仕事で色んな金融の仕組みや制度について調べていると、その仕組みや制度ができた過程について気になったりすることがあります。
特に様々なリスク管理のシステムやバーゼル規制といった金融規制は、その導入の背景や目的が非常に重要です。
一方、金融市場や保険、デリバティブといったものは、自然発生的に成立したものだと思いますが、そもそも誰がこんな便利な仕組みを思いついたのか、ということについ今日身をもってしまいます。
自分だったら絶対思いつかなかったでしょうから。
そんなことを考えながら日々仕事をしていると、偶然、証券・投資業界の検査機関である証券取引等監視委員会の大森事務局長が、面白い本の紹介をされていましたので手に取ってみることにしました。
タイトルは、そのものズバリ、「金融の世界史」。
著者は、以前紹介した「日露戦争、資金調達の戦い」の著者・板谷敏彦氏です。
これだけでも関心を持ってしまいます。
上述の大森氏の書評では「官民を問わず金融に携わる全ての人にとって、備えておくべき常識のデータベース」と評価されていますが、その評の通り、融資や株式・債券、さらにはデリバティブ、投資理論といったテーマを横軸に、時系列を縦軸に、マトリクス形式で分かりやすく話が展開されています。
本書によると、金融の発祥は紀元前3000年前、すなわち今から5000年も前のメソポタミア文明にさかのぼるそうです。
肥沃な土地で、自給自足を超えた生産が可能になったことから様々な統治機構や職業が生まれ、さらにそこから融資や不動産取引が生まれたそうです。
そのころはまだ貨幣はなかったそうですが、契約や利子という概念があり、既に現在の金融につながる要素があったとも言えそうです。
また、面白いことに(株式や債券の現物取引から派生した)金融派生商品と総称されるデリバティブ取引ですが、その一つであるオプション取引や先物取引は、実は株式や債券の登場よりも先だったそうです。もちろん、株式や債券のデリバティブではありませんが。
そして、オプション取引の歴史は、やはり紀元前のギリシャにさかのぼるようです。
人類が様々な生産活動をするなかで、融資や為替、保険といった金融の仕組みが自然発生し、それらは人類のビジネスの高度化や政治との摩擦や協働といった関わり、時には大きな事件や事故を経て、現在の形に近づいてきています。
ちなみに、バブルで有名な南海会社も、国債も政府の戦争による巨額の債務に端を発していたりして、良くも悪くも政府部門と金融システムとの関わりは興味深いです。
金融の中心となる都市も、時代によって異なります。
16世紀頃まで、北ヨーロッパの商業・金融の中心はベルギーのブリュージュだったのですが、それがスペインに占領されたことで、多くの人がその北のオランダ・アムステルダムに移り、アムステルダムが国際金融の中心になります。
しかしながら、今度はそのアムステルダムがナポレオンに占領され、アムステルダムを始めとする欧州各都市の金融業者が、既に金融事業が発展しつつあったロンドンに逃亡し、ロンドンが国際金融の中心地になります。
しかし、1915年の第一次世界大戦では、米国が英仏の多額の国債を買い支えたニューヨークに国債金融の中心が移り、現在に至ります。
ちなみに、1905年の日露戦争において日本は英国だけでなく米国でも国債を発行しており、両市場における発行において米国の金融業者が大きな役割を果たしていることからも、ニューヨークの勢いがわかります。
また、1896年にはダウ・ジョーンズから世界初の平均株価指数が発表されており、平均株価指数という概念の歴史の長さにも驚かされます。
本書が示すように、金融商品も制度も、金融都市も、それを取り巻く環境によって常に変化しています。
今日も新聞をにぎわす事象があり、それが明日の金融商品・制度の変化につながるかもしれない。そう思うと、毎日の事象を考察するのが少し楽しくなりそうです。
それと同時に、小さいなりに自分もその担い手になることがなることができるかもしれないと思うと、仕事に張り合いも出そうです。
大森氏の書評の通り、各種金融商品の成立・進化の背景と時代の流れがよく分かる、非常に充実した内容でした。
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