投資家の「反乱」が企業を動かす

トランプ米大統領のパリ協定離脱表明に対して米国の内外から懸念が表明されていますが、地球温暖化の重要なプレイヤーである企業部門においても厳しい目が向けられつつあるようです。

その動きが顕著に表れたのが、機関投資家が石油メジャーとして君臨するエクソンモービルに対して、気候変動に対する業績へのインパクトを調査・開示するように要求し、株主総会で多数の賛成を得て可決された、という出来事です。
ワシントン・ポストは「Financial firms lead shareholder rebellion against ExxonMobil climate change policies(金融業界がエクソンモービルの気候変動に対する姿勢に対して、投資家の反乱をリードする)」と題した記事で詳細を伝えています。
(本当はかっこよく埋め込み記事としたかったのですが、うまくいかず…涙)

上記の記事によると、石油メジャーの一角を占めるエクソンモービルに対し、気候変動(気温が2℃変動した場合)が及ぼすエクソンモービルへの影響」について分析・開示を要請する株主提案に対し、資産運用業最大手のブラックロックをはじめとして、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズやバンガードといった大手の機関投資家が支持したことによって、62.3%の賛成で可決されたようです。

パリ条約の動向にかかわらず、気候変動がエネルギー会社の動向に大きな影響を与えることは論を俟ちません。
そして、気候変動は長期的なテーマであることから、同社への影響も長期にわたることが想定され、長期的な投資家として機関投資家が懸念するのは自然であるように思えます。

もちろん、エネルギー会社をはじめ、多くの会社が気候変動に対し関心を持ち、環境問題に体制のある事業ポートフォリオの構築に努めたり、環境保護に取り組んだりしているのですが、それでも気候変動の影響を逃れることはできませんし、特にその影響が大きいエネルギー会社は真摯に向き合い、投資家に対しても今後のパフォーマンスについて説明が求められると思います。

記事中にもありますが、これまで機関投資家はその議決権行使に際しては会社側に対して反対することはあまり多くなかったように思います。
とはいえ、近年は一般投資家や年金基金のお金を預かっている機関投資家に対して、より企業価値を向上させるような議決権行使、あるいは投資先との対話が求められており、その潮流が実を結んだのがこの議題であったともいえます。

実際、エクソンモービルの少し前にはOccidental PetroleumやPPLといったエネルギー会社でも同様の株主提案が可決されており、他にも50%をわずかに下回り惜しくも否決された、という事例もあるようで、エクソンモービルだけの動きではなく、投資家、特に機関投資家の姿勢が変わってきていることを示唆しています。

ここで重要なのは、大手資産運用会社がこのような分析・開示を求めているのは、単に気候変動を防ぎたいという動機ではなく、それが企業の業績、ひいては機関投資家の運用パフォーマンスに影響するため、投資判断に資するための情報開示を求めている、ということです。
つまり、パフォーマンスを求めて行動する機関投資家が、自然な流れでESG(環境・社会・ガバナンス)投資の方向に動いているといえます。

ESG投資、あるいは社会的責任投資(SRI)というと、「良いことを求めてもパフォーマンスにつながらないのでは機関投資家としての責任を果たしていない」という、善行とパフォーマンスは相反するといった見方をされることもありますが、ESGの各要因が企業業績に影響を与えるようになってくると、機関投資家の投資行動も自然にESGを考慮したものになり、かつ、議決権の積極的な行使を通じて、実際に企業の行動を変えることもできるようになるのではないかと感じました。

そしてこれは、機関投資家の投資サービスの新たな一面を映し出す結果になったとも思います。
例えば資産運用会社が投資信託や自社の運用サービスをアピールするとき、基本的にはパフォーマンスや今後の見込みを中心に行います。
それは、投資家が求めるものがリターンのみであるという考え方によるものだと思います。

しかし、今回明らかになったように、機関投資家はパフォーマンスを出すだけでなく、会社のあり方を変える力も持っています。
そうであるなら、投資先企業の行動を良いものにするように働きかけていく、ということ自体が機関投資家の投資サービスの価値であると思います。

実際我が国においても業界ルールや日本版スチュワードシップコードに基づき、資産運用会社は議決権行使結果を公表していますが、積極的にアピールするには至っていません。

しかし、5月29日に改定された改訂版の日本版スチュワードシップコードにおいて、賛同する資産運用会社は個別議案ごとの議決権行使結果の公表を求められることになりました。
したがって、各機関投資家の議決権行使に対する考え方がより如実に表れますし、差別化のチャンスにもなると思われます。

我が国においても議決権行使結果自体を差別化のツールとして捉え、ESGの観点から積極的に企業に働きかけ、企業価値の向上と社会課題の改善を両立するような資金の循環(インベストメント・チェーン)ができていけば、自然と我が国の資産運用業も発展していくのではないかと期待しています。

ちなみに、記事中では投資家の「反乱(rebellion)」と書いていますが、本来は投資家は会社のオーナーであり、「反乱」というのは筋違いです。
当然記者もそのことはわかっているはずで、あえてこの表現を使ったのは、実際には大企業の経営陣に対して株主のコントロールは限られていて、実態として経営陣の意向に反する株主提案がほとんど通らないという実態があるのでしょうが、これも示唆に富んでいるといえます。
もしかしたら、これが株主と経営者の関係を変えていくきっかけになるのかもしれません。

そのように資産運用業の未来を考える上で、今回のエクソンモービルの事例は、大変示唆のあった出来事でした。

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