及び取引の執行」・「投資先企業の企業価値向上のための取組み」の3つに分けられるようになっているのではないかと思います。
このうち最後の「投資先企業の企業価値向上のための取組み」は新しい分野であるため私自身運用会社にいても具体的にどのような業務なのかイメージが難しいと感じています。運用会社の人間が企業の幹部やIR担当者とコミュニケーションを取ることはわかりますが、運用会社はどのようなレベル感や視点で企業に提案を行い、企業側はそれをどの程度真剣に受け止めているのかというのはその現場にいないと把握が難しいと思います。

また最近ではESG投資やSDGsという言葉が広がり、運用会社としてもそれらを考慮した投資行動が求められますが、特にE(環境)やS(社会)は関連するステークホルダーが多い(例えばNPO/NGOや行政)ため、運用会社としてそれらのステークホルダーとどのような距離感を持つのが望ましいのかということも運用会社の受託者責任との関係において重要な課題だと考えていますが、運用者ではない自分にはなかなか答えが出ない問題でもありました。

そんなモヤモヤを抱えていたところ、この度非常に参考になる書籍が出版されたとTwitterで見かけたので早速購入して読んでみました。
旬刊商事法務編集部編『機関投資家に聞く』という書籍です。タイトルがそのものズバリですね。

 

 

『機関投資家に聞く』の特徴

本書は大きくエンゲージメント等を取り巻く環境の概説、機関投資家及び指数会社などに対する議決権行使やエンゲージメントの体制に関するインタビュー(アンケート)、そして運用会社の運用者の座談会で構成されています。
本書の特徴としては機関投資家等の議決権行使・エンゲージメントの詳細が掲載されていることと座談会で運用者のエンゲージメントに対する考え方や問題意識が深くかつ広く語られていることだと感じました。

機関投資家へのインタビューは野村アセットマネジメントやブラックロックといった大手運用会社だけでなくFederated Hermesやガバナンス・フォー・オーナーズ・ジャパンといったESGやエンゲージメントに強みのあるユニークな会社も対象にしている点が興味深いです。
さらにGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人:日本最大の公的年金基金)やCalPERS(カリフォルニア州公職員退職年金基金:米国最大の公的年金基金)といったアセットオーナーやMSCIやFTSEなどの指数会社のインタビューもあり、特に海外の年金基金や指数会社の考え方に触れる機会はなかなかなかったのでこちらも面白かったです。

座談会は三名の運用者が議決権行使・エンゲージメントの社内体制や議決権行使・エンゲージメントの課題、ESGやスチュワードシップ責任などについて話されています。ESG投資やスチュワードシップ・コードについて論じる書籍はたくさんありますが、この座談会では教科書的な話だけでなく実際の運用者が考えている具体的かつ難しい論点が多く取り上げられていて、同じ運用会社にいる自分もこのような論点があるのか、と目から鱗が落ちる感じがしました。
個人的には本書で一番重要な部分はこの座談会でなかったかと思います。実際座談会の内容が興味深いということで本書を購入しましたし。

 

印象に残ったポイント

せっかくなのでいくつか本書で印象に残ったポイントをいくつかご紹介したいと思います。前述のとおり特に座談会の内容が面白かったのでそのあたりを少し。

議決権行使・エンゲージメントに関する社内体制について

私の知っている限りではファンドマネージャーやアナリストなどの運用担当者は私のようなバック部門とは報酬体系が異なり、成果報酬的な性格が比較的強いようです(本書でもそのように指摘されています)。
そしてそれは成果が数値化しやすいことが前提になっていると思います。
本書でも紹介されていますが、GPIFが運用会社の報酬体系を委託調査した報告書が公表されており、その中でファンドマネージャーが固定報酬の割合が低く、スチュワードシップ・ESG担当者はそれに比べ固定報酬の割合が高いことが示されています(報告書P15)。

固定報酬の割合の大小にかかわらず役職員の待遇や配属を決めるうえで評価は重要なはずですが、議決権行使やエンゲージメントの結果というのは数値化が難しいのが実態です。仮に投資先企業の業績・株価が上がったとして、それがどの程度議決権行使・エンゲージメントによるものかは明確にはわかりません。逆に業績・株価が下がっても同様に評価は難しいと思います。
では、議決権行使・エンゲージメントの担当者の評価はどのようにするのか。評価しないわけにはいかず、一方で評価は難しい。管理職としても人事としても悩ましいところだと思います。

この点については試行錯誤が続いているようです。具体的な内容については詳述を避けますが、評価が難しい中でもやりようはあるものだと感じさせられました。

NGO等との距離感

ESG投資には各運用会社が取り組んでいますが、特にEとSについてはNGOなど従来の運用行為の文脈では接点が少なかった(と思う)ステークホルダーの影響力が大きく、彼らもまた運用会社や銀行などの金融機関の動向に注目しており、運用会社としてそのような主体とどのように関わるかが問われています。

最近では多くの運用会社が運用会社が多く加入しているイニシアティブと呼ばれるプラットフォーム(一番著名なのがPRIでしょうか)を通じてESGの観点から共同でエンゲージメントを行っているようです。そしてNGOとの連携もイニシアティブを通じて行われることが多いようです。業界団体だと生命保険会社が生命保険協会をプラットフォームとして共同でエンゲージメントを行うという事例もあります。

NGOもイニシアティブも世間には数多くあり、その規模や質は千差万別です。その中には当然「評価できないNGO・イニシアティブ」もあり、座談会の中でも具体的な評価基準が述べられていました。
NGOにはNGOの正義や信念があると思いますが、運用会社にもお客様のお金を預かってリターンを(役職員の個人的な価値観は脇において)追求するという受託者責任があり、それらは時として相反することもありえます。
例えば武器製造や酒・ギャンブルへの投資の可否がSRI(社会的責任投資)においてよく問題となりますし昨今では原発なども注目されていますが、それらが仮に社会的に悪だと断罪されたとしても運用行為においては法令や投資家の意思(投資信託約款や運用ガイドライン)に反しない限り投資対象から排除することは難しいです。それによって運用会社がNGOや社会から批判される可能性もありますが、運用会社はそれに流されるわけにはいきません。その場合お互いの正義と責任が真っ向からぶつかることになりますが、お互いに理解し合って建設的な議論ができるというのが望ましい形なのだろうと思います。逆に言えば相手の主張を全く無視して独善的に振舞うような形になると社会はいい方向に向かわなさそうな気がします。

あと、ESG関連のステークホルダーとしてESG格付機関や指数会社も登場していて、確かにこういう主体も意識しておかなくてはならないと気づかされました。

パッシブ運用とエンゲージメントについて

パッシブ運用とはインデックス(指数)に連動する運用成果を目指す運用手法で、基本的には指数を構成する銘柄に機械的に投資します。その性格として投資銘柄が非常に多くなること(したがって1銘柄ごとのパフォーマンスへの影響は小さい)や高パフォーマンスより指数への連動度合いが重視されるという点があると思います。加えてアクティブ運用に比べて運用会社が受け取る報酬が小さいことも重要な点です。

このようなパッシブ運用においてエンゲージメントをアクティブ運用と同じようにしようとすると膨大な手間やコストがかかり運用会社としても低報酬で運用している中で収益を大きく圧迫してしまいます。例えばTOPIXの構成銘柄は2,000以上ありますのでこれらすべてに対応しようとすると相当の数の専担者が必要でしょう。議決権行使はシステム的に対応ができるのでまだいいのですが、エンゲージメントはどうしても人的な対応が必要なためどこまで対応するのかというのが問題になります。
また、エンゲージメントの効果は全ての株主が享受するため、他の株主によるただ乗りの議論もあります。

そのため、私はパッシブ運用については運用会社は議決権行使はしても、ほとんどエンゲージメントをしないと思っていました。
しかし、実際には大きい会社はエンゲージメント専担の部署を作って比較的幅広に対応したり、アセットオーナーの要請で運用会社がパッシブ運用でもエンゲージメントを行っていることがあるようです。コストとの見合いはケースバイケースでしょうが、委託者がエンゲージメントを求めるパッシブ運用については運用会社に追加で報酬を払っているケースもあるそうです。

パッシブ運用の残高が増加傾向にある中で機関投資家がどのように投資先企業に向き合っていくかというのは資産運用業界にとって大きな課題になっていくのでしょうが、どのような解が出てくるのか興味深いところです。

 

以上、『機関投資家に聞く』の感想でした。運用会社にいながら運用に携わっていない身としては議決権行使やエンゲージメントの論点や実態についてあまり知らなかったので、機関投資家各社の具体的な取り組みや運用担当者の深いお話は議決権行使・エンゲージメントの理解に非常に役立ちました。

法令以外のルールで運用会社が取り組んでいるものとして「顧客本位の業務運営原則」があり、これも運用会社ごとに捉え方・取り組み方が違うものだと思います。機会があればこの原則に対しての各社の取組みや原則に関連する業務担当者の座談会などを拝見したいものです。

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東洋史特殊講義(1)_レポート提出

日本と中国だけでない東洋史

奈良大学通信教育部の東洋史関係の科目には東洋史概論のほかに東洋史特殊講義という科目があります。
東洋史概論はすでに単位取得していますが、東洋史特殊講義は他の科目が終わった後にとっておいたので2021年度最終版に取り組むことになりました。ちなみに東洋史特殊講義は東アジアの歴史の基本的な流れを知っておくことが円滑な学習につながることから東洋史概論と同時かその後に学習することが推奨されています。

東洋史特殊講義のテキストは放送大学の吉田光男編『東アジア近世近代史研究』。放送大学のテキストというとベージュのカバーのイメージがありますが、こちらは大学院の教材のようです。

 

本書は東アジアのうち中国史と朝鮮史における近世・近代をカバーしています。
東洋史と聞くと中国史好きな私はまず中国史が思い浮かんで、後はせいぜい(広義の?)東洋史ということで日本史をイメージするくらいで、他の地域の歴史についてはあまり意識することがないのが実際のところです。地理的にも文化的にも日本にとって大きな存在である隣国の朝鮮の歴史についてすら何となく王朝名がわかるくらいで、その他の東洋・東アジアの国々の歴史については恥ずかしながらほとんど知らないというありさま。

東アジア各国(あるいはAPAC)の歴史を網羅的に学習するのはかなり厳しいと思いますが、日本の隣国であり、中国とともに共通の文化圏に属する朝鮮半島の歴史は少しは知っておいた方がよいと思っていましたので、この科目が朝鮮史をカバーしていることはありがたいです。

ちなみに東洋史の中に日本史が含まれるという認識を書きましたが、奈良大学通信教育の過程の中で日本史そのものの授業というのは少なかったりします。日本史の中の文化を扱った科目は多いですが、歴史の流れを追う科目としては日本史特殊講義という科目くらいでしょうか。概論科目にも日本史はありません。
歴史好きの人が入学する大学なので日本史そのものはある程度分かっているでしょ?ということなのでしょうか。でも研究も日進月歩ですし、独学とは違う深い知見を得られると思いますので、日本史自体も大学で学びたい気はしますね。

テキストのタイトルのとおり、この科目では中国と朝鮮における近世・近代史について学びます。中国史では宋王朝以降(唐代末期を含むともいわれる)、朝鮮史では李氏朝鮮王朝以降が近世となります。これらは単に王朝の変化というだけでなく、国家・社会のシステム自体がこの時期に大きく変化したことを意味しています。
例えば中国の場合、唐王朝の頃までは貴族が大きな力を持っていたのに対し、唐王朝末期を含め、特に宋王朝以降は科挙によって登用された官僚が大きな力を持つ、ある種の平等な社会に移行したことが指摘されます。それ以外にも一般庶民に経済的自由が広範に認められるようになったのも唐代中期の両税法や宋代の財産私有の許可が契機となったようで、この点でもそれまでとの社会の違いが伺えます。
一方朝鮮史においては高麗を排して建国された李氏朝鮮では仏教から儒教への移行や科挙による官僚の登用、私兵の禁止による国家による軍事の一元化など中央集権的な社会に移行しており、このような変化が近世への転換を表すものと言われています。

そしてこのテキストではこれらの時代を通史的に見ていくのではなく、社会の特徴ごとに論じるという構成になっています。

 

レポートの内容

レポートのテーマは3つのうちから一つを選んで論述するもので、私は明王朝の建国期から滅亡に至る時期までに東アジアの国際環境について、モンゴル・朝鮮・日本・琉球を念頭に論ずるというお題を選びました。

明王朝はその設立の経緯や外交政策の特異性のため国際関係という観点から論ずるべき点は多いですが、特にポイントとなるのは北虜南倭海禁政策冊封体制ではないかと思います。

明王朝はモンゴル民族の元王朝を中原から駆逐して建国された王朝ですがモンゴル民族が滅亡したわけではなく北方で依然として勢力を保っており、北方民族との摩擦は明王朝通しての外交課題となっています。一方南方では倭寇(当初は日本の武士団が主であったが後期には中国の密貿易業者が多くなった)が跋扈しやはり明王朝の重い問題となっています。

海禁政策と冊封体制はリンクする面があり、明王朝は外国との外交関係と貿易関係を一致させた点が外交における大きな特徴とされています。外交関係、具体的には明王朝と朝貢・冊封関係を通じて従属する国に対してのみ貿易を認め、それ以外の国との貿易は認めていませんでした(総称して冊封体制と呼ぶ)。また民間人の外国との貿易も認めず、民間人は外国に出ることを禁じられ、また朝貢国以外の国が中国の港に入港することもできませんでした。この政策は海禁政策と呼ばれますが、貿易が莫大な利益を生むため密貿易も横行しました。そして彼らは当局の取り締まりに対抗するため武装することになり、これが倭寇に転じたとされています。

これらのポイントと上記の国々をリンクさせるのは比較的容易だと思います。
大雑把にいえば、モンゴルは北虜として、朝鮮や琉球は冊封体制下の国として、日本は倭寇・冊封国家(足利義満の「日本国王」冊封)・文禄・慶長の役での交戦国などとして論ずることになると思います。
この他にも冊封体制の基盤となった洪武帝の中華思想やティムール朝・清朝の台頭、冊封関係の錯綜(薩摩藩における琉球支配や清王朝に対する朝鮮の従属など)など触れるべき点はいくつかありますが、大筋としては前述のポイントが特に重要な気がします。

明王朝の外交政策については東洋史概論で概要は学習しましたが、詳しく掘り下げるとその特徴が鮮明になり、大変興味深かったです。特に明王朝の外交は日本とも強いつながりがあり、日本史の学習という意味でも学ぶところが大きかったです。
レポートを作成するにあたってはテキスト以外に参考文献を読む必要があり、そのうちの一つに日本の戦国大名の外交に関するものを取り上げたのですが、よく知られる細川氏や大内氏だけでなく大友氏や相良氏といった戦国大名も明との貿易を行っている形跡があり、彼らのしたたかさと明朝の外交政策の実態が垣間見えた気がします。

とりあえず奈良大学通信教育部課程で単位を取る必要があるテキスト科目のレポートはこれで最後となります。あとは来年度のスクーリング科目と卒業論文で卒業に必要な単位は取得できる見込みです。
ただ、せっかくなら古文書学も勉強したいし、4年次に初めて履修できる科目もありますので、来年度も卒業論文に注力しつつものんびりテキスト科目も取り組んでいこうと思います。

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