重版未定

文章の面白さは書き出しによって大きく左右されるといいます。
それほどに文章の書き出しは難しいものと言えます。

まさにこの記事を書くときがそれで、どうした書き出しにしようか悩みました。

その結果がこの書き出しでいいのか・・・、という感じですが、文章を書くというのは結構難しいなと思わされます。

そして、その文章の最たるものの書籍を創るとなると、その難しさたるや想像を絶するものがあります。

書籍を創る難しさは多岐にわたり、企画の選定、書き手の選定、コンテンツ制作のスケジュール管理、印刷会社との交渉、さらには製本後の営業・販促等、挙げていけばきりがなさそうです。

出版業については、本が好きなことに加え、書籍の販売数の低下やKindleなど電子書籍の参入、ドラマ化などで関心を持っていましたが、たまたまそんな出版業の実態を知らしめてくれるマンガと出会いました。

その名も「重版未定」。非常に生々しいです。
重版が滅多にかからない弱小出版社の日常について描かれています。
表紙でも主人公が「そんなに刷ってどうするの?」、「本なんて売れるわけないだろ」なんてつぶやいてます(笑)

ストーリーは主人公の編集者がゲラに赤字を入れているところから始まります。
ゲラとは原稿を校正用にプリントアウトしたもので、原稿完成後の仕上げの作業はゲラの修正から始まります。
ゲラが出てきたところで作者や校正者の指摘を赤字で入れていき、それが最終的に印刷される版に反映されます。
この段階でも注意力が要求されるうえ、入稿データは決められた新刊発行の日に間に合うように印刷業者に送信しなければならないため時間との勝負になります。

面白いことに「間に合うかな」という主人公のつぶやきがキーワード扱いされていますが、本当に編集者の懸念は「間に合うかな」に集約されていて、センスいいなーと思ったりしました。
※ちなみに「間に合うかな」の説明は「多くの編集者が常に抱き、日々自問し続けているテーマ。ひとしきり問い掛けた後は、間に合うように仕事をする。不思議なことにだいたい間に合う。」でした(笑)。

またどのような書籍を出版するかという企画会議の様子も紹介されていますが、弱小出版社にとっては、とにかく出版して取次に納品して目の前の売り上げを確保することが大事、という考え方が描かれており、興味深かったです。
※一般的に出版社は取次に納品した段階で前金が支払われ、売り上げを計上できるのですが、返本を受け付けているため、返本された場合は売り上げが減ることになります。ただし岩波書店は売り切りという、返本を受け付けない販売体制になっているようです。

この点について、取次業者が「取次は金貸しじゃねえんだぞ!」とすごむシーンがありますが(ただしフィクションです)、実際貸金業法との関係でどう整理されているのかは興味があるところです。

重版が未定の書籍については、在庫管理にも独特の難しさがあります。
書店から注文が来た場合、普通であれば在庫が減ってありがたいと思うところですが、重版が未定だと在庫を増やすことができないため、在庫が僅少のときは万が一のことを考えて注文を受けないこともあるようです。
書店の通販ページやAmazonで「在庫切れ」となっている書籍をよく見かけますが、本当はちょっとだけ在庫があるのかもしれませんね。

このほかにも誤植対応や作家とのやり取り(いわゆる缶詰め)、販促のイベント企画など、出版社の仕事の実態が描かれていて、読んでいて編集者の苦労が伝わってきました。

自分も以前、冊子を編集する仕事をしていて、営業こそなかったものの作家と編集の業務を経験したので、編集者の方の苦労には共感するものがあります。

誤植は何度見直してもなくならないし、スケジュール管理は大変だし、印刷会社にも無理をお願いすることもあるし…etc。

でも、この本からは編集者の本や本が支える文化に対する愛情が伝わってきます。
もちろん仕事なので、目の前のスケジュールをこなしていくことに必死なのですが、それでも心の底には愛情がある。
編集者の皆さんはへとへとでしょうが、その愛情は素晴らしいと思います。

自分もできるだけ書籍を読んで(というか買って?)、編集者の皆さんの愛情の後押しをできたらいいなと思います。

これからもたくさん素晴らしい本を読みたいものです。

編集者の皆さん、楽しい本の出版よろしくお願いします!!

P.S.
ちなみに本書が重版になったかはわかりませんが、続編も出ていますので多分重版になったのだと思います。

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