先日歴史関係の本について書いた際に、水野広徳について触れましたが、今般その水野広徳についての本を読みました。
水野は戦前の海軍軍人ですが、第一次世界大戦の戦禍を見たことをきっかけに軍人でありながらついには引退し、反戦の言論活動を行ったことで知られています。
もちろん、彼は単にヒューマニズムの観点からのみ反対したのではなく、彼我の国力の差や軍備競争が畢竟人類の破滅に突き進むことになることも看破していました。
水野のすごいところは、その先見性のみならず、自分の正しいと思ったことを海軍内でも主張しただけでなく、それが受け入れられないとなると、ついには海軍を出て自分の主張を展開していくところにあると思います。
もちろん、海軍内には米内光政や山本五十六、井上成美など慎重派、穏健派も多く、陸軍と比べると比較的自制が保たれていたようですが、自分の身を海軍の外に出して反戦を訴えたのは彼ひとりではないでしょうか。
また、個人的に彼に習いたいと思ったのは、彼が自費で欧州視察を行っているということです。
自分が見なければいけないものを適切に判断し、必要であれば自分のお金をはたいてでも見に行く。
留学を目指す自分としては大いに共感するところです。
本書では、陸軍において作家として知られていた同郷の桜井忠温(少将)と絡めて水野たちの姿が描かれています。
水野が社会全体に対して関心を持ったのに対し、桜井はあくまで陸軍軍人としての分を守りつつ、あくまで作家として活動したところが大きな違いです。
個人的には水野のような生き方により強い共感を覚えます。
しかしながら、桜井少将についてはその作家としての文名以上に、日露戦争で体が不自由になりながら分限活動を続け、ついにはその能力を生かして少将にまで上り詰めた、その精神力の強さに尊敬の念を抱かずにはいられません。
また、冒頭シーメンス事件で海軍の内部告発を行った太田三次郎大佐について触れられていますが、末尾に補章として太田大佐についての記載があり、粋な計らいだと思いました。
正義を通すのはいつの時代でも難しいこと。水野は幸いにしてしばらくはやっていけましたが、太田大佐は大変な苦しみを味わったようです。
自分が自分の信念を貫き通すことができる強さがあるなどとは到底思いませんが、せめて自分の正義を貫こうとしている人間に対してはできるだけ理解するように心がけたいと思いました。
また、来年の終戦記念日にあたっては、戦争がいけないというだけでなく、水野や石橋湛山など、戦争に反対した人がいたこと、そしてそれにもかかわらず、なぜ日本は戦争の道を歩んでしまったのか、ということに焦点を当て、我々の思考回路そのものの参考になるような番組を見てみたいです。
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