アンテナ on ソーシャルファイナンス(2)

2つめのイベントはG4マルチステイクホルダー委員会の発足委員会
昨今サステナビリティ・CSRへの関心の高まりを受け、多くの企業がサステナビリティ報告書ないしCSR報告書を作成していますが、そのような情報開示についてGlobal Reporting Initiative (GRI)という団体がガイドラインを作成しています。
このガイドラインは何度か更新され、2013年には第4版が発表される予定でこの第4版はG4と呼ばれています。

GRIは1997年にボストンで設立されましたが、現在はオランダのアムステルダムに事務局を置いて活動しています。そのため、私もオランダでお話を伺おうと思っていましたがその機会を得ることはできませんでしたので、今回説明を受ける機会があったのは幸いでした。

多くの企業がGRIのガイドラインに沿って報告書を作成していることもあり、この説明会も会場いっぱいに人が入っていました。
定員は100名だったので参加者もほぼ100名、年齢層としてはシニアと若い人がくっきり分かれている感じでした。なお、女性は3割程度だったと思います。この分野では女性の存在感が大きいように思うのは私だけでしょうか。

説明会は、GRI・G4に関するものと、投資家が非財務情報をどのように認識しているのかという説明の二部構成でした。


説明会資料。

GRI-G4の最新状況については、GRIの説明やG4開発の背景・現在の状況について触れられました。
G4という呼称が示す通り、最新版で4度目のガイドライン策定になるのですが、本格的にガイドラインが普及したのはG2からだったそうです。
そしてG2は全世界で57か国・864社が利用し、中でも日本企業が最多ということでした。日本企業・日本社会のサステナビリティに対する関心の高さが垣間見られます。

一方、各社のCSR報告書を見ていますと、GRIのガイドラインに沿っているという事情もあるのですが、どうしても総花的・羅列的になってしまい、大事な情報が埋もれてしまいがちです。
そのため、G4では何でもデータを示すのではなく、企業にとって重要であることを明確にしたうえで情報を開示することを促す方針ということです。

他には世界中でサステナビリティ報告書が進化していること(特に中国や韓国、その他発展途上国でも質の高いサステナビリティ報告書が増えているとか)、初心者・経験者双方にとってユーザーフレンドリーなガイドラインが求められていることなどがG4開発の背景にあります。

そのG4開発は現在最終段階にあり、2013年5月に公表される予定です。
そしてG4発表に合わせてアムステルダムで国際会議が参加されるそうで、日本からも代表団が派遣されるとのことでした。
派遣団には自分で手を挙げて参加することもできるらしく、もしオランダにいたら参加したのに…と少々残念な思いです(笑)

続いて大手金融機関の方から、投資家の立場から見たG4の影響について説明がありました。
日本では金融危機を転機にSRI(社会的責任投資)市場が停滞している一方、欧州では逆に金融危機を弾みとしてSRI残高が拡大していることが示されました。

またSRI・ESG投資(環境・社会・ガバナンス)が拡大した背景として、短期主義に対する反省の他、投資家の責任ユニバーサルオーナーという概念を指摘されていました。

ユニバーサルオーナーというのは、「機関投資家はポートフォリオを通じて経済全体の一定の持ち分を所有している」という考え方で、言い換えればポートフォリオは経済全体の損益を反映しているということになろうかと思います。
つまり環境汚染などの外部性についても幅広い銘柄を保有している機関投資家は結局のところ負担せざるを得なくなるということです。

そのため、機関投資家は環境などサステナビリティに配慮した企業に投資することによって外部性を軽減しポートフォリオ全体(=社会全体)への悪影響を低下させるとともにリスクヘッジにもなると考えることができます。

機関投資家に勤務していたこともありましたが、こういう考え方をしたことはなかったので非常に印象に残りました。

また欧州を中心としてESG投資に関連する規制が強化されている点も挙げられていました。
特にルクセンブルグではクラスター爆弾、地雷製造に関わる企業に投資することは禁止されており、違反すると禁固・罰金という刑罰が科されます。
ルクセンブルグの場合欧州のみならず世界中の機関投資家がルクセンブルグ籍の投資信託を設定するなど影響が大きく、当然ルクセンブルグ籍投資信託を設定する日本の機関投資家もこの規制の対象となるため、否が応にも意識せざるを得ないということになります。

クラスター爆弾以外にもこのような事態になりうるテーマは他にもあるため、機関投資家は法令順守という点でもESGに意識を払う必要がありそうです。

そして、このような点を織り込んで投資判断を行うためにもG4の趣旨にもある通り、企業側がESG情報・リスク情報の開示を的確に絞り込んで発信するとともに、IR活動と一体化した情報発信が重要というご意見でした。

今回は情報開示ということで金融機関側だけでなく事業会社にとっても直結する内容で、非常に勉強になりました。
自分がこういう会社に入ったらこういうことをしたいということを具体的にイメージすることができて面白かったです。

事業会社がESGに積極的に取り組んでそれをIRと一体化させて投資家に発信し、投資家・金融機関がそれを適切に評価して資金を融通しさらなる成長の原動力となる…という好循環が強化され、持続可能な成長モデルにしていきたいものだと次世代の一員として強く思います。
自分がどの立場になるにせよ、この意識は忘れないようにしたいもので
す。

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