最近は好きな歴史関係の本ばかり読んでいましたが、勉強の方を疎かにすると研究が計画通りに進められなくなるので、研究関係の書籍もぼちぼち読み始めました。
最初に取り掛かったのは信託法について概要を把握すること。
研究テーマである「投資信託委託会社(投資運用業者)の忠実義務」については、金融商品取引法や投資信託法(投資信託及び投資法人に関する法律)に定められているところですが、そこでは具体的な言及がなされていません。
また、投資信託という仕組みにおいては投信会社と信託銀行の間で信託契約が結ばれていることから、信託契約の当事者ではない受益者(投資家)と投信会社との法的な関係は必ずしも明らかではありません。
そのため、まずは信託という仕組みと信託法における忠実義務を参考にしてみようと考え、信託法について考えてみることにしました。
信託法については有名な学者が何人かいらっしゃいますが、私が最初に選んだのは、新井誠中央大学教授の「信託法」という書籍です。
信託制度の歴史や信託法の各論点がうまくまとまっていてわかりやすかったということに加え、以前に前の版を読んだことがあり、信託法といえば新井先生、というイメージがあったためです。
本書は信託制度の歴史の説明から始まります。
よく知られているように、信託は英国発祥で、十字軍に参加する騎士が自分の土地などを家族のために管理することを信頼できる友人等に託したことに始まるといわれています。
その後、それが課税の潜脱に使われたことからユース(信託)禁止法が制定されましたが、それに対抗する形で信託制度は変容していきました。
そして、その信託制度は米国にも伝わり、米国では商事信託として発展しました。
日本に信託制度が導入されたのは明治時代。
その後数々の混乱を経て、大正11年には信託法が制定されます。
昭和18年には現在の信託銀行という業態を生み出した兼営法が制定され、さらに平成16年には信託法が改正され、信託の成長に沿った法整備がなされることになりました。
ちなみに日本においても信託に近い仕組みが古来より用いられていたそうです。
最古の例は空海による綜芸種智院の創設(829年)にさかのぼり、織田信長も皇室に対する経済的支援のために信託制度(本書では信長信託と命名されています)を活用したそうです。
信託のルールを考えるにあたっては、まず信託とは何か、ということを考える必要があります。
長い歴史を持つ信託ですが、意外にもその性格については諸説あります。
通説としては「債権説」がありますが、それに挑戦する学説も多くあり、近年においても新しい学説が提起されているようです。
投資信託も信託の一形態ですが、どの学説がしっくりくるのか、というのは研究においても重要なポイントになるため、きちんと整理しておく必要がありそうです。
本書では信託の各種形態についても紹介されており、投資信託についても言及されていました。
その中で、「日本型の投資信託スキーム(とりわけ、委託者指図型)はきわめて複雑であり、信託法理の面からみても問題が少なくない」と指摘されていました(P100)。
この点は自分も感じていて、だからこそ研究テーマとして考えていたので、この一文に出会えただけでも本書を読んだ甲斐があったと思います。
また、委任や代理といった類似の契約形態との関係や、忠実義務・善管注意義務といった論点についても詳細に説明がされていて、自分の考えをまとめるのに大変役立ちました(忠実義務が任意規定化されているという指摘も大変重要なポイントでした)。
ちなみに研究では委任や信託などの制度を比較して投資信託委託会社の忠実義務を検討しようとしていましたが、道垣内弘人先生(道垣内説)によると「「義務の面においては、信託、委任、会社等の制度は連続性を有する一連の制度だとみるべき」であり、「それらの制度における各義務者は、本質的に同様の義務を負う」」と指摘されています(P54)。
自分の研究とも関係する重要な指摘なのですが、この説をどのように自分の研究に反映させるべきか、悩ましいところです。
まずは信託法について概要を見てましたが、次はどのような制度をターゲットにしようか検討中です。
大きい壁ですが、やはり民法は避けて通れなさそうなので、早めに民法の教科書を読んだ方がいいかもしれません。
また、海外の投資信託を取り巻くルールも研究に反映させていきたいと思っていますので、投信主要国の投資信託法制なども概要を把握しておきたいところです。
まだまだゴールは見えませんが、千里の道も一歩から。
まずは一歩踏み出すことができたのはよかったかなと思います。