刑務所の王

日本の企業における取締役の責任について本格的に議論されるきっかけとなった事件に、「大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件」というものがあります。

本事件では、ニューヨーク支店の職員が、取引における損失を隠すために簿外取引を繰り返し、気が付いたら膨大な損失をこうむっていたのですが、上司や取締役がそれに気づかず、また、米国当局にも報告しなかったとして、取締役の内部統制への責任が問われることとなったうえ、大和銀行(現りそな銀行)が米国からの撤退を余儀なくされることとなった事件です。

その当事者についても逮捕されることとなったのですが、ニューヨークの拘置所にいたときに一緒になった、長年刑務所暮らしを続けてきた一人の囚人の視点で、刑務所の内実をつづったのが井口俊英著「刑務所の王」です。

その囚人は、ちょっとした犯罪で、警察当局にだまされたこともあり刑務所に送られ、その後、刑務所内のギャング活動などもしながら、任侠も貫くなど、「弱い者いじめは許さない、権威は信じない」というポリシーを通して生き抜いてきた、刑務所の生き字引のような存在でした。

友人の罪までかぶらされた刑務所生活の始まり、人種間抗争を緩和し刑務所内の秩序を維持するギャング活動やギャング内抗争、麻薬の蔓延、刑務官の横暴、出所後の生活の難しさ、苦しさまでリアルに描いています。

塀の中には法律が及ばない、刑務所のルールと囚人のルールがあり、一度それに慣れてしまうと、塀の外で暮らすのはかなり苦しいようです。もちろん、偏見もありますし。

住めば都というように、刑務所内でもある程度慣れてしまえばある程度不自由を感じずに暮らせるようです。

まあ、油断ができない一面もありますが。

また、本書の主人公はほとんどが刑務所暮らしで、なんとか仮釈放までこぎつけたところで、ちょっとした行き違いで刑務所に戻るという悲劇に見舞われているのですが、それをずっと支え続けてくれる妻がいました。

ずっと夫を待ち続けるのがどんなに苦しいかは想像を絶しますが、本当にすごいと思いました。

世の中には一般の人からは垣間見ることのできないすごい世界があるようで、本当に興味深かったです。

刑務所の王 (文春文庫)/井口 俊英
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