投資家の「反乱」が企業を動かす

トランプ米大統領のパリ協定離脱表明に対して米国の内外から懸念が表明されていますが、地球温暖化の重要なプレイヤーである企業部門においても厳しい目が向けられつつあるようです。

その動きが顕著に表れたのが、機関投資家が石油メジャーとして君臨するエクソンモービルに対して、気候変動に対する業績へのインパクトを調査・開示するように要求し、株主総会で多数の賛成を得て可決された、という出来事です。
ワシントン・ポストは「Financial firms lead shareholder rebellion against ExxonMobil climate change policies(金融業界がエクソンモービルの気候変動に対する姿勢に対して、投資家の反乱をリードする)」と題した記事で詳細を伝えています。
(本当はかっこよく埋め込み記事としたかったのですが、うまくいかず…涙)

上記の記事によると、石油メジャーの一角を占めるエクソンモービルに対し、気候変動(気温が2℃変動した場合)が及ぼすエクソンモービルへの影響」について分析・開示を要請する株主提案に対し、資産運用業最大手のブラックロックをはじめとして、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズやバンガードといった大手の機関投資家が支持したことによって、62.3%の賛成で可決されたようです。

パリ条約の動向にかかわらず、気候変動がエネルギー会社の動向に大きな影響を与えることは論を俟ちません。
そして、気候変動は長期的なテーマであることから、同社への影響も長期にわたることが想定され、長期的な投資家として機関投資家が懸念するのは自然であるように思えます。

もちろん、エネルギー会社をはじめ、多くの会社が気候変動に対し関心を持ち、環境問題に体制のある事業ポートフォリオの構築に努めたり、環境保護に取り組んだりしているのですが、それでも気候変動の影響を逃れることはできませんし、特にその影響が大きいエネルギー会社は真摯に向き合い、投資家に対しても今後のパフォーマンスについて説明が求められると思います。

記事中にもありますが、これまで機関投資家はその議決権行使に際しては会社側に対して反対することはあまり多くなかったように思います。
とはいえ、近年は一般投資家や年金基金のお金を預かっている機関投資家に対して、より企業価値を向上させるような議決権行使、あるいは投資先との対話が求められており、その潮流が実を結んだのがこの議題であったともいえます。

実際、エクソンモービルの少し前にはOccidental PetroleumやPPLといったエネルギー会社でも同様の株主提案が可決されており、他にも50%をわずかに下回り惜しくも否決された、という事例もあるようで、エクソンモービルだけの動きではなく、投資家、特に機関投資家の姿勢が変わってきていることを示唆しています。

ここで重要なのは、大手資産運用会社がこのような分析・開示を求めているのは、単に気候変動を防ぎたいという動機ではなく、それが企業の業績、ひいては機関投資家の運用パフォーマンスに影響するため、投資判断に資するための情報開示を求めている、ということです。
つまり、パフォーマンスを求めて行動する機関投資家が、自然な流れでESG(環境・社会・ガバナンス)投資の方向に動いているといえます。

ESG投資、あるいは社会的責任投資(SRI)というと、「良いことを求めてもパフォーマンスにつながらないのでは機関投資家としての責任を果たしていない」という、善行とパフォーマンスは相反するといった見方をされることもありますが、ESGの各要因が企業業績に影響を与えるようになってくると、機関投資家の投資行動も自然にESGを考慮したものになり、かつ、議決権の積極的な行使を通じて、実際に企業の行動を変えることもできるようになるのではないかと感じました。

そしてこれは、機関投資家の投資サービスの新たな一面を映し出す結果になったとも思います。
例えば資産運用会社が投資信託や自社の運用サービスをアピールするとき、基本的にはパフォーマンスや今後の見込みを中心に行います。
それは、投資家が求めるものがリターンのみであるという考え方によるものだと思います。

しかし、今回明らかになったように、機関投資家はパフォーマンスを出すだけでなく、会社のあり方を変える力も持っています。
そうであるなら、投資先企業の行動を良いものにするように働きかけていく、ということ自体が機関投資家の投資サービスの価値であると思います。

実際我が国においても業界ルールや日本版スチュワードシップコードに基づき、資産運用会社は議決権行使結果を公表していますが、積極的にアピールするには至っていません。

しかし、5月29日に改定された改訂版の日本版スチュワードシップコードにおいて、賛同する資産運用会社は個別議案ごとの議決権行使結果の公表を求められることになりました。
したがって、各機関投資家の議決権行使に対する考え方がより如実に表れますし、差別化のチャンスにもなると思われます。

我が国においても議決権行使結果自体を差別化のツールとして捉え、ESGの観点から積極的に企業に働きかけ、企業価値の向上と社会課題の改善を両立するような資金の循環(インベストメント・チェーン)ができていけば、自然と我が国の資産運用業も発展していくのではないかと期待しています。

ちなみに、記事中では投資家の「反乱(rebellion)」と書いていますが、本来は投資家は会社のオーナーであり、「反乱」というのは筋違いです。
当然記者もそのことはわかっているはずで、あえてこの表現を使ったのは、実際には大企業の経営陣に対して株主のコントロールは限られていて、実態として経営陣の意向に反する株主提案がほとんど通らないという実態があるのでしょうが、これも示唆に富んでいるといえます。
もしかしたら、これが株主と経営者の関係を変えていくきっかけになるのかもしれません。

そのように資産運用業の未来を考える上で、今回のエクソンモービルの事例は、大変示唆のあった出来事でした。

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研究内容発表(本番)

私が所属する大学院では、修士課程も博士課程も初年度は教授陣及び1年生の前で研究内容のプレゼンをすることになっています。
4月から毎週修士課程の方が研究計画を報告されていたのですが、ついに自分の番が回ってきました。

持ち時間が厳格に決まっているうえ、博士課程である以上、修士課程よりも厳しい質問が来ることが想定されるため、プレゼンの準備は念入りに行いました。
前夜には一人で何度もプレゼンの準備を行い、声がかれてしまいました(笑)
こんなにプレゼンの準備を頑張ったのはMBA時代以来で、懐かしい気持ちになりました。

当日は験を担ぐため、先日仕立てた北条氏康スーツを着用。
気合が入ります。

業務終了後、早めに学校についてからも、何度も資料を確認しながらプレゼンのイメージトレーニングを行っていました。

そして、いよいよ自分の番。
深呼吸して全員の前に立ちます。
この緊張感はやはり慣れません。

とはいえ、話を始めると、練習もイメトレもしていますので、何とか口が動きます。
早口になってしまうこともありましたが、頭が真っ白になることなくプレゼン終了。

とはいえ、正念場はプレゼンそのものではなくその後の質疑応答。
百戦錬磨の教授陣による鋭い質問をどのようにさばくかが課題です。
案の定、教授陣からは説明内容や研究計画に鋭く切り込まれました。

ただ、幸いなことに社会人大学院生として、実務を基に研究計画を立てており、法律論や研究ということについては本職の学者に及ぶところではないものの、実務との関係ではこちらが本職ですので、一方的に攻め込まれるということはあまりありません。
実際、テーマ設定の適切性については突っ込まれましたが、あとは業界慣行や実務に関する質問で致命傷もなく質疑応答をこなせました(多分…)。

テーマ設定の適切性については、実は入学試験の時に面接で指摘されていて、今回はそれにも配慮したプレゼンをしていました。
したがって、テーマ設定の変更についてはある程度想定の範囲内で、こちらは早めに対応することを考えています。

何とか最初の関門を乗り切りましたが、これはまだ第一歩。
法学のバックグラウンドが全くない人間にとって学ぶことは莫大です。

ちなみに私の研究テーマは、投資運用業者(特に投資信託委託会社)の忠実義務
運用会社の忠実義務とは何か、ということを他の契約形態や海外の考え方などと比較して明らかにしていきたいと考えています。
その結果として、運用会社・運用業界がより投資家の信頼を得られるように貢献していけたらと思っています。

これから当分の間、与えられた課題はなく、自主的に勉強を行っていくことになります。
一人で大海原に飛び出した気分ですが、大きな海図を読めるよう、また、書けるように頑張っていきたいと思います。

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北条氏康スーツ

プロ野球選手やアイドル、アニメのキャラクターなど、人気者に関連するグッズはたくさんありますが、やはり好きな人やものに関係するものは身につけたり身近なところに置いておきたいと思うのがファン心理だと思います。

かくいう私も結構好きなものにハマる性格で、好きなアニメやプロ野球選手のグッズを買うこともしばしばありました(オタクというなかれ、ファン心理です)。

さて、私の最も好きな歴史上の人物に北条氏康という人物がいます。
戦国大名北条氏の三代目当主で、武田信玄や上杉謙信のライバルとして知られますが、私が歴史好きになるきっかけとなった人物でもあります。
となれば、彼に関連するものがほしくなるというのがファン心理というものです。

そんな北条氏康好きの前に現れたグッズが、北条氏康スーツ
スーツであれば、仕事中違和感なくずっと身につけていることになるので、ある意味最高のグッズといえるかもしれません。

ということで、北条氏康スーツを作ってみました。

まずは全体。

生地は格子柄のものにしました。
これは、北条家独自の築城技術である障子堀や畝堀をイメージしたものです。

畝堀とは堀を格子状に分割したもので、攻め手の勢いを緩和する仕組みです(下の写真は山中城の畝堀)。

スラックスには、小田原・箱根特産の寄木細工のボタンがついています。
ちなみに小田原は北条氏の本拠地です。

ジャケットの内側にも寄木細工のボタンがついています。

ジャケットにはこのスーツの特徴でもある北条氏の虎朱印「禄寿応穏」の織ネーム。
禄寿応穏とは、民衆の財産と生命が穏やかであるように、という意味で、以下に北条氏が善政を心掛けていたかが伺えます。
ちなみに、虎朱印とは代々の北条氏当主が文書に押印した印鑑で、現在でいうと代表取締役印といったところでしょうか。

ジャケットの中はこんな感じ。
ちなみにポケットのカラフルな部分は、北条氏康を支えた五色備をイメージしています。
黄備を率いた北条綱成は河越の戦いをはじめとして、氏康の覇業を支えた勇将として特に知られています。
また、上下のラインは、よく北条氏のイメージとして使われる黄緑色を使用しました。

袖口にはやはり五色備をイメージした五色のボタン。
袖口のリボンも五色備のイメージです。

大事なプレゼンが迫っていたので、このタイミングでスーツを受け取ることができてよかったです。
プレゼンのときはこのスーツを着て、氏康公のお力添えをいただいて無事に乗り切りたいところです。

今のところ、北条氏康のほかに織田信長、石田三成、真田幸村、島津義弘のものがありますので、ご関心のある方は是非作ってみてはいかがでしょうか。

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大戦国史 最強の武将は誰か?

歴史が好きな人なら誰しも考えるであろう、一つの問い。

最強の武将は誰か?

世界史上最強は?中国史で最強は?三国志で最強は?そして、戦国時代で最強は?

決して答えの出ない問いであることはわかっていても、つい考えてしまいます。
インターネット上でも激論が繰り広げられています。

最近はどちらかというと史実を掘り下げる本を読むことが多く、歴史談議に花を咲かせるような話題を考えることは少ないのですが、たまたま「最強の戦国武将は誰か?」という歴史談議に花を咲かせた書籍(「大戦国史 最強の武将は誰か?」(文藝春秋編))を見かけたので読んでみました。

この書籍の面白いところは、戦国時代の専門家だけではなく、近現代史や世界史に詳しい方も加わって「最強の武将は誰か?」という話を語り合っているところです。
特に昭和史の研究で有名な半藤一利氏や、世界史に造詣の深い出口治明氏(現ライフネット生命会長)が対談に登場されていることに興味をひかれました。

半藤氏は戦国時代の研究で有名な小和田哲男先生と対談されているのですが、目をキラキラさせながら(?)武田信玄と上杉謙信でどちらが強いのか、というのを離されていて面白かったです。ちなみに半藤氏が上杉派、小和田先生が武田派でした。

出口氏は「信長・秀吉・家康の天下観・世界観」というテーマで話されていました。
対談の中では、案外秀吉が「全部信長の物まねでしょ」、といった感じで評価されていなくて、秀吉かわいそう…なんて思っていました(笑)。
出口氏は、世界史の流れの中で日本史・戦国時代を考える重要性を示唆されていて、さすがでした。
また、出口氏の対談の中では土木の専門家の方(竹村幸太郎元国道交通省河川局長)もいらっしゃって、土木の観点から三人の統治政策を解説されていて、目から鱗が落ちる思いでした。
特に、「家康は主要水脈には幕府と御三家で抑えた」、「川や山で諸大名の領地を区切ったことで領域内での開発を促進した」という指摘はなるほど、という思いでした。

対談のほか、有名武将たちの業績などについても専門家の方が寄稿されていて、それぞれの方の見方が興味深かったです。
このうち、北条氏康については黒田基樹先生が執筆されていますが、そのすべてが税制・行政改革及びそれが近世に与えた影響についてで、河越の戦いをはじめとする武将としての活躍については割愛されており、北条氏康、あるいは北条氏の歴史研究における特殊性が見えてきます。
というのも、後北条氏や内政に力を入れていただけでなく、文書による官僚制度が整備されていたうえ、北条氏の領土がそのまま徳川政権に引き継がれていることから史料の保存状況が良好で、学術的な研究という点からは北条氏が最も先行しているそうで、それゆえに北条氏康についても武将としての観点以外にも論じられることが多いように感じます。

本書では氏康に限らず、信玄や謙信、毛利元就といった最強の武将候補についてもその内政面の業績が語られており、いろんな観点から戦国武将・大名を見ることができました。
また、当時の状況として、「知」の集積が寺院や大都市といった「点」に集中しており、それゆえにそこで学ぶことができた今川義元や徳川家康の優位性に言及されていて、興味深い論考でした。

また、本書では随所に「大河ドラマ」という言葉が出てきて、日本人の歴史好き・歴史人物観に大河ドラマが大きな役割を与えていることが改めてわかりました(笑)

専門的な書籍もいいですが、時には純粋な歴史好きとして、このような夢のあるテーマに花を咲かせるのも楽しいものです。

ちなみに私の考える最強の武将は…いや、やっぱり一番は決められませんね。

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採用基準

MBA学生からの人気の高い戦略コンサルティング会社・マッキンゼーでコンサルタント、採用マネージャーとして活躍された伊賀泰代氏の「採用基準」を今更ながら読みました。
2012年発行の書籍で、当時は非常に評判だったように記憶していますが、その時は読む機会がなかったのですが、今般たまたま図書館で見かけて読んでみることにしました。

本書のタイトルから採用ないし就職活動に焦点を当てているように思えますが、その内容の大半は「リーダーシップ」についてです。
それは、マッキンゼーという会社が、その採用の可否の判断、あるいは採用後の育成においてリーダーシップを重視していることによります。

最初の方はマッキンゼーの採用基準とよくある誤解について書かれていたので、「コンサル会社ではこういう人材を求めているのか」「●●というよく聞く話は実は違うんだ」と、コンサル業界の話として読んでいましたが、「マッキンゼーはリーダーシップを重視している」という点から、リーダーシップはなぜ重要なのか、なぜ日本では重視されてこなかったのか、などのリーダーシップ論に入ります。
本書の大半がリーダーシップの話になっていることからも、タイトルとは異なり、本書のポイントがリーダーシップであることは明らかです。

では、なぜリーダーシップが重要なのか。
著者は、リーダー一人だけがリーダーシップを持っている(とっている)組織と、全員がリーダーシップを持っている(とっている)組織を比較しています。
そのうえで、前者においてはリーダー以外のメンバーが「指示待ち」人間になったり、全体のことを考えず自分の職務に専念してしまう一方、後者においては一人一人が全体のことを考え、自分なりに解決策を持ち、自律的に動くため、生産性が高いと指摘しています。

また、日本においてはリーダーシップが「管理者」や「調整役」といった役割と混同されがちであることが、また組織内において、「和」が重視される傾向にあることがリーダーシップを求められにくい背景にあるとしています。
さらに(あるいはそのような背景があるため)、職責上もリーダーシップが求められる管理職の登用の基準が年功序列であったり、プレイヤーとしての評価となっています。
つまり、リーダーシップが評価されないままにリーダーシップが求められるポジションに登用されていることになります。
逆にマッキンゼーではリーダーシップを評価したうえで、リーダーシップが求められるポジションに登用されるとのことです。

このほか、分権・共助の動きが進む中で、「リーダーシップの総量」の増加が求められていること、リーダーシップ自体はカリスマのような先天的なものではなく、学ぶこともできるし、実際にマッキンゼーに入社した方はリーダーシップを高めていき、リーダーシップを「会社から求められるもの」から「自分のためのもの」に昇華させていくそうです。

本書では、リーダーとして必要なこととして、
1.目標を掲げる
2.先頭を走る
3.決める
4.伝える
ということを掲げています。
どれも組織をまとめ、前に進んでいくために必要なことであるのを改めて考えさせられます。

著者も指摘する通り、リーダーシップとは管理職やチームのまとめ役だけに求められるものではなく、すべての人に求められるスキルで、リーダーシップを持つことで自分の視点や世界も違ったものになってくると思います。

自分自身、まだ管理職というポジションではありませんが、組織の一員としてパフォーマンスを高めるべく、また自分が将来リーダーのポジションに就いたときにきちんとリーダーシップを発揮していくためにも、リーダーシップ(特に上記の4つのポイント)について意識して仕事をしていかなくてはと感じさせられました。

 

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非産運用

NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)の導入に伴い、資産運用への注目度が高まっており、資産運用の中核となる投資信託を運用する資産運用会社(投資信託委託会社)についても、その社会的な役割がより大きくなっているところです。

社会的な役割が大きくなるということは、その責任も大きくなるということですが、そのような潮流を受けて、現在資産運用業界ではフィデューシャリー・デューティ(Fiduciary Duty:受託者責任)を掲げて、より顧客満足度の高い資産運用サービスの提供を行う動きが広がっています。
個人的には、受託者責任とは信託制度における概念であり、「お客様第一主義」といった概念とは異なるように思うのですが、良くも悪くも言葉の意味は変わるので、業務上は割り切って使っています。

このように、(金融庁の影響を受けながらも)資産運用業界がよりよいサービスの提供を目指す中、森金融庁長官による業界の注目を集める講演が行われました。

講演の中で、森長官は日本の資産運用業界の問題点について舌鋒鋭く指摘されています。
曰く、「積立NISAの基準を満たす(低コストで長期投資に適した)投資信託はわずかしかない」、「日系運用会社は販売会社(銀行・証券会社)の系列会社で、販売会社の都合によって商品を組成している」、「商品組成・運用・販売といった一連の流れにおいて、必ずしも顧客本位となっていない」など。

金融庁長官の指摘を待つまでもなく、これらの批判は多くの識者から受けてきましたし、今後我が国の資産運用業界が発展していくために解決していく必要がある課題だと思います。

では、資産運用会社はこのような課題についてどのように向き合っていく必要があるのでしょうか。
そのヒントを得るべく、森金融庁長官の考えを考察した書籍を読んでみました。

非産運用。字のごとく、資産運用業が実際には顧客に十分なリターンを提供していない、つまり投資家の資産をきちんと増やせていないという問題意識が根底にあります。

本書によると、森長官が資産運用改革に関心を持ち始めたのはニューヨーク勤務から帰国した後のことだそうです。
ニューヨーク駐在の間、多くの要人と積極的に面談を持ち、ネットワークと最新の知見の獲得に努めたそうです。
自分もオランダに留学していた時にそのようなことをしたいと思っていましたが、時間も能力も足りず十分にできなかったので、その熱意と能力は本当にすごいし、素晴らしいと思いました。

森氏が特に関心を持ったのは大手運用会社よりむしろヘッジファンドの運用担当者だったようです。というのも大手運用会社よりもヘッジファンドの方がより運用に命を懸けていると感じたからだそうです。命を懸けているということは、インセンティブもあるでしょうが、それだけ運用責任を果たそうとしているからだと考えると、その関心は今につながっているのかもしれません。

金融庁が資産運用業界の発展の環境整備を進めるにつれ、海外の資産運用会社が日本のマーケットに関心を強めているようです。
業界としてはレベルの高い競合が多いほど発展できますし、個人的にも働く選択肢が増えて、非常に望ましい傾向であると感じています。
実際、日系と外資系の運用会社両方で勤務してきましたが、外資系の方が優れている点も多く、そのような競合他社がシェアを拡大すれば、当然日系運用会社も改善を迫られますから、海外からの参入は業界のレベルの底上げにつながると期待しています。

また、資産運用業のあり方を考えるには、販売会社との関係は避けては通れません。
資産運用の中核となるの金融商品は投資信託と言っていいと思いますが、その投資信託は基本的には販売網と人員を有する銀行や証券会社によって販売されているからです。
投資信託会社の中には自社で運用から販売まで行う会社もありますが、基本的にはインターネットによる販売に限られ、投資家の関心を惹きつけるのが難しく、ファンドの規模が拡大しにくいのが実態です(さわかみファンドのような成功例もありますが)。
また、投資信託を販売するためには規制も厳しく、システム投資も小さくないので、収益性・効率性の観点からも販売会社に依存せざるを得ないということもいえます。

販売会社は自らどういう投資信託をどの程度、誰に売るという販売計画を立てて実行しますので、そこに投信会社が介入する余地はありません。
投信会社が「このような投資家のためにこのような商品を作りました」といっても、販売会社が別の認識でいれば、投信会社の意図とは異なった投資家に販売されるかもしれません。
また、投信会社が「この商品はこういう属性の人にしか売らないでください」というのは越権行為でもありますし、法令上も問題があるかもしれません。

だからこそ、販売会社がどのように投資信託をはじめとする金融商品を投資家に提供するか、ということが我が国における資産運用のキモではないかと思います。

どのようにすれば投資家・販売会社・運用会社が同じ方向を向いてwin-win-winの関係を築くことができるのか、というのは簡単な問いではないと思いますが、この課題を乗り越えなければ、確かに資産運用業界は限られたパイを奪い合うだけになってしまうのかもしれません。
資産運用を行うなら、保険や不動産などの方法もありますし(それぞれ金融庁から問題視されている点もありますが)、昨今ではFintechなどの参入もあり、彼らの動向次第では資産運用の主役の座すら奪われてしまうかもしれません。
彼らが投資家のために優れたサービスを提供し、競争の末に敗れるのならそれはそれで仕方のないことなのかもしれませんが、投資信託の力を信じている自分としては、そのようなことにはなってほしくはありません。

一つの方向性としては、販売インセンティブに収益を依存しないIFA・FPのような存在が身近になって、投資家がより自分の投資目的や財産の状況にあったポートフォリオを組むことができればいいのではないかと思います(本書では楽天証券がIFAと連携したサービスを推進していることが紹介されています)。
そのような中で新規ファンドの設定の頻度が抑えられ、既存ファンドごとの規模が大きくなれば、運用効率も上がるとともにオペレーションコストも低下するため、運用会社としてもより投資家の資産運用に貢献しやすくなると考えています。

ちなみに、本書によると米国では日本に比べ販売手数料も信託報酬も安価な傾向にあるそうで、この点は日本の資産運用業界としても見習う点もあるでしょう。
ただし、信託報酬については、海外の運用会社に運用を委託するために高めになっているという事情もあり、これは日本の運用会社の運用力・運用リソースを相当強化しなければこの差は埋まらないと思います。

また、興味深かったのが、海外の金融グループでは、あえてグループ内から資産運用会社を切り離す動きがあるということです。
資産運用業の受託者責任と金融グループ内の利害関係が相反する可能性があるということもありますが、販売会社としては一流なのに自グループに弱い運用会社を擁して、その商品を販売することは販売会社としての価値を毀損するという考え方があるようで、目から鱗でした。

資産運用業が成長産業であることもあり、日本の金融グループはむしろグループ内に運用会社を抱えようとする動きが強く、それも経営戦略として理解できるのですが、海外の動きとのコントラストが興味深いです。

他に興味深い論点としてパッシブ運用のあり方があります。
パッシブ運用とは、TOPIXや日経225、MSCIなどの指数に連動する投資成果を目指した運用のことで、一般的には運用者に裁量権はほとんどないといわれています。
パッシブ運用は独自の企業調査や投資判断を必要としないためコストが低く、かつ分散投資ができること、さらには平均するとアクティブ運用よりパフォーマンスが高い(この点は異論もあるようですが)ことから中長期の資産形成に適しているとされており、資産運用が重視される中で大きな役割を担うことが期待されています。
しかし、上記のとおり裁量権があまりないため、(トラッキングエラーの改善などの可能性はあるとはいえ)パッシブ運用の改善によって受益者に貢献するということはあまり考えたことがありませんでした。
しかし、使用する指数自体に質の良し悪しがあるとすれば、その指数自体を改善・変更することによってパッシブ運用の質を向上させることは可能です。
実際に東証はTOPIXより高いパフォーマンスが期待できる指数を開発しており、最近注目されている「JPX日経インデックス400」はその最たるものでしょう。
既に存在しているインデックスファンドの連動指数を変更するのは難しいにせよ、より高いパフォーマンスが期待できる指数に連動する商品を提供することで、パッシブ運用でも投資家により高いパフォーマンスを提供できるというのは、考えてみれば当然ですが、盲点でしたので良い気付きになりました。

他にも米国の大手運用会社・バンガードの取り組みなども詳細に紹介されていて、非常に興味深かったです。
バンガードはオペレーションもガバナンスも運用会社としては特殊な特徴を持ち、かねてよりその実態に関心があったので、大変参考になりました。

本書では海外の年金改革について紹介されていますが、年金改革の結果として自分で資産運用を行うようになることにより、投資経験がなかった人が資産運用に関心を持ち、資産運用について積極的に考えるようになることが我が国でも期待される中で、その信頼を勝ち得るために資産運用会社としてどのように振る舞うべきかということをよく考えなければいけないということを改めて感じさせられました。

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