アセットマネジメント業界の魅力(5)

この記事では、アセットマネジメント業界の魅力を何回かに分けてお伝えします。
1.アセットマネジメント業界とは?
2.アセットマネジメント業界におけるキャリア形成
3.アセットマネジメント会社の待遇や労働環境
4.アセットマネジメント会社のコンプライアンスというキャリア
5.新規参入が相次ぐ資産運用業(本記事)

大きくなる資産運用業の存在感

資産運用業を取り巻く環境

低金利、財政難、年金不安などに伴う自助努力の必要性の拡大、さらにはNISAやFintechなどの展開などによって資産運用の必要性・重要性に注目が集まっており、資産運用業の存在感が高まっています。

しかも、よく知られているように日本では家計の金融資産が約1,800兆円ある中で、株式や債券、投資信託などのリスク性資産への投資は約16%(2018年第1四半期日銀資金循環統計)と、50%程度の米国や30%程度のユーロ圏に比べると割合が低く、今後の投資市場の拡大が期待されています。

 

※もっとも、そんなことを言ってるところに、実は投信残高は増えてなかったという報道があったりもするので、実は思ったほど存在感は高まってないかもしれませんが…(涙)

 

 

 

相次ぐ新規参入

そのような状況から、資産運用業は将来性のある業界として認識されることが多く、国内外から異業種も含め、資産運用業界への参入が相次いでいます。

最近の事例ですと、2017年8月に英国の大手資産運用業者であるLegal & General(2017年末時点で運用資産規模世界11位)が日本で投資運用業者の登録を受けていますし、異業種からの参入として、2018年6月のKDDIの参入(KDDIアセットマネジメント。大和証券グループとの合弁)が記憶に新しいところです。

 

※世界の運用会社ランキング(2017年末現在)

 

もちろん、これらに限らず多くの運用会社が毎月のように日本の資産運用業界に参入し、新しいサービスの提供を試みていることから、業界における切磋琢磨が促進され、一層発展していくのではないかと思われます。

 

 

当局は資産運用業をどのように見ているのか

金融庁が促す新規参入

金融庁を始めとする当局も資産運用業を成長分野と位置づけており、資産運用業発展のために様々な政策を展開しています。

特に外資系運用会社は日系運用会社がなかなか自前では展開できない海外運用に強みを持っており、今後の資産運用業界の発展に寄与することが期待されていることや、東京をアジア・世界における金融センターにするために、積極的な誘致策が実施されています。

例えば金融庁では、日本拠点の開設を行う海外の資産運用業者に対して金融法令の手続き等に関する相談窓口を設置し、迅速に日本拠点の開設が行われるようなサポート(金融業の拠点開設サポートデスク)を提供しています。

ちなみに前述のLegal & General社の事例は当該サポートデスク初の登録完了案件です。

 

 

 

 

また、登録その他日本での事業展開に伴う諸手続きについて海外の資産運用業者にもきちんと理解してもらえるように、英語で解説書を作成・公開するなど、海外の資産運用業者に対してかなりの配慮がなされています。

 

 

 

また、異業種からの参入についても、Fintechについては「Fintechサポートデスク」開設したり、「Fintech実証実験ハブ」を設置して実証実験の容易化を図ったりするなど、Fintechの実用化の促進を目指しています。

 

 

 

 

なお、意味合いは異なりますが、金融庁は投資信託の販売会社に対して、比較可能な共通KPIの数値の公表を促していることから、従来以上に運用会社の運用能力が問われることが想定されます。

そのような観点からも運用能力のある運用会社の我が国の資産運用業への参入が期待されるところです。

 

 

 

東京都が目指す国際金融センター構想

資産運用業による業界の発展を願うのは金融庁だけではありません。

アジアにおける国際金融センターの地位を確たるものにしたい東京都も、資産運用業者の集積を図ることで国際金融センターとしての東京の魅力を高めようとしています。

周知の通り、アジアには東京のほか、香港・シンガポール・上海などの国際都市があり、金融センターのランキングとして知られるGlobal Financial Centres Indexでは、2017年時点で日本は世界5位の国際金融センターとして位置づけられており、アジアでは香港・シンガポールに次ぐ3位になっています。

 

 

新しい金融商品やサービスは金融機関が集まっている場所でローンチされることが多く、実際日本ではなく香港やシンガポールにおいて新しいサービスや運用手法が導入されるということもちらほら耳にします。

そのため、日本において金融業の競争力を高めるためには金融機関にとっての魅力を高めて国内の金融業に参入してもらう必要があり、東京都としても各種の誘致策を展開しているのだと思います。

 

最近の取り組みとしては、新規参入業者によるミドル・バックオフィス業務の委託費用の補助や新規参入運用業者のファンドへの投資に対する補助などがあるようです。


出所:東京都資料

 

 

 

 

さらに我々のニーズに応えてくれる金融業者の育成やESG投資の促進のため、東京金融賞という制度を制定し、魅力ある業者、運用サービスの誘致を目指しているようです。

 

 

 

キャリア形成で意識すべきこと

このように、多くの資産運用業者の新規参入、あるいは新しい分野のサービスの展開が期待される中、キャリア形成においてはどのようなことを意識すればよいのでしょうか。

 

自分自身まだ中堅ですし、人様に対して「どうすべき」などと言える立場ではないですし、今後業界がどのように変化していくのかわかりませんので正解はないかもしれませんが、個人的には下記のポイントは抑えておきたいと思っています。

 

英語

海外からの新規参入業者は外資系運用会社であるため、新規参入業者で働くためには英語が必須です。

特に新規参入時点では役職員の数が少ないため、入社すると分野を問わず責任のあるポジションに就く可能性が高く、海外の上司や同僚と直接コミュニケーションをとる必要があるため、読み書きはもちろん、聴く・話す能力も重要になると思われます。

例えば、運用会社にはコンプライアンス担当者が必ず一人は必要なので、私のような中堅の人間にもコンプライアンス担当者としてのお声がかりがあったりします。
そしてコンプライアンス担当者は一人なので、当然に日本におけるコンプライアンスの責任者となり、海外に対して直接レポートを行うことになります。

したがって、新規参入の促進による大きな責任・裁量のあるポジションでのチャレンジの機会の取得や雇用の安定といったメリットを享受するためには英語力が重要になってきます。

そのため、今後も英語力の維持・向上に努め、新規参入業者からも即戦力として期待される人材になりたいと思います。

 

オペレーションの理解

海外や異業種から資産運用業に参入が相次いだとしても、資産運用業の仕組みやオペレーションに大きな変化はないと思います。

したがって、新規参入業者で活躍するためには、現在資産運用業界で運用されているオペレーションについて理解しておくことが必要だと考えています。

特に新規参入業者の場合は人数が少ないことから、自分がオペレーションを理解していないと担当業務、あるいは会社を適切に運営することができないかもしれません。

逆にオペレーションを理解していれば、自分の担当業務はもちろん、会社全体に対して影響力を持てるかもしれません。

分業が確立している大きな運用会社はともかく、従業員が数人程度の新規参入業者で大きな責任と裁量に挑戦するのであれば、どの分野で働くにしてもオペレーションに関する基本的な知識はあったほうがいいと思います。

自分の場合、昔から投資信託のオペレーションに興味があったので、今でもオペレーションを担当している知人に教えを請うことがよくあります。

特にコンプライアンスの場合、オペレーションと規制は重要な関係にあるため、オペレーションに対する理解は重要だと考えていますし、コンプライアンス担当者としての市場価値を向上させるものだと信じています。

なお資産運用業のオペレーションを軽視する人も見かけますが、そういう人は少なくとも小規模の資産運用会社での勤務、あるいは運用会社の経営者には向かないと思います。

 

新しい技術やトレンドの理解

Fintechの進展や海外における運用手法の発展に伴い、我が国の資産運用業におけるサービスの展開も変容していくことが期待されます。

その影響は新規参入業者のみならず、既存の運用会社にも及ぶことが想定されるため、新しい技術やトレンドについてはある程度理解しておいたほうがよいのかと思います。

例えば、今後ブロックチェーンを活用した運用手法が導入される場合、どのようなポジションであっても、ブロックチェーンがどのようなものかを全く知らないで業務を行うことは難しいでしょう(実際ブロックチェーンを活用した債券の発行の事例はあるようです)。

小さな組織で働くなら、なおさら人に頼らず自分で勉強する必要があると思います。

 

 

こうして書いてみると、なかなかストイック…(汗)

現時点でこうしたことをすべて高いレベルでできているわけではないですが、このような点を意識して仕事をしていけば、きっとどの会社でも求められる人材になれると信じて、日々過ごしていきたいと思います。

あとは、ブログの運営や法学博士号取得及びその後のアカデミックな情報発信によって、自分を業界でもユニークな存在としてブランド化(?)して、より充実した仕事をしたいと思います。

もっとも、今までの人生は高い目標を掲げて70点位で推移するのが常なので、今後どうなることやら…

 

ともあれ、今後も成長が期待される資産運用業界に国内外・業界外(あるいは学生)から多くの優秀な方が集まって、業界が盛り上がっていくといいなと思います。

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