文化財学講読Ⅰ(1)

歴史を実感するにはまずモノから?

世の中には自分も含め歴史が好きなが人が多いですが、一言で「歴史が好き」といっても好きな対象は様々です。
好きな時代、地域はもちろん、人物が好き、文化が好き、遺物が好き、など様々です。

そして当然そのタイプによって歴史へのアプローチも異なってきます。
歴史上の人物が好きな人は歴史学者や作家が書いた書籍や文献資料などを積極的に読むでしょうし、文化が好きな人は美術館や博物館で遺物や芸術作品などを楽しむことが多いと思います。
自分自身歴史の好きなポイントを一つ挙げるとしたら歴史上の人物やその行動を知ることが好きなので、書籍で歴史に触れることがほとんどです。

しかし、歴史上の人物、あるいは過去に生きた人々の存在や事績を最もよく感じるのは、彼らが残したモノだと思います。
城郭や神社仏閣、遺跡などの建造物やもちろん、日用品、武具、農具、衣類など過去の人が実際に使っていたものを見ると、確かに過去に人がいて生きていたんだということを感じます。刀剣や甲冑などの武具を見るとこれで戦っていたんだと少々怖くもなります。歴史としての中世は好きですが、生々しい創造をすると複雑な気持ちですね。
中世どころか太平洋戦争などの爪痕を見ることも少なくありませんが、それくらい近い時代になるともはや完全に他人事として見ることはできなくなります。語り部の方と同様、モノで戦争の跡を残していくのはどのような立場であれ戦争を少しでも自分事として感じるために大事なことだと思います。

このように、考古学的観点ではもちろんですが、さらに歴史の専門家でもない私たち一般の人間が自分とつながった存在として歴史を感じるには遺構や遺物といった時間を経てきたモノが不可欠です。
そしてそのモノを私たちが目にするには、当然それを発見・発掘しなければなりませんし、その上で適切に状態を維持し、保管することが必要です。せっかく発掘できても適切に保管できなければすぐに状態が悪化して観察に耐えなくなるかもしれません。
その意味で、遺構や遺物、すなわち文化財を保護する学問(文化財学)は歴史学、そして私たちの歴史観を育むために大きな貢献をしていることは間違いないでしょう。

私も博物館などで遺物を見るのは好きですし、ちょっとした遺跡・史跡を歩くのも楽しいので、そのようなものをどのように保存するのか関心がありました。
そしてそのテーマを扱っている科目が「文化財学講読」です(最初に受講するのはⅠ)。
歴史学系の学部ならでは授業と言えそうです。

指定テキストは「文化財保存科学ノート」という書籍でした。
その名のとおり、文化財の保存科学がどのようなものかという概説から始まり、後半では文化財のカテゴリーごとに具体的な保存方法が解説されています。

独学で勉強すると概説を飛ばして具体論から入りがちですが、大学のカリキュラムだけあって基礎から学ぶようになっているのはよかったです。
やはり全体像をつかんでから各論に入る方が整理しやすいと思います。

 

 

モノを扱うには人文科学だけでは足りない

文化財学は歴史学だけど「文系」ではない

私は今まで学生として経済学・経営学・法学という社会科学畑で、今回初めて人文科学を学ぶことになりましたが、先に勉強した民俗学も含め今まではいわゆる文系分野でしたので自然科学について学ぶことはほとんどありませんでした(経済学部では数学・統計学を学びましたが)。

しかし、歴史学の一分野とはいえ文化財学は実際にモノを扱う分野であり、そこではいろいろな科学技術や化学物質が使用されます。
そのため、文化財学を学ぶ上で自然科学分野の学習は避けて通ることはできません。

では、具体的にどのような内容の学習が必要なのでしょうか。

 

文化財学はどのように自然科学と関わるのか

遺物が発掘されたときにその材質を確認することになりますが、発掘された状態では脆いですし環境の変化の影響も受けやすいのでまず保全を図ります。
材質によって行う処置は異なりますが、木材の場合は水分を含んでいるのでその水分を取り除く必要があります。
しかし、木材遺物はその水分によって形質を保持しているので、ただ乾燥させて水分を除くだけだとひび割れたり収縮して変形してしまいます。そうなると遺物としての役割を果たすことができません。
そのため、発掘現場では散水するなど乾燥を防ぐ一方で保全処理としてはポリエチレングリコール等を使用して水分を置換するなどの対応が行われます。
その置換も遺物の状態によって最適なポリエチレングリコールの濃度が変わったり使用する薬剤が異なることもあるので、木材・薬剤両方の知識が必要になります。

また、保全の過程で材質の確認を行いますが、脆い遺物を分析するにはあまり触れたり破壊したりすることは望ましくなく、非破壊検査が重要になります。
非破壊検査の手法としてX線(放射線)や赤外線・紫外線が用いられますが、これらは遺物の状態や分析の内容に応じて使い分けられるため、このような物理・光学の分野からも目を背けることはできません。

文化財保存は動産である遺物だけでなく住宅等の不動産である遺構も対象となります。
遺構は主に土と石で構成されるという点では同じ材質の遺物と同様の処置がとられるべきですが、遺物と比べサイズが格段に大きいですし動かすこともできないので、遺物とは異なる対応が必要になることもあります。
例えば土でできている遺構は水に弱いですが近くに地下水が流れていることもあるのでその場合は地下水と遮断する処置がとられることがあります。
また移動させて展示をすることができる遺物と異なり遺構は基本的には動かすことができずその場での展示になりますので、自然環境と展示を両立させる工夫が求められます。
また古墳も遺構・遺跡に含まれますが、その石室を調査する際には外気に極力触れさせないなどの配慮も必要です。
この他にも遺物と同様に薬剤や樹脂を使用して遺構を補強するといった対応が行われ、やはり自然科学の知見が必要になります。

このように、材質の分析においては光学的・物理的な内容が、遺物・遺構の保全については化学的な内容が知識として求められるというように感じました。
この科目では基礎的な内容がメインでしたので、個々の薬剤や処理方法の名前を覚えることまでは必要ではなく、材質の分析・遺物の保護のために行う作業やその目的を概括的に把握できれば学習の目標に到達したと考えていいのかなと思っています。
ただ、実際に文化財保護に携わる際には薬剤についてより深く正確な知識を身に着ける必要がありますし、材質分析などに使う機械の使用方法や文化財の扱い方も学ぶことになりそうです。

ちなみに奈良大学には実際に学校に行って学ぶスクーリング科目として「文化財修復学」があり、その中で実際の文化財保護の作業を経験することができるようです。
もっとも今年は新型コロナ感染防止のためスクーリングも在宅になってしまったのですが、来年も受講できるのでその頃にはスクーリングが再開されているよう祈っています。

 

小田原市郷土文化館(と五代ちゃんTシャツ)

文化財学講読Ⅰもテキストを読んでレポートを書き、合格の場合は単位認定試験を受けて単位取得という流れです。
レポートの内容は文化財学の概要と任意のカテゴリーの文化財の保護方法について論ずるというものでしたが、文化財の保護については概ね上記のような内容を記載したところ、無事に合格していました。

レポートにも記載しましたが、文化財学は人文科学である歴史学と自然科学の融合であり、また決して自然科学頼りというわけではなく歴史学や考古学、美術史学など多様な分野の知見が求められるユニークな学問だと思います。
それ故に敷居は高く感じますが、学ぶ分には気づきも多く文化財保護のイメージもわいて面白かったです。

ついでに、文化財学を学んだあとに感じたことを書いてみたいと思います。

知識が増えると興味が広がり、アンテナの感度が増す

どのような分野でもそうですが、新しいことを知ると今まで意識しなかったものに気づいたり、自分のアンテナの感度が増す感覚が生じます。

奈良大学のカリキュラムで民俗学・文化財学と勉強してきましたが、民俗とか文化財の保護のことを知ると、今まで何度も通りかかりながら(トイレ以外に)入ることのなかった小田原城内にある小田原市郷土文化館に興味がわいてきました。

 

 


小田原城内にある小田原市郷土文化館

郷土文化館内では奈良時代から現代に至る小田原ゆかりの文化財・民俗資料が展示されていました。
大きな博物館ほどではないですが、各時代の文化財が展示されていて、これはこのように保存されているのか、などと学んだことを思い出しながら見学することができました。
学んだ内容をすぐに活かせるのは楽しいです。

また、館内には石造物調査ボランティア募集の案内のチラシがあり、これもまた興味を惹かれました。
学んだことを活かすだけでなく、歴史が好きな地元の知り合いを作るという意味でもこのような活動に参加するのは有意義な気がします。

ただ人見知りな性格に加え、今はまだ仕事と学習の両立を優先したいので考え中ですが、いつかは挑戦してみたいと思っています。

 

五代ちゃん!!

文化財学とは関係ないのですが、小田原城といえば私が好きなキャラクターに後北条氏の当主たちをモチーフにした「五代ちゃん」というのがあります(作者の方は主にTwitterで活動されているようです)。

 

 

私もTwitterでいつも和ませてもらっているのですが、今般五代ちゃんのTシャツが販売されるということですぐに購入しました。


ちなみに背後の「ねこぺん日和」も大好きです。

後北条氏好きが高じて小田原城近くに居住している身としては、五代ちゃんグッズを身に着けて小田原城を歩くのが夢でした。
ということで、これから小田原城を散歩する際には積極的に五代ちゃんTシャツを着ていこうと思います。
もし小田原城で五代ちゃんTシャツを着ている人がいたら高い確率で私だと思いますので、お声がけいただけると嬉しいです(笑)

カテゴリー: 奈良大学通信教育部 パーマリンク

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