ガバナンスの形

昨今相次ぐ企業の不祥事が報道される都度注目されるキーワードの一つに「(コーポレート)ガバナンス」があります。

ガバナンスとは文字通り企業統治のあり方のことで、企業活動をどのようにコントロールするかということです。

似たような用語に「内部統制」がありますが、内部統制が企業の内部においてどのように企業活動をコントロールするかに主眼を置いているのに対し、ガバナンスは株主など社外の捨て行くホルダーの関与も大きな要素になっていることから、内部統制はガバナンスの一部と考えることができそうです。

 

ガバナンスというと大抵「コーポレート」という冠言葉がつくような印象がありますが、やはりガバナンスという問題は伝統的には企業統治という文脈で議論されることが多く、内部統制、株主やメインバンクの関与など、様々な側面から企業(特に株式会社)のあり方が俎上に上ってきました。

(もちろん公的機関やNPO、軍事組織などのガバナンスについても多くの研究があると思いますが。)

 

このように従来はガバナンス論の主戦場は株式会社でしたが、最近は投資信託についてもガバナンス論との接点が出てきました。

投資信託の運営についても様々な意思決定があるなかで、投資家のための意思決定を担保するためにガバナンスはどうあるべきか、ということです。

 

投資信託はその形態において契約型投資信託会社型投資信託に分類されます。

一般的に投資家がイメージする投資信託(銀行や証券会社で取り扱っている「●●ファンド」)は契約型投資信託であることが多いです。

一方、不動産に投資するREIT(リート)などは会社という形態をとり、会社として上場しています。このような形態は投資法人と呼ばれ、実際に意思決定の会議体も存在します。

 

後者の投資法人の場合、個々の投資信託が投資法人として意思決定を行っているため、株式会社のガバナンスの延長線上で議論することができると思われますが、前者の契約型投資信託の場合、個々の投資信託の意思決定を(投資信託とは別の法人格である)資産運用会社が行っているため、意思決定の妥当性の検証が難しいことがガバナンスとして問題があるのではないか、とされているようです。

 

もちろん、資産運用会社は投資家(受益者)に対する忠実義務を負っているため、個々の投資信託に関するすべての意思決定は、その投資信託の受益者の利益に忠実に行われています。資産運用会社のコンプライアンス部門も当然忠実義務に則り各業務のチェックを行っているはずです。

また、投資信託の内容などに重大な変更があったり、投資信託を償還する場合は株主総会のように受益者に対して意思決定を求めます(基本的には書面決議という形です)。

 

そう考えると、契約型投資信託においても意思決定の妥当性は担保される仕組みになっていると思われますが、意思決定機関と意思決定対象(投資信託)が一対一の方が透明性が増すということなのかもしれません。

私が考えていることくらい識者は考えているはずですし、透明性・わかりやすさの観点で改善できることはまだあるでしょうから、議論の深化を待ちたいところです。

こういうところを常時アップデートするのが、いいコンプライアンス担当者だと思うので、引き続きフォローしていきたいところです(笑)

 

 

といって、常時ガバナンス論の動向を見ているわけでもないのですが、ガバナンスで面白いと思うのは、組織の形・特徴は結構多様で、それに応じてガバナンスのあり方も千差万別であるということです。

 

個人的に一番面白いと思うのは相互会社

相互会社というのは保険会社にのみ認められた会社形態で、保険の加入者が株主のように会社構成員(社員)となりますが、実際の意思決定は加入者代表の総代(総代会)が行います。

その総代は社員(保険加入者)が選んでいるという立て付けですが、実際には保険会社の意向が働いているようで、そういう意味では保険会社が自ら監督者を選出していることになります。

その一方、相互会社は上場していないため、株主も存在せず、基本的には投資家からのプレッシャーはないといえそうです。

 

また、相互会社に特徴的なのは自己資本で、株式会社では株主が拠出した資本金が自己資本の中核となりますが、相互会社の自己資本は「基金」で、これは議決権のない債券であり、相互会社にとっては債務となります。

債務が自己資本となること、自己資本と会社の意思決定権が分離されているという点も興味深いところです(株式にも議決権のないものなどがありますので、相互会社に特有とまでは言えませんが)。

 

最近では第一生命など生命保険会社が相互会社から株式会社に移行する動きがありますが、依然として大手生命保険会社の多くが相互会社形態をとっていますので、まだまだ相互会社のガバナンスについては議論する社会的意義がありそうです。

 

 

それはさておき、最近読んだ本(柳川範之「法と企業行動の経済分析」)の中にも面白いガバナンスの話がありました。

ゴルフ場です。

 

以下は、本書の内容をベースに記載しています。

 

初心者ゴルファーの私はあまりゴルフにまつわることがよくわからないのですが、いわゆるゴルフ場の会員になるには「会員権」が必要になります。

会員権を取得すると、ゴルフ場で優先的にプレーができるようになるようです。

 

会員権を取得するには、ゴルフ場から直接購入するか、会員権市場で購入するか、のどちらかになります。この仕組みは株式市場と似ています。

 

会員権を購入するには、入会金や手数料に加え「預託金」を払う必要があります。

預託金はゴルフ場の建設や設備投資などに使われますが、一定期間後に返還されるものです。

会員権市場で購入する場合も、会員権の価格に預託金が含まれているため、預託金を拠出していることには変わりありません。

 

預託金はゴルフ場にとっては債務ですが、それによってゴルフ場の意思決定に関与するものではないため、通常会員はゴルフ場運営会社のガバナンスには関与しません。

 

しかし、その会員がゴルフ場運営会社のガバナンス当事者になるときがあります。

それは、ゴルフ場が経営危機に陥る
ときです。

 

経営危機に陥ると民事再生法などによる経営再建が模索されますが、そのためには再生計画が債権者にも容認される必要があります。

通常の場合、最大の債権者はメインバンクでしょうから、最大の交渉相手は銀行になると思われます。

タフネゴシエーターかもしれませんが、交渉相手が絞られますし、メインバンクは貸出先と一蓮托生というところもありますので、交渉しやすいともいえます。

 

しかし、ゴルフ場の場合、メインバンク以上にゴルフ場の会員の方が預託金(返還請求権)という形で債権を保有していたため、会員がガバナンスの当事者になりました。

特に個々の会員の債権額は小さく、会員数は多いため、再建策(=債権額の縮小)の合意を取りまとめるには相当の苦労が生じます。

 

債権債務発生時にお互い想定していなかった当事者が、ガバナンスの当事者になること、またガバナンスの当事者になるにあたってのニーズ(ゴルフ場の場合、預託金額縮小または請求権の一定期間凍結の代わりにプレー権の保証)が通常のケースと異なること、合意のとりまとめのプロセスが通常と異なることなどが興味深かったです。

 

ある意味、組織の数だけガバナンスの形もあるので、かなり奥が深い世界です。

 

ガバナンスを知ることは組織のあり方を知ることにもつながるので、これからもいろいろガバナンスについて学んでいきたいと思います。

 

なお、これらは、資料に基づくものを除きすべて私見です(コンプライアンス担当者らしい締め(笑))。

 

 

 

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