逆境経営-山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法-

最近大人気の日本酒・獺祭
キーボードで「だっさい」と打つと、自動で変換されるくらいメジャーです。
(もっとも、レギュラークラスのプロ野球選手なら大体変換されるくらい、最近のアプリケーションは優秀なようですが。)

あまりに話題になっているので、普段は高級なお酒を飲まない私も飲んでみたいと思って酒屋さんに行ったら数量制限があり(一人1本か2本だったと思います)、その人気ぶりを感じた次第です。

そんな獺祭ですが、決して順風満帆な中で生まれたものではなく、むしろ逆境の中で生まれたものであることを、獺祭を製造している酒蔵である旭酒造の桜井社長の著書で知りました。その名も「逆境経営」。

日本酒市場自体が縮小傾向にあるのですが、その中でも地方の中小酒蔵は知名度もなければスケールメリットを追求することも難しく、桜井社長が社長になった頃はまさに逆風でした。
さらに会社自体も雰囲気が弛緩しているうえ、社長就任後しばらくすると、酒造りの中核となる杜氏たちが退職してしまったそうです。
立地の点でも東京などの大都市はおろか、山口県の主要都市である岩国市からも遠く、マーケットへのアクセスも困難で、八方ふさがりの感があります。

本書はタイトルの通り、そんな困難な状況から、獺祭によって成長を遂げた旭酒造の物語です。

今でこそ獺祭は大人気ですので、社長の目論見通り、順風満帆に行ったように見えそうですが、獺祭が成功を収めるまでには数多くの失敗や試練があり、またその背景には社長の強いポリシーがあったようです。

まず、商品について。
獺祭というお酒が非常に素晴らしいものであることは、世の評価や価格などを見ても想像できますが、品質には徹底的にこだわっています。
元々は安価な普通酒を製造していた旭酒造ですが、限られた量しか製造できないというキャパシティから逆算して、高品質なものに集中するという選択をされたようです。

そして、高品質に特化するからには、その品質にはとことんこだわる。
当然のことと言うのは簡単ですが、米、酵母、水、製法など、それぞれの要素について高みを目指し続けるというのは決して容易なことではないと思います。
そして、高みを目指すうえでわき道にそれない。
色んなブームがある中で、自社製品をそれに合うようにカスタマイズするということは珍しくないと思いますが、旭酒造はそういうことをせず、愚直に獺祭そのものの品質の向上に努めています。

また、経営においても素晴らしいポリシーがあります。
読んでいてガツンとやられたのは、「コストパフォーマンス(費用対効果)を考えた瞬間にずば抜けたものはできなくなる」ということでした。
本書によると、「「費用対効果」と言った瞬間に、この程度でいいんだ、という甘さが出る」とのことです。
費用対効果という考え方は、費用に対して効果が一定水準を上回っていればよい、という考え方ですが、その考え方では無意識のうちに「この水準をクリアすればそれでいい」という意識を生んでしまうように思います。
経営・ビジネスの観点からは間違っていないと思いますが、そういう考え方だけでは、本当にずば抜けた商品やサービスは生まれないというのもまた間違っていないと思います。
本当に必要なところには、コストパフォーマンスや採算を度外視して資源を投入することも、強力な武器を手に入れるためには大切だということを改めて考えさせられました。

また興味深かったのは、桜井社長は単に獺祭の売り上げが上がればそれでよい、というのではなく、お客さんにきちんと味わって、適正な量を飲んでほしいと考えていることでした。
確かに、お酒を飲みすぎると、へべれけになってだらしないし、お酒の味わいもわからなくなってきます。そのうえ、場合によっては吐くこともあれば、けんかや飲酒運転などのトラブルのもとにもなりかねません。
お酒の作り手から見てみると、丹精込めて作ったお酒をそのような飲み方で飲んでほしくはないでしょう。
当たり前といえば当たり前なのでしょうが、お酒の作り手としての矜持が垣間見えます。

他にも素晴らしい内容がたくさんあったのですが、あまりネタバレになってしまうとよくないのでこの辺で(笑)

本書は酒造メーカーのお話でしたが、私が属する資産運用業界についても大変参考になると思います。

例えば、商品のラインナップについて。
資産運用業界(投資信託業界)がよく受ける批判として、販売会社の意向に沿って新しい投資信託を次から次へと作って、販売会社が乗り換え販売をする一因となっている、というものがあります。

確かに産業構造が日々移り変わっていく中で注目されるテーマや投資対象も変わっていくので、それに対応した投資信託というのはニーズがあるのかもしれません。
そのような見方をすると、現在の投資信託会社や販売会社(銀行・証券会社など)の方針は間違ったものではないでしょう。

しかし、本当に息の長い、お客さまに愛され続ける投資信託を作りたいのであれば、新しい投資信託を作り続けるのではなく、産業構造や経済環境の変化に対応できる投資信託を作り、投資家に提供するべきであるともいえます。
旭酒造の考え方はこちらになるでしょうし、私自身そうあってほしいと思っています。

このような考え方は、投資信託を直接販売している投資信託会社に顕著に表れていると思います。
例えば、「いい会社(これからの社会にほんとうに必要とされる会社、 皆さまがファンとなって応援したくなるようないい会社)に投資する」ことを掲げている鎌倉投信は国内外の産業構造や経済環境が変わったからと言って、新しい投資信託を作ってはいません。
「いい会社に投資する」というポリシー・お客さまとの約束を厳格に守り、その中で投資信託の運用を続けています。
また、鎌倉投信は投資信託を運用するだけでなく、運用報告会などで投資対象の会社と投資家が接点を持つ機会を提供してくれています。これも鎌倉投信の投資信託の大きな魅力の一つです。

既存の投資信託業界のあり方にも長所があるので頭から否定する気はありませんが、獺祭のような投資信託が増えてくると、自然と投資家の方々も投資信託を愛してくれて、投資信託の残高が増えるという好循環が生まれると期待していますし、コンプライアンス担当者として、そのような投資信託に関わることができるような仕事をしてみたいと常々思います。

一方、コストパフォーマンスを時として度外視する、ということについては、案外資産運用業界は頑張っているのではないかと思うこともあります。
資産運用業界においては、日々新しい投資対象や投資手法・システムの発掘・開発に取り組んでいますが、その中には「とりあえずやってみよう」というものもあるように思います。
そのような積み重ねが、現在の資産運用会社の幅広いラインナップや高度な投資手法につながっていることを考えると、これまでのイノベーションを支えた業界の方々には頭が下がります。
日々仕事をしていると、「これって採算合うのかな?」と思うこともありますが、イノベーションの種なんだと思って、温かく見守っていきたいと思います(内容によりますが…)。

本書によって、獺祭と投資信託には類似点があるように思いましたので、投資信託や仕事のあり方で悩んだ時には、獺祭を片手にじっくり考えたいと思います(笑)。

※本記事は特定の金融商品ないしお酒を推奨するものではありません。

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百万ドルをとり返せ!

先日、ジェフリー・アーチャーの「ケインとアベル」を読んだら引き込まれたので、彼の処女作である「百万ドルをとり返せ!(原題:NOT A PENNY MORE, NOT A PENNY LESS)」を読んでみました。

著者は投資詐欺にあって無一文になり、政治家としての地位も失ってしまいましたが、本書はその経験を基に書かれた作品です。
自分の失敗をそのまま小説にするとは、やはり只者ではありません。

ということで、本作品は投資詐欺がテーマです。

とある株式を騙されて買ってしまった4人の人物。
数学者、スティーブン・ブラッドリー。
医者、ロビン・オークリー。
画商、ジャン=ピエール・ラマン。
貴族、ジェイムズ・ブリグズリー。
彼らはインサイダー情報を信じて大枚をはたいて株を買ってしまったものの、もともと詐欺のための銘柄なので、紙くず同然。4人で合計百万ドルの大損失です。

ほとんどの人間は諦めて泣き寝入りするところですが、彼らはそうではありませんでした。
この詐欺的行為に憤り、損した分をそっくりそのままとり返すために立ち上がります。
百万ドルきっちり、1ペンスも多くもなく、1ペンスも少なくもなく。
原題のNOT A PENNY MORE, NOT A PENNY LESS、はここからきています。

とはいえ、相手は稀代の詐欺師、ハーヴェイ・メトカーフ。ただ立ち上がるだけでは勝ち目はありません。
しかし、幸いなことに、彼らはそれぞれ専門分野がありました。
学術、芸術、医学、そして演劇。
彼らは、それぞれの強みを生かしてハーヴェイから損失分を巻き上げようと画策します。

彼らはどのような策略を仕掛けるのか。
ハーヴェイはそれを見破るのか、はたまた彼らの策にかかってしまうのか。
手に汗握る知能戦にドキドキハラハラしつつ、たくらみの中で醸成される彼らの友情にホロリとすること請け合いです。

ちなみに、この話では株式が詐欺の対象になっていますが、最近はファンドという箱(株式もファンドも、投資家のお金を一つの箱に集めているという意味では同様の仕組みです)で同様の詐欺的行為が行われており、不公正ファイナンスとして問題視されています。

特に証券取引等監視委員会では不公正ファイナンス防止に力を入れており、「悪質なファンド販売業者に関する注意」として注意を呼び掛けています。
ハーヴェイの手口を読みながらこのことを思い出して、人のすることはいつの時代も似ているものだと思わされました。

皆さんも、不公正ファイナンスにはお気を付けください!
(ちょっとコンプライアンス担当者らしいオチにしてみました(笑))

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ケインとアベル

無人島に一冊だけ本を持っていくとしたら、どの本を持っていくか?」という問いは、その人の嗜好のみならず、哲学・人生観をも如実に映し出すものだと思います。
(過去記事:「無人島に持っていく本」)

この問いの深さが示すように、本との出会いというのは、人との出会いと同じように、自分の生き方や考え方に影響を及ぼす重要なものだと考えてよいのではないでしょうか。

この問いに関して、作家の山本一力さんが、「無人島に持っていくなら迷わず『ケインとアベル』を選ぶ」という記事を先日読みました。

不勉強ながら「ケインとアベル」という本を読んだことがなく、作家にここまで言わせる作品とはどのような本なのか気になって、さっそく読んでみることにしました。

著者はジェフリー・アーチャーという英国の著名作家で、政治家としても活躍していました。
投資に失敗して経済的にも苦労したそうで、その経験を基に「百万ドルをとり返せ!(原題:NOT A PENNY MORE, NOT A PENNY LESS)」という作品を上梓していたり、一人の人間としても興味をそそられる方です。

さて、「ケインとアベル」ですが、タイトルの通り、ケインとアベルという二人の人物の人生を描いた作品です。
この二人は聖書の「カインとアベル」とは異なり、他人ではあるのですが、ボストンとポーランドで同じ日に生まれ、全く違う育ちをしながら、あるきっかけを基に接点を持ち、そこからお互いの恩讐や意地をかけて、運命を複雑に絡み合わせながらつばぜり合いを繰り広げるという物語です。

ケインはボストンの銀行のオーナーの跡取りとして生まれ、英才教育を施され、自分の才覚もあって銀行家として歩んでいきます。ただ、父親を早くに亡くし、母親との再婚相手とはうまくいかないなど、家庭においては辛い思いをしています。

一方のアベルは、ポーランドの貧しい猟師の家で育ち、その後能力を見込まれてその地の領主の跡取りの学友となるも、第一次世界大戦及びポーランド・ソ連戦争のために監禁され、シベリアに連行されながらも命からがら米国まで逃げのびて、ニューヨークでホテルマンとしての人生を歩み始めます。

順調にそれぞれのキャリアを歩んでいたふたりですが、明確に運命が絡み合うのは1929年の世界大恐慌の時です。
世界大恐慌の結果、米国では株価が下落するだけでなく、多くの失業者が生じましたが、その波はホテル業界をも飲み込み、アベルがパートナーとして経営していたホテルグループも、ケインの銀行の支援を得られず(ケインは支援を主張していましたが、銀行内で合意を得られず、彼が支援を断る役回りになります)、アベルのビジネスパートナーは自殺し、アベルも経営破綻を逃れるために必死に支援者を探します。
最終的にはぎりぎり支援者は見つかり、経営破綻は逃れたのですが、アベルは親友でもあるビジネスパートナーを自殺に追い込むことになったケインを恨みに思い、ホテルグループを成長させる一方で、ケインに復讐することを企図し続けます。

そして、彼らの相克は子どもの世代にまで影響を及ぼし、物語にさらなる深みを持たせることになります。

「ケインとアベル」は、ケインとアベルといった魅力あるふたりが様々な苦労を乗り越えていきぬいた物語であり、ふたりの恩讐劇であり、家族や親友との絆の物語であり、そして優れたサスペンスでもあります。
また、「カインとアベル」を思わせるタイトルや、ケインとアベルのそれぞれの視点を切り替えながら物語を進めていく手法なども印象に残りました。

ふたりはどのように育ち、どのように運命の糸を絡ませ合い、そして最後はどのように結末を迎えるのか。
最初から最後までドラマチックで、読んだことのない方には是非お勧めしたい作品です。

ちなみに米国では世界大恐慌を教訓に金融改革が進んでおり、その中の一つに、銀行業(商業銀行)と証券業(投資銀行)を分離させたグラス=スティガール法がありますが、その影響にもチラリと触れられていて、金融業界で働く者として面白かったです。
ちなみに、ケインは関心もキャリアもどちらかというと証券業(投資銀行)寄りで、米国における証券業の存在感の大きさをうかがわせます。

また、本書では遺言信託・家族信託が重要な役割を果たしており、信託という制度が米国においてどのように活用されているのかについても垣間見ることができます。
自分が取り組もうとしている研究の中には米国における信託制度も含まれるので、機会があれば、「ケインとアベル」を引用してみたいと思いました。

そのほか、ケインが当然のように自分のお金を慈善事業に寄付していたり、アベルもケインも国家への貢献を意識していたりするなど、米国人の哲学・信念も興味深いところです。

「ケインとアベル」は上記のとおり、複数のカテゴリーの要素を含んでいる非常に読み応えのある物語で、確かに「無人島にもっていく1冊」として選ばれる価値のある作品だと思います。

自分なら、「ケインとアベル」もいいですが、「レ・ミゼラブル」も持っていきたいと思います。どちらにせよ、何度も読み返せて、何度読んでも心が洗われ、その都度いろんなことを考えさせてくれる作品がいいですね。

これからもたくさんの「無人島にもっていきたい1冊」に出合っていきたいものです。

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投資家の「反乱」が企業を動かす

トランプ米大統領のパリ協定離脱表明に対して米国の内外から懸念が表明されていますが、地球温暖化の重要なプレイヤーである企業部門においても厳しい目が向けられつつあるようです。

その動きが顕著に表れたのが、機関投資家が石油メジャーとして君臨するエクソンモービルに対して、気候変動に対する業績へのインパクトを調査・開示するように要求し、株主総会で多数の賛成を得て可決された、という出来事です。
ワシントン・ポストは「Financial firms lead shareholder rebellion against ExxonMobil climate change policies(金融業界がエクソンモービルの気候変動に対する姿勢に対して、投資家の反乱をリードする)」と題した記事で詳細を伝えています。
(本当はかっこよく埋め込み記事としたかったのですが、うまくいかず…涙)

上記の記事によると、石油メジャーの一角を占めるエクソンモービルに対し、気候変動(気温が2℃変動した場合)が及ぼすエクソンモービルへの影響」について分析・開示を要請する株主提案に対し、資産運用業最大手のブラックロックをはじめとして、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズやバンガードといった大手の機関投資家が支持したことによって、62.3%の賛成で可決されたようです。

パリ条約の動向にかかわらず、気候変動がエネルギー会社の動向に大きな影響を与えることは論を俟ちません。
そして、気候変動は長期的なテーマであることから、同社への影響も長期にわたることが想定され、長期的な投資家として機関投資家が懸念するのは自然であるように思えます。

もちろん、エネルギー会社をはじめ、多くの会社が気候変動に対し関心を持ち、環境問題に体制のある事業ポートフォリオの構築に努めたり、環境保護に取り組んだりしているのですが、それでも気候変動の影響を逃れることはできませんし、特にその影響が大きいエネルギー会社は真摯に向き合い、投資家に対しても今後のパフォーマンスについて説明が求められると思います。

記事中にもありますが、これまで機関投資家はその議決権行使に際しては会社側に対して反対することはあまり多くなかったように思います。
とはいえ、近年は一般投資家や年金基金のお金を預かっている機関投資家に対して、より企業価値を向上させるような議決権行使、あるいは投資先との対話が求められており、その潮流が実を結んだのがこの議題であったともいえます。

実際、エクソンモービルの少し前にはOccidental PetroleumやPPLといったエネルギー会社でも同様の株主提案が可決されており、他にも50%をわずかに下回り惜しくも否決された、という事例もあるようで、エクソンモービルだけの動きではなく、投資家、特に機関投資家の姿勢が変わってきていることを示唆しています。

ここで重要なのは、大手資産運用会社がこのような分析・開示を求めているのは、単に気候変動を防ぎたいという動機ではなく、それが企業の業績、ひいては機関投資家の運用パフォーマンスに影響するため、投資判断に資するための情報開示を求めている、ということです。
つまり、パフォーマンスを求めて行動する機関投資家が、自然な流れでESG(環境・社会・ガバナンス)投資の方向に動いているといえます。

ESG投資、あるいは社会的責任投資(SRI)というと、「良いことを求めてもパフォーマンスにつながらないのでは機関投資家としての責任を果たしていない」という、善行とパフォーマンスは相反するといった見方をされることもありますが、ESGの各要因が企業業績に影響を与えるようになってくると、機関投資家の投資行動も自然にESGを考慮したものになり、かつ、議決権の積極的な行使を通じて、実際に企業の行動を変えることもできるようになるのではないかと感じました。

そしてこれは、機関投資家の投資サービスの新たな一面を映し出す結果になったとも思います。
例えば資産運用会社が投資信託や自社の運用サービスをアピールするとき、基本的にはパフォーマンスや今後の見込みを中心に行います。
それは、投資家が求めるものがリターンのみであるという考え方によるものだと思います。

しかし、今回明らかになったように、機関投資家はパフォーマンスを出すだけでなく、会社のあり方を変える力も持っています。
そうであるなら、投資先企業の行動を良いものにするように働きかけていく、ということ自体が機関投資家の投資サービスの価値であると思います。

実際我が国においても業界ルールや日本版スチュワードシップコードに基づき、資産運用会社は議決権行使結果を公表していますが、積極的にアピールするには至っていません。

しかし、5月29日に改定された改訂版の日本版スチュワードシップコードにおいて、賛同する資産運用会社は個別議案ごとの議決権行使結果の公表を求められることになりました。
したがって、各機関投資家の議決権行使に対する考え方がより如実に表れますし、差別化のチャンスにもなると思われます。

我が国においても議決権行使結果自体を差別化のツールとして捉え、ESGの観点から積極的に企業に働きかけ、企業価値の向上と社会課題の改善を両立するような資金の循環(インベストメント・チェーン)ができていけば、自然と我が国の資産運用業も発展していくのではないかと期待しています。

ちなみに、記事中では投資家の「反乱(rebellion)」と書いていますが、本来は投資家は会社のオーナーであり、「反乱」というのは筋違いです。
当然記者もそのことはわかっているはずで、あえてこの表現を使ったのは、実際には大企業の経営陣に対して株主のコントロールは限られていて、実態として経営陣の意向に反する株主提案がほとんど通らないという実態があるのでしょうが、これも示唆に富んでいるといえます。
もしかしたら、これが株主と経営者の関係を変えていくきっかけになるのかもしれません。

そのように資産運用業の未来を考える上で、今回のエクソンモービルの事例は、大変示唆のあった出来事でした。

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研究内容発表(本番)

私が所属する大学院では、修士課程も博士課程も初年度は教授陣及び1年生の前で研究内容のプレゼンをすることになっています。
4月から毎週修士課程の方が研究計画を報告されていたのですが、ついに自分の番が回ってきました。

持ち時間が厳格に決まっているうえ、博士課程である以上、修士課程よりも厳しい質問が来ることが想定されるため、プレゼンの準備は念入りに行いました。
前夜には一人で何度もプレゼンの準備を行い、声がかれてしまいました(笑)
こんなにプレゼンの準備を頑張ったのはMBA時代以来で、懐かしい気持ちになりました。

当日は験を担ぐため、先日仕立てた北条氏康スーツを着用。
気合が入ります。

業務終了後、早めに学校についてからも、何度も資料を確認しながらプレゼンのイメージトレーニングを行っていました。

そして、いよいよ自分の番。
深呼吸して全員の前に立ちます。
この緊張感はやはり慣れません。

とはいえ、話を始めると、練習もイメトレもしていますので、何とか口が動きます。
早口になってしまうこともありましたが、頭が真っ白になることなくプレゼン終了。

とはいえ、正念場はプレゼンそのものではなくその後の質疑応答。
百戦錬磨の教授陣による鋭い質問をどのようにさばくかが課題です。
案の定、教授陣からは説明内容や研究計画に鋭く切り込まれました。

ただ、幸いなことに社会人大学院生として、実務を基に研究計画を立てており、法律論や研究ということについては本職の学者に及ぶところではないものの、実務との関係ではこちらが本職ですので、一方的に攻め込まれるということはあまりありません。
実際、テーマ設定の適切性については突っ込まれましたが、あとは業界慣行や実務に関する質問で致命傷もなく質疑応答をこなせました(多分…)。

テーマ設定の適切性については、実は入学試験の時に面接で指摘されていて、今回はそれにも配慮したプレゼンをしていました。
したがって、テーマ設定の変更についてはある程度想定の範囲内で、こちらは早めに対応することを考えています。

何とか最初の関門を乗り切りましたが、これはまだ第一歩。
法学のバックグラウンドが全くない人間にとって学ぶことは莫大です。

ちなみに私の研究テーマは、投資運用業者(特に投資信託委託会社)の忠実義務
運用会社の忠実義務とは何か、ということを他の契約形態や海外の考え方などと比較して明らかにしていきたいと考えています。
その結果として、運用会社・運用業界がより投資家の信頼を得られるように貢献していけたらと思っています。

これから当分の間、与えられた課題はなく、自主的に勉強を行っていくことになります。
一人で大海原に飛び出した気分ですが、大きな海図を読めるよう、また、書けるように頑張っていきたいと思います。

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北条氏康スーツ

プロ野球選手やアイドル、アニメのキャラクターなど、人気者に関連するグッズはたくさんありますが、やはり好きな人やものに関係するものは身につけたり身近なところに置いておきたいと思うのがファン心理だと思います。

かくいう私も結構好きなものにハマる性格で、好きなアニメやプロ野球選手のグッズを買うこともしばしばありました(オタクというなかれ、ファン心理です)。

さて、私の最も好きな歴史上の人物に北条氏康という人物がいます。
戦国大名北条氏の三代目当主で、武田信玄や上杉謙信のライバルとして知られますが、私が歴史好きになるきっかけとなった人物でもあります。
となれば、彼に関連するものがほしくなるというのがファン心理というものです。

そんな北条氏康好きの前に現れたグッズが、北条氏康スーツ
スーツであれば、仕事中違和感なくずっと身につけていることになるので、ある意味最高のグッズといえるかもしれません。

ということで、北条氏康スーツを作ってみました。

まずは全体。

生地は格子柄のものにしました。
これは、北条家独自の築城技術である障子堀や畝堀をイメージしたものです。

畝堀とは堀を格子状に分割したもので、攻め手の勢いを緩和する仕組みです(下の写真は山中城の畝堀)。

スラックスには、小田原・箱根特産の寄木細工のボタンがついています。
ちなみに小田原は北条氏の本拠地です。

ジャケットの内側にも寄木細工のボタンがついています。

ジャケットにはこのスーツの特徴でもある北条氏の虎朱印「禄寿応穏」の織ネーム。
禄寿応穏とは、民衆の財産と生命が穏やかであるように、という意味で、以下に北条氏が善政を心掛けていたかが伺えます。
ちなみに、虎朱印とは代々の北条氏当主が文書に押印した印鑑で、現在でいうと代表取締役印といったところでしょうか。

ジャケットの中はこんな感じ。
ちなみにポケットのカラフルな部分は、北条氏康を支えた五色備をイメージしています。
黄備を率いた北条綱成は河越の戦いをはじめとして、氏康の覇業を支えた勇将として特に知られています。
また、上下のラインは、よく北条氏のイメージとして使われる黄緑色を使用しました。

袖口にはやはり五色備をイメージした五色のボタン。
袖口のリボンも五色備のイメージです。

大事なプレゼンが迫っていたので、このタイミングでスーツを受け取ることができてよかったです。
プレゼンのときはこのスーツを着て、氏康公のお力添えをいただいて無事に乗り切りたいところです。

今のところ、北条氏康のほかに織田信長、石田三成、真田幸村、島津義弘のものがありますので、ご関心のある方は是非作ってみてはいかがでしょうか。

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