西洋史特殊講義(1)

西洋史特殊講義の内容

奈良大学の通信課程では4年次のみ履修できる科目があり、そのうちの一つが西洋史特殊講義です。テキスト科目の中で強い関心があるのはこの科目が最後でこれを取ればあとはスクーリング科目も余裕をもって履修できるので、今年度はこの科目だけは早めに単位を取得して卒業論文や任意で履修している一般教養科目の勉強に手を付けたいと考えていました。
読みたい本も積読になってますしね。不思議とコミックスだけは積読にならない…(汗)

テキストは4月には来ていたので少しずつ読んではいたのですが、テキストの分量がかなりあってなかなか進んでいませんでした。いや、ただの言い訳です。
しかし気が付けば6月も中旬。卒業論文草稿提出までも4か月を切っているし、他にもしなければいけないことがあるのであまりダラダラもしていられません。
ということで、6月にやる気に火をつけて何とか先日レポートを提出することができました。

西洋史特殊講義のテキストは『近代イギリスの歴史』。西洋史概論のテキストと同じミネルヴァ書房のシリーズです。

 

本書の主題はタイトルの通り近現代の英国史、具体的には16世紀以降の英国の歴史ですが、一応若干ではありますがそれまでの歴史を説明してくれていますので英国史になじみがなくても読みやすいと思います。

本書では16世紀から2010年くらいまでの英国史を取り扱っていますが、ざっくりいうと英国国教会ができたりエリザベス女王が即位したころから英国がEUに加盟したりイラク戦争で国内世論が割れた時期までになります。
ただ一言で英国史といっても元々はイングランドとスコットランドは別の国ですし、逆に今は別の国となっているアイルランドは連合王国の一部だった時期もあり、このような国では各地域の人たちが自らのアイデンティティと自国の歴史をどのように結び付けているのか興味深いところです。

それはさておき、16世紀から20世紀だと及び500年間の歴史ですが、外国の歴史ですし歴史の流れにインパクトを生じさせる要素も日本とは異なりますので、テキストを読み進めるのは大変でした。西洋史ということで登場人物の名前を覚えるのも一苦労です。
ただ、日本が国際社会に登場し英国とも関係を持つ19世紀後半以降はある程度わかるのでテキストもそこまでを中心に読んでみることにしました。時間の制約もありますし。

自分でも十分に咀嚼できているわけではないですしわざわざこんなところで説明するものでもないので学んだことの詳細は省きますが、読んでみたところでは英国史は日本以上に歴史のメインストリームに宗教が影響を及ぼしていること、英国史は海との関係が非常に深いこと(ノルマン・コンクエストやオランダとの覇権争い、イギリス帝国の展開など)、18世紀から19世紀にかけての英国は技術発展と融合した金融イノベーションがすごかったことなどが印象に残りました。
日本は英国と同じ海洋国家で共通点も多いと思いますが、これらの点は日本と似ているようで異なる英国らしい点だと感じました。
日本の歴史上も宗教が絡んだ事例は多くありますが、武家政権の時代になってからは歴史を左右するとまではいかないと思いますし、海を通じて中国などと交流したり攻撃をされたこともありますが、海洋国家としてプレゼンスが高まるのは近代まで待つことになったり、とこれらの点は英国の方が特徴的な気がします。

名誉革命とか産業革命とか、エリザベス1世とか断片的に英国史の用語は知っていましたがそれらは全く結びついていなかったので、多少なりとも体系的に学ぶことができたのはよい機会でした。
金融業界人の端くれとして英国史の概要くらいは知っておきたいものだと歴史好きの金融人としては思ったりもします。資産運用業界でも英国の有力運用会社は多いですので。

 

レポートの内容

レポートのお題は、何らかの分野で16世紀から21世紀初頭の間に英国が変化したものについてその前後の状況を整理して論ぜよ、というものでした。
変化を論じるためには当然その前後の状況を認識した上でその変化した要因や経緯も理解していないといけないわけで、それ自体が学習成果とのことでした。

テキストでは政治体制や国際関係、宗教、経済、文化など多様な分野について述べられていたのでネタになるものはたくさんあるのですが、それらの内容についてはやや漠然とした理解しかできていないので、一番関心がある金融分野の変化について述べることにしました。

現在でもロンドンは世界の一大金融センターですが、18世紀にはロンドンは世界の金融センターの地位を占めていました。英国は18世紀にはオランダから覇権国家の地位を奪っていましたが、金融の中心地はまだアムステルダムにありました。
しかし18世紀後半にアムステルダムで恐慌が起こったりナポレオン戦争でオランダが占領されたりした影響で18世紀末頃には金融センターもアムステルダムからロンドンに移ることになりました。
それとは別に17世紀後半から18世紀には近代的な株式や国債の仕組みができ、証券取引所も誕生したりして、現代の金融の仕組みの基礎がこの時期に出来上がります。
1720年には有名な南海泡沫事件が起きたりしますが、それも健全な規制のために必要なことであったかもしれません。現在でも充実した規制の基礎には不祥事があるので。

また18世紀後半には産業革命期に入り、工業化が進み資本の蓄積が進むとともに巨大資本を必要とする産業が登場します。それは英国内だけでなく米国や大陸諸国にも当てはまることで、英国はこれらの国に積極的に資本投下を行い、英国の金融立国化がこの時に確立します(いわゆる「世界の銀行家」)。
なお、この時期に世界初の投資信託もイギリスで登場しますが、この投資信託も海外への資本投下を目的としたものでした。その名もThe Foreign and Colonial Government Trustで、そのものズバリです。ちなみにこの投資信託は1868年に設定されたものですが、現在も運用が続けられています。

そして19世紀には電信の登場やイギリス帝国の拡大によって物流・金融はより国際化・大規模化していきます。その中でイギリス帝国、そして世界の情報の中心となるロンドンは金融市場としてさらに重要性を増していくことになります。

・・・とざっくりいうとこのような内容をレポートとしてまとめ上げました。
もちろんテキストには経済史・金融史についてこのように詳細に説明はなされていないので、関連する書籍を読みました。レポートの要件も関連文献を2~3冊読むことだったのでちょうどよかったです。というか、どの分野でも踏み込んで理解するにはそれくらいは読んだ方がよいと思いました。

私が参考にしたのは下記の書籍です。

 

 

前者は金融以外の経済についても幅広く説明があって当時の英国経済と金融の状況をリンクさせやすかったです。
後者は金融史にフォーカスしていますが、その分投資信託を含め各種金融制度がどのように発展してきたのかが詳細に説明されていて、こちらも非常に面白かったです。ちなみにこちらの著者の板谷敏彦氏は実務家でもあり『日露戦争、資金調達の戦い』の著者でもあるので金融実務家には是非お勧めしたい一冊です。

苦労しましたが、何とかレポート提出を終えて一安心です。
この週末は昨年度から持ち越した史料学概論・東洋史特殊講義・書誌学の単位習得試験ですが、これらの単位を修得できれば卒業に必要な単位は(スクーリング科目と卒業論文で)揃うので、気合を入れて乗り越えたいところです。

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