博士号の使い道
学位だけで変わることは少ない
先日、長年の勉強の成果として博士号(経営法)を取得することができましたが、あまり有効活用できているとは言い難いのが現状です(一応ご縁で面白い機会をいただいたので少しは活用できています)。
もちろん、研究者と異なりすぐに博士号がキャリアや仕事を劇的に変えてくれることは想定していませんが、せっかく取得したので何かしら活かしていきたいと思います。
ちなみに博士号を取ったら学会に入ってたまには論文を書いてみたりして、なんて妄想はしていましたが、どの学会に入るべきか、入会するための条件(会員の推薦など)をどのようにクリアするかなどを考えているうちに時間だけが過ぎています。。。
ともあれ、学会に入るにせよ研究会などに参加するにせよ、自分からアクションを起こさないと何も変わらないというのは事実だと思います。逆にうまく足掛かりを得られれば自分のキャリアにもいい影響を与えそうなので今後も検討していきます。
学位で得られる資格試験のアドバンテージ
大卒の就職活動などイベントとしての学位取得を除くと学位自体が自動的にもたらす変化は多くないと思いますが、資格試験については学位の取得自体が有利に働くことがあります。
学位取得(大学の卒業など)が受験資格になっている資格はもちろんですが、一定の学位の取得によって資格試験の一部が免除されるケースもあります。
例えば博士号取得者は国会議員政策担当秘書資格試験を経ずして採用審査認定が受けられますし(口述の審査はあるようですが)、税理士試験でも一定の学位を取得している場合は科目免除があります。
学位と国家資格試験の関係については文部科学省がまとめてくれていますので参考になります。
特にこれらの国家資格はキャリア形成上大きな影響を及ぼしうるもので、可能であればせっかく取得した学位のアドバンテージを活かすのもありだと思います。
公認会計士試験を考えてみた
公認会計士試験と博士号
では、博士(経営法)は国家資格取得の上でどのようなアドバンテージがあるかと考えてみると、前述の国会議員政策担当秘書の採用のほか、最難関国家資格の一つとして知られる公認会計士試験でも有利になりそうです。
公認会計士試験は短答式と論文式という二段階の試験で構成されていますが、商学または法律学に属する科目による研究で博士号を取得している場合、短答式試験全てと論文式試験の一部科目が免除になります(公認会計士法第9条第1項第3号)。
法律学の場合、論文式試験の必須科目である企業法と選択科目である民法が免除されます。したがって受験科目は会計学(財務会計論・管理会計論)、監査論、租税法のみということになります。
ちなみに商学系の博士の場合、短答式試験に加え、一番ボリュームのある会計学と選択科目の経営学が免除されることになり、非常に有利になります。
なお、博士号を持っているから自動的に免除されるわけではなく、事前に公認会計士・監査審査会に博士論文等を提出して科目免除の審査を受ける必要があります。
免除申請の結果
前述のとおり、科目免除を受けるためには事前に科目免除の申請をしておく必要があるので、試しに免除申請をしてみました。
公認会計士試験において科目免除が設けられている趣旨は、必要な学識を確実に持っている者に対して試験でその能力を図る必要がないというものであり(公認会計士・監査審査会ウェブサイトより)、免除の可否もその趣旨に沿って決定されます。
そのため、一応法律系の博士号とはいえ免除されるかどうかは実際に試してみないとわからないということになります。
結果的には担当者の方から追加で簡単な質問を受けましたが、大きなトラブルはなく約1か月後に免除通知がありました。
免除される科目は短答式試験の全4科目、論文式試験はの企業法と民法。法律学の博士号取得者としての免除になりました。
ちなみに司法試験合格者も同じ内容の科目免除が受けられます(その場合も事前の免除申請が必要)。
公認会計士試験の予備校では司法試験の科目免除者向けのコースが設定されているところもあり、そのコースでは若干費用が安くなるのでその点もメリットです(未確認ですが博士号取得者でも履修可能だと思います)。
現時点では公認会計士試験を受験するとは決めていないのですが、試験を受けると決めるときの後押しにはなってくれそうです。
公認会計士試験とコンプライアンスのキャリア
いくら科目免除があるとはいえ公認会計士試験が最難関試験であることに変わりはなく、受験する場合費用も時間も相当かかることを覚悟しなければなりません。
そのためにも、合格することによる利益について考えておく必要があります。
公認会計士試験に受かる最大のメリットは当然公認会計士になるための道が拓けることですが、公認会計士の最大の特徴は財務書類等の監査を独占業務として行うことができることだといえます(公認会計士法第47条の2)。
それ以外にも公認会計士の知識・経験を活かすことができるキャリアは多いですが、公認会計士を目指す判断基準としては独占業務の経験が自分にプラスになるか否かだと思います。
ではアセットマネジメント業界、特にコンプライアンスの分野でどのように公認会計士の資格が活かせるか、と考えると実はあまり思い浮かばないというのが現実です。
会社や運用財産(公募投資信託の信託財産など)の財務監査を自社で行うわけではないですし、少なくともコンプライアンスの立場では個々の会計に関する判断に関わることもありません(財務経理や投信計理の場合はあるかもしれませんが)。
ただ、監査というキーワードで考えるなら内部監査はコンプライアンス業務と関係が深い分野で、公認会計士という資格が内部監査に踏み込むチャンスになるのなら、キャリア形成上も有意義かもしれません。
ただ、上場していないアセットマネジメント会社で財務報告に関する内部統制がどれほど業務上の重要性があるのかわかりませんし、それ以外の業務監査やIT監査などで公認会計士の資格が有効なのかもわかりません(内部監査だけなら業務独占ではないものの公認内部監査人という資格もあります)。
日系の上場企業に連結しているアセットマネジメント会社はまだしも、海外の会社のグループ会社だとどれだけ意味があるのかも不明です。
そう考えると、科目免除をもらったからといって公認会計士目指すぞ!とは単純には考えられないところです。
もう一つの壁
さらなる壁として、公認会計士になるために求められる条件である「実務経験」があります。公認会計士になるためには公認会計士試験に受かるだけではだめで、実務経験(2年以上)と実務補修というのもクリアしなければならないようです。
(実務経験に関する金融庁のQ&Aはこちら)
そのうち実務補修についてはおそらく必要な機会が提供されるものと思いますが、実務経験については自分でその機会を得なければなりません。
実務経験は公認会計士・監査法人が行う監査証明の補助や会計に関連する業務を2年間行うというものですが、残念ながらこれまでの業務でそのような経験ほとんどはなく(なくはないけど認められる可能性は低そう)、今後もコンプライアンスの立場では難しそうです。
実務経験が認められる範囲は意外に広く、経理や貸付業務、資産運用業務でも認められることが多いのですが、運用会社にいても運用業務に関与した経験がないので実務経験は頭を抱えるところです。
試験に受かってから言えよ、という悩みではありますが。
副業とかで監査補助とかできればいいのですが、運用会社ということもあり秘密保持とか面倒なことも多そうですし。そもそもそんな面倒な人間の受け入れ先見つかるのか?
会社の経理業務で業務経験を積む方法もありますが、外資系運用会社は資本金が5億円未満であることも多く、コンプライアンスという立場でどこまで兼務が許されるものか、やはり悩みどころです。
とりあえず熟考
科目免除は認められたとはいえ公認会計士試験の難易度が高いことは変わらず、しかも自分自身簿記が苦手で経済学部時代には簿記3級どころか会計の授業の単位さえ一つも取得できないという筋金入りの会計オンチという自覚があります。
しかも公認会計士試験に合格したとしてもその後の実務経験のハードル、さらには公認会計士というステータスの活用という課題があり、頑張って試験を受けることのメリットもよくわからない(モチベーションも保ちにくい)という現実もあります。
いずれにせよ今回は公認会計士受験についての可能性を検討できたということで収穫がありました。
来年は奈良大学通信課程の卒業論文があるので公認会計士試験の勉強と並行は難しいですが、卒業論文の目途が立った時には公認会計士試験に挑戦するか否かの結論を出せているといいと思います。
そのため、今は奈良大学の歴史系の勉強と目の前の仕事にきちんと取り組んでいこうと思います。西洋史辛い。。。