金融は歴史を動かす

東京において世界有数の金融センターを形成しながらも、ややもするとモノ作りとの比較で虚業といわれたりもする金融業。
とりわけリーマンショックの火付け役となったり、貸し渋り・貸し剥がし、不良債権問題の元凶と言われたり、憧れを持たれる一方で世間の厳しい視線を浴びることも多いです。

しかしながら金融業が日本の発展を支えたことはまぎれもない事実で、金融業が国内外から資金を調達し、適切な投融資を行うことで経済成長を支えるという事実と志は業界の内外で共有されるべきものだと思います。

そして、世界史はもちろん、日本の歴史においても金融は色んな転機を生み出してきました。その一つが日露戦争です。

言うまでもなく日露戦争は当時西欧列強に追いつくべく富国強兵策を進めていた日本が列強・先進国の一員となり帝国主義に邁進する転機となった出来事です。
そして、日露戦争といえば東郷平八郎提督による日本海海戦や乃木希典将軍の旅順攻略といった戦闘に注目が集まりがちで、戦闘による勝利が戦争の帰趨を決めたと捉えられがちです。

無論、それらが戦争の行方を左右する重大な戦闘であったことは確かだと思いますが、戦争をするためにはまず資金が必要で、資金調達の裏付けがあってこそ戦争の遂行ができたことを軽視するわけにはいかないと思います。

では、当時の日本はどのように資金調達を行ったのでしょうか。
これは金融業界に身を置く者としても歴史好きとしても興味深いテーマです。

このテーマについて非常に詳しく解説を加えている本に出会いました。

日露戦争、資金調達の戦い: 高橋是清と欧米バンカーたち (新潮選書)/新潮社
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本書では、当時の日本やロンドン、米国の金融市場・金融産業の状況について詳しく紹介しながら、現場で資金調達の任に当たった日本銀行の高橋是清(後の内閣総理大臣)の奮闘を、高橋及び同行した深井英五(後の日銀総裁)の記録を基に描き出しています。

戦争において各陣営の国力・戦力については多様な分析の仕方があると思いますが、本書では主に金融市場の視点から分析していて、特に日本及びロシアの国債利回り(国債の価額)及び国債の発行条件に注目している点が新鮮でした。

戦争開始時点では両国の国債利回りや発行条件には大きな隔たりがあり、ロシアの方が圧倒的に有利な条件で国債の発行ができ、これはすなわちロシアの方が資金調達が容易であったことを意味します。

そして、戦争の局面の推移の中で適宜市場が反応して国債利回りや発行条件が変わってきたり、あるいは当時はまだロンドンに比べて金融市場としての地位が低かった米国が資金調達に加わってきたりと、資金調達を巡る環境も刻々と変化します。

そのような中で高橋是清と深井英五という二人の人物が少しでも日本に有利な条件で、少しでも多くの資金を調達しようと奮闘する様子は、戦闘の現場で戦う人物たちと変わらない、という印象を受けました。

ちなみに、両国の国債を巡る市場の動きは戦争の動向をすごい早さで適切に反映しており、市場の効率性というのは昔からあるんだと感じました。

また、目論見書などのドキュメンテーションの苦労なども言及されていて、こちらも地味な業務ではありながら重要性は今も昔も変わらないものだと興味深く感じました(当時から目論見書が存在していたことに驚きました)。

ということで、改めて歴史や世の中の動きにおける金融の重要性や、実際に金融市場がどのように世の中の動きに反応しているのかということを理解するいい機会になりました。

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