史料学概論(1)_レポート提出

史料学概論の内容

昨年末に西洋史概論のレポートを出し終え、概論科目5つのうち4つのレポート作成が終わったので、今年の年初からは最後の概論科目である史料学概論に取り組んでいました。

史料学概論では、歴史学において歴史的事実を解明するための根拠・裏付けとなる史料の扱いについて学びます。
史料と一言でいってもその種類は多様で、書物や古文書、木簡などの文献史料だけでなく、遺跡や遺物といった考古資料、さらには伝承や民俗といった無形の史料・文化財もあります。
ある事実が発生したことを確認できれば史料となりうるので、今後はインターネットの記事や電磁的記録文書などデジタルな情報も史料の一形態として扱われるようになるのだと思います。昨今では法定帳簿も電磁的保存が認められるようになっていますので、現代の歴史を歴史学で検証する頃には紙より電子媒体の方が史料として重要になってくる可能性すらあるように思います。

とはいえ、現在の歴史学がカバーするのは概ね電磁媒体が登場する以前と言えますので、史料として考慮すべきは伝統的な史料、すなわち文献史料・考古資料・音声や表現などの無形史料と考えていいと思います。
そして、それらの史料をそれぞれの性格を踏まえて過去に発生した事実・過去に存在していたものの解明につなげていくのが歴史学で、そのための史料との接し方を学ぶのが史料学だと考えています。

史料学概論のテキストは東野治之『日本古代史料学』(岩波書店)。東野先生は史料学の第一人者で以前には奈良大学で教鞭をとられていたようです。

 

テキストは筆者の東野先生が発表された論文や講演をまとめたもので、①編纂物、②古文書、③木簡・銘識、④文物と文献史料というカテゴリーわけがなされています。

①編纂物というのは文字通り原史料(生の史料)を編纂した史料で歴史書や律令などの法令、歌集などが該当します。一般に書物は編纂物のカテゴリーに含まれると思います。
②古文書というのは生の史料のうち、手紙や日記、広く言えば地図などの書類を指します。相手のある文書、という定義もあるようですがあまり深く考えず生の史料のうち書類は基本的に古文書と考えてもいいと思います。
③木簡・銘識のうち、木簡は木の板に何らかの情報が記されたものです。例えば荷札や簡単な命令などが該当します。奈良時代の長屋王邸から大量の木簡が発見されて研究が進んだことはよく知られています。銘識は銘文と識語の略で、銘文は石や金属に銘を掘ったもの、識語は書物などに書き加えた文章・文言を指します。例えば写経したものの後書きとして誰が誰のために奉納したものかを書いたりしているものが該当します。
④文物と文献資料について、歴史的な事実の考察は文献史料だけでなく考古資料など物的資料をとっかかりとして進むこともありますが、その場合も考古資料の分析を補完する資料として文献史料が役立つことがあります。そのような文献資料の活用の仕方も史料と向き合ううえで認識しておくべきことだと思います。

テキストではこれらのテーマごとに具体的な事例を用いて資料の解釈の仕方を学びます。一つの資料に対して多くの資料、しかも場合によっては中国や韓国など海外の史料(編纂物や木簡・竹簡など)も用いて解釈がなされるので、深度のある資料の解釈には非常に広い知識が必要とされることがわかりますし、同時にどんな分野の知識もあって損することはないともいえそうです。想像もしないところから新しい解釈の手がかりを見つけることにつながりそうですし。

ともあれ、歴史学を学ぶ上で史料の取り扱いは不可欠なので、いろんな種類の資料を扱う具体例に触れることができたのは有意義でした。

 

レポートのテーマと内容

史料学概論のテキストでは上記の4カテゴリーの実例が紹介されていますが、それぞれの史料についてその性格と具体例を述べるのがレポートのお題でした。

レポートではそれぞれの事例について、①編纂物:日本書紀などから法隆寺の火災年代を特定した事例、②古文書:写経生の試字について信憑性を検討した事例、③木簡:長屋王邸発掘書簡から伺える家政機関や日常生活、④銘識:光覚知識経の供養対象の解釈、⑤文物と文献資料:富本銭の性格の検討(流通通貨か厭勝銭ようしょうせんか)を選びました。
テキストに記載されていない事例を挙げるのもありだと思いますが、レポートはテキストにある事例で完結させました。といってもいくつかテキスト以外の書籍も参考にして少し広がりのある内容にできたと思います。

ちなみに②の写経生の試字というのは、天平時代や奈良時代には写経をする専門の役人として写経生がおり、その採用試験が試字と呼ばれていました。本件はその試字で書かれた文書がよく見られるものと様式が異なるため、本当に試字のものであったかを検証するという事例でした。
また⑤の富本銭は考古学的な分析から7世紀に日本で製造されたとされる貨幣ですが、それが貨幣として流通したものか儀式的に使用される厭勝銭であるかははっきりとはわかっていないようです。その点について文献史料の記述を検討することにより富本銭がどのように扱われていたかを検討するという内容になっています。

この科目のサブテキストにも記載がありましたが、具体的な事例を学ぶと研究者の思考を追体験しているような感じになって、このように考察を展開していくのかと大変勉強になりました。
一般的な歴史の科目は歴史的事実とその解釈をある意味所与のものとして学ぶので、歴史的事実自体を解明していくプロセスに触れるのはまさしく歴史学を学んでいるのだと感じます。

とりあえず史料学概論のレポートが終わったことで概論科目のレポートは一通り完了したことになります。このレポートが再提出になる可能性もゼロではありませんが(実際大学の掲示板を見ると再提出になっている方もいるようです)、今は頭を切り替えて新しい科目のレポートに取り掛かることとします。

残念ながら史料学概論を含め履修科目の全単位を今年度中に取得することは難しそうですが、せめて一つでも多くのレポートを年度内に提出して来年度早々に卒業に必要な単位をそろえて卒業論文に注力できればと思います。

カテゴリー: 奈良大学通信教育部 タグ: パーマリンク

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