東洋史概論(1)

東洋史概論の内容

まだまだ美術史概論のレポートに苦戦していますが、ようやく軌道に乗りかかった感じなので勢いで完成させてしまいたいところです。何事も勢いは大事ですよね。

そして美術史概論にてこずっている間に1か月ほど前に提出した東洋史概論のレポートが返ってきました。
概論系では考古学概論という科目もレポートが終わって先日試験を受けたところですが、せっかくなので東洋史概論のことを先に記事にしようと思います。鉄は熱いうちに打て。

東洋史概論では東洋全体の歴史を扱うのではなく、中国史について学びます。中国一か国とはいえ中国四千年の歴史というように非常に量は多く、奥深いです。

テキストは中国の通史を学ぶにふさわしいタイトルの「概説中国史 上・下」。学習した科目で初の2冊です。

この2冊で古代から現代(習近平政権まで)を全て扱います。
中国四千年の歴史を2冊で学ぶことができるのはむしろ少ないかもしれません。
テキスト自体もわかりやすい良書だったと思います。

このテキストが優れていると感じたのは2冊でしっかりまとめられていることに加え、政治や経済、文化など多様なテーマを適切な分量で記述し、かつ相互の関係や時代間の影響についてもわかりやすく述べられていることにあります。
加えて学生用のテキストなので、最新の学説や注意すべき論点も散りばめられています。
自分で買ってきて読むような中国史の書籍には載っていない学説や視点が多く、より中国史に対する見方が深くなった気がします。

一般向けの中国史、あるいは特定の時代の歴史関係の本だと政治や武将・政治家などの人物といったテーマに偏ることもあるかと思いますし、また最新の研究結果による知識のアップデートがなされないまま古い通説が記述されているといったケースも聞きます。
もちろんこの辺は書籍によるので一概には言えませんが。

そして学生としてある分野を学ぼうと思った時、自分で良書を見つけるのは実は難しく、良書を紹介してもらえるというのも大学で学ぶ価値だということに気づかされます。
そしてこの書籍は学生用の教科書なので文字は多いし(一応必要に応じて図や系譜などは記載されています)、史記や三国志(正史・演義)のようなストーリー性もありませんが、何がどのように歴史を動かしたのか、文化がどのように形成され、また社会や歴史に影響を及ぼしたのか、などが丁寧に説明されているので中国史を概観したい方にはお勧めできる書籍だと思います。

 

価値観と政策

このテキストは多様な観点から解説がなされるので興味深いポイントはたくさんありましたが、特に印象に残ったポイントを一つ挙げると、後漢・三国時代の科学技術を説明している部分の最後の一文があります。

後漢・三国時代に限らず中国においては科学の地位が概して低く、数学、天文学、医学、薬学などあらゆる分野でギリシャやヨーロッパよりはるかに早く優れた業績を残しながら、結局はヨーロッパ近代科学に凌駕されたといわれるが、その原因はすでにこの時代に求めることができるようである。
(冨谷至・森田憲司編『概説中国史 上』昭和堂, 2016, 148頁)

本書によると、後漢・三国時代にはすでに優れた科学技術の成果が生まれていましたが、時代もその担い手も科学技術を高い地位に置かず、あくまで儒教的「徳」こそが最も重要なものであるとされていたようです。
そして科学が儒教の下に置かれるという価値観が長く維持されたことにより、最終的にはヨーロッパの近代技術に追い抜かれてしまうということになります。

私にはこの意見の是非を論ずる知見はありませんが、価値観が個々人の生き方や実績はもちろん社会のあり方や国際競争力を明確に規定するということを改めて考えさせられました。
もちろん現代社会でも国ごとに考え方や価値観が異なることは珍しくありませんが、それが直接国際競争力に影響するということを深く考えたことはなかった気がします。

しかし、現在でも日本の科学技術政策あるいは学術政策において予算があまりとられておらず研究者の海外流出や将来の国際競争力の低下を憂慮する意見があり、それはある意味で他の政策課題に対して科学技術や学術を軽視する上記の中国的な価値観といえるのかもしれません(ただし下記のデータを見ると対GDPでは日本が特に科学技術予算が少ないわけではなさそうです)。

逆に中国は近年科学技術予算を絶対額でも対GDP比でも拡大させており、科学技術を低い地位に置く伝統的な価値観を完全に払拭したように見えます。
もちろん中国の科学技術政策についてはいろんな意見がありますが、伝統的価値観との関係から見ると、中国が伝統的な儒教的価値観を乗り越え現代社会に即した新たな価値観を確立しつつあることが垣間見られ、それ自体は好ましいことだと思います(それが共産党的価値観とどのように関わっていくのかはさておき)。

ちなみに下記は文部科学省のデータで科学技術予算の国際比較を行ったものですが、中国のスケールが一目瞭然です。
予算規模だけが研究の質や実績を決めるものではないかもしれませんが、これだけ差がつくとどうやって競争していくのか、政策担当者も苦しいところでしょうね。
もっとも、改めて考えると日本と中国の長い歴史の中では中国が圧倒的に強い時代の方が長いわけで、このような課題は日本史上多くの為政者が乗り越えてきたもので改めて今突き付けられているだけといえるかもしれません。

それにしても中国史上の科学者たちはこの現状をどのように見ているのか、いろんな観点から聞いてみたいところではあります。

科学技術予算総額(OECD購買力平価換算)の推移 出所:文部科学省 科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2020

主要国政府の科学技術予算の対GDP比率の推移 出所:文部科学省 科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2020

 

レポート課題

概論科目も他のテキスト科目同様、テキストを読んだらまずレポートを提出します。
レポートのお題は「(テキストの時代分類に従って)各時代ごとの特徴を示す事項を1つずつ取り上げ、取り上げた理由がわかるようにその事項を説明する」というものです。
このテキストでは10の時代・時期に分けられていますので、10のテーマについて記述することになります。

私にとってこのお題はとても有意義でした。
まず、当然ながらすべての時代について触れることになるので満遍なくどの時代も頭に入れる必要があります。
私は中国史も結構好きなのですが、関心のある時代が春秋戦国時代や前漢・後漢・三国時代などで、知らない時代は本当に何も知らないなど知識にムラがありました。
しかし、レポートを書くためにはすべての時代を把握し中国史の大まかな流れを理解する必要があるため、知識のムラがある程度抑えられたように思います。

また、関心のある時代についても満遍なく知識があるのではなく政治史や活躍した人物のことだけ知っているなど縦軸・横軸ともに偏っていました。そもそも関心のある分野としては政治や経済が主で文化面への関心は薄いということもあります(だから美術史概論は苦戦中…)。
しかしこのお題には「ジャンルが偏らないようにテーマを選ぶこと」という条件があります。そのため自分が興味のある分野ばかり選んではダメで、関心の薄い分野も選ぶ必要があります。
私の場合、後漢・三国鼎立時代(科学技術の発展)と明朝の時代(民衆文化の隆盛)については文化に関するテーマを選択しました。確かにあまり知識はありませんでしたが、レポートを書くために改めて熟読すると文化も文化だけで独立するのではなく社会の出来事との間に関係があり、政治や経済といった歴史の表舞台にも影響を与えていたりもして、これまで意識しなかった文化の役割・文化の力を考えるきっかけになりました。

このように中国史を縦軸・横軸両方の観点からざっくり把握することができるようになったのはテキストとレポートのおかげであり、大変勉強になりました。

 

ここまで書いてレポートの結果を書いていないことに気づきましたが、レポートは無事合格で単位習得試験に臨むことになります。試験も無事一発合格といきたいところです。

 

中国史に関する思い出

中国史といえば、以前中国人・台湾人の友人と中国史についてコミュニケーションしたのを思い出しました。

中国史について台湾の人の食いつきがよかったのは意外といえば意外でした。
台湾には中華の物がたくさんありますが、歴史についても中国と共有しているというのは興味深かったです。
そういえば関帝廟もちらほらあったような。

ただ海外の人と中国史の人物について語り合うときは発音が課題だと思いました。
やっぱり日本人は日本語の発音で認識しているので同じ漢字であっても話題を共有するのは難しいですね。

先日もAPAC地域でミーティングをしたとき、たまたま関羽の話をしようとしたのですが、中国語の発音がわからず画面越しに関羽像を見せてわかってもらいました。
その点英語話者は中国語の認識も発音から入るので羨ましいですね(その代わり漢字がわからないでしょうけど)。

概論科目には西洋史概論というのもあるので、こちらもしっかり勉強してグローバルに歴史の話ができるようなりたいです。

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