大戦国史 最強の武将は誰か?

歴史が好きな人なら誰しも考えるであろう、一つの問い。

最強の武将は誰か?

世界史上最強は?中国史で最強は?三国志で最強は?そして、戦国時代で最強は?

決して答えの出ない問いであることはわかっていても、つい考えてしまいます。
インターネット上でも激論が繰り広げられています。

最近はどちらかというと史実を掘り下げる本を読むことが多く、歴史談議に花を咲かせるような話題を考えることは少ないのですが、たまたま「最強の戦国武将は誰か?」という歴史談議に花を咲かせた書籍(「大戦国史 最強の武将は誰か?」(文藝春秋編))を見かけたので読んでみました。

この書籍の面白いところは、戦国時代の専門家だけではなく、近現代史や世界史に詳しい方も加わって「最強の武将は誰か?」という話を語り合っているところです。
特に昭和史の研究で有名な半藤一利氏や、世界史に造詣の深い出口治明氏(現ライフネット生命会長)が対談に登場されていることに興味をひかれました。

半藤氏は戦国時代の研究で有名な小和田哲男先生と対談されているのですが、目をキラキラさせながら(?)武田信玄と上杉謙信でどちらが強いのか、というのを離されていて面白かったです。ちなみに半藤氏が上杉派、小和田先生が武田派でした。

出口氏は「信長・秀吉・家康の天下観・世界観」というテーマで話されていました。
対談の中では、案外秀吉が「全部信長の物まねでしょ」、といった感じで評価されていなくて、秀吉かわいそう…なんて思っていました(笑)。
出口氏は、世界史の流れの中で日本史・戦国時代を考える重要性を示唆されていて、さすがでした。
また、出口氏の対談の中では土木の専門家の方(竹村幸太郎元国道交通省河川局長)もいらっしゃって、土木の観点から三人の統治政策を解説されていて、目から鱗が落ちる思いでした。
特に、「家康は主要水脈には幕府と御三家で抑えた」、「川や山で諸大名の領地を区切ったことで領域内での開発を促進した」という指摘はなるほど、という思いでした。

対談のほか、有名武将たちの業績などについても専門家の方が寄稿されていて、それぞれの方の見方が興味深かったです。
このうち、北条氏康については黒田基樹先生が執筆されていますが、そのすべてが税制・行政改革及びそれが近世に与えた影響についてで、河越の戦いをはじめとする武将としての活躍については割愛されており、北条氏康、あるいは北条氏の歴史研究における特殊性が見えてきます。
というのも、後北条氏や内政に力を入れていただけでなく、文書による官僚制度が整備されていたうえ、北条氏の領土がそのまま徳川政権に引き継がれていることから史料の保存状況が良好で、学術的な研究という点からは北条氏が最も先行しているそうで、それゆえに北条氏康についても武将としての観点以外にも論じられることが多いように感じます。

本書では氏康に限らず、信玄や謙信、毛利元就といった最強の武将候補についてもその内政面の業績が語られており、いろんな観点から戦国武将・大名を見ることができました。
また、当時の状況として、「知」の集積が寺院や大都市といった「点」に集中しており、それゆえにそこで学ぶことができた今川義元や徳川家康の優位性に言及されていて、興味深い論考でした。

また、本書では随所に「大河ドラマ」という言葉が出てきて、日本人の歴史好き・歴史人物観に大河ドラマが大きな役割を与えていることが改めてわかりました(笑)

専門的な書籍もいいですが、時には純粋な歴史好きとして、このような夢のあるテーマに花を咲かせるのも楽しいものです。

ちなみに私の考える最強の武将は…いや、やっぱり一番は決められませんね。

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