動き出すソーシャルファイナンス

早いものでゴールデンウィークも最終日。
どうして休みの日はあっという間に過ぎていくのか…
と嘆いたところで仕方ないのが現実。
早々に仕事モードに切り替えてスムーズに現実世界(?)に戻りたいところです。

GW中はブラブラしつつも、関心のあるソーシャルファイナンス分野の動向についても見ていました。
今年に入ってから、日本においてもソーシャルファイナンス分野に色々動きが出ているように見受けられ、大変刺激を受けます。
その中で、関心を持ったものについて備忘をかねてご紹介します。

Fair Finance Guide Japan

日本の金融業界最大のセクターである銀行の投融資の社会性についてはかねてより関心を持っており、その故に社会的な投融資を掲げてビジネスを行っているトリオドス銀行のあるオランダに学びにいったのですが、そのオランダのNPOが音頭をとって銀行の投融資の社会性を評価し、消費者が金融機関を選択する際の参考に供するという取り組みを行っています。

そして今年、その取り組みが日本でも始まりました(こちら)。
今は大手銀行に限られていますが、今後対象となる金融機関が拡大することが期待されます。

リンクをご覧頂くと各銀行のテーマ毎の評価が分かりますが、軒並み低いです。
公開情報による一定の基準に基づいた加点方式なので、必ずしも高いスコアが出る訳ではないとは思いますが、それにしても低いです(なお、スコアは公表前に銀行担当者にも異議のないことを確認しているそうです)。

評価基準はグローバル共通なので、国際的な比較もある程度可能だと思いますが、例えばオランダのFair Finance Guideを見ると、どの銀行もそれなりのスコアが出ており、ASNやトリオドス銀行などの社会性を前面に出している銀行だけでなく普通の大手銀行も日本の金融機関以上に社会的な要素に配慮していることが伺えます。

米国や英国の金融機関の評価についても関心がありますが、こちらは現在呼びかけているところだそうで、どのような評価が出るのか楽しみです。

また、このような動きを受けて、日本の金融機関の投融資が、また消費者の意識がどのように変わるのか、引き続き注目していきたいと思います。

ちなみにFair Finance Guide JapanはFacebookでも情報発信を行っていますので、関心があればそちらもご覧ください(こちら)。

日本初のSocial Impact Bondプロジェクト

先日、日本財団が横須賀市などと連携して日本初のSocial Impact Bondのパイロットプロジェクトを始めるというニュースを見て、ついに日本でも始まるのかと、感慨のような、(プロジェクトを担当する方に対する)羨ましさのようなものを感じました。

SIBは政府・自治体が、社会課題の改善をNPO等に託して、その事業を運営する団体がSIBを発行して投資家から資金を募り、その成果に応じて政府・自治体がお金を支払い、それが投資家のリターンにも反映されるという仕組みです。

今回のプロジェクトでは、特別養子縁組の件数が増えることによって、横須賀市の財政負担が軽減されることが期待されています。
今回はパイロットプロジェクトのため、実際に債券を発行し投資家から資金を集めているわけではないのですが、今後はこの部分が重要になってくる訳で、そのときこそ金融業界のコンプライアンスの経験も活きてくるでしょうから、その時に向けて知識や経験を蓄えておこうと思います(今のところ、証券のリテール関連業務の知識や経験がないのがネックなんですが…)。

大手生保のエンゲージメントファンドへの投資

昨年、金融庁が音頭をとって、機関投資家が投資先企業と対話をしながら企業価値を高めていくという原則、いわゆる日本版スチュワードシップコードを英国に倣って策定し、多くの機関投資家がその趣旨に賛意を示し、対応を進めてきました。
当然投資信託委託会社もその対象であり、ほとんどの投信会社が日本版スチュワードシップコードの原則に基づき、方針の策定などの対応を行っています。
実は私も当時の会社でスチュワードシップコード対応の業務を行っていました。

一方で、実際のところ投信会社の運用がスチュワードシップコードの策定によってどのように変わったのかは、運用の意思決定プロセスに関わることがあまりないのでよくわかりません。一度日本株のファンドマネージャーや他社の方に聞いてみたいところです。

それでも、スチュワードシップコードを真剣に受け止め、活用しようとしている機関投資家の事例も散見され、そのうちの一つに注目しました。

大手生命保険会社の住友生命は、エンゲージメント(対話)型運用を専門とする「みさき投資」が運用するエンゲージメントファンドに30億円の投資を決めたとのことです。
30億円という数字は住友生命の中では大きな数字ではないかもしれませんが、大手金融機関がエンゲージメントの価値を認識し、それを専門の運用会社に託すという動きは、今後のアクティブ運用や社会的責任投資のあり方に影響を及ぼすのではないかと思います。
また、エンゲージメントという新たなビジネス分野ができていくことについても興味深いです。

一時期ブームになりながらも最近は低迷が続く日本のSRI(社会的責任投資)ファンドですが、このような潮流を受けてどのように巻き返すのか。
こちらについても、今後の動向に引き続き注目していきます。

・・・と、こんなにソーシャルファイナンス分野では動きがあるのに、自分は日々の仕事や生活に追われて、なかなか絡んでいけないなー、と少々焦りがあったりします。
とはいえ、自分のことがきちんとできない人間が他のことに手を出しても仕方がないので、まずは自分の足下をがっちり固めようと自分に言い聞かせています。

それでも、時々この分野に関心のある方が色んな形で声をかけてくださるのでありがたい限りです。

今は情報を集めて咀嚼して発信することしかできませんが、「人生は地道にコツコツ」と思って頑張ります。

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(一個人から見た)外資系の実態

最近時々キャリアについて話し合ったり、キャリアについて悩んでいる人を見かけたりします。

自分自身転職したり留学したりする中でキャリアについて考えることは多かったし、それなりに良い経験も悪い経験もしているので、できるだけそれをシェアしたいと思っています。

さて、キャリアの話をしているとよく出てくるのが「外資系ってどうなの?」という話題です。
給料がよく、グローバルな仕事ができ、英語が飛び交っていてカッコいいけど、結構シビアな世界、というイメージを持たれがちで、実際にそういう風に聞かれることがよくあります。

で、実際のところはどうなのでしょうか。
自分が経験してきた日系2社、外資系2社(北米系)の経験と知り合いから聞いた情報を基に比較してみたいと思います。
どの会社も最大手ではないので、業界内での立ち位置というバイアスはないと思います。

なお、外資系と一言で言ってもマクドナルドやジョンソン&ジョンソンのような事業会社からアップルやグーグルなどのIT系、ゴールドマンサックスやバークレイズのような外資金融(投資銀行)など様々あるなか、私の経験は基本的に運用会社になりますので、外資系全体から見たら偏りのある可能性があることをご承知置きください(そもそもサンプル数が限られている時点で偏りがある可能性がある訳ですが)。

1. 英語
私の担当はコンプライアンス(法令・ルール遵守)業務で、基本的には日本の法令をカバーする、という点では日系も外資系も同じです。
そのため、日常業務では外資系運用会社も日本語がベースです。

しかし、外資系の場合、グローバルにコンプライアンスポリシーがあって本社に合わせた取り組みが求められたり、ファンド設定や運用のオペレーションで海外オフィスと連携する必要があったりするため、海外オフィスとの間で英語によるコミュニケーションが求められます。
コンプライアンスだけではなく、例えば財務部門なども本社との連携が求められるので英語を使っているところをよく見かけます。
したがって、管理部門だからといって必ずしもドメスティックではなく、英語はそれなりに必要です

どのような形で求められるかは会社のポリシーやポジション・職位によって異なってくると思いますが、私の場合、最初の外資系ではほとんど英語を使いませんでしたが、現在は日々海外オフィスと英文メールをやりとりしたり、海外と電話会議をしたりしています。

職位が高くなるほど海外オフィスとのコミュニケーションが求められるようなので、今後英語の必要性が高まることはあっても、少なくなることはなさそうです(会社が変わらなければ)。

ちなみに運用部門などでは日系でも海外との連携が多く、英語も使っているでしょうから、職種的に海外とのやり取りが多い場合は、英語の必要性については日系も外資系も変わらないと思います。

2. オフィス環境
外資系のオフィスと言っても会社によって様々で一概には言えないでしょうが、私の経験だけで言えば、外資系オフィスの方が一人当たりのスペースが広く、パーテーションも高く、一人一人のスペースを重視しているように思います。

現在の私のスペースは、最初新卒で入った日系の会社の自分の2倍くらいあります(当時の部長のスペースより広い)し、日系にいたときはパーテーションはなかった(途中で設置されましたが)、外資系に移った後は両方の会社でパーテーションはありました。

また、外資系の方が職員が気持ちよく仕事できる環境を重視しているようで、コーヒーなどは無料で提供してくれることが多いです。
某外資系運用会社では某人気コーヒーチェーンのコーヒーが無料で好きなだけ飲めるそうです。
さらに某外資系金融情報ベンダーではコーヒーだけでなく果物やお菓子(スナック)も食べ放題で、逆に食べることに夢中になってしまうのではないかと思ってしまいます(笑)

もっとも、自分の勤務していない日系企業・日系運用会社のオフィスに入ったことがあまりないので、他の日系企業のオフィスがどんな風になっているかは結構興味がありますね。誰か招待してくれないかなー。お待ちしてます(笑)

3. 人間関係
人間関係は外資系の方がフラットな感じがします。
日系だと、上司のことは「◯◯課長」、「◯◯部長」、「◯◯常務」、「◯◯社長」と呼ぶのが一般的ですが、私の見聞きする限り、外資系では誰に対しても「◯◯さん」です。
社長でも「◯◯さん」ですし、海外にいる同僚や目上の人に対してはファーストネームで呼ぶことも珍しくありません。
呼び方だけでなく、普段のコミュニケーションも日系と比べると比較的気軽です。外資系でも規模が大きくなると社長にも気軽に、とはいかないでしょうが、それでも同規模の日系企業に比べると幹部の方ともかなりフラットに話せると思います。
言い方を変えると、外資系の偉い人は日系の同職位の方と比べ、職位を気にせず話してくれる傾向がありそうです。

ただ、今でも初めてメールを送る海外オフィスの同僚に対しては、「Hi, xxx-san」と書き出し、先方がファーストネームで返信してきたら、以降はファーストネームで呼ぶことにしています。
多国籍とはいっても、社会的・文化的な背景が異なる欧米系の同僚とアジア系の同僚で同じように接しても良いのか、今でも悩むことは多いです。特に目上の人に対しては。

あとは属人的な問題なので、日系か外資系か、というよりどういう人が会社にいるか、という問題になりそうです(社内政治やセクショナリズムなどは会社の規模や沿革などによるので日系でも外資系でも同じように存在するように思います)。

4. キャリア観
日系と外資系の最も大きな差は役職員のキャリア観だと思います。
日系の場合、その会社で勤め上げることが前提で、転職を前提に仕事をしている人はあまり多くないように思います。
もちろん最近は転職に関する話題はよくインターネット上でも見かけますし、資産運用業界は日系・外資系問わず比較的人材の流動性が高いので、日系でも転職して入ってきた方は多いのですが、それでも外資系に比べると転職に対する意識は強くない気がします。

一方外資系の場合、新卒ではな
く即戦力の中途採用がメインであることもあり、転職は当たり前、という意識が強いです。
担当する業務についても、「これが自分の履歴書にどのような付加価値があるか」を考えて行いますし、それは「自分がどのような人材になりたいか」「どのように市場価値を付けたいか」ということを考えているということでもあります。
それが積み重なれば、次の転職においても高い評価を受けられるということです。

外資系企業の場合、自分の専門分野が中途採用の場合はもちろん、新卒でも決められていることがある一方、日系企業の場合、担当業務は人事に決められ、定期的に異動があることが多いと思います。そうなると自分のキャリア・付加価値は会社にコントロールされます。
したがって、自分の強みも自分でコントロールしにくくなり、自分の専門分野を築くのも難しくなると思いますし、特定分野で転職活動をしようと思っても、その分野に特化してキャリアを積んできた人に対し競争優位に立てないと思います(もちろんローテーションのメリットも否定はできませんが)。
もちろん、日系企業で勤務している人の全てにこの話が当てはまる訳ではないでしょうか、傾向としてはあるのではないでしょうか。

ただ、よく言われるように、解雇については外資系の方がシビアです。
外資系だからといって常にクビと隣り合わせというわけではないですが、例えばリーマンショックのときなどは、運用業界を含め多くの外資系金融機関でリストラがあったと聞いています。
一方、日系の金融機関については外資系ほどばっさりリストラを敢行したという話はあまり聞きません。
グローバルで見た場合日系金融機関のダメージが小さかったという事情もありますが、ビジネスの撤退に対する判断は外資系の方が迅速に判断する傾向にあるようですし、その結果、当該ビジネスの担当者の解雇というのも少なくありません。
もっとも、その判断が迅速であるが故に会社全体のダメージを減らせるということもあるでしょうが、いずれにせよ、外資系企業で働いている人はそういう意識はどこかで持っているでしょうし、だからこそ自分の市場価値を意識して仕事をしているのだと思います。

実際、前職では「この仕事はこのように履歴書に載せる・履歴書に付加価値を付ける」ということをいつも話しながら仕事をしていましたし、転職のときもその意識をベースにPRしていました。

また、海外留学・MBAについては外資系企業の方が高い評価をする傾向にあります
これは英語力の必要性というのもありますが、その他に自分でキャリア開発をする意識自体を外資系企業の方が評価するからではないかと思います。
実際MBA留学から帰ってきたときの就職活動では、多くの日系企業にはその部分を評価されませんでしたが、採用してくれた会社(外資系運用会社)は、英語力だけでなく自分でリスクをとって留学したこと自体が素晴らしいという評価をしてくださいました。

また、外資系の方が女性が幹部・管理職として働いている傾向にあります
私が働いてきた企業だけでなく、外資系金融機関との面接の中で多くの女性幹部・管理職にお会いしました。一方、日系企業の面接ではほとんど女性の管理職の方にはお会いしませんでした。
こちらも職種・業界の偏りがある可能性は否定できませんが、外資系企業は多様性を重視する傾向がありますし、多くの業界で同じような傾向があるように推測します。
もちろん、家庭を持ち、育児をしながら活躍している女性も多いので、その点でいえば、特に仕事を頑張りたい女性には外資系企業も選択肢の一つに入れてもらいたいものです。

以上、私の経験から見た外資系企業と日系企業の比較です。
あくまで私の見聞きした範囲内で、特に運用業界という特定の業界+αの話に過ぎませんので、突っ込みどころは多いでしょうし、どこまで一般化できるかは不明です。
私が外資系企業の方でより充実した仕事ができているので外資系推しなトーンですが、日系企業の方が落ち着いて仕事ができる、という方も多いと思いますので、日系企業の方がダメとも言えません。

ただ、これを読んで外資系企業で働くことについて少しでも関心を持ってくださる方がいらっしゃれば嬉しいです。

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分別も久しくすればねまる

日々仕事をしていると、考え込んでしまった挙げ句、巧くプロセスを進めるタイミングを逃してしまったりすることがあります。

先日も関係者からあるメールが来て、対応を熟慮しているうちに他に人がさっさと処理してしまったと言うことがありました。

そんな時、ふと思い出したのが、「分別も久しくすればねまる」という言葉。
ねまる、とは九州の方言で腐る、ダメになると言う意味らしいです。

これは、九州の戦国大名・竜造寺隆信が残した言葉です。

彼が九州の覇権を争っている時、中央では豊臣秀吉が急速に勢力を拡張していました。
当然、龍造寺家でも秀吉につくのか、つかないのか検討することになります。

色々意見は出ますが、なかなか対応がまとまりません。
そんなとき、隆信がいったのが、「色々考えるのはいいことだけど、時間をかけすぎるとせっかくの熟慮も無駄になる(=分別も久しくすればねまる)。ここはとにかくすぐに結論を出さなくてはいけない。」

ということで、隆信の判断で秀吉につくことが決まりました。
実際には龍造寺家が秀吉傘下に入る頃、隆信は島津家との戦いで戦死していると思われますが、一代で北九州に大勢力を築いた隆信らしい逸話です。

自分も仕事でああだこうだ考えているうちに、肝心のタイミングを逃した結果、アウトプットの評価を下げてしまうことがあり、隆信らしい思い切りの良さが欲しいものだと思うことがよくあります。

ちなみに、隆信は思い切りが良すぎたのか、家中の粛正などもやりすぎて、人望を失ったりする失敗も犯しているので、思い切りだけでもよくないみたいで、要はバランスが大事という当たり前の結論になりそうです(?)。

いずれにせよ、今後は少し思い切った仕事の進め方を心がけようと思います。

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内閣総力戦研究所

かつて日本が太平洋戦争に突入する前に、『日本必敗』の結論を出していたことで知られる内閣総力戦研究所

かねてより興味があったのですが、この度幸運にも総力戦研究所について記された本を読むことができました(こんな記事を書いてました)。
まさかこのテーマでも書籍があったとは、ちょっと驚きです(ないわけない?)。
ちなみに著者は猪瀬直樹前東京知事でした。

内閣総力戦研究所が本格的に稼働したのは昭和16年の4月。
太平洋戦争開戦のわずか8ヶ月前でした。

元々は英国に同じような組織(Royal Defence College)があり、それをベースに設立されたそうです。英国でも軍人と文官が集まって学んでいたそうです。

第一次世界大戦以降、戦争のあり方はこれまでと異なり、国家の総力を挙げて遂行されるものになっていました。
ただ戦闘に勝てば良いのではなく、資源配分・生産・物流を含めた経済全体を維持し、戦争を続けなければいけません。
特に米国・英国といった大国との戦争は総力戦になることは間違いありませんでした。

そのような事情から、軍部だけでなく各省庁・民間企業の英知を集めて計画を検討することが必要になっていました。
それ故に、米英との戦争が近づいている時期に内閣総力戦研究所が設立されました。
ちなみに、英国に倣って「大学」という名称にしたかったようですが、法令の関係で研究所となったそうです。

とはいえ、いざ設立となっても何をすべきかを理解していた人は学生側にも教員側にも少なかったようで、最初の時間割には大学さながらに体育の時間まであったようです。
既に社会人となって第一線で働いている面々には大変不評だったとか(ただ球技はみんな楽しんでいたみたいです)。
一方で海軍の演習を見学して山本五十六連合艦隊長官と議論したりもしていたり、見聞を広げるためのプログラムも用意されていました。

そして7月12日、内閣総力戦研究所最大の研究成果である「総力戦机上演習(第2期)」が始まります。
各省庁・民間企業から集められた研究生たちは、青国(日本)の各省庁・公的組織の大臣や長官などの役割を割り当てられ、色々なシナリオの下、教官たちとロールプレイングを行うことになります。ちなみに教官たちはロールプレイングの調整を行うと共に、(政府がコントロールできなかった)統帥部として政府と対する役割を担いました。
ちなみに総理大臣は農林中金出身の窪田角一氏。最年長かつ民間出身で中央象徴の縄張り争いに関係しなかったことから選ばれたそうです。

政府(研究生)の中でも各シナリオへの対応について意思統一が難しい上、統帥部もまた政府のコントロールをよしとしないため、喧々諤々の議論が続きます。
シナリオは随時追加されていきますが、それが現実の国際情勢とリンクしていたりするので、非常に緊迫感のある議論になったようです。

そして、彼らは最終的に日本必敗との結論を出しました。
彼らの研究成果は、戦争4ヶ月前の8月に東条内閣に報告されました。
しかし、東条内閣はその研究成果を受け入れることはありませんでした。
これこそが、本書のタイトルである『昭和16年夏の敗戦』です。

研究生はそれぞれの組織で将来を嘱望された人物だけに多くの人が出世を遂げたそうですが、政治家になった人はいなかったそうです。

彼らの英知を結集した研究成果が当時の内閣の容れるところとならなかったことは残念ですが(何らかの参考にはされたかもしれませんが)、色んな組織の英知を集め、色々な政策や国家・社会の行く末を純粋に議論する、という場は非常に興味深いと思いますし、今後も有意義なのではないかと思いました。

役所等の超党派での議論の場というのは聞いたことはありますが、さらに幅広い立場の人が議論・シュミレーションに参加し、その成果が何らかの形で政策やビジネスに反映される、という場があるといいな、と本書を読んで強く感じました。
具体的なイメージはまだないですが、いつかそんな場を作ってみたいとも思ったりしました。

日本人はなぜ戦争をしたか―昭和16年夏の敗戦 (日本の近代 猪瀬直樹著作集)/小学館
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金融の世界史

仕事で色んな金融の仕組みや制度について調べていると、その仕組みや制度ができた過程について気になったりすることがあります。

特に様々なリスク管理のシステムやバーゼル規制といった金融規制は、その導入の背景や目的が非常に重要です。

一方、金融市場や保険、デリバティブといったものは、自然発生的に成立したものだと思いますが、そもそも誰がこんな便利な仕組みを思いついたのか、ということについ今日身をもってしまいます。
自分だったら絶対思いつかなかったでしょうから。

そんなことを考えながら日々仕事をしていると、偶然、証券・投資業界の検査機関である証券取引等監視委員会の大森事務局長が、面白い本の紹介をされていましたので手に取ってみることにしました。

タイトルは、そのものズバリ、「金融の世界史」。
著者は、以前紹介した「日露戦争、資金調達の戦い」の著者・板谷敏彦氏です。
これだけでも関心を持ってしまいます。

上述の大森氏の書評では「官民を問わず金融に携わる全ての人にとって、備えておくべき常識のデータベース」と評価されていますが、その評の通り、融資や株式・債券、さらにはデリバティブ、投資理論といったテーマを横軸に、時系列を縦軸に、マトリクス形式で分かりやすく話が展開されています。

本書によると、金融の発祥は紀元前3000年前、すなわち今から5000年も前のメソポタミア文明にさかのぼるそうです。
肥沃な土地で、自給自足を超えた生産が可能になったことから様々な統治機構や職業が生まれ、さらにそこから融資や不動産取引が生まれたそうです。
そのころはまだ貨幣はなかったそうですが、契約や利子という概念があり、既に現在の金融につながる要素があったとも言えそうです。

また、面白いことに(株式や債券の現物取引から派生した)金融派生商品と総称されるデリバティブ取引ですが、その一つであるオプション取引や先物取引は、実は株式や債券の登場よりも先だったそうです。もちろん、株式や債券のデリバティブではありませんが。
そして、オプション取引の歴史は、やはり紀元前のギリシャにさかのぼるようです。

人類が様々な生産活動をするなかで、融資や為替、保険といった金融の仕組みが自然発生し、それらは人類のビジネスの高度化や政治との摩擦や協働といった関わり、時には大きな事件や事故を経て、現在の形に近づいてきています。
ちなみに、バブルで有名な南海会社も、国債も政府の戦争による巨額の債務に端を発していたりして、良くも悪くも政府部門と金融システムとの関わりは興味深いです。

金融の中心となる都市も、時代によって異なります。
16世紀頃まで、北ヨーロッパの商業・金融の中心はベルギーのブリュージュだったのですが、それがスペインに占領されたことで、多くの人がその北のオランダ・アムステルダムに移り、アムステルダムが国際金融の中心になります。
しかしながら、今度はそのアムステルダムがナポレオンに占領され、アムステルダムを始めとする欧州各都市の金融業者が、既に金融事業が発展しつつあったロンドンに逃亡し、ロンドンが国際金融の中心地になります。
しかし、1915年の第一次世界大戦では、米国が英仏の多額の国債を買い支えたニューヨークに国債金融の中心が移り、現在に至ります。
ちなみに、1905年の日露戦争において日本は英国だけでなく米国でも国債を発行しており、両市場における発行において米国の金融業者が大きな役割を果たしていることからも、ニューヨークの勢いがわかります。
また、1896年にはダウ・ジョーンズから世界初の平均株価指数が発表されており、平均株価指数という概念の歴史の長さにも驚かされます。

本書が示すように、金融商品も制度も、金融都市も、それを取り巻く環境によって常に変化しています。
今日も新聞をにぎわす事象があり、それが明日の金融商品・制度の変化につながるかもしれない。そう思うと、毎日の事象を考察するのが少し楽しくなりそうです。
それと同時に、小さいなりに自分もその担い手になることがなることができるかもしれないと思うと、仕事に張り合いも出そうです。

大森氏の書評の通り、各種金融商品の成立・進化の背景と時代の流れがよく分かる、非常に充実した内容でした。

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次なるステップへ

8月ももう下旬ですが、まだまだ暑いですね。。。
いつになったら涼しくなるやら。
春よ、来いではなく、秋よ、来いと言いたくなります。

それはさておき、ご報告が遅くなりましたが、この暑い夏の最中、今月から新しい会社で働いています。
前職と同様、外資系資産運用会社でコンプライアンスを担当しています。

運用会社のコンプライアンスといっても幅広い業務があるのですが、現在担当している業務はこれまで担当してきた業務と毛色がかなり違っていて、勉強することが多いです。
大変なこともありますが、新たに色んなことを知ることができるのは新鮮で楽しいです。

前職でもそれなりに幅広い業務を担当していたこともあり、現在の担当業務についても一人前になれば、運用会社のコンプライアンス業務については一通り経験があるという状態になれそうです。

そうなると運用会社のコンプライアンス担当者として更なる価値が付き、将来の選択肢も広がっていくと思いますので、一つ一つ課題をクリアしていきたいと思います。

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