流されるな、流れろ! ありのまま生きるための「荘子」の言葉

先日弱小出版社の日常を描いた「重版未定」を読んでいたら、コマの中に「流されるな、流れろ!」という標語が貼ってあり、気になったので調べてみました。

すると、なんと同じ著者がそのままのタイトル、「流されるな、流れろ! ありのまま生きるための「荘子」の言葉」という本を出していたので、こちらも読んでみました。
ちなみに、「重版未定」はコミックでしたが、こちらは半分イラスト、半分文章です。

荘子は中国の戦国時代の思想家で、「無為自然」を説きました。
俗世間を離れて生きる、というのではないですが、積極的に何かを行う、というよりは「あるがままに生きる」「なすがままに任せる」ことを重視しました。

本書ではそのような荘子の教えについて、著者なりの解釈を加え、重版未定のキャラクターに語らせています。

例えば…
A「毎日目まぐるしく変化していくなあ。ついていけないや……。ふうふう。」
B「いいよいいよ、のんびりしようよ。」(P116)
Aが俗人(読者)、Bが荘子の思考です。

荘子は、普通の人は心を疲弊させながら働くのに対し、聖人は愚鈍そのものであらゆるものに交じりながら染まることはなく、純粋なままである、と説きます。
解釈の仕方は人それぞれですが、毎日の変化を追いかけることに必死になるあまり、それに振り回されるのは心を疲弊させるだけ、と読めるかもしません。

他には、
A「もういいや。年収とか気にするの、疲れたし、飽きた。」
B「そうだ、捨てちゃえ。そんな価値観。」(P68)

これはそのままですね。
人の価値観・社会の価値観は相対的なもので、絶対的なものではありません。
お金はたくさんあった方がいいとは言うものの、お金の価値自体が相対的なものです。
お金に限らず、人や社会の価値観は相対的なもので、また移り変わります。
だから、そんなものに振り回されるのはやめた方が精神的な安寧につながりそうです。

さらに、頑張らないといけないと焦っている人にお勧めしたいのが、
A「ハア……がんばらなきゃって思うんだけど、どうしてもがんばれない……。」
B「いいよ、がんばらないで。がんばると心が折れるよ。」(P20)

このひらがなの使い方がうまいと思うのですが、それはさておき。
荘子曰く、「果実は熟せばむしられもがれ、大きな枝は折られ、小さな枝は間引かれる。これはその能力のせいでかえって苦しんでいるのと同じである」と。
優秀さをアピールしたり、頑張って成果を出せば楽になるのではなく、却って自分に負担を強いてしまうということです。

同様の趣旨のことは、他の話でも出てきます。
A「また「使えないヤツ!」って、こっぴどく怒られたよ……。この会社、つらいことばっかだなあ。・・・(以下略)」
B「よかったじゃん、無能で。のんびりできるよ。」(P64)

職場の中で優秀な人に業務が集中し、その人が疲弊してしまうということはよくあることですが、無能であれば無理を押し付けられないので、過剰に心をすり減らすことはありません。

頑張ることは大事かもしれませんが、それが自分の幸せにつながるとは限りません。
焦ると心が辛くなるし、仕事が増えると心身の健康がそがれます。
自分を守るためには、時には優秀でないこと、頑張らないことを大事にすることも必要なのかもしれません。
現状に悶々としたり、劣等感に苦しむことも少なくない自分にとっては、目から鱗が落ちる思いでした。
自分の職場にこのように考えている人がいると困ってしまいますが(笑)

このように、荘子は自分を取り巻く環境に対し積極的に働きかけるのではなく、現実を受け入れ、ありのままに生きる、なすがままに任せることの重要性を説いています。

もちろん、このような考えの人ばかりだと、社会は発展しませんし、我々は科学技術の恩恵を享受することはなかったでしょう。
我々の便益は間違いなく、「なすがままに任せる」ことを拒んだ人によって築かれています。

ただ、頑張ること、成果を出すこと、目まぐるしい変化についていくことを求められる社会で自分を守るためには、このような荘子の考え方も有益だと思います。
自分の心身を守ってこそ頑張れますし、頑張っても自分が壊れてしまっては報われません。
だからこそ、流されるのではなく、自ら流れることが大事なのではないでしょうか。
まさに、「流されるな、流れろ!」です。

世の中にはいろんなことでストレスをため、追いつめられている人がたくさんいます。
仕事や家庭のストレスで自殺してしまう人も少なくありません。

そのような人たちに無責任なことは言えませんが、少しでも多くの人が荘子のような考え方を取り入れ、自分の心の逃げ道を作り、気持ちを楽にすることができたら生きやすい社会になるのではないかと思います。

そして自分も、自分の器の大きさを見誤らず、自分を追い込みすぎないように生きたいものです。

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