荻原重秀と新井白石

日本の歴史をひも解いていると、一般的に認知されている限り、不当に評価を下げられていると思われる人物が多く存在します。

有名なところでは石田三成田沼意次新田義貞広田弘毅、カウナスでの善行が世に知られる前の杉原千畝氏などもそうかもしれません。

彼らに対する批評に共通しているのが、何をしたか、より賄賂をもらったとか傲慢である、腰抜けであるなどの人格面での評価が先に来ること。

英雄の評価は業績重視であるのと正反対です。

歴史は勝者によって作られるといいますが、事実がある以上業績を完全否定するのは難しいので、人格否定から始める、ということなのでしょうか。

さて、ここにもう一人名前を連ねたい人物がいます。

その名は、荻原重秀。江戸元禄期の貨幣改鋳、一般的には貨幣改悪を行った人物として知られています。

僕の認識では、明暦の大火による家康以来の貯蓄の費消や徳川綱吉の浪費に伴う江戸幕府の財政難を救うために貨幣改鋳で貨幣を粗悪化し、通貨発行益で幕府の財政を救った一方、インフレで庶民を苦しめた悪人、といったところでした。

一方、最近知ったのですが、この政策は管理通貨制度の先駆けであり、経済の実態に合わせた量の通貨を供給し、経済の運営を円滑化するという側面があったそうです。

そこで、その責任者である荻原重秀に関心が出て、関連する歴史小説を読んでみました。

重秀は元は小身の武士で、勘定所(現在で言う財務省といったところでしょうか)の平職員でした。

しかし、若いころから資料を読み込むなどよく勉強し、上役にも意見をはっきり述べていました。

そのようなところを買われて、少しずつ上役に目をかけられ、その評価は老中(今でいう首相?)にまで届きます。

彼には実は貨幣改鋳以外にも多くの実績があるのですが、最初の実績として知られるのが畿内の検地です。

太閤検地以降検地が行われていなかった畿内ですが、幕府財政の改善のためにも正確な石高を把握したいこところ。しかしながら、現地では代官と農民との癒着も見られ、その抵抗は大きいものでした。しかし、重秀はそれにもめげず、周辺大名の力も利用しながら、また、代官の処分も辞さず、ついには検地をやり遂げました。

さらに、金の産出量が落ちてきた佐渡の経営を佐渡奉行として経営改善に乗り出したり、長崎貿易の促進とそれに伴う税収入の増加などの取り組みを行い、江戸幕府の財政を支えました。

しかし、前述のように、彼の最大の業績は貨幣改鋳であり、彼の「貨幣は国家が造る所、瓦礫を以ってこれに代えるといえども、まさに行うべし。今、鋳するところの銅銭、悪薄といえどもなお、紙鈔に勝る。これ遂行すべし。」という言葉は、管理通貨制度の先駆けとして知られています。

ちなみに、近代日本が金本位(兌換)制度を廃止し、管理通貨制度に移行したのは1931年であり、ある意味で時代を200年以上先取りしていたと言えるかもしれません。

しかしながら、通貨とはそれ自体に額面と同等の価値がなければいけない、と考える従来の価値観からすると、彼の施策は信じられないものであり、まさに悪行でした。

その代表格として扱われるのが、後に彼の政敵となり、最終的に彼の政治生命を断ち切った新井白石です。

白石は儒者であり、独学で聖人の道を探求していたところ、豪商の河村瑞賢に見いだされ、大学者の木下順庵の門下となり、後の将軍、徳川家宣の講師となり、後に側近として幕府の政治を左右することになります。

しかし、綱吉死後も幕府随一の財政課である重秀は留任することになり、価値観が合わない白石は執拗に重秀を陥れようとし、ついには重秀は罷免されることになります。

その後、白石と同じく家宣の側近である間部詮房は正徳の治と呼ばれる政治を行いましたが、白石は商業を蔑視したため、経済運営については失敗した、という評価もあるようです。

ちなみに、重秀の賄賂をたくさんもらっていた、というのは白石が重秀を陥れるために流した話で、それ以外にも多くの策を弄しており、聖人の道を追求していたという割にはやっていることは悪魔です(この辺りは史実みたいです)。

まあ、白石には白石の正義があったのかもしれませんが、少なくとも本書の中では白石は極悪人で、現実がわかっていない人間として扱われています。

少なくとも本書を見る限りでは、重秀に大いに共感するところであり、また、河村瑞賢のようにビジネスで社会を大きく変えて、社会に貢献できるようになりたいと改めて思いました。

同時に、白石のように世の中を特定の概念でとらえたり、抽象的な言葉だけで把握しようとして現実離れした思考に陥ることは避けたいと思いました。何事も具体的な、自分の言葉で考えるように心がけようと思いました。

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