かつて日本が太平洋戦争に突入する前に、『日本必敗』の結論を出していたことで知られる内閣総力戦研究所。
かねてより興味があったのですが、この度幸運にも総力戦研究所について記された本を読むことができました(こんな記事を書いてました)。
まさかこのテーマでも書籍があったとは、ちょっと驚きです(ないわけない?)。
ちなみに著者は猪瀬直樹前東京知事でした。
内閣総力戦研究所が本格的に稼働したのは昭和16年の4月。
太平洋戦争開戦のわずか8ヶ月前でした。
元々は英国に同じような組織(Royal Defence College)があり、それをベースに設立されたそうです。英国でも軍人と文官が集まって学んでいたそうです。
第一次世界大戦以降、戦争のあり方はこれまでと異なり、国家の総力を挙げて遂行されるものになっていました。
ただ戦闘に勝てば良いのではなく、資源配分・生産・物流を含めた経済全体を維持し、戦争を続けなければいけません。
特に米国・英国といった大国との戦争は総力戦になることは間違いありませんでした。
そのような事情から、軍部だけでなく各省庁・民間企業の英知を集めて計画を検討することが必要になっていました。
それ故に、米英との戦争が近づいている時期に内閣総力戦研究所が設立されました。
ちなみに、英国に倣って「大学」という名称にしたかったようですが、法令の関係で研究所となったそうです。
とはいえ、いざ設立となっても何をすべきかを理解していた人は学生側にも教員側にも少なかったようで、最初の時間割には大学さながらに体育の時間まであったようです。
既に社会人となって第一線で働いている面々には大変不評だったとか(ただ球技はみんな楽しんでいたみたいです)。
一方で海軍の演習を見学して山本五十六連合艦隊長官と議論したりもしていたり、見聞を広げるためのプログラムも用意されていました。
そして7月12日、内閣総力戦研究所最大の研究成果である「総力戦机上演習(第2期)」が始まります。
各省庁・民間企業から集められた研究生たちは、青国(日本)の各省庁・公的組織の大臣や長官などの役割を割り当てられ、色々なシナリオの下、教官たちとロールプレイングを行うことになります。ちなみに教官たちはロールプレイングの調整を行うと共に、(政府がコントロールできなかった)統帥部として政府と対する役割を担いました。
ちなみに総理大臣は農林中金出身の窪田角一氏。最年長かつ民間出身で中央象徴の縄張り争いに関係しなかったことから選ばれたそうです。
政府(研究生)の中でも各シナリオへの対応について意思統一が難しい上、統帥部もまた政府のコントロールをよしとしないため、喧々諤々の議論が続きます。
シナリオは随時追加されていきますが、それが現実の国際情勢とリンクしていたりするので、非常に緊迫感のある議論になったようです。
そして、彼らは最終的に日本必敗との結論を出しました。
彼らの研究成果は、戦争4ヶ月前の8月に東条内閣に報告されました。
しかし、東条内閣はその研究成果を受け入れることはありませんでした。
これこそが、本書のタイトルである『昭和16年夏の敗戦』です。
研究生はそれぞれの組織で将来を嘱望された人物だけに多くの人が出世を遂げたそうですが、政治家になった人はいなかったそうです。
彼らの英知を結集した研究成果が当時の内閣の容れるところとならなかったことは残念ですが(何らかの参考にはされたかもしれませんが)、色んな組織の英知を集め、色々な政策や国家・社会の行く末を純粋に議論する、という場は非常に興味深いと思いますし、今後も有意義なのではないかと思いました。
役所等の超党派での議論の場というのは聞いたことはありますが、さらに幅広い立場の人が議論・シュミレーションに参加し、その成果が何らかの形で政策やビジネスに反映される、という場があるといいな、と本書を読んで強く感じました。
具体的なイメージはまだないですが、いつかそんな場を作ってみたいとも思ったりしました。
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