人を動かすには大義名分が必要とはよく言われることです。
歴史上の著名な事例では、足利尊氏は後醍醐天皇、後に光厳上皇を擁し、織田信長は足利義昭を擁し、中国では項羽が義帝を弑したのに対し、劉邦は義弟の仇討を名分とし、曹操は献帝を擁することで、それをしなかった袁紹軍に対し心理的に優位に立ちました。
それがたとえ形式上のものと分かっていても、やはり名分があると人はそれに賛同しやすい傾向があるようです。
今般の不況を受けて、米国でも雇用の確保が重大なテーマとなっており、政府はその対策やそのための財源の確保に注力しています。
その一環として、雇用関連法(HIRE)が成立し、その財源調達のために外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)が同じく成立しています。
FATCAは富裕層が海外との金融商品取引を通じて税負担を回避することを抑制するための政策で、これによって税収を増やし、雇用対策に充てるという位置づけです。
そのFATCAですが、一定の例外を除き海外金融機関が米国人の顧客情報について開示することを条件に米国内における源泉徴収を行わないという内容になっています。
当然のことながら銀行や証券会社などは大きな負担となるので、できるだけ自分たちが影響を受けないように米国政府に要望します。
それぞれ、全国銀行協会・日本証券業協会を通じて要望しているのですが、そのスタンスの違いが興味深かったので記録したいと思います。
全銀協も日証協も自分たちに例外規定を適用してほしい、というのは同じなのですが、全銀協はこんなことしたらどこの国の銀行も困るし、それによって世界経済に大きな影響が出る、という言い方をしています。
それに対し、日証協は自分たちの事務手続き上無理だし、米国人が簡単に口座は作れないので不要なうえ、そんなことされたら米国向けの投資が減ってしまうかもしれないけどいいの?というスタンスでした。
同じものを目指しているのですが、何となく全銀協の方にはうんうんとうなずいてしまう一方、日証協の要望については心理的なハードルを感じてしまいました。
こうしてみると、錦の御旗というのはビジネスにおいても大事だな、と思います。
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興味深い対比ですね。私は日証協のコメントのほうがアメリカ当局との交渉という意味では説得力があるように思いました。組織を動かすには、組織の利益に訴えるのが合理的に思います。極端な話、全銀協のコメントでは、アメリカ当局に「そんなこと知るかよ。」と、言われてしまいそうです。。。
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>Aphroditeさん
コメントありがとうございます。
日証協のコメントは、対米投資が減るかも、という脅し(?)が入っているんですよね。
これが米国当局にどれほどインパクトを与えるか、ということに関心があります。
確かに米国の利益に訴えるという点では日証協の方がインパクトはあると思います(確かにこの点、全銀協はインパクトを与えないかもしれません)が、自分が当局の立場だったら、なんとなく心理的な抵抗を受けるような気もします。
自分が交渉の素人だからかもしれませんが。
今後の動向をこの点からも注目してみたいと思います。