歴史と法の交わるところ

法律に近いところで仕事をしていると、法務に関する雑誌を読む機会がそれなりにあります。
法律と言っても雑多ですし、金融に限っても銀行業と保険業、証券業・資産運用業では適用される法律も違えば実務も異なるので、読む雑誌のすべての記事が業務に直接役立つわけでもないのですが、他業種の話も参考になることが多いので、極力いろんな記事を読むようにしています。

先日も雑誌を読んでいると興味深い記事がありました。
業務とは関連のない倒産手続き関連の論文なのですが、タイトルに「村上水軍」とあり、目を引かれました。
タイトルは、「今治海事クラスターにみる村上水軍の系譜(上)」(金融法務事情 No.2078、2017年11月)。著者は大手弁護士事務所・西村あさひ法律事務所の園尾隆司弁護士です。

書き出しも独特でした。
今治というと、多くの日本人が思いつくのは今治タオルとバリィさんであろう。
その通り、と言っていいかわかりませんが、個人的には確かにその二つくらいしかイメージがありませんでした。
もしかしたら今治がどの都道府県の市かも知らない人が大半かもしれません(愛媛県です)。

しかし、著者は続けて今治が世界有数の海事産業集積地であること、その拠点が中世の村上水軍の居城があった場所であることを指摘しています。

この論文の主旨は著者が担当した国際海運会社の民事再生事件の中で今治の船主の方に村上水軍哲学を感じたので、その哲学と日本型債権者行動の関連を明らかにするということなのですが、この論文の面白いところは、かつて今治付近で活躍していた村上水軍の歴史を滔々と語るところにあります。

歴史上、水軍・海賊はどのような存在であったのか、その中で村上水軍はどのような変遷をたどってきたのかを考察していきます。
まだ前半しか刊行されていませんが、前半はひたすら村上水軍の歴史の話です。
その前後は金融実務・法務の記事ばかりなので、かなり浮いています。
しかし、そのユニークさがかえって面白いと感じました。

民事再生については専門外のため、業務に活かすことは難しいですが、いずれは資産運用業界内や学術的な分野で情報発信をできるようになりたいと思っている身としては、自分の好きな歴史と専門分野である法律(コンプライアンス)をこのように掛け合わせて発信することもできるのかと大変参考になりました。

自分もいつか論文などを専門誌に発表することができたら、その時には是非自分の好きな歴史を絡めてみたいと思います。

ちなみに通っている大学院で「いつかは専門誌で論文を出せるようになりたいです」と先生に話したら、「まずは博士論文を書きなさい」と言われました。ごもっともですね。
ということで、まずは博士論文の構成や論旨の補強の仕方などを検討しようと思います。

ちなみにこの論文を読んだとき、年末どこか行きたいな、と考えていたので、せっかくなら風光明媚な松山・今治にしようと思っていってきました。
こういう出会いもまた楽しいものですね。


論文の題材になっていた今治造船を背景に。

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