一昨年から昨年にかけて「日本版スチュワードシップ・コード」や東証の「コーポレートガバナンス・コード」が策定されたこともあり、それらに関する論点を自分なりに整理しようと昨年論文を書いていたこともあり、最近コーポレートガバナンスに関心を持ち、勉強してみたいなと思っていました。
そんな矢先、知人からコーポレートガバナンスに関連しそうな本の読書会に誘われたので、二つ返事で応じ、早速課題図書を読みました。
それが、ドラマ化されて話題になった「しんがり 山一證券最後の12人」でした。
ちなみに著者は、元読売巨人軍代表で、渡邉氏との確執(いわゆる清武の乱)で知られる清武英利氏です。
本書では、山一證券破綻後において、生活の糧を失いながらも、会社の清算処理と破綻の原因究明のために会社に残った12名の方の活躍が描かれています。
山一證券破綻の背景には、顧客の損失を引き受ける「ニギリ」を清算しなかった上に、それを簿外債務(いわゆる「飛ばし」)として隠蔽していたこともあり、そのような法令違反に当局が最終的には支援を拒否したという事情があります。
当然のことながらその事実はもとより、そのような問題を放置していた経営や組織のあり方、すなわちコーポレートガバナンスに根本的な問題があったとも言えるでしょう。
と言ってみたものの、そもそもコーポレートガバナンスとは何でしょうか。
ガバナンスというくらいですから、組織として意思決定のプロセスが適切に確立・運用されていることはもちろんですが、その意思決定の内容が適切である必要があります。
意思決定の適切性とは、一つは合理性であり、さらには遵法性という点が挙げられると思います。
合理性とはその判断が会社の利益に繋がるのか、さらにはリスク管理が適切に行われているのか、ということです。
意思決定のプロセスはしっかりしていても、その判断に合理性がなければ経営判断としてはアウトでしょう。
といっても神ならぬ人間の判断ですし、間違いは当然にあります。
だからこそ、できるだけ適切な判断ができるようなプロセスを整備する必要がありますし、その意味では判断の合理性と意思決定プロセスの適切性は本質的には不可分のものとも言えます。
また、どれだけ利益を生み出す選択肢があっても、法令違反ではそもそもその判断が社会的に容認されず、その結果に安定性がありません。
仮にしばらく顕在化しなかったとしても、永久に隠し通せるものでもなく、どこかでツケが来るのがほとんどではないかと思います。
山一の場合、まさに社内でも隠し、問題を改善するでもなく、当然違法性も容認しているという、コーポレートガバナンスが効いていない典型的な事例とも言えそうです。
コーポレートガバナンスが歪んでいく原因は色々あると思いますが、山一の場合も含め多くの場合、業績悪化の隠蔽や、社内の人間関係に伴うものであるように思います。
業績悪化は経営者の責任問題になると言うこともありますが、取引条件の悪化やリストラを伴うこともあり、そういうものを避けようという一心で不適切な判断をしてしまうというのは分かりやすい構造です。
また企業が合併すると、合併の理念に関係なくそれぞれの元役職員同士が反目するという話はよくありますし、また特定の部署の発言力が強いと、経営判断が会社全体の利益ではなくその部署の利益を基準に行われ、その結果会社の利益を損なったり、果ては違法行為ということになることもあるように思います。
そんなことを思っていたら、「しんがり」の直後に読んだ「小説 金融庁」がまさにそんな話でした。
「小説 金融庁」は、都市銀行同士の合併でできたとあるメガバンクを舞台に、金融庁とメガバンクがコーポレートガバナンスのあり方を巡り虚々実々の戦いを繰り広げる、といったお話です。
そして、そのコーポレートガバナンスを歪める要因になったのが、合併による社内の不協和音と業績の悪化でした。
本書でも触れられていますが、コーポレートガバナンスにとって大事なのは、経営者、あるいは各役職員の「バランス感覚・公平性」と「事実を見つめる勇気」、そして「それを実行に移す実行力」という、ある意味当たり前のことに尽きるのではないかと思います。
実際、コーポレートガバナンスという言葉が使われたり、注目される前から長く成功している会社はこれらの要素を兼ね備えていたと思います。
また、これらのことは企業だけでなく、行政や個々人の生き方にも当てはまるようにも思います(自分自身に照らし合わせると微妙な結果になりそうですが…汗)。
私の仕事はコンプライアンスという、コーポレートガバナンスの一つである遵法性を担保する仕事ですので、自分の役割を再確認することにもなり、非常に勉強になりました。
・・・と、自分の業務の重要性を考えたところで、改めて気合いを入れて業務に邁進しようと思います。
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