西洋史特殊講義(1)

西洋史特殊講義の内容

奈良大学の通信課程では4年次のみ履修できる科目があり、そのうちの一つが西洋史特殊講義です。テキスト科目の中で強い関心があるのはこの科目が最後でこれを取ればあとはスクーリング科目も余裕をもって履修できるので、今年度はこの科目だけは早めに単位を取得して卒業論文や任意で履修している一般教養科目の勉強に手を付けたいと考えていました。
読みたい本も積読になってますしね。不思議とコミックスだけは積読にならない…(汗)

テキストは4月には来ていたので少しずつ読んではいたのですが、テキストの分量がかなりあってなかなか進んでいませんでした。いや、ただの言い訳です。
しかし気が付けば6月も中旬。卒業論文草稿提出までも4か月を切っているし、他にもしなければいけないことがあるのであまりダラダラもしていられません。
ということで、6月にやる気に火をつけて何とか先日レポートを提出することができました。

西洋史特殊講義のテキストは『近代イギリスの歴史』。西洋史概論のテキストと同じミネルヴァ書房のシリーズです。

 

本書の主題はタイトルの通り近現代の英国史、具体的には16世紀以降の英国の歴史ですが、一応若干ではありますがそれまでの歴史を説明してくれていますので英国史になじみがなくても読みやすいと思います。

本書では16世紀から2010年くらいまでの英国史を取り扱っていますが、ざっくりいうと英国国教会ができたりエリザベス女王が即位したころから英国がEUに加盟したりイラク戦争で国内世論が割れた時期までになります。
ただ一言で英国史といっても元々はイングランドとスコットランドは別の国ですし、逆に今は別の国となっているアイルランドは連合王国の一部だった時期もあり、このような国では各地域の人たちが自らのアイデンティティと自国の歴史をどのように結び付けているのか興味深いところです。

それはさておき、16世紀から20世紀だと及び500年間の歴史ですが、外国の歴史ですし歴史の流れにインパクトを生じさせる要素も日本とは異なりますので、テキストを読み進めるのは大変でした。西洋史ということで登場人物の名前を覚えるのも一苦労です。
ただ、日本が国際社会に登場し英国とも関係を持つ19世紀後半以降はある程度わかるのでテキストもそこまでを中心に読んでみることにしました。時間の制約もありますし。

自分でも十分に咀嚼できているわけではないですしわざわざこんなところで説明するものでもないので学んだことの詳細は省きますが、読んでみたところでは英国史は日本以上に歴史のメインストリームに宗教が影響を及ぼしていること、英国史は海との関係が非常に深いこと(ノルマン・コンクエストやオランダとの覇権争い、イギリス帝国の展開など)、18世紀から19世紀にかけての英国は技術発展と融合した金融イノベーションがすごかったことなどが印象に残りました。
日本は英国と同じ海洋国家で共通点も多いと思いますが、これらの点は日本と似ているようで異なる英国らしい点だと感じました。
日本の歴史上も宗教が絡んだ事例は多くありますが、武家政権の時代になってからは歴史を左右するとまではいかないと思いますし、海を通じて中国などと交流したり攻撃をされたこともありますが、海洋国家としてプレゼンスが高まるのは近代まで待つことになったり、とこれらの点は英国の方が特徴的な気がします。

名誉革命とか産業革命とか、エリザベス1世とか断片的に英国史の用語は知っていましたがそれらは全く結びついていなかったので、多少なりとも体系的に学ぶことができたのはよい機会でした。
金融業界人の端くれとして英国史の概要くらいは知っておきたいものだと歴史好きの金融人としては思ったりもします。資産運用業界でも英国の有力運用会社は多いですので。

 

レポートの内容

レポートのお題は、何らかの分野で16世紀から21世紀初頭の間に英国が変化したものについてその前後の状況を整理して論ぜよ、というものでした。
変化を論じるためには当然その前後の状況を認識した上でその変化した要因や経緯も理解していないといけないわけで、それ自体が学習成果とのことでした。

テキストでは政治体制や国際関係、宗教、経済、文化など多様な分野について述べられていたのでネタになるものはたくさんあるのですが、それらの内容についてはやや漠然とした理解しかできていないので、一番関心がある金融分野の変化について述べることにしました。

現在でもロンドンは世界の一大金融センターですが、18世紀にはロンドンは世界の金融センターの地位を占めていました。英国は18世紀にはオランダから覇権国家の地位を奪っていましたが、金融の中心地はまだアムステルダムにありました。
しかし18世紀後半にアムステルダムで恐慌が起こったりナポレオン戦争でオランダが占領されたりした影響で18世紀末頃には金融センターもアムステルダムからロンドンに移ることになりました。
それとは別に17世紀後半から18世紀には近代的な株式や国債の仕組みができ、証券取引所も誕生したりして、現代の金融の仕組みの基礎がこの時期に出来上がります。
1720年には有名な南海泡沫事件が起きたりしますが、それも健全な規制のために必要なことであったかもしれません。現在でも充実した規制の基礎には不祥事があるので。

また18世紀後半には産業革命期に入り、工業化が進み資本の蓄積が進むとともに巨大資本を必要とする産業が登場します。それは英国内だけでなく米国や大陸諸国にも当てはまることで、英国はこれらの国に積極的に資本投下を行い、英国の金融立国化がこの時に確立します(いわゆる「世界の銀行家」)。
なお、この時期に世界初の投資信託もイギリスで登場しますが、この投資信託も海外への資本投下を目的としたものでした。その名もThe Foreign and Colonial Government Trustで、そのものズバリです。ちなみにこの投資信託は1868年に設定されたものですが、現在も運用が続けられています。

そして19世紀には電信の登場やイギリス帝国の拡大によって物流・金融はより国際化・大規模化していきます。その中でイギリス帝国、そして世界の情報の中心となるロンドンは金融市場としてさらに重要性を増していくことになります。

・・・とざっくりいうとこのような内容をレポートとしてまとめ上げました。
もちろんテキストには経済史・金融史についてこのように詳細に説明はなされていないので、関連する書籍を読みました。レポートの要件も関連文献を2~3冊読むことだったのでちょうどよかったです。というか、どの分野でも踏み込んで理解するにはそれくらいは読んだ方がよいと思いました。

私が参考にしたのは下記の書籍です。

 

 

前者は金融以外の経済についても幅広く説明があって当時の英国経済と金融の状況をリンクさせやすかったです。
後者は金融史にフォーカスしていますが、その分投資信託を含め各種金融制度がどのように発展してきたのかが詳細に説明されていて、こちらも非常に面白かったです。ちなみにこちらの著者の板谷敏彦氏は実務家でもあり『日露戦争、資金調達の戦い』の著者でもあるので金融実務家には是非お勧めしたい一冊です。

苦労しましたが、何とかレポート提出を終えて一安心です。
この週末は昨年度から持ち越した史料学概論・東洋史特殊講義・書誌学の単位習得試験ですが、これらの単位を修得できれば卒業に必要な単位は(スクーリング科目と卒業論文で)揃うので、気合を入れて乗り越えたいところです。

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美術…史?

良い絵画はよき

タイトルに美術史とか書きましたが、もう美術「史」は関係ないですね…。ただのオタク記事です。

先日、ハマっている軌跡シリーズの版画を買って喜んでいる記事を書きましたが、やはり好きな絵画が自宅にあって好きな時に眺めていられるのは楽しいものです。

最近は自宅で仕事をすることが多いですが、仕事の合間に少し絵画を眺めるだけでも気分が変わります。多分風景画を眺めたりしても同じ効果が得られそうです。

前回は軌跡シリーズ三作品の主人公が一堂に会する『三つの軌跡』という作品を購入しましたが、今般以前から欲しかった作品が我が家のコレクションに追加されました。

『暁鐘のクロスベル』。軌跡シリーズ4つ目のタイトルとなる「創の軌跡(はじまりのきせき)」の一幕をモチーフにしています。

暁鐘のクロスベル。タイトル通りクロスベルの新たな一歩を描く。

創の軌跡は閃の軌跡の後日談にあたり、過去の軌跡作品から多くのキャラクターが登場して織りなされるストーリーになりますが、『暁鐘のクロスベル』は零の軌跡・碧の軌跡の主人公であるクロスベル警察特務支援課のメンバーがクロスベル独立のために立ち上がるシーンを描いています。まさに「暁鐘」です。

私がこの作品に惹かれたのは、もちろんイラストとして素晴らしいこともありますが、特務支援課の面々が「零・碧の軌跡」の時代からずっと大小色んな困難にぶつかりながら一つずつ「壁」を乗り越えていく姿に強く共感して非常に思い入れのあるキャラクターだからというのもあります。

特務支援課はもともと警察組織の傍流として設置され、窓際感すら感じさせる組織で当初は誰からも期待されていなかった存在ですが、新米警察官として小さな事件を一つずつ解決していくうちに市民の信頼を勝ち取ったり、大きな事件を解決していくようになり、最後にはクロスベルの英雄的存在になっていきます1この点が創の軌跡のストーリーのポイントにもなってきます。
また特務支援課はリーダーのロイド・バニングス(上の絵の中で旗を持っている青年)を含め基本的に4名のメンバー(+上司)で構成されますが、他の3人が特定分野で非常に高いスキルを持っているのに対し、ロイドの専門性は捜査能力という警察官としては必須ながら他のメンバーに比べると地味(?)なところがあります2ただしゲームでの能力は捜査官としても戦闘員としても高いですし信頼を寄せられています。
ロイド自身も若干それを引け目に感じているふしがあるのですが3時折自分の成功は他人によるもので自分はまだまだという自己評価がみられます(閃の軌跡Ⅱ外伝など)。、彼は捜査能力に加え、持ち前の情熱とリーダーシップ、優しさで見事にチームを引っ張っていきますし、他のメンバーもそれぞれの能力をいかしてチームやロイドを助けていきます。
このように、誰にも期待されていないところからコツコツ頑張るところや際立った能力がなくても努力を積み重ねてチームを引っ張るところがサラリーマンである自分の琴線に触れる気がします。
また、ロイドは空の軌跡・閃の軌跡の主人公と比べて血筋が普通であることも一般人である自分には共感するものがあります。もちろん空の軌跡・閃の軌跡ともに主人公は魅力的ですが。

あと、多くのRPGの主人公と異なり武器がトンファーというのも独特でいいですね。その理由が攻撃ではなく防御と制圧を主眼とするというところも警察官としてのポリシーにあふれていて素晴らしいです。

「三つの軌跡」。左がロイド、中央が閃の軌跡主人公のリィン、右が空の軌跡主人公のエステル。

ついロイド語りをしてしまいましたが、ロイドたち特務支援課が(碧の軌跡の後の)数々の困難を乗り越えてクロスベルの独立を勝ち取るところは特務支援課ファンとしては随一のシーンですし、このイラストを眺めているだけでも零・碧の軌跡(+閃の軌跡)の物語が頭に浮かんできます。よきです。

せっかくなので、「三つの軌跡」と「暁鐘のクロスベル」を並べてみました。

版画を二つ並べるのもいとをかし。背景のカーテンもよき。

もう、軌跡ファンとしてはたまりません。ずっと眺めていられそうです。
背景のカーテン(イースⅧの主人公のアドルとダーナ)もいい感じです。

 

フィギュアもよき!

ここまで絵画のよさを語ってきましたが、もう一つの文化財(?)である立像、もといフィギュアもまたよきです。

大きいフィギュアもいいですが、ねんどろいどとよばれるSD風のフィギュアが好きで日本ファルコム作品(イース・軌跡シリーズ)のキャラクターのねんどろいどについては積極的に集めてきました。

日本ファルコム作品(イース・軌跡)のキャラクターのねんどろいど

まだ十分とは言えませんが、とりあえずイースと軌跡シリーズの主人公を含め、ある程度の数のねんどろいどを揃えることができました。
イチオシのロイドについては制服バージョンのねんどろいども存在し、ネットで販売されているのも確認しているのですが(2022年5月末現在)、レアであるためか非常に価格が高く手を出せずにいます。そのため今は海水浴バージョンで我慢です。

これらのねんどろいどは、基本的にヤフオク、メルカリ、eBay、淘宝、駿河屋ウェブサイトで購入しました。
eBayは海外の、淘宝は特に中国に特化した通販サイトで国内で見つからない商品が意外に安価で見つかることがあります(ゲームソフトを海外で販売する際の特典としてねんどろいどが付属する場合があるため)。

先日はNintendo Switchで発売された那由多の軌跡を購入しましたし、まだSwitchで登場していない黎の軌跡を待つなど軌跡愛はまだまだありますので、引き続き版画やねんどろいどの蒐集も財布と相談しながら進めていきたいと思います。

黎の軌跡はSwitchに移植される前に続編がPSで出てしまいそう…

  • 1
    この点が創の軌跡のストーリーのポイントにもなってきます。
  • 2
    ただしゲームでの能力は捜査官としても戦闘員としても高いですし信頼を寄せられています。
  • 3
    時折自分の成功は他人によるもので自分はまだまだという自己評価がみられます(閃の軌跡Ⅱ外伝など)。
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卒業論文計画書の合否

卒業論文計画書

奈良大学では卒業論文の作成が卒業の要件になっていますが、その前提として4年次の最初に卒業論文計画書を提出して合格する必要があります。

卒業論文計画書の内容としては題目、研究の課題、現状の研究内容、研究の展望及び参考文献・研究資料が含まれ、これらの内容について整理して記載する必要があります。
このような項目について述べるためには当然4月上旬の時点で研究テーマを固めておくことはもちろん、ある程度情報収集をしたうえで論文の道筋も考えておかなくてはなりません。当然のことですが研究テーマについては履修科目で学ぶ内容には含まれないので、自分で資料を探して整理することになります(スクーリング科目で若干コメントはいただけますが)。

私の卒業論文のテーマは小田原用水に関するものですが、小田原用水に関する研究成果は必ずしも多くはなく、手探りの部分も多いですがその分自由な考察ができるので研究はしやすいかと思っています。
しかし、自分の検討の方向性や深度が妥当なものかどうかは自分だけでは判断できず、卒業論文計画書もどのような評価をされるのか一抹の不安がありました。

卒業論文計画書は4月上旬の提出でその結果の返送は5月下旬なので1か月半ほどの時間があり、悶々とした気分が続きました。
一方でその間にも研究は進めておくようにとの大学からの勧奨があり、計画の評価がわからないままで研究を進めることになりました。といっても、実は計画書を提出してからあまり卒業論文の方は手を付けていないのですが。。。

 

卒業論文計画書の結果

悶々とすること1か月半、ついに卒業論文計画書が返送されてきました。

卒業論文計画書。無事に合格判定。

何とか合格判定をいただくことができました。
しかも指導教官の方のコメントはかなりポジティブなもので、モチベーションが高まってきました。やっぱり褒められるとやる気が出ますよね。

ちなみに卒業論文計画書と一緒に副査の先生の連絡があったのですが、その先生はTwitterでもフォローさせていただいている方でした。こちらはフォローされていないので(しょぼん…)、「つながり」というのは違うかもしれませんが、こんなところでもご縁があるのかと驚きました。SNSが世界の人間関係の距離を縮めていることを改めて感じました。

 

卒業論文作成に向けて

無事に卒業論文計画書という関門をパスしましたが、次は10月上旬に卒業論文草稿を提出するというステップが待っています。
10月の時点でどの程度仕上がっている必要があるのかははっきりとしませんが、卒業論文と同じ様式で提出することが求められているため、一応完全な形になっている必要はありそうです。

卒業論文は縦書きの場合400字詰め原稿用紙30-50枚という条件があり、字数にすると12,000-20,000字となります。概論科目のレポートの字数が6,400字程度ですので、概論科目2-3科目分のレポートを書くような感じです。
もちろんテキストやテーマの指定がある履修科目と異なりすべて自分で考える卒業論文にかかる労力は比べ物にならないですが、それでもレポートの数量にして考えると気が楽になるように思います。
いずれにせよ、何もしていない時点では高い壁のように思えることでも始めていくと意外に進められるということもよくありますので、まずは目次を作って枠組みを整えながらどのような論述を進めるか考えていこうと思います。

卒業論文の大変な面を強調する形になりましたが、自分の関心のある事を自分の好きなように論じることができる卒業論文は大学で学ぶ醍醐味でもありますので、しっかり楽しんでいきたいところです。

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童心に帰り史跡を愛す

たまには童心に帰ろう

ゴールデンウイークも早いものでもう最終日、と記事の書き初めに思っていたらさらに日が経っていました(汗)。いつも今年は積読している本を読もうと気合を入れるのですが、全然本を読んでいないという結果に涙しています。西洋史特殊講義のテキストとか卒論の資料を読んでおきたいと思ったのですが、ほとんど手つかずのままダラダラしていました。

それでも歴史学徒(?)としての営みを疎かにすることはできない、と連休中に地元小田原で行われていたイベントを見物してきました。偉そうに言いましたが、ただお祭りに遊びに行っただけです。

例年小田原城から地元商店街を練り歩くパレードがあるのですが、快晴で暑かったのでそれはパスして近くで行われている火縄銃の実演を見てきました。

GWの小田原でのイベント。火縄銃の実演をしていました。

火縄銃を実際に撃っていましたが、一発でも結構大きい音でしたし連発されると耳に結構残る感じがしました。
始めて火縄銃の音を聞いた人はたいそう驚いたでしょうし、この音に驚かないように馬の訓練をするのも大変だっただろうなと500年前の戦国時代に思いをはせました。

 

子どもの頃以来の模型作成

連休は心身を休めるためにあるもので、心身を休めるためには遊ぶのが一番。
ということで、この連休は童心に帰るをテーマに模型作りに取り組んでいました。

模型作りと言えば小学生の頃にプラモデルを時々作っていましたが、電気機関車の模型作りに挫折してから辞めていたのを思い出します。
今回はしばらく前に購入していた長篠城の模型があって放置していたのでこの機会に作成することにしました。
今回作成したのはこちらの模型です。

塗装や部品の作成は不要で、ただ建物や構造物の部品をジオラマに挿していくだけのお手軽な設計です。
指定の場所にプスプス挿していくだけ…なのですがピンセットを持つ手が震えてなかなかうまくいかず、自分の不器用さを痛感しました。

それでもなんとか建物や壁、門などを設置して完成!
ついでに城側から寒狭川(豊川)を挟んだ篠場野といわれるエリアにねこぺん日和のねこくんとぺんちゃんを配置。長篠城を見学している感じにしました。

完成した長篠城ジオラマ。篠場野からねこぺん日和のねこくんとぺんちゃんが見学。

ちなみに篠場野あたりには長篠の戦に臨む武田軍が布陣していて、ここで有名な鳥居強右衛門が捕縛され、磔になったそうです。
私は長篠城に行ったことがないのですが記念碑があるらしく、是非訪れてみたいと思います。

 

長篠城の魅力

未訪問なのに変な話ですが、私が戦国時代の中で最も印象に残っている籠城戦の一つに長篠城の戦いがあり、それ故に長篠城にも思い入れがあります。

もちろん天下の大半を向こうに回した小田原城の籠城戦もインパクトがありますが、わずかな手勢で武田家の大軍と戦い、織田・徳川連合軍の援軍到着まで粘り抜きその後の運命を切り開いた長篠城とその城主・奥平信昌の物語はその激しさや歴史の流れに与えたインパクトを考えると戦国史上有数のインパクトがあります。
もちろん、徳川軍を二度も撃退した信州の上田城や豊臣方の来援まで島津軍の攻勢をしのぎ大友家を救った豊後・岡城の籠城戦も素晴らしいものですが、長篠城の峻嶮な地形も相まって長篠城は特に好きなお城です。

長篠城は二つの川を天然の堀とした要害でこの場所に築城した意図が分かりやすい一方、北側は平地でありこの方面からの攻撃が想定されるため守りが厳重でこちらも縄張りの意図が分かりやすいです。
実際に長篠城を攻撃した武田勝頼の本陣跡は長篠城の北にある医王寺山にあり、北側から攻撃されたことが推測されます。
このように地形を十分に生かしたお城で大軍を相手に戦い抜くというのは籠城戦の物語としてとても魅力的だと感じます。
なお、長篠城主の奥平信昌は長篠の戦いの後は織田信長や徳川家康に目をかけられて出世しており、頑張ったら報われるという展開もサラリーマンの希望となっているかもしれません(笑)

 

文化財と模型

今回は城跡を模型で組み立てましたが、最近では城跡や神社仏閣などの建造物がプラモデルになっているほか、仏像や茶器のガチャガチャ(ガチャポン)も見かけますし、文化財は玩具と非常に相性がいいように思います。

私もガチャガチャは好きなので、建造物の模型だけでなくその辺のガチャガチャもチェックして面白い文化財のガチャガチャがあったら試してみたいと思います。そういう企画をするのも楽しそうで、担当者の方が少々羨ましくもありますね(苦労も多いと思いますけど)。

なお城ラマシリーズには長篠城のほか、やはり武田家の盛衰を象徴するお城で激戦の舞台になった遠州高天神城もあり、こちらもいつか作成してみたいと思います。

・・・と現実逃避しているうちにGWも終わってしまったので勉強勉強。

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2022年度履修科目

2022年度の履修科目

先日卒業論文計画書と一緒に奈良大学の新年度の履修届を出していましたが、この度無事に履修登録完了の連絡が来ました。

今年度の履修登録科目。丁寧に注意書きも。

レポートが合格している史料学概論、東洋史特殊講義、書誌学を含め、専門科目についてはほぼすべて履修しています。スクーリングも1科目を除きすべて登録しました。

また、せっかくなので一般科目(教養・自由選択科目)のうち今後の歴史学の研究に役立ちそうな科目として人文地理学、文化人類学及び環境論、本業(法学)に役立ちそうな科目として法学概論と国際関係論を履修しました。
一応法律系の分野で博士号を取っているのですが、一般的な法学についての知識は十分とは言えないので(博士号も経営法に対するもので、法学ではないです)、基礎から勉強し直してしっかりとした土台の上に研究ができるようにしたいと思います。
国際関係論は本業とは分野が異なりますが、今般のウクライナ侵略などの国際情勢を理解するためには国際法の知識も必要になるためこの機会に学んでみようと考えた次第です。ちなみに専門科目の西洋史特殊講義は16世紀から現代までの英国史が対象となるため、これも現代の国際関係を理解するために役立つと期待しています。

履修登録通知に丁寧に注意書きがされているように、上記の一般科目は卒業に必要な単位としてカウントされません。ただ、単位習得試験待ちの3科目と必須科目である文化財学演習Ⅲと卒業論文、及びいくつかのスクーリングの単位が取得できれば卒業要件を満たすので、今年度は卒業論文に時間とコストをかけつつも、卒業単位に縛られることなく広く浅く自分のアンテナを広げていきたいと考えています。

 

履修科目の書籍

今年度も最大限に履修登録をしたので結構な数のテキストが届きました(以前に履修した科目のテキストは変更がなければ再度配布されません)。

今年度履修科目のテキスト。7冊とはいえ軽くはない…

新規に配布されたテキストは7冊。昨年度に配布された未習のテキストを加えると履修科目に対応するテキストは10冊以上になります。
10冊というと少なそうにも思えますが、テキストだけあってそれぞれ読み込むにはそれなりの時間と労力が必要です。さらに今年は卒業論文のための資料の読み込みも行うことになるので簡単には読了できないと思います。

ただ、今年の戦略はレポート終了済みの3科目以外は卒業論文を優先しつつ、適宜専門科目の学習を進めてスクーリング科目の履修を減らし(費用節減)、可能であれば一般科目にも手を出してみるという感じなので、全部は読めなくても仕方ないかと割り切っています。

とりあえず当面は単位習得試験がなく卒業論文計画書の合否も未定のため、西洋史特殊講義の学習を始めています。近現代の英国史がテーマですが、本ブログも「ゆーけー」のお仕事日記ですので、ゆーけーつながり(ゆーけー=UK=英国)1ちなみに本ブログタイトルの「ゆーけー」は学生時代の活動で英国について学ぶことが多かったことからきているので、まさに英国つながりです。で英国への理解を深めたいところです。

今年度が終了するころに自分が奈良大学での学びからどのような知識や経験を得ているのか、そしてどのような視野を持っているのか今から楽しみです。

  • 1
    ちなみに本ブログタイトルの「ゆーけー」は学生時代の活動で英国について学ぶことが多かったことからきているので、まさに英国つながりです。
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投資信託計理と法的な論点

コンプライアンス、投資信託計理を語る!?

コンプライアンスの付加価値

日頃コンプライアンスの仕事をしていて思うのは、コストセンターとみられがちなコンプライアンスの業務に付加価値をつけられないかということ。守りの職種ではありますが、何らかの方法で攻めの要素をつけたいな、と。

そういう思いもあり、多少なりとも情報発信をして自分やひいては自分を雇用する会社のブランディングにもつながればと思っています。
このブログはさておき、そのような情報発信の場として社外の学会・研究会に参加して、いずれは自分の名前で投資信託業務に関する考察を発表して名前を売っていきたいという夢があります。
本当は歴史関係、あるいはアセットマネジメント×歴史で物書きとかしてみたいですけど、歴史の専門性がまだ弱いのでそちらは遠い将来の夢になりそうです。そのための奈良大学での学びではあるのですが。

そして、先日参加させていただいている研究会で投資信託業務を法律的観点から考察・報告する機会をいただきました。
テーマは自分で設定することができるのですが、今回は投資信託計理(投信計理)を選びました。

投資信託と投信計理

個人投資家の方にとってなじみの深い金融商品としては上場株式と投資信託がありますが、このうち上場株式は取引時間中についている株価で取引が行われるので、買い手も売り手も値段についてはわかりやすいです(株価自体の評価はさておき)。

一方、多数の株式や債券などに投資している投資信託については基本的に自動的に取引される値段はつきません1上場されている投資信託(ETF)は上場株式と同様に常に値段がついています。
そのため、誰かが毎日投資信託が保有している財産や口数を計算して投資信託の取引価格(価値)を計算する必要があります。この投資信託の取引価格を基準価額といい、基準価額を計算する業務は投信計理と呼ばれます。計算を行って算出する業務のため「計理」といい、一般的な会計の「経理」とは区別されています2英語ではinvestment/fund accountingといい、会計と同じ単語になっています。

投資家は基準価額に基づいて取引をするため、基準価額が正確であることは非常に重要であり、投資信託を運営する投信会社の受託者責任という観点からも決して軽視できない業務です。
しかし、投信計理はとても専門的であることから投信会社の他部署の人間ですら業務のイメージはあれども具体的に何を行っているかというと詳しくなく、まして投資信託業界の外にいる人には完全にブラックボックスになっていると感じています3投資信託約款には投資信託財産の評価を法令や投資信託協会規則に則って行うことが定められていますが、これだけでは具体的な認識にはつながらないと思われます。
そのため、投信会社の責任について論じられている論文や判例では、投信会社の運用や開示・説明責任について扱っているものはあっても、投信計理について触れたものを見たことがありません4判例についてはそもそも投資家との間で基準価額の妥当性について争われることがないからだと思います。

しかし、繰り返しになりますが基準価額を正しく算出することは運用パフォーマンスと同様に投資家の利益にとって影響を及ぼす事項であり、受託者責任の観点からも業界内外で議論が活発に行われるべきではないかと思います。
特に昨今では投信計理業務のあり方も変化にさらされており、その変化が受託者責任の観点から許容されるものかは深い議論が求められると考えています。

そこで、今回は投信計理の業務を整理するとともに、受託者責任の観点からいくつかのテーマについて自分なりに考えてみました。
もっとも自分自身投信計理の業務経験はほとんどないため、投信計理の担当者に説明を聞きながら資料を作成しました。それでも一時期投信計理業務に触れていたことは大きな助けになりました。何事も経験は大事ですね。
投信計理は専門的かつ技術的であるため、その業務についてあまり他部署の人間が積極的に語ることはないように思います。その意味では今回の私の報告は珍しいものと思いますし、他のコンプライアンス担当者との差別化になることを期待しています5もっとも投信計理からコンプライアンスに異動した人がいたらすぐに崩されそうなアドバンテージ…。
ともあれせっかくいろんなことを考えたので、本記事では研究会で報告した内容をざっくりご紹介したいと思います。

 

投信計理業務と法的な論点

投信計理業務の概要

前述のとおり、投信計理業務は概ね基準価額を算出する業務ということができます。基準価額は毎営業日算出される必要があるため、投信計理業務は毎営業日基準価額を算出する作業を行っています。

投資信託の基準価額、すなわち投資信託受益権6投資信託の持ち分は投資信託受益権という形をとっています。一口あたり7実際には1万口単位で表示されることが多いです。の投資信託の価値は投資信託財産の価値を投資信託受益権口数で割ることで計算されます。したがって、基準価額の計算には分子である投資信託財産と分母である口数の両方を正しく把握することが必要で、それこそが投信計理業務の役割ということになります。

もう少し詳しく書くと、基準価額の算出は概ね次のような業務に細分化されます。

①投資家の申込を反映した口数の把握
上記のように基準価額算出の計算の分母は投資信託受益権の口数であるため、毎営業日の口数を正確に把握する必要があります。口数は投資家の方の購入・換金の申込によって変化するため、投資信託の販売会社8投資信託は主に証券・銀行で販売されているほか、投信会社自ら販売していることもあります(直販)。から毎営業日の申込額の連絡を受け、システムに反映しています。

②取引約定の取り込み
投資信託の目的はお客様から預かったお金で運用担当者(ファンドマネージャー)が株式や債券を取引して運用することですが、その取引の結果投資信託財産の中身は変わっていきます。そのため投信計理担当者は全ての取引の内容を把握して投資信託財産に反映させ、その内容を常時更新していきます。

③コーポレートアクションの反映
投資信託財産の内容は概ね保有銘柄とその数量で構成されますが、その内容は運用担当者の取引以外の要因で変化することもあります。その具体例として組入銘柄のコーポレートアクションがあります。例えば保有している株式に株式分割・株式併合があれば取引をしなくても保有株数は変わりますし、合併などがあれば銘柄自体も変わるでしょう。
そのような情報も適時把握して必要に応じて投信計理システムに取り込むことになります。

④時価評価の取り込み
上記の②・③の作業を経て投資信託財産の中身が確定したら、それぞれの資産に評価額を当てはめて保有している資産の価値を確定させます。
保有している資産の評価の仕方は投資信託協会の「投資信託財産の評価及び計理に関する規則」に具体的に定められていて、投信会社が恣意的に評価をすることはできません。
時価に関するデータはベンダーから提供を受け、それもシステムに取り込んでいきます。

⑤費用計上
投資信託の運営には人件費やシステム費用その他様々な費用が必要ですので、そのための費用を信託報酬などの形で受益者に負担いただいています。
それらの費用は特定の時点で投資信託財産から支払われますが、一度に投資信託財産に反映してしまうと受益者になったタイミングで受益者間に不公平が生じますので、帳簿上では日々均等9信託報酬の場合、年率を365(閏年の場合は366)で割って毎日費用を計上しています。に費用を計上し、基準価額に反映させています。

⑥基準価額の算出・受託銀行との照合
費用を控除した投資信託財産の評価額と口数が決まると基準価額が算出できますので、システムで基準価額を計算します。ここで投信会社の基準価額算出業務は終わります。
しかし日本では基準価額の正確性を確保するため、投信会社と受託銀行の双方で基準価額を算出し、照合して一致したら基準価額が確定としていますので、投信会社で基準価額を算出したら受託銀行と照合して一致させるというプロセスを踏みます。

⑦基準価額の公表
基準価額が確定すると、投信会社は投資信託協会、販売会社、日刊紙に基準価額を連絡します。自社ウェブサイトでも公表されます。
投信会社から連絡を受けた関係各所はその後の後続処理を行うため、基準価額の算出はあまり遅くならないようにする必要があります。

これらの作業は上述のとおり基本的には投信計理専用のシステム10投資信託業界ではT-STARという野村総合研究所(NRI)が提供しているシステムがよく使われています。を使用します。業務の大部分がシステム化されているため手作業はそれほど多くないようですが、システム対応していない部分については手作業で対応したり、投信計理担当者としての判断が求められる場合も多々ありますので、決してシステムで自動的に完了してしまう業務ということはありませんし高い専門性が必要な業務だと思います。

・・・と書いてみましたが、この内容誰向けなんだろう?業界外の方にはどうでもいい情報、投信計理業務担当者にとっては自明すぎ、その他部署にとってもわかっていることだし、自分で書いておいてなんですが微妙な内容かも(汗)

投信計理の論点

投信計理の基本的な流れは上述のとおりですが、業務の枠組みはシンプルなように見えても投信計理業務は法的な観点から多くの論点を抱えているように思います。
昨今でも投信計理業務に影響を及ぼす事項が議論されており、それらについては技術的な観点はもちろん法令・受託者責任の観点からも論じられるべきと考えます。技術的な面は投信計理業務の実務家にお任せするとして、私は受託者責任の観点からいくつかの論点について考えてみました。

①基準価額の算出一元化

日本では基準価額は投信会社と受託銀行が算出・照合して一致して確定させますが、米国や欧州ではアドミニストレーターに指定された会社が単独で基準価額算出を行います11ただし欧州の投資信託(UCITS)では受託者にあたる預託機関が基準価額算出の最終的な責任を有しています(UCITS指令(Directive 2009/65/EC) 第22条第3項(b))。。そのため日本のように基準価額算出の業務が重複せず、その分コストが安くなると考えられています。
海外からもそのような慣行の見直しを求められており、業界としても基準価額の算出を投信会社、受託銀行、あるいは第三者に一元化できないかの検討を行っています。

当然のことながら技術的にも法的にも議論すべき点が多いのですが、個人的には基準価額が関連する業務について投信会社・受託銀行に受益者に対する責任があるわけで、それぞれ基準価額を算出する受託者責任があるように考えています。そうでなくてもどちらに責任があるのかはっきりさせなければ第三者への委託も難しいと思います(誰が委託するのか、最終的な責任を誰が負うのかは明確にすべき)。

もちろんこの点はいずれ業界でも見解が統一されるでしょうし、さらに言うと一元化自体すでに一部で実現が進んでいるので、私が知らないだけで議論がかなり深まっているのでしょう。この点についてはさらに情報収集しないと自分の名前で責任をもって論じるのは難しそうですので勉強を続けていきたいと思います。

ちなみに研究会の参加者もこの点に強い関心を持たれたようで、この点についての質疑応答が一番盛り上がりました。

②東京証券取引所の取引時間延長の投信計理業務への影響

東京証券取引所では2024年度後半に取引時間を15時30分まで延長することが計画されていますが、基準価額の算出業務には時間制限があるため投信計理業務にも大きな影響があることが予想されます。主要な論点についてはすでに東証も把握していて報告書にまとめられています。

時間的制約がある投信計理業務においても影響が大きいため改善策がいくつか検討されており、それには先述の基準価額算出一元化に加え、バリュエーションポイントの導入が含まれています。
投資信託財産の評価において株価は取引時間終了時の値を採用することになっていますが、取引時間終了が30分伸びるということは基準価額の算出業務も30分後ずれすることになりますが、外部の後続業務の都合を変えることは難しいので基準価額の算出プロセスが単純に30分少なくなり、業務が回らないおそれがあります。
そのため、基準価額の算出一元化をすることで照合にかかる時間を節約したり、バリュエーションポイント、すなわち取引時間に関わらず15時の株価を採用して現在と同じタイミングで基準価額を算出できるようにしようとする案が出ています。

しかし、基準価額の算出一元化だけでなくバリュエーションポイントの導入についても議論すべき点は多いと思います。技術的な点に加え、特に指数への連動を目指す投資信託の連動性は確保できるのか、同じ指数を採用するETFとの商品性の差異の拡大12取引時間中値が付くETFと取引時間後でないと値がつかない投資信託ではすでに差異がありますが、仮に投資信託が15時の価格、ETFが15時30分までのリアルタイム価格となるのであれば商品性にさらに差が生じるように思います。は発生しないか、されにそれは投信会社の経営戦略にも影響しないか、引値以外に基づいて評価することについて投資家にどのように理解してもらうか、など私が少し考えただけでもいくつか出てきます。
もちろんそのような課題はすでに検討の俎上に上っていると思いますが、一業界人としても特に受託者責任の観点から考えてみたいと思っています。

これらの問題は特に業界・投資家への影響が大きいため報告の対象にしましたが、これ以外にも投信計理が関連する受託者責任に関する論点はたくさんあると思います。
今のところは投信計理業務にコンプライアンス担当者や学者が踏み込むことが少なかったため学術的な観点なども踏まえた議論はあまり多くないと思いますが(上記のテーマは投信計理に関するテーマが広く議論される珍しい事例です)、自分が少しでもその懸け橋になっていきたいです。
なお、誤解のないようにいうと投信会社の実務については法令遵守はもちろん投資家への影響についても考えられていますので、学術的な議論がなされていないから投資家保護が無視されているというわけではありません。

 

コンプライアンスのフロンティア

投信計理に限らず、投資信託という仕組みやその実務についてはすべてが法的にきれいに整理されているわけではなく、金商法や投信法などの業法や規則及び実務慣行としては一応の整理がされていても学術的に検討する余地がある論点がたくさんあります。
そしてそれは投資信託業界の外部からは見えづらく、業界の実務家が論点を見つけて論じるきっかけを作ることが重要だと思います。

個人的な認識としては、投信会社(資産運用会社)のコンプライアンス業務は比較的内容が決まっており、かつ他部署の業務を確認するなど受動的なものが多いので人によっては刺激が少ないとか知的好奇心を満たしにくいといった受け取り方をされるかもしれません。
実際に花形部門と言われる運用部門や商品企画、営業部門などと比べると地味でもあるので、コンプライアンスの仕事を積極的に希望する人もあまりいないようです。少なくとも私は人事異動の希望でコンプライアンス部門に行きたいという人を聞いたことがありません13他の管理部門からコンプライアンスに転職するというのは聞いたことがありますが。

しかし、上記のように投資信託の仕組みや実務をじっくり見てみると、実務としてはまわっていても法的・学術的にさらに整理する余地があるポイントはたくさんあります。コンプライアンスは多くの部署の業務に触れることができるため、そのような目で見ていけば考察のネタはいくらでも出てくると思います。実際私もそのような視点でコンプライアンス業務に取り組んでいますし、博士論文のネタもそのようにして集めていました。

ということで、資産運用会社のコンプライアンス業務にも仕事の仕方次第で知的好奇心を刺激する要素はたくさんあるので、上記のような点に魅力を感じる方には是非コンプライアンスでのキャリアも検討いただけると嬉しいです。
そんなことを書くと優秀なライバルが増えてヤブヘビになるかもしれませんが…(汗)

なお、本稿の内容は実務担当者へのヒアリングも踏まえて作成していますが、誤りがあればご指摘いただけると幸いです。

 

  • 1
    上場されている投資信託(ETF)は上場株式と同様に常に値段がついています。
  • 2
    英語ではinvestment/fund accountingといい、会計と同じ単語になっています。
  • 3
    投資信託約款には投資信託財産の評価を法令や投資信託協会規則に則って行うことが定められていますが、これだけでは具体的な認識にはつながらないと思われます。
  • 4
    判例についてはそもそも投資家との間で基準価額の妥当性について争われることがないからだと思います。
  • 5
    もっとも投信計理からコンプライアンスに異動した人がいたらすぐに崩されそうなアドバンテージ…。
  • 6
    投資信託の持ち分は投資信託受益権という形をとっています。
  • 7
    実際には1万口単位で表示されることが多いです。
  • 8
    投資信託は主に証券・銀行で販売されているほか、投信会社自ら販売していることもあります(直販)。
  • 9
    信託報酬の場合、年率を365(閏年の場合は366)で割って毎日費用を計上しています。
  • 10
    投資信託業界ではT-STARという野村総合研究所(NRI)が提供しているシステムがよく使われています。
  • 11
    ただし欧州の投資信託(UCITS)では受託者にあたる預託機関が基準価額算出の最終的な責任を有しています(UCITS指令(Directive 2009/65/EC) 第22条第3項(b))。
  • 12
    取引時間中値が付くETFと取引時間後でないと値がつかない投資信託ではすでに差異がありますが、仮に投資信託が15時の価格、ETFが15時30分までのリアルタイム価格となるのであれば商品性にさらに差が生じるように思います。
  • 13
    他の管理部門からコンプライアンスに転職するというのは聞いたことがありますが。
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