成熟日本への進路

最近知人から、経営コンサルタントの波頭亮氏の話を聞き、せっかくの機会なので波頭氏の近著を読んでみることにしました。

著者はまず、いま日本に不安な雰囲気が蔓延しているのは国家の明確なビジョンがないからで、新しい国家ビジョンが求められていると説きます。

実際に、新しい国家ビジョンを掲げた政権として挙げている橋本・小泉・鳩山政権は国民の高い支持を得ました。

そして、日本の現状として、日本は成長段階から成熟段階に移行していると指摘します。

その根拠として成長の要素の労働力・資本・技術について、少子高齢化の中で増加は見込めず、貯蓄率も低下傾向、TFP(全要素生産性)も国際的に必ずしも高いわけではないことが挙げられています。

もちろん、TFPを上昇させることは今後の日本の課題として指摘されています。

著者が掲げる具体的な国家ビジョンは「医・食・住を保障する社会」。

すなわち、国民全員が生活の不安のない社会を目指すべきであると。

そのために、社会保障と市場メカニズムの両立が必須だとしています。

著者が目指す社会の先行例がデンマーク

デンマークは国民の幸福度が世界でも有数の高さで、経済成長率も高いそうです。

また、経済成長率が高い国として米国も挙げられていますが、両国に共通するポイントとして、①教育への投資(日本はOECDの平均を下回っています)、②(意外なことに)労働者を解雇しやすいこと、が指摘されています。

労働者を解雇しやすいこと、というのは意外でしたが、デンマークは労働者の解雇をしやすい代わりに、生活保障や無料の職業訓練を充実させているそうです。

また、解雇をしやすいことで、企業の市場対応力が高くなるということです。

このように、手厚い社会保障と市場メカニズムの効率性を両立させていくことが今後の日本の目標とされています。

自分自身、学生時代に福祉国家について勉強したことがあったこともあり、このような社会観を漠然と持っていましたが、同じような社会像を具体的に提示されたことに感銘を受け、どんどん読み進めていきました。

実は後半は官僚論で流し読み程度にしようかと思っていましたが、これまた具体的な問題点がたくさんあり、今や納税者でもあるので引き込まれてしまいました。

あとがきでは経営戦略コンサルタントである著者がなぜこのような社会観を持つに至ったかに触れられており、これも興味深かったです。

著者が今後の重点産業と指摘する環境・福祉・医療分野への労働力をはじめとする資源配分の可能性やあり方については深掘りする必要があるように感じましたが、これは今後社会に貢献するビジネスしようを考えている自分への課題としたいと思います。

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