日本社会の一部分

日々ニュースを見て、オリンピックを楽しみ、時事問題を考え、いろいろなことに触れている我々ですが、その中でなかなか知ることのできない世界があります。

例えば、金融危機で問題になっているブラジル人コミュニティの実情や、かつて(今でも)日本でも深刻な問題であったハンセン病患者の問題、不登校児童の葛藤など、表面的には報道で知ることはできても、その中に溶け込み、深く切り込んだ情報に接すること、またそれを真剣に考えることはあまりないように思います。

本書では、日経新聞の原田勝広編集委員をはじめとする日経の編集委員が横浜のドヤ街「寿町」やハンセン病の療養所、ブラジル人の共同体などに1カ月ほど住み、その中の人々と交流を深める中でその実情を描いています。

本書の魅力は、かなり本音ベースで書かれていること。日経新聞の名や御自分の名声を抱えながら本音で書くのは勇気の要ることだったと思いますが、だからこそ読者の視点とシンクロしているような気がします。

特に関心があったのが、ハンセン病の療養所のルポ。

1996年にハンセン病患者を隔離してきたらい予防法が廃止され、2001年に小泉首相の判断で国家賠償訴訟が終結に向かった後も、まだ患者の戦いが終わっていないこと、その中でも差別・偏見をなくす試みが確かに前進していることを感じさせます。

著者自身、この話が一番思い入れがあったかもしれません。読んでいてそう感じました。

我々が日々生きていく中で、自分たちから離れたところにあるものはなかなか見えません。

でも、その裏に、自分たちが想像もできないことで苦しんでいる人がいることは知っておくべきだということを改めて感じました。

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