戦国の貧乏天皇

天皇陛下の「ご意向」が表明されて以降、(象徴)天皇・天皇制のあり方についての議論が盛んになっていますが、言うまでもなく天皇の存在は古くから日本社会にとって重要であり続け、歴代の天皇・朝廷はその存在意義を維持すべく努力を積み重ねてきました。
天皇・朝廷のポジション・存在意義は時代によって異なり、古代や明治~戦前のように絶対的権威として君臨した時代もあれば、武士政権の時代のように、時の政権を権威によって後押しし、間接的に世情の安定に貢献した時代もありました。
そんな天皇・朝廷の存在意義が最も脅かされた時期(の一つ)は室町末期・戦国時代(織田信長の上洛以前)ではないかと思います。
個人的には、天皇の権威とは、権威の受け手となる、ある程度安定した政権があってこそ機能するもので、安定した政権がなく、混とんとして人々がその日の安全や生活にも困るような場合には機能しにくいものなのではないかと思います。
生活に困っていれば、偉い人のありがたいお言葉よりも目先の衣食住が大事になるのは想像に難くありません。
そして天皇・朝廷はその権威の提供と引き換えにその運営をサポートされているという側面があるため、権威の受け手がいない場合には、当然ながらその運営に支障をきたすことになります(戦国時代においても、天皇・貴族の自前の荘園は多少存続していましたが、武士の横領・侵略の憂き目に遭うことが多かったようです)。
そして、その存在価値が低かったゆえに、その時期の天皇については認知度が低く、研究もあまりなされてこなかったようです。
そのような経緯から、一般的にはその日の生活にも困窮しているというイメージが広がっていた戦国時代ですが、実際はどのような状態だったのか関心を持っていたところ、そのものズバリ、渡邊大門氏の「戦国の貧乏天皇」という書籍を見つけたので、読んでみることに(上記の認識も、本書に書いてある内容に基づくものです)。
本書で取り上げられるのは、後花園天皇後土御門天皇後柏原天皇後奈良天皇です。
時期的には応仁の乱から戦国時代中期頃(桶狭間の戦いの前)になります。
後花園天皇の頃の室町幕府の将軍は6代将軍・足利義教。
強権政治で一時幕府の権威を立て直したともいわれますが、実は関東公方・足利持氏が反乱を起こした際(永享の乱)には、義教は朝廷の権威に頼り、後花園天皇より持氏追討の綸旨を受けています。
さらに義教が重心の赤松満祐に討たれる事件(嘉吉の乱)が発生すると、混乱して有効な手立てを打てない幕府を援護すべく綸旨を発しています。
しかも、その綸旨は天皇自ら添削するなど、世情の安定のために強い意志を持っていたことがうかがわれます。
また、市井の民が飢餓貧困に苦しむ中、市民の安寧のために祈祷を行うとともに、御所造営を行おうとする将軍・足利義政に対しては漢詩をもって叱責するなど、人々の暮らしを思いやる気持ちを持っていたそうです。
後花園天皇以降、財政難のため即位式を含め数々の儀式が行われなくなっていきましたが、伝統的な儀式や教養は朝廷の存続のために必要なことから、天皇や貴族たちはそのような環境下でも学問や儀式のリハーサルを続けていたそうです。
財政難を解決するために、寄付をしてくれた大名に官位を与えるなどの苦肉の策をとる一方で、例えば後奈良天皇はその状況を苦々しく思っていたようで、官位をすぐには与えなかったり、公家大名の一条房冬がやはり献金で官位を求めたとき、それを事後的に聞いた後奈良天皇は激怒して返金してしまったというエピソードが残っています。
苦しい現実の中で、少しでも理想に近づこうとしている後奈良天皇の苦心が察せられます。
戦乱と財政難のため、内裏が危険にさらされたり、修繕が十分にできなかったり、と住居にも苦労した天皇・朝廷ですが、それを支えたのは戦国大名たちでした。
戦国大名は権威付けという目的はありながらも、朝廷に寄付を行うとともに、天皇・貴族領を支配している大名の中には、その年貢を朝廷に納付するものもいました(横領されたケースの方が多いのではないかと思いますが)。
戦国の姦雄として知られる宇喜多氏は、実はかなり律儀に朝廷に年貢を納付していたそうで、戦国大名としての顔とは違った一面が垣間見られます。
織田信長登場以降、豊臣政権・徳川幕府と安定した政権が確立されたことにより、朝廷の財政は安定するとともに、それまでとは違った役割を果たすことになります。
戦国時代には財政難で苦労を重ねながらも、自らの存在意義を忘れず、努力を続けていた戦国時代の天皇の姿は、現在とは位置づけは異なるといえどもやはり国家統合・国家安寧の象徴なのだと印象深く読みました。
皇位継承に限らず、今後天皇制がどのような道をたどるのかはわかりませんが、天皇の存在は日本の歴史とは切り離せないものであり、歴代天皇の想いが報われるようなあり方であってほしいものです。
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