コフィ・アナン元国連事務総長を悼む

コフィ・アナン元国連事務総長死去

カリスマ事務総長・アナン氏の足跡

2018年8月18日に、コフィ・アナン元国連事務総長が亡くなったという報道がありました。

 

国際政治や彼の経歴について詳しいわけではありませんが、国連の生え抜き職員で、PKO(平和維持活動)の指揮をとったり、湾岸戦争時には900人の国連スタッフの脱出及び人質解放の交渉にあたったり、米国のイラク攻撃に反対したり、あるいは国連改革について積極的に動いたり、と国連主導の平和維持に貢献された偉大な方だと思います。

なお、その活動が評価され、2001年には国連と連名でノーベル平和賞も受賞しています。

 

国際政治だけでなくミクロな視点での社会的課題の解決に取り組む

しかし、個人的には国際政治における活躍だけでなく、もう少しミクロな分野におけるリーダーシップこそ、アナン氏の先見性や人類における貢献なのではないかとも思います

アナン氏の貢献された分野は幅広く、少し調べただけでもいろいろ出てくるのですが、私が特に印象に残っているのは、2000年の国連ミレニアム・サミットでミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development Goals)の設定に貢献したことや国連グローバルコンパクト(UN Global Compact)責任投資原則(PRI: Principle of Responsible Investment)を立ち上げ、公共部門だけでなく民間セクターも巻き込んで社会的課題を改善する仕組みを築き上げたことです。

アナン氏は1997年に国連事務総長に就任してすぐに国連改革案を提示しましたが、その中で民間セクターの役割を重視し、民間セクターを国連の重要なパートナーと位置付けて社会的課題に取り組んでいくことを主張しています(下記文書のP22 No.59及び60参照)。

 

貧困や環境問題といった社会的課題に取り組むのは公共部門の役割であるというのが伝統的な考え方でしたが、アナン氏はそれを否定し、存在感を増しつつあるNPOや企業部門との連携によって効率的に社会的課題を解決できると唱えています。

日本でも1995年の阪神大震災を契機としてボランティアに対する注目が高まり、1998年には特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)が制定されていますが、その時期にはすでにアナン氏は世界規模で民間セクターと協働することについてのビジョンを持っていたことになります。

今では欧米各国はもとより、日本においても多くの分野でNPO/NGOが社会的課題の克服に取り組んでおり、アナン氏の先見性が証明されているとも言えそうです。

 

アナン元国連事務総長が遺したフレームワーク

前述のようにアナン元事務総長は民間セクターの役割を重視していたため、民間セクターを巻き込んだフレームワークを築き上げました。

それらは設立されてからそれなりに時間が経っているにも関わらず、依然として行動指針としての有効性を失っていないばかりか、近年さらにその影響力が強まっています。

それは民間の非営利セクターだけでなく、営利セクター、すなわち一般企業に対しても影響力を持ちつつあります。
金融業界もその例外ではなく、改めてアナン氏の影響力を感じています。

彼が残したフレームワークの中で、特に印象に残っているものをご紹介したいと思います。

ミレニアム開発目標(MDGs)

彼が国連事務総長に就任したのは1997年。
節目の2000年まであとわずかです。

その節目を迎える中、世界には依然として貧困や病気、機会の不均衡に苦しむ人たちがいました。
そこで、国連ではそのような社会的課題に取り組み、人類全体の生活水準を向上させるため、大規模な国際会議を行うことになりました。

それがミレニアム・サミットで2000年9月に国連本部において開催されました。
各国の首脳のみならず多くの分野の人が集まったようで、少なくとも当時においては史上最大の人数が集まった国際会議だったようです。

ミレニアム・サミットでは多くの分野において議論がなされた結果、最終的に8つの分野で開発目標(MDGs)が設定されました。
この目標は、世界最大の会議で合意されたことにも意義がありますが、5年ごとに定量的にレビューがなされることとされたことが大きな特徴だと思います。

 国連広報センター 
ミレニアム開発目標 | 国連広報センター
http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/social_development/mdgs/
2000年9月にニューヨークで開かれた国連ミレニアム・サミットで189人の世界の指導者は「ミレニアム宣言」を承認した。極度の貧困を削減し、安全でより繁栄した公平...

 

アナン氏はミレニアム・サミットに先立ち、国際社会が超面する課題と21世紀に国連が果たすべき役割を示したレポートを提示し、国際社会の意見集約に勤めるなど、サミットにおいて果たした役割も大きく、彼自身自分のキャリアのハイライトとしてミレニアム・サミットを挙げているほどです。

 

そして現在は2015年に設定されたMDGsの後継である持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)が走っています。

SDGsは行政のみならず一般企業でも取り組みに力を入れている会社が多く、例えば証券業界の業界団体である日本証券業協会もSDGsに力を入れていて、投資分野における社会的課題への貢献が期待されるところです。

 

このようにSDGsやそれを企業において具体化するCSR(企業の社会的責任)が普及するしているのを見ると、アナン氏の取り組みの先見性に感銘を覚えます。

 

国連グローバル・コンパクト(UNGC)

民間セクターとの連携に意欲を示すアナン事務総長はビジネスセクターが担うことのできる役割についてもビジョンを示しました。

1999年、ビジネス界のリーダーが集まる世界経済フォーラム(ダボス会議)にてそのリーダーたちに、ビジネス界が国連と協働して社会的課題に取り組むことの意義を提唱し、2000年には国連本部にて「国連グローバル・コンパクト」と称して、そのイニシアティブに同意する企業と国連が協働して社会的課題に取り組む活動が始まりました。

国連グローバル・コンパクトは「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」に関する10の原則について同意した企業が署名するもので、現在13,000を超える団体がその趣旨に賛同して署名しています。

 

日本においても近年企業の社会的責任(CSR)が注目されていることを考えると、これもまたアナン氏の見通しの確かさを示していると言えそうです。

自分も学生の頃、企業の社会的責任に関心があったのですが、当時注目されつつあった企業の社会的責任の背景に国連グローバル・コンパクトがあったのだとしたら、アナン氏の取り組みが自分の生き方、考え方にも多少影響していたのかもしれません。

 

責任投資原則(PRI)

責任投資原則(PRI)とはその名の通り、運用会社や資産管理会社(年金基金を含む)が、その運用にあたって社会的な配慮を行うというもので、その趣旨に賛同する運用会社や年金基金が署名して、各々その運用プロセスにおいて社会的な要素を組入れていくことが求められます。

 

国連グローバル・コンパクトでは企業に対して社会的課題に向き合うよう要請しましたが、PRIは機関投資家に対して社会的な要素を考慮することで、社会的課題に向き合う起業に対して資金調達の面から支援するとともに、間接的に個人投資家のお金が社会的課題を無視した企業に投資されるのを防ぐという面があります。

このPRI設立を主導したのもアナン元国連事務総長です。
2005年に機関投資家に対してPRIの趣旨に賛同するよう呼びかけ、2006年に正式に発足します。

下記のグラフは2006年4月~2018年4月(年次)のPRIに賛同する運用会社・機関投資家の数(右側)と資産の額(左側、US$ trillion)ですが、2006年に小さく始まったPRIの取り組みが2018年には大きく成長しているのがわかります。

(出所:PRIウェブサイト https://www.unpri.org/about-the-pri

 

私が資産運用業界に関心を持った10年ほど前には、日本の運用会社でPRI署名している会社は数社でした。
しかし、ESG投資(環境・社会・ガバナンスといった社会的要素に配慮する運用)が注目される現在は60社を超える運用会社・機関投資家がPRIに署名しています。

このようにアナン氏の「民間セクターが社会的課題の克服に参画する」というビジョンは、資産運用業界においても実を結んでいます。

 

行政・民間・金融の三位一体で社会的課題と戦う

このように、アナン氏の基本的なビジョンとして、国連を中心とする行政機関・国際機関が企業やNPO/NGOと連携して社会的課題に取り組み、それを金融が資金面でサポートするということがあったと思います。

そして、それは前述のように、時間が経つとともに社会的に認知され、実行されています。

我が国においても多くの若いNPOのリーダーが活躍していますし、金融面でも企業やNPOをサポートするような動きがみられるようになっています。

もちろん、それはそれぞれの企業やNPO、金融部門の方々の努力のたまものであるわけですが、その大きな流れを作り上げた人が国連にいた、ということは興味深いと思います。

アナン氏の尽力によって、多くの社会的課題の分野で改善がみられるものの、まだまだ社会的課題の根絶には至っていません(だからこそSDGsが新たに策定されたと言えます)。

そして、貧困や社会的人権の問題は発展途上国だけでなく、先進国である日本でも他人事ではない状態です。
実際、貧困や差別・いじめなどに関する報道は後を絶ちません。

アナン氏のフレームワークを用いるならば、国内においても多くの社会的課題に行政・民間・金融の三位一体で取り組むことが有益だと考えられます。

金融業界の一員として、あるいは一人の民間人として自分が何をなすべきなのか、ということについてまだ答えは出せていませんが、アナン氏のビジョンを頭の片隅に置きつつ、自分の周りにも社会的課題があることを意識していきたいと思います。

そして、いつかは何らかの形でアナン氏の三位一体の一員となって小なりといえども社会的課題の克服に貢献できたらと思います。

 

どうぞ、安らかに。

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