Fintech企業への提案

せっかく博士課程という(単位をとらなくてもよい)自由な立場で大学院に行くのだから、自分の関心のある授業に出席しようと思って取ったFintechの授業も最終回。

最終回の授業は、あるFintech企業に新規事業を提案するというもの。
受講生がそれぞれ自分の提案を事前に考え、それを発表する形式でした。

単位をとらなくてもいいので課題をこなす必要はなかったのですが、自分の成績表に×がつくのは気持ちがよくないし、せっかくの機会なら自分の考えについてフィードバックをもらってみたいと思い、考えてみることにしました。

色んな案を考えては潰し、考えては潰しの繰り返しで、ようやく一つの案にたどり着きました。
MBA時代は新規事業について考える機会が多かったのですが、日常のコンプライアンスの業務だとどうしても創造性がなくなるので、いい頭の体操になりました。
改めて新規事業の企画というのは創造性が必要で、自分には向かないことを実感しました(一応経営戦略専攻だったのですが…)。

提案を行う相手であるFintech企業はクラウド会計サービスを展開する会社だったのですが、提案した業務は「クラウド会計サービスと接続されるクラウドファンディングのプラットフォームの運営」でした。

経理はどの会社でも必要な一方でそれ自体は利益を生まないし、ある程度の知識も必要なため、経理担当者を雇用するのは中小企業にとっては負担となる一方、クラウド会計サービスだと日々の取引を入力するだけで会計帳簿ができるため、中小企業の多くがそのサービスを使用しているということでした。

そのような中小企業のもう一つの悩みは資金調達。
中小企業は直接金融市場にアクセスすることが難しいため、資金調達は銀行や信用金庫などの金融機関に依存しがちですが、それゆえに金融機関の意向や都合に左右されてしまうことも少なくありません。
そこで、中小企業の資金調達の選択肢を増やし、同時に金融機関への依存度も低下させる方法としてクラウドファンディングのサービスを提供することを考えました。

具体的には、クラウドファンディングを希望する場合には、経理システムに入力しているデータから自動的に必要な開示情報が作成されて、同社が審査したうえで条件に合致すれば運営するプラットフォームに掲載される、といったものです。

イメージはこんな感じです。

この仕組みのユーザーと企業側の想定される(と私が考える)メリットは下記の通り。

【ユーザーのメリット】
1. 経理システムや文書作成システムと連携させるため、少ない事務負荷で資金調達を行うことができる。
2. 経理システムの数値を使うため、資金調達に係る情報開示の正確性が高い(計数の操作が難しいため信頼性が高い)。
3. ユーザーは資金調達の選択肢を得られることになり、銀行への依存度が低下する。
4. 株式型や融資型、購入型など柔軟な資金調達が可能になる。

【サービスプロバイダー側のメリット】
1. 資金調達のフェーズまでフォローすることができるため、他の会計支援システムとの差別化につなげることができる。
2. 自社でプラットフォームを運営することにより、プラットフォームの仕様を他のサービスとの連携がしやすいように設計できる。
3. 資金調達のプラットフォームと一貫してサービスを提供することでユーザーの維持につなげることができる。
4. プラットフォームの運営によりユーザーや投資家からフィーを徴収することで新たな収益源を生み出すことができる

一方、クラウドファンディングのプラットフォーム運営には課題もあります。
自分では下記の課題が思い浮かびました。

1. ライセンス(業登録)
クラウドファンディングを運営するためには業登録が必要です。
もっとも、金融商品取引法ではクラウドファンディング業者用に第一種・第二種電子募集取扱業という業態が設定されていて、一般的な金融商品取引業者に比べるとハードルが低くなっています。

その代わり発行額にも制限がある(1発行体の年間発行額1億円まで、各投資対象への投資家当たりの投資額は50万円まで)のですが、中小企業の資金調達の支援という役割においては十分かと思います。

2. 発行者の審査
プラットフォームにどんな会社もアクセスできるようだと、あまりに玉石混合すぎて、投資家にとっても魅力が少なくなります。
そのため東証をはじめとする証券取引所では上場基準を設け、それをクリアした企業にのみ上場を認めています。

それはクラウドファンディングでも同じで、一定の基準を満たした企業のみプラットフォームにアクセスできるようにするのが望ましいと思いますが、そのための審査基準や審査プロセスを整備する必要があります。

この辺りはシステム内に発行体の経理・財務情報や取引情報が存在するので、そのような情報を使って自動的に審査ができる仕組みができれば省コストかつスピーディな審査ができそうな気がします。

3. 投資家へのアクセス
資金調達のプラットフォームを作っても、投資家が多く集まらなければ魅力のある資金調達の場とはなりません。

そのためには、発行体自体が魅力を発信していかなければいけないし、信頼性や発行体数など市場としての魅力も高める必要があります。

現在同社は強固な顧客基盤を持ち、経理システムと接続させれば計数の信頼性も高くなるため、顧客である発行体の情報発信を支援するなどして市場の魅力を高めていくことが重要になるかと思います。

 

以上が私の提案でした。
残念ながら時間の関係で自分の提案は授業中に取り上げられることはなかったのですが、他の方の発表を聞いていると似たアイデアを持っている方が何人かいたので、その方に対するフィードバックが参考になりました。

中でも、その事業によってネガティブな影響を受ける人のことも考える必要があるということが勉強になりました。
裏を返せば、そのような人たちともポジティブな関係になるような仕組みを構築していけばよいということにもなると思います。

一方、前述の自分の着眼点についてはあまり筋が悪いというものでもなさそうで、先生がポイントとしてコメントしていたものもありました。

あまりにピントが外れたことばかり考えていたら恥ずかしいですが、最低限のレベルには至っていたようです。

 

投資信託会社のコンプライアンスを担当していると、各部署の実務運行にも目を向けることが多くなるため、法令のことだけでなく、どうすれば実務がうまく回るのか、効率的・安全に業務を遂行できるのかということを考える癖がつくようです(少なくとも私はそのようです)。

そのような思考回路もあってか、法令上のハードルをクリアすることと同時に、新しいサービスが会社やユーザーにとって便利か、安全かということも考えるようになっていました。

そう考えると、案外コンプライアンスの人間も起業に向かない、というわけでもないのかもしれず、そういう点に思いが至ったのもこの授業の収穫かもしれません。
(この記事を書いていて気づいたのですが)

それはともかく、やはり新規事業を考えるというのは(考えるだけなら)楽しいし、いつかは自分もそのようなチャンスをつかんでみたいと思ったりしました。

 

これで一学期も終わり。
そろそろ本腰を入れて自分の研究課題とも向き合いたいところです。
そんな時期に限って面白い歴史関係の本がたくさん出てきて、ついそちらに手が伸びてしまうのですが・・・(汗)

 

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