(自分なりの)リーダーシップ再考

一金融業界人から見た安倍首相のリーダーシップ

アベノミクスと金融業界

7月8日に発生した安倍元首相の銃撃事件は私のような選挙くらいしか政治と関わりを持たない人間にも大きな衝撃でした。
安倍元首相の政策や政治家としての振る舞いについては賛否両論あり、マスメディアやインターネット上でも議論されていることは存じていますし、私自身が不勉強でそこまで情報を持っていないのでその政策や人物像について評価することはできませんが、自らのビジョンを明確に打ち出し、アベノミクスやQUADといった経済・外交政策を力強く進めていったことは印象に残っています。

個人的な印象として政治家が主導で金融機関の具体的な業務に関する政策を進めることはあまりなく、日常業務を遂行する中で政治家の存在を感じることはありませんでしたが、安倍政権はアベノミクスの三本の矢の一環として2013年に策定された「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」において機関投資家に向けたスチュワードシップ・コードの策定に取り組み、その後上場企業に向けたコーポレート・ガバナンス・コードを打ち出すなど、機関投資家の具体的な業務にあり方にも大きな影響を与えています。
そして、現在のところスチュワードシップ・コードもコーポレート・ガバナンス・コードも度重なる改訂を経て機関投資家や上場企業の業務のあり方に影響を与えています。
これらの施策を安倍首相が発案したかどうかはわかりませんが、その制定過程で大きな影響力があったと推測されますし、ここまで機関投資家や上場企業の具体的な業務のあり方に関心を示す首相がいたことには改めて驚きます。

 

一金融業界人・社会人から見た安倍首相のリーダーシップ

安倍首相のこれらの政策への関与についても一金融業界人から見てすごいと思いますが、一人の社会人としては自らのビジョンを明確に持ち、それを高々と掲げ、そしてその実現のために力強く邁進していくという姿に彼のリーダーシップのすばらしさを感じます。

社会人として仕事をしたり博士論文を書いたりする中で、私も小なりといえども「うちの会社(業界)はこういう課題があり、こういうことをしていかなくてはならない」と発信する機会がありました。
しかし、小さなことでも自分なりの考え方を打ち出すときには「自分の考えが間違っていないか?」、「反対されたらどうしよう?」などと考えてしまい、自分を信じる難しさを思い知らされます。小さな業務や論文レベルでもそのように感じてしまうので、首相としてビジョンを掲げるときのプレッシャーや不安は想像するに余りあります。
万人の利益になる政策などはそうそうありませんし、また不透明な未来のために打ち出すビジョンに明確な正解はないかもしれません。国内には多様な意見や利害関係を持った人間がいて、その中で具体的なビジョンを掲げるということは批判が生じることは必至です。

しかし、安倍首相は自らの明確なビジョンとともにアベノミクスやQUADなどの政策を打ち出していきました。そして多くの批判も浴びながら多くの政策を実現させています。政治家としての振る舞いがうまかったこともあるでしょうが、何より自分を信じる力がないとここまでの成果は出せなかったのではないでしょうか。
私には政策の是非を語ることはできませんし、彼の人柄もメディアやインターネットで流れている以上のものは知りませんが、彼の首相としての政策の打ち出しと実現の過程を見る限り、彼のリーダーシップはまさに首相としてふさわしいものだったと感じます。

 

自分なりのリーダーシップ・「こうしたい」

今回の事件を機に安倍元首相のリーダーシップを振り返ることになりましたが、それに憧憬がある以上自分はどのような形でリーダシップを発揮できるのかということも避けて通ることはできないでしょう。

この件とは別に最近もリーダシップについて考える機会がありましたが、その中でリーダシップはマネジメントではないし、またリーダシップにも色んな形があるということを再確認しました。
つまり管理職でなくてもリーダシップを持つことはできるし、人前に出て人を引っ張っていくのが得意な性格でなくてもリーダーシップを発揮することはできるということです。

しかし、どのような形でリーダーシップを発揮するにせよ、人を動かす以上どのような方向性に向かいたいのか、チームとして何を成し遂げたいのかという明確な「こうしたい」は必要と思います。これはまさに安倍首相が体現していることでもあります。
自分の仕事に当てはめていけば、会社としてどのようなコンプライアンス体制を築くのが望ましいのか、何をすべきなのかをはっきりと認識したうえで、上司や同僚を巻き込んでいく、あるいはそのような会社の動きに能動的に乗っかっていくということが求められそうです。

また、自分は性格的には内向的な方ですが人と議論したり飲んだりするのは好きなので、そういうことをきっかけに仲間を作っていくことはできそうです。ただそれも明確なビジョンがなければ人を動かすことにはつながらないので、明確な目的をもって人と付き合うときは、明確なビジョンという土台が必要なのでしょうね。
もちろん、人付き合いするときにそんなことばかり考えていると窮屈でいやらしい話になるので、あくまで自分が何かしたいと考えているときの話です。

性格や方法論は深く考えていくともっと違う方向性が見つかるかもしれませんが、いずれにせよリーダーシップを発揮する対象に対する自分なりの明確なビジョンが前提になるということは間違いなさそうですので、まずは自分の仕事ややりたいことについては明確なビジョンを作り上げることから始めたいと思います。

特に仕事については自分のキャリア的にもそろそろリーダーシップをとっていく意識が必要になってきますので、「自分の会社のコンプライアンスはどうあるべきか、そのためにこうしたい」ということについては人にもしっかり説明できてブレないような目標を見据えるようにしたいと思います。
またプライベートでもやりたいことはありますし、そのために人の協力を仰いだり人を巻き込んだりすることも必要になってくるでしょうか、そっちの方面でも何がしたいのか、それがどのようなものを生むのか、ということははっきりさせながら進めていくようにしたいところです。

この度の事件で図らずも安倍首相の金融実務への影響や自らのリーダーシップについて考える機会になりました。
安倍首相のご遺志を継ぐなどと大それたことを言うことはできませんが(それほど強い政治的なスタンスがあるわけでもないですし)、せっかく業界の発展のために道筋ができたのですから、多少なりともそれを意識して業務に携わっていきたいですし、また彼のリーダーシップについても少しでも見習うことができたらいいと思います。

 

最後になりましたが、安倍首相の金融実務への関心とそのリーダーシップに感謝しつつ、ご冥福をお祈り申し上げます。

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