文化財学演習Ⅰ(スクーリング講義)

奈良大学通信課程とスクーリング

奈良大学の通信課程で歴史に関する学びを始めて早5か月。
いくつかの科目のレポートを書いたり単位認定試験を受けたりと、今まで触れてこなかった分野にも触れることができ、大変有意義でした。
こちらについては記事が書けていないのでそのうち投稿したいと思っています(汗)

しかし、大学生の醍醐味(?)といえばやはり対面での授業と学友との交流ではないかと思います。この点では通信課程はどうしても限界があるのですが、コロナ禍では一般の大学生も学友との交流は制限されているようですので大変だと思います。

それはさておき、奈良大学通信教育部ではテキストでの学習に偏重しないよう、また学友との交流の機会を設けるためにスクーリングの講義を設けています。
スクーリングとは実際に大学のキャンパスを訪れて、一般の大学生と同様に授業を受ける講義で、科目によってはキャンパスの外の史跡や神社仏閣を訪れたり、実際に文化財を手に取ってその扱いを学んだりすることもあります。
もちろん実際に奈良に行って宿泊もするわけですから交通費や宿泊費は必要ですし、またスクーリング講義用の追加費用(学費)もかかるので経済的な負担はそれなりに大きいのですが、現地に行って歴史遺産に直に触れ、学友と一緒に学ぶことは負担を上回る収穫があると思います(あまりに回数が多いと辛いですが)。

しかし、コロナ禍の状況では実際にキャンパスに集まって授業を行うのが難しく、現在はスクーリング科目についても一般の科目と同様に与えられた課題を提出する形態、あるいはオンラインで授業を受けるという形態になっています。
通信課程の学生の多くがスクーリングを楽しみにしているようで、経験者の方も有意義だったとおっしゃっていることもあり、実際にキャンパスに行くことができないのを残念がる声が多く、自分も同感です。
できれば卒業するまでに一度はキャンパスで授業を受けたり学友と直に話してみたいものです。

ただ、ポジティブに考えれば交通費と宿泊費の節約になっているわけでもあり、プラスの面がないわけでもありません。とりあえず一度か二度ほどキャンパスで授業を受けることができればかなり満足できると思いますので、一つ二つスクーリング科目を残して在宅で単位を取ってしまうのも悪くないかもしれません。

ともあれ、8月20日(金)から3日間、スクーリング科目「文化財学演習Ⅰ」を受講しましたのでその内容をご紹介しようと思います。

 

文化財学演習Ⅰ

文化財学演習Ⅰの内容

文化財学演習という講義はⅠとⅡがあるのですが(Ⅲもありますが卒業論文指導っぽいです)、両方とも複数の教員が担当する講義で(合同ではなく、教員を選択する)、学生はシラバスを見て希望する教員のクラスで受講します。
文化財学演習Ⅱではお城の研究で有名な千田嘉博先生が担当されるので千田先生のクラスを受講しようと思っていますが、Ⅰの方は千田先生のご担当ではないので歴史地理学の先生が開講されているクラスを選択しました。
他には考古学や美術工芸品に関する内容のクラスがあり、これも奈良大学らしい授業ですのでこちらを選んだ方も多いかもしれません。

私のクラスでは歴史地理学を中心とした内容で、歴史と地理学の掛け合わせということで歴史的景観の保全について、具体的には重要伝統的建造物群保存地区や重要文化的景観制度や登録の意義などについて学ぶとともに、地理院地図の使い方や卒業論文作成を見据えた論文作成の作法などについても説明を聞きました。
論文作成自体はそれなりに経験がありますが、自分の学位論文と学術論文では構成の違いがあったり、分野によって参考文献の書き方の違いがあるなど、結構勉強になりました。

3日間という短い期間でしたが学ぶことは多く楽しかったです。以下では簡単に授業の内容をご紹介したいと思います。

授業の前に(1日目)

初日はまず自己紹介から入ります。受講している方は10名で居住地も性別も極端な偏りはありませんでした。年齢としてはシニアな方が多く、退職後に学びなおしをされている方もいらっしゃいました。歴史学という分野の性格でしょうか。
自己紹介の中で検討中の卒業論文のテーマについても触れられていましたが、現段階では検討度合いも人それぞれで、あまり考えられていないという方もいらっしゃいました。
今年度入学ならまだ5か月でレポートや試験に追われていて卒業論文のことまで考えるのは結構大変な気がします。

自分自身具体的にこれ!というものは決まっていないのですが、その時点では「文化財から見た小田原北条氏の民政」といったテーマで何かできないかと考えていました。
北条氏は民政が優れていたことに加え記録の保存状態が良好なため研究が非常に進んでいますが(特に黒田基樹先生がたくさん書籍を出されていてとても勉強になります)、その研究は比較的文献史学からのものが多く、民政についてあまり文化財的な観点からの研究は見かけません(築城術については非常に多いです)。もちろん私が知らないだけで豊富に研究実績はあるのかもしれませんが、その可能性は今は見てみないふりをします(笑)

しかし、文化財から研究をするためには文化財が遺っていることが前提であり、その観点から研究が少ないということは文化財自体が文献史料と比較して保全されていないことを意味しています。そのようなハードルを一学生が超えるのは非常に難しく、先生にもその点を指摘されました。
確かに改めて考えると文化財というモノがない以上研究できないし、自分で資料を発見することは難しいので、このテーマは厳しそうです。

となると改めてテーマを選ばなければいけませんが、小田原という点は死守したいので、他の小田原の史跡(研究成果が膨大にある小田原城は除く)か、小田原の誇る偉人である二宮尊徳の業績に絡んだテーマなどがいけるかと考えています。

1日目

授業はまず景観を維持する法的な枠組み、具体的には文化財保護法の中で景観の保存がどのように定められているかの説明を受けました。
文化財保護法では有形・無形の文化財について文化財保護の枠組みが定められていて、重要文化財や国宝の指定も文化財保護法に定められています。
景観については重要文化的景観重要伝統的建造物群保存地区について定めがあります。自分でもはっきりとその違いは分かっていませんが、前者は指定のテーマに沿った景観に重きが置かれ、後者は建造物という文化財に焦点があるように思います。実際、景観を対象とした重要文化的景観が広範囲に及ぶのに対し、重要伝統的建造物群保存地区はかなりピンポイントの指定になっています。
それぞれの概要や指定されているエリアの説明は文化庁のウェブサイトに詳しく載っています。

 

町並みが保全されている具体例として奈良県の某地域の町並みの変遷の調べ方や保存状況についてお話を聞きました。史料が残っていて読み込むことができれば江戸時代の地割(区画割り)や持ち主、土地利用の変遷までわかるのか、と大変興味深く聞きました。

また論文作成の基礎として論文の体裁と文献の集め方について説明を受けました。
やはり資料の収集方法としては大学・自治体の図書館のほか、国立国会図書館やCiNiiがメインのようです。コロナ禍で資料へのアクセスが難しいのは専門家の知恵・経験があっても変わらず、直に図書館に行く以外には複写郵送サービスに頼らざるを得ないようです。無念。

2日目

2日目は主に地理院地図の使い方を学びました。
地理院地図は国土地理院が管理している地図データですが、普通の地図だけでなく年代ごとの航空写真が取れたり、傾斜を示す陰影起伏図を作成できたりして大変便利なツールです。いじっているだけで時間が過ぎていきます(笑)
これは論文作成だけでなく、旅行の記録・記事などで使ってみたいですね。

 

 

1974~1978年の小田原城付近の航空写真(地理院地図より筆者作成)

小田原城付近の陰影起伏図(地理院地図より筆者作成)

 

この授業では3日目に各人が重要文化的景観または重要伝統的建造物群保存地区から一つ以上を取り上げて所定のフォーマットを用いて報告することになっていて、地理院地図の使い方の説明の後はフォーマットの説明を受けました。

そしてお昼休みを挟んで午後は各自報告書の作成です。
提出期限が15:50とお昼休みを入れても4時間しかなく、限られた時間で参考文献を確認し、地図の作成や地区・地域の概要、保全や観光上の取組みなどをまとめなければいけなかったのでかなりドタバタしてました。
実は時間がかなりタイトだと気付いたのは午後に作成を始めてからで、昼食をのんびり食べていたのを後悔しました(汗)

それでも質の低い報告書は作るまい、とできるだけ参考資料を読みつつ文化庁のウェブサイトなどにも目を通し、地域の特徴と課題をまとめていきました。
提出したのは提出期限ちょうどの15:50、ヒヤヒヤものでした。
限られた時間で情報を正確かつコンパクトにまとめることを求められる新聞記者のハードさとはこういうものかと、むしろ新聞記者の職場体験をしたような気がします。

3日目

3日目は各人が作成した報告書に基づき発表します。
時間は参加者の人数にもよりますが、今回は一人20分程度でした。

私が取り上げたのは福島県にある下郷町大内宿という宿場町(重要伝統的建造物群保存地区)でした。
小田原市を取り上げたかったところですが、残念ながら小田原市は重要文化的景観・重要伝統的建造物群保存地区としての登録がなされていないので、何となく大内宿を選びました。

筆者作成報告資料の一部

 

大内宿という場所については初めて知ったのですが、上記の資料にも書いている通り東日本大震災前には年間100万人以上の人が訪れる福島県有数の観光地です。近くに大内ダムがあるためセットで訪れる人が多いようです。

大内宿は江戸時代初期に会津と日光・今市を結ぶ南山街道の宿場町として栄えたのですが、17世紀後半には南山街道が使われなくなっていき、その後はあまり発展がみられませんでした。しかし、昭和時代に相澤韶男氏(民俗学者)が保存活動を行っていたところ全国紙が紹介したことによって世間の注目を浴びます。

その後大内ダムの建設もあったため住民としてもすぐに重要伝統的建造物群保存地区に登録しようという機運にはならなかったようですが、関係者の粘り強い努力や観光業に力を入れる下郷町の方針もあって1986年に登録されることになりました。

大内宿の観光業への取組みや保全に対する住民の意識についても論文や資料がよくまとまっていて、報告書の作成に役立ちましたし、いい勉強になりました。
報告書のテーマに観光への取り組みが含まれていたこともありますが、景観の保全と観光業・住民意識は不可分であることが自らの報告書だけでなく他の方の発表からも窺えました。
一定の負担をして景観の保全をするのは観光業の発展という経済的利益も動機としてありますし、負担がある以上住民の協力は必要になります。うまく観光客が増えればいいのですが、そうでなければ負担だけが生じて景観の維持が難しくなる、という難しさに直面しているところもあるようです。

 

以上が文化財学演習Ⅰの3日間の講義の内容です。
短い期間ではありましたが、景観保全の枠組みや地理院地図の使い方、そして景観保全の取組みと観光業との関連、保全のための課題などに触れることができて面白かったです。
論文作成にも活かしたいですが、それ以上にプライベートでの旅行でチェックするポイントが増えそうで、今から旅行するのが楽しみです。特に今回取り上げた大内宿には是非行ってみたいですね。

この夏にはあと二つスクーリング科目があるのですが、他の二つは教材を読んでレポートを出すという形態のようですが、これらも含めこれからも学業に励んでいきたいと思います。あとブログ記事も…

 

カテゴリー: 大学院, 奈良大学通信教育部 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です