キラキラネームと日本語

図書館や本屋さんを歩いていると、普段読んでみようと思わないような本をふと手に取って引き込まれてしまう、ということがあります。
そんなとき、やっぱり本探しはネットだけでは足りないと思わせられます。

そして最近、また面白い本に出会いました。
その名もズバリ、『キラキラネームの大研究』。
書き方や読み方、意味が突飛な名前、いわゆるキラキラネームに関する話題を目にするたびに、「なぜこんな名前を付けるのか?」、「その子はどう見られるんだろうか?」ということが気になっていたので、普段は読まなさそうなジャンルですが、読んでみることにしました。

キラキラネームと言えばごく少数の個性的な親がつけるもの、というイメージがありましたが、実際には命名ランキングや届出が出された名前の多くが一見して読みがわからない、これまでの感覚では与えない意味をつけている、という特徴があります。

一方、著者によると、ほとんどの親は子供にキラキラネームをつけようとは思っておらず、ただ子どもにいい名前をつけてあげようと、すてきな要素をどんどん盛り込んでいった結果、キラキラネームと言われかねない命名になっているそうです。

日本語の場合、音と漢字表記が一致しない、画数にも善し悪しがある、語感(音)も重要、といった特徴があり、それがキラキラネームの背景にあり、実際にキラキラネームと言われる名前はそれらの特徴によってパターン化できるようです。

キラキラネームの由来をたどっていけば、漢字が入ってくる頃の古代にまでさかのぼることになります。
もともと文字がなく、言葉が音にだけ頼っていた時期は、「言霊」といって言葉の持つ意味が非常に強く、大陸から文字が入ってきたときも、音読みと訓読みを考え、それまで使われていた言葉の音にのせて使うようになりました。
訓読みは漢字の意味と日本語の音が合致するように設定されていますので、文字を輸入したことによる産物と言えるでしょう。

そんなこともあって、日本語における漢字の読み方はかなりフレキシブルになり、それがキラキラネーム誕生の背景にあります。
よくよく考えると、その読み方って実際の音読み・訓読みとは違うのでは?という命名はキラキラネームと言われないような名前にも存在します。
例えば、「結衣(ゆい)」の「結」は「ゆう」であり、「ゆ」とは本来読みません。
徳川家茂は「いえもち」と読みますが、本来は「いえしげ」が正しいと思われます。
大伴家持は「やかもち」ですが、「持ち」をむりやり「持」に押し込んでいます。

と、一見普通に見える名前も実はキラキラネームの要素を持っているように、普通の名前とキラキラネームの境界はかなり曖昧です。

ちなみにキラキラネームが問題視されているのは現代だけでなく、昔からあった現象のようです。

例えば江戸時代の国学者である本居宣長ははっきりと「最近は名前にふさわしくない文字を使ったり、奇妙な読み方をするのをみかける」とし、その具体例として「和子(かずこ)」を挙げています。
和子(かずこ)といえば典型的な日本人女性の名前かと思いきや、もともと「和」に「かず」と読ませる用法はなく、読むなら「かつ」らしいです。

さらに時代は下って明治時代以降には、憧れの西洋文明との出会いもあり、また現在のように命名に使用する漢字の制限がなかったことから、まさにキラキラネームと言えるような名前が登場します。

女性の名前で「日露英仏」という例があるそうですが、まさに国際化時代と言う感があります。これで「ひろえ」と読むのだとか。
また、男性の名前で「凸(たかし)」、「|(すすむ)」という命名もあるとか。
もちろん、「丸楠(まるくす)」、「真柄(まーがれっと)」といった西洋の名前を当てはめた、現代と同じようなものもあります。
真柄(まーがれっと)さんが、真柄姓の人と結婚したら「真柄真柄(まがらまーがれっと)」ということになるんでしょうか。
ちなみに文豪・森鴎外のお子さんも西洋風の名前であることで有名です。

と、キラキラネームは昔からあった事象で、今の親御さんに特異の現象ではないようです。
ただ、最近はパソコンやスマートフォンなどで難しい漢字にも抵抗がなくなっていることからより珍しい漢字が使われる傾向はあるようです。

ちなみに海外では「カラオケ」や「スシ(寿司)」といった命名例もあるのだとか。
自分がこの名前を付けられたら、すぐに改名したくなりますね。
そういう意味では、日本のキラキラネームはまだマシなんでしょう。

ともあれ、最初は違和感をもって迎えられるキラキラネームも時間が経つとそれが自然と受け入れられるようになるのも確かです。
ですので、今はキラキラネームと言われている名前を持っている方も、その名前が好きになれればそれでいいのかもしれません。

と、そんなことを考えていたら、古巣の会社が合併して新しい商号になることに。
その社名がなかなか新感覚だったので、会社にもキラキラネームの問題はあるなあ、なんて考えましたが、これもやはりその会社が業界で大きなプレゼンスを持てば自然に受け入れられるのでしょう。
ということで、その社名がキラキラネームにならないように、古巣として、同業のライバルとしてエールを送りたいと思った次第です。

また、最近赤毛のアンのアニメを見ていたら、アンが自分の名前の由来に疑問を持ち、その由来を聞いたときに(親の愛に)すごく喜んでいて、やっぱり名前は子どもへの最初の贈り物だし、愛情の証でもあるのだから子どもにも喜んでもらえるような命名は大事だと思いました(ちなみにアンは「Ann」ではなく「Anne」とのこと)。

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