日本史特殊講義

日本史特殊講義の内容

先日西洋史特殊講義の単位習得試験を終え、卒業のためのテキスト科目の学習はとりあえず終了となりました。
あとは卒業論文草稿とスクーリング科目を適切に対応すれば無事に卒業となります。
その卒論が大きな壁ではありますが、まずは期限が先に来るスクーリング科目を終わらせて卒論に集中したいところです。

この夏に受講するスクーリング科目は先日課題を提出した文化財学演習Ⅲに加え、日本史特殊講義、文化財修復学、考古学特殊講義で、考古学特殊講義は9月の提出なのでまずは日本史特殊講義の課題に取り掛かります。
なお、この夏はスクーリング科目はすべて在宅です。

日本史特殊講義では古代日本の資料について学びます。
史料といっても文献史料と物的史料があり、さらに文献史料の中にも日本書紀などの歴史書、律令格式という法令、万葉集などの歌集などいろんな種類があります。また書物として編纂されていない古文書や金石文も重要な史料です。

日本書紀や続日本紀、古事記といった史料は高校時代の日本史の教科書で名前は知っていますが、どういう特徴を持った歴史書であるかは意識していなかったので今回その特徴に触れることができたのは有意義だったと思います。
日本書紀や続日本紀は六国史という漢文調で書かれた正史の一つで、古事記は大和言葉で書かれた伝えられた物語という違いがあるようです。
一応続日本紀の原文を見てみましたが読めませんでした…(読み下し文も難しかったです)。

また平安文学論で触れた律令についても改めて触れることになりました。一応法律関係の仕事をしているので昔の法律を読むのは面白いです。古代でもすでに精緻な法体系が出来上がっていることに驚きます。
身分制の時代だと権力者が恣意的に意思決定をしているイメージがありますが、実体はともかく法令が確立していてそれに基づき透明性のある統治が志向されていることは勉強になりました。

 

課題

日本史特殊講義の課題は日本古代の史料を一つ選んで調べたことを述べるというものでした。
続日本紀や古事記でもよかったのですが読み進めるのが大変そうですし、少しでもなじみがあるもので、ということで養老律令を選ぶことにしました。

調べたことを書け、といわれてもどういうことを書いたらいいのか悩みますが、律令(格式)がどのようなもので、日本でどのように受容されたかを述べることにしました。

律令というのは古代の法令と言っていいと思いますが、これは律と令からなり、律は現代でいう刑法、令は行政法や家族法(民法)といった内容になります。さらに格式が加わり律令格式ともいいますがこれは律令に現在有効な法改正(太政官符)をまとめた格と行政機関の業務マニュアルである式をまとめた言い方になります。

律令は古代中国で発展した法体系で、古くは曹魏にまで遡ることができ、唐の時代に完成形に至ったとされます。そして律令は国家の統治に有用であることから東アジア諸国でも導入され、日本でも唐律をベースとして律令が整備されたようです。

律・令は何度か整備されていますが、現在内容を確認できるのは養老二年に編纂された養老律令となります。参考にした『日本思想体系3  律令』に収められているのも養老律令です。

平安文学論でもお世話になった『日本思想体系 律令』に再度お世話に。

養老律令は内容の大部分が確認できているということですが、養老律令そのものがすべて残っているわけではなく、ベースとなった唐律の内容で補ったり、『令集解』『令義解』という注釈書から規定を復元しているそうです。

現在でも主要法令については学者や実務家、当局による解説書があってそれによって法令の理解を深めることが多々ありますが、奈良時代からそのようなものが存在していたということに驚きます。

法体系も1300年も前と思えないほど精緻です。法令上の文言には定義規定がありますし、こういうときはこういう処罰、こういうときは誰それが判断する、この部署にはこういう配属を行う、といったことが細かく定められています。
律令の運営の実態は別かもしれませんが、法による透明性のある統治が目指されていることが伺えます。

現在では法で定められた要件を満たさない限り処罰されないという罪刑法定主義という考え方がありますが、古代にはそのようなものがあろうはずもなく権力者が恣意的に権力を行使できるのだと思っていました。
しかし実際には罪と刑は律によって定められているのであり、律に定めのない行為については犯罪として扱われず、処罰もされなかったと思います(ただし高位の人間には減刑する規定もありますので法の下の平等とまではいきませんでした)。

筆者イチオシの『零の軌跡』でも捜査官である主人公が悪役の逮捕に踏み切るシーンがありますが、そこでも道徳観念ではなく法律で犯罪行為が規定されていてそれに基づいて逮捕するという流れになっています。日本(を含む中華圏)の古代社会がこのレベルであったことはすごいと思います。

「零の軌跡」の逮捕シーン。法令に基づいているところが重要。©Nihon Falcom Corporation

ちなみに「零の軌跡」では警察官(捜査官)が強制執行力を持つ一方、法と行政の監督の下で活動することに重きが置かれていて、主人公たちはそれで多くの行動の制限を受けています。
主人公たちが一つの社会の構成員として生きていて、多くの制約を受けながら活躍するというのは「零/碧の軌跡」のストーリーの魅力だと思いますが、それゆえにこういう描写もしっかりしていて社会とのかかわりを感じさせてくれます。

まあそんな話をレポートに書くわけにはいかないのですが、律令という法令があるということは人々はそれに規定されて社会生活を営むわけで、古代文学も律令をヒントに理解を深めることもできたりします(これは平安文学論の課題でもありました)。
こういうところで別の科目で学んだことがリンクすると勉強していてよかったと思いますね。

単位習得は着々と進められていますが、まだ卒論にはほとんど手が付けられていないので焦燥感を感じますが、今まで学んだことも役立てつつ多少なりともよくできたと思えるような卒論を書けたらと思います。

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