2010年、チリのコピアポ鉱山の落盤事故により33名の鉱山作業員が鉱山の中に閉じ込められ、2か月強の忍耐の後に救出された事件は未だに忘れられないドラマですが、今から約100年前に、さらに長い期間の忍耐の末に死の淵から生還した人たちのドラマがあったことをご存じでしょうか。
エンデュアランス号。
100年前、第一次世界大戦の前後は南極大陸探検が真っ盛りで、多くの人物が人類未踏の地、南極を制覇しようと競っていました。
1911年にはノルウェーのロアール・アムンセンが南極点に到達(同年イギリスのロバート・スコットも南極点に到達するも同地で遭難し、死亡)、人類の夢はなん居大陸横断に切り替わります。
1914年、スコットの南極探検に参加したこともあるイギリス(アイルランド)人のアーネスト・シャルクトンは計28人の南極探検隊を編成し、世界初の南極大陸横断に挑みます。
この時、南極に行くのに使った船がエンデュアランス号です。ちなみにエンデュアランス(endurance)とは忍耐を意味します。
軍靴の音が迫る最中、南極に向かおうとしたエンデュアランス号ですが、南極大陸に上陸する前に氷盤につかまってしまいます。
それでも隊員は氷をはがしたり、わずかな氷の切れ目を進んだりするのですが、ついにエンデュアランス号は氷につかまり、最終的には氷の圧力で船が崩壊し、沈没するに至ります。
ここに至ってはシャルクトンも計画を諦めざるを得ず、目標を南極大陸横断から生還へと変更します。
シャルクトンは低下しがちな隊員の士気を様々な方法で維持するとともに、隊の秩序を保つためにも心を砕き、また各隊員の能力を最大限に活かそうとしました。
隊員の性格は様々で、荒くれ者も多い中秩序を保つのは、特にこのような生命の危機に瀕している状況では非常に難しいと思われますが、あの手この手で秩序を保ち続けました(実際に反乱の危機にも遭っています)。
シャルクトンのリーダーシップに学ぶ点は多いのですが、彼のリーダーシップの最大の特徴は「常に楽観的であること」だと言えそうです。
船が氷につかまって以降は危機的状況の連続ですが、彼は常に楽観的に振る舞い、また悲観的な考えが広まるのをとにかく阻止しています。おそらく彼が少しでも悲観的にふるまっていたら、隊の士気は大きく低下し、秩序の維持も難しかったでしょう。
どんなに辛い状況でも率先して明るく振舞い、周囲を励まし続けるというのは素晴らしいリーダーシップだと思います。
さて、船を失ったシャルクトン一行は、救命ボートで南極を脱出すべく、南極に近いエレファント島に渡ることができる地点まで氷洋上を吹雪や食糧不足に悩まされながら徒歩で移動しました。
その後、ずぶぬれになりながら何とかエレファント島に移ったものの、不毛の島で、かろうじてペンギンやアザラシなどの獲物はいたものの、天候も悪く長く居続けるべきではありませんでしたし、何より救援が期待できませんでした。
そこで、捕鯨基地がある1300キロ先の島まで小さなボートで救援を要請しに行く必要が生じたわけですが、海は大荒れ、成功することなどほとんど見込めませんでした。
しかしながら、シャルクトンは自ら船員を選び、出航。
わずかに出る太陽を手掛かりに位置を確認しながら、船は進み、高波の危険にさらされながら、16日後一行は辛くも目的地であるサウスジョージア島に到着。簡潔に書きましたが、おそらくここが今回の逃避行の最大の山場だったでしょう。
サウスジョージア島に到着した時点でもうボロボロなのですが、さらに氷原の中を基地まで歩いて行かなければなりませんでした。その氷原の横断自体誰も経験したことがないもので、非常な困難が予想されましたが、ここにきて諦めることなど考えられず、シャルクトンは半分の人員で捕鯨基地に向かいました。
ここでも多くの想定外の事象に出会いながら、何とか捕鯨基地に到達し、救援を要請。
哀しいかな、本国イギリスは第一次世界大戦で疲弊しており救援が期待できず、シャルクトンは、今回の逃避行に感銘を受けた南米各国の支援を受けて、数か月後、エレファント島に残っていた隊員たちを救出。1年半にもわたる困難にもめげず、ついに全員生還を果たしたのでした。
以上がエンデュアランス号とシャルクトンを巡るストーリーです。
このストーリーからは、リーダーシップという点で学ぶところが大きいですが、それだけでなく、一つの冒険物語としても、かつて読んだ「十五少年漂流記」のようなドキドキハラハラする素晴らしいものでした。
我々も個人レベル、あるいは組織レベルで、今回の経済危機に伴うものも含めて危機に直面することが多々ありますが、シャルクトンのリーダーシップをヒントに乗り切って行けたらと思います。
なお、本件に関連してWikipedia(こちら)を見ていると、南極点到達後帰還できたアムンセンと、南極点に到達しながら生還できなかったスコットのリーダーシップの違いについて興味深い分析がありましたのでご紹介します。
曰く、アムンセン隊は各隊員の自主性を重んじ、隊員の「やる気」を出したのに対し、スコット隊はイギリス軍伝統の上意下達の体制で挑んだために士気について細心の注意を払えなかった、ということです。
これもまた、リーダーシップ、マネジメントについて参考になる話ではないでしょうか。
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