アセマネコンプラおススメ本とか

はじめに

本記事は、X(旧Twitter,といいつつ自分の頭の中ではいつもTwitterですが)で@ActiveIndexさんが企画されている「金融系Advent Carender 2025(#金融系_AC)」に投稿するものです。

面白そうなので、私も表題のとおりアセットマネジメント業界のコンプライアンスの方にお勧めできる本の紹介というネタで参加させていただくことにしました。コンプラの方向けというだけでなく、対コンプラに理論武装したい方(!?)にも役立てばいいなと思います。

どんな感じで書けばいいのか相場観がわからないのですでに投稿されている方の記事を読んでみるとどれも面白くて引き込まれてしまいました。皆さんの投稿が進むにつれ、どれも読ませる記事だなあと驚きが増す一方なのですが、皆さんどこでセンスを身につけられているんですかね?自分も学びたいです(笑)

で、前日分まで読みましたが、最初に謝っておきます。多分このシリーズで最もつまらない記事になりそうです(涙)でも頑張って書いてみますので、お付き合いいただけると嬉しいです。

 

アセマネと規制

アセマネコンプラ向けの本を紹介する前に、その前提となるアセマネを取り巻く規制について少し書きたいと思います。「コンプライアンス(Compliance)」というのは和訳するとルールを遵守するということであり、いわゆるコンプライアンスという業務は社内の業務が法令などのルールに即して行われることを確保するための活動といえます。したがってアセマネのコンプラといえば、アセマネの各種の業務が各種のルールに抵触しないために行われる業務ということになります。

ここで重要なのは「アセマネの各種の業務」と「各種のルール」とは何かということです。アセマネのビジネス・業務も多様ですが、大きなものとしては「投資信託」と「投資一任」があり、各種のルールには法令(法律+監督指針など)・加入協会規則・社内ルールがあります。協会規則は法的拘束力があるので法令とまとめて『法令諸規則』ということが多いです。

表にするとこんな感じです。

  法令 協会規則
投資信託 金融商品取引法
投信法(+投信約款)
監督指針
投資信託協会規則
投資一任 金融商品取引法
監督指針
日本投資顧問業協会規則

投資一任についてはもともと「投資顧問業法」という特別法があったのですが、2007年に金融商品取引法に組み込まれています。協会規則は加入協会が異なるので別々ですが、2026年4月1日に合併し「資産運用業協会」となる予定ですので、いずれ同じ協会の規則を参照することになります(業ごとに異なる規則が適用されるかもしれませんが)。

そして、これらのルールと各業務への具体的な適用の仕方を把握し、ルールの順守を促していくことがコンプライアンスに求められることになります。しかし、法令諸規則で定める規制は幅広く、また具体的な業務も多いため、必要な情報を整理するのも容易ではありません。そのため、専門家が取りまとめた信頼できる書籍・資料を用いて知識をアップデートすることが重要になります。

ある意味、経験に加えてこの情報源の多寡がコンプライアンスの能力を左右するともいえると考えています。情報源の多さに自信があるわけではないですが、それなりに書籍にはお世話になっていますので、特に重要と考えるものについてご紹介します。
なお、法令上の制約は投資信託の方が投資一任より厳しいため、特に投資信託に関するものが多くなりますが、ご承知おきください。
(業法のほか、犯収法とか個人情報保護法などもアセマネのコンプラがカバーする範疇ですが、今回は割愛します)

 

おススメ書籍のご紹介

①「投資信託の法務と実務」(野村アセットマネジメント編著)

まず最初にご紹介したいのは業界大手の野村アセットマネジメントさんが編集されている「投資信託の法務と実務(第5編)」。書名のとおり法令だけでなく実務についても詳細に記述があり、この本にお世話になっている業界関係者は非常に多いのではないかと思います。業界のバイブルと言っても過言ではないかも。

投資信託に関する業務は営業活動や投資判断だけでなくトレーディングやその決済、基準価額の算出、法定書面・開示書類の作成、運用委託契約・投資信託約款の作成など多様です。そしてそれぞれの業務が高度に専門化・分業化しているため他部署の人間が俯瞰して理解することは必ずしも容易ではありません。しかし規制がそれらの業務と紐づいて存在する以上、特にコンプライアンスの人間はある程度投資信託の運営のための業務について理解をしておく必要があります。

もちろんわからないことは各部署の方に話を聞きますし、研修などで知識を補うこともできますが、本書は各業務について俯瞰的かつ詳細に説明がされていて、投資信託のコンプラ担当者としては必ず手元においておくべき書籍だと思います。

なお、野村アセットマネジメントではETF(上場投資信託)について網羅的な解説を行う「ETF大全」も出版されています。個人的にETFに関わることが多くないので読んだことはないのですが、「投資信託の法務と実務」といい、業界大手がこのような書籍を提供することに一業界人として感謝しています。

 

②「投資信託・投資法人法コンメンタール」(澤飯敦ほか編著)

投資信託の運営は投信法(投資信託及び投資法人に関する法律)で決められていることが多く、実務を捌く中でも投信法の規定を確認することが多々あります。しかし、投信法に限らず法律の条文は必ずしも個別具体的なことまで示してくれるわけではないので、条文の意味するところを考えることになります。

法令の条文を解釈する際に有用と言われているのが、立法担当者による解説です。学者や実務家の方による解説もそれぞれ参考になるのですが、立法担当者による解説は実質的に所管官庁による解説ともいえるでしょうから、解釈の拠り所としては最も重きを置くことになります。

投信法では上記の「投資信託・投資法人法コンメンタール」が立法担当者により上梓された解説本という位置づけです。立法担当者と任期付弁護士経験者により作成されたものであるため、各条文の意味するところや条文ができた背景、参考にすべき情報(例えば監督指針の〇×も参照するとよい、など)が詳細に書かれていて、結構痒い所に手が届いています。逐条解説の型式なので自分の探したい箇所がすぐに見つかるのもGOODです。

アセマネのコンプラをしていると投信法と向き合うことが多いですが、投信法の参考書としてはこれが手元にあれば十分ではないかと思います。

 

③「金融商品取引法」(松尾直彦著)

投資信託と並びアセマネ業界にとって重要な法律が金融商品取引法ですが、こちらも立法担当者による解説書があります。そのものズバリ「金融商品取引法」で現時点では第7版が最新のものになります。

金融商品取引法は業規制のほか市場の取引ルールや有価証券の開示規制など幅広い規制が含まれている法律ですが、それが一冊にコンパクトかつポイントを押さえてまとめられていて大変便利です。ただし逐条解説形式ではないので、「〇×条の考え方について確認したい」と思った時には索引からキーワードで探す形になるので、少し使いにくいかもしれません。そこまで困ることはないですが。

金融商品取引法の逐条解説本としては「金融商品取引法コンメンタール」という書籍があり、こちらは学者による大変丁寧な解説が加えられていて、研究で非常に役立ちました。特に業規制を扱う第2巻を参考にすることが多かったのですが、こちらはもう書店にはないようでAmazonでは10万円を超える値がついていました(自分は必要な箇所だけコピーしてました)。もし古本屋でお手頃価格で見かけたらすぐに買う価値がある本だと思います。なお、第2巻出版時から10年以上たち金商法もかなり改正されているので、リニューアルして出版していただけないかと期待しています。

 

④「逐条解説 投資信託約款」(小島新吾ほか編著)

それぞれの投資信託の運用の内容その他細かい運営については運用会社(投信会社)と信託銀行(受託銀行)の間の信託契約である投資信託約款で定められています。投信約款の記載項目は投信法で定められていますが、実質的には業界である程度決められた型があり、それをカスタマイズして約款の条項が定められています。

投資信託の運営を定めるものであり、実質的には投資家(受益者)との契約であるためその内容についてはコンプライアンス担当者としても理解をしておきたいところですが、細かい定めも多いため網羅的に理解をするのは難しいものです。約款は投資家との約束であり投信会社の行為が約款と齟齬があると「投信約款違反」として法令違反と同じような扱いになるため、投信約款に対する正しい理解に基づく判断が必要であり、難しいとばかりは行っていられません。実際には約款と実務の関係ではしばしば細かいところが問題になることがあり、この条項はどういう意味なのだろうということを考えさせられるのですが。

そういう時に役立つのが投信約款の条項を逐条解説した「逐条解説 投資信託約款」です。投信約款の条項ごとにその意味やそれが約款に入れられている背景などを説明してあるので、約款の解釈に悩んだ時に参照すると議論がスムーズに進むことが多いです。投信約款に特化して解説した書籍は他にないため、業界関係者でこの本のお世話になっている人は結構多いのではないかと思います。少なくとも付き合いのあるコンプライアンス担当者は持っていることが多いみたいです。

ということで、投信会社のコンプライアンスあるいは投資信託約款に携わる業務をされている方は買いの一択と自信をもってお勧めします。

 

⑤「オフショアファンドの実務」(菊池寛司著)

投資信託を扱うアセマネ会社のコンプラでは国内投信に関する業務がメインになることが多いと思いますが、オフショアファンド(外国の投資信託)についても接点が生じます。例えば国内投信を通じてオフショアファンドに投資したり(ファンドオブファンズ)、法人顧客に直接オフショアファンドを紹介したり、年金基金との投資一任契約を通じてオフショアファンドに投資する、といった具合です。

コンプライアンスとして直接オフショアファンドの運営に関わることはないですが、オフショアファンドが日本の投資信託とどのような違いがあり、どのように運営されているかというのは多少なりとも知っておきたいところです。しかし、海外の金融商品であるため、情報量としては国内投信に比べるとかなり少ないのが実情です。

ネットにもオフショアファンドの解説をしている資料は見つかりますが、書籍レベルで実務的なポイントを網羅しているものはさすがにネットにはないようです(お金もらうレベルなので)。

そんな環境において、オフショアファンドの実務の解説に特化して登場したのが「オフショアファンドの実務」。著者は長く外資系証券でオフショアファンドの実務に携わってこられた方で、オフショアファンドの運営や運用内容・商品性について細かいところまで解説されているほか、日本でオフショアファンドを販売する際に関わってくる金商法に関する整理も紹介されています。

オフショアファンドの運営に焦点を当てて解説する書籍というのはあまり類書がなさそうで、税込み1,650円とお手頃価格ということもあり、オフショアファンドを概観する際にお勧めしたい一冊です。

 

⑥「投資信託の計理ハンドブック」(野村総合研究所)

法令諸規則は投資信託の主要な業務のすべてに関わってくるため、コンプライアンスとしてもある程度は各業務について理解をする必要があります。しかし、各業務の専門性が高いため、その理解は容易なことではありません。

特に敷居が高い業務として投信計理という業務が挙げられると思います。投信計理とは投資信託の取引価格である基準価額の算出や投資信託の購入(追加設定)・売却(一部解約)の把握・管理を行う業務です(厳密には後者は違うかも)。投資家の立場になって考えると、投資家にとって一番大事なのは基準価額なので、それを算出するという業務は非常に責任が重いものです。しかし、テクニカルな点が多く、また外部から見えにくいということもあり、部外の人にとってはハードルが高くなっている気がします。特に学者などの業界外の方が忠実義務・善管注意義務に絡めて投信計理を論じているものを見たことがありません(運用や営業、開示に関連して学術的に論じられているものは多くありますが)。

一方で、投信計理に関するイレギュラーやエラーはしばしば発生するため、コンプライアンスの人間が投信計理の細かいところまで知る必要はないにせよ、どういう流れで何をしているのかは理解しておきたいところです。そうでなければトラブル発生時や相談を受けたときに、何が論点でどのような対応が望ましいのか、という意見の提示も難しくなります。

では、そんな敷居の高い投信計理についてまとめられた書籍があるのかというと、あります!投信計理の難しさは投信計理の担当者にとっても同じということなのかいくつかあるようで、古いものだと「投資信託の計理実務 オペレーションから開示制度まで(あらた監査法人)」という解説本があり、新しいものでは「投資信託の計理ハンドブック」があります。基準価額の算出や設定・解約の業務の詳細が説明されています。個人的には会計が苦手なため計理業務に係る会計的な説明はよくわからないのですが、それだけに投信計理の担当者にとっては力強い味方になっているのではないでしょうか。もちろん会計がわからない私にとっても計理業務の理解の足掛かりになる貴重な存在です。

 

⑦「外資系運用会社が明かす投資信託の舞台裏」(ドイチェAM)

アセマネで働いている人というよりアセマネ業界に関心がある人が投資信託に関する業務を理解するためにお勧めなのが、ドイチェ・アセットマネジメントが出版している「外資系運用会社が明かす投資信託の舞台裏」という本です。舞台裏といってもゴシップ的な話や秘密の話があるわけではなく、実際に投資信託の運営に関わっている人がどういう業務をしているのか、どういうことを考えているのかということが説明されています。

この本で私が特に感銘を受けたのは、いわゆる投資信託の運用者(ファンドマネージャー)や投資信託営業といった注目されやすい業種だけでなく、上記の投信計理やリスク管理、ディスクロージャー、コンプライアンスといった注目されにくい部署の業務やその重要性、そして各業務が抱える課題についても丁寧に説明されている点です。アセマネ会社の採用サイトにも業務の説明や担当者の業務紹介といったコンテンツはありますが、必ずしもすべての職種について紹介されているわけではないので、このように丁寧に各業務の紹介がされていることについては、ドイチェAMという会社についても好感を持ったのを覚えています。

もしこの記事を読んでいる方の中でアセマネ、とりわけ投信会社への就職・転職を検討されている方がいらっしゃったら、是非この本を読んでみることをお勧めします。苦労話も紹介されていて、比較的業務のイメージがしやすくなると思います。

 

番外編 あくちぶさんの薄い(?)本

今回の金融系_ACを企画されたあくちぶさん、今年のコミケに参加されるようなのですが、そのタイトルがいかにも玄人向けです。

内容が気になるところですが、これまでのXでの投稿を見るに、きっと業界人なら持っておいても損はないかと思います。自分もコミケ行けるならぜひ買いたいのですが、行けないので買えないのが無念です。オンラインで販売とかないかな。。。

 

情報源がコンプライアンスの価値を決める

以上、アセマネのコンプラとしてお勧めしたい書籍をご紹介させていただきました(他にも紹介したい書籍はありますが、書ききれないため割愛します)。コンプライアンスという仕事は会社のビジネス自体にストップをかけることもできる、ある意味で強い力を持った存在でありますが、それゆえに正しい情報に基づいた判断をしなければ過剰にストップをかけてビジネスチャンスを逃したり、逆に意図せず法令違反をさせてしまうことになりかねません。特に資産運用立国のトレンドの中アセマネを取り巻く規制も大きく変わってきているので、アップデートを怠るとできることもできないままだったり、逆に新たに対応しなければいけないことが放置されてしまうこともありそうです。

そのため、適宜解説書などを読んで情報をアップデートできるコンプライアンス担当者こそ価値があるコンプライアンスオフィサーだと思いますし、自分もそうありたいと思います。それゆえに少々値が張る専門書にも積極的に投資をすることも必要経費として割り切る覚悟がいるかもしれません(多分)。

また業界のコンプライアンス担当者同士で情報交換をして情報のアップデートをするとともに他社動向を仕入れることもコンプライアンス担当者の重要な役割だと思います。他社動向を重視する業界ということもありますが(実際色んな論点で「他社はどうしてる?」とよく聞かれます)、他社と同じ対応をすることで致命的なダメージを防ぐという意味合いもあります。したがって、本を読む能力だけでなくコミュニケーション能力もコンプライアンス担当者の価値を構成する重要な要素といえると思います。

といつつ私はこんな硬い文章をつらつらと書くつまんねー奴ですが、業界内でのコミュニケーションは大事にしたいと思っていますので、飲み会とかあったら声をかけてやってください、というお願いで締めさせていただきます。

サンタさん、今年はユーモアのセンスをください。。。

カテゴリー: お仕事, 投資・投資信託 パーマリンク

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