立花道雪

雷を斬った輿乗りの名将

 立花道雪は、戦国時代、豊後大友家を支えた家中随一の勇将である。旧姓は戸次(へつぎ)であったが、謀反を起こして滅亡した名門・立花家に養子入りして(家名を残すため)、立花家の人間となった(但し、彼自身は名乗らなかったとも)。彼は落雷を受けて足が不自由だったのだが、そのことについてこのようなエピソードがある。

 ある時、道雪は木の下で休んでいた。すると、雨が降り雷が鳴ったという。すると、道雪は雷神に向かって切りつけたという。雷神は斬ったものの、自らも足に被害を受けたということである。確かに、普通に考えると木の下で金属である刀を持っていると雷は真っ直ぐ落ちてきそうなのだが・・・。とりあえず、彼の勇猛さを表すエピソードである。

それ以降、彼は輿に乗って戦うことになるが、輿に乗っても勇猛さが変わることはなかった。彼は自ら輿を敵のど真ん中に置かせ、味方の士気を上げ、味方も決して逃げることはなく常に勝利を手にしたという。

 輿に乗った道雪は、各地を転戦して戦功を重ねる。また、勢力拡大につれ、奢り、堕落していく主君・大友宗麟に諫言するのも彼の役目になっていた。この諫言についてもエピソードがある。

 宗麟が遊びに呆けて政治をおろそかにし、諫言しようとするとのらりくらりとかわされ、頭を抱えた頃、道雪は家に引きこもってしまった。その後、道雪は「今まで遊びの練習をしていましたので是非お越しください」と宗麟を自邸に誘う。無骨な道雪がそのようなことをしたので、面白がった宗麟は早速駆けつける。が、邸内に入ってしまえばこれは道雪のもの。彼は長々と諫言したという。ただし、しばらくの間は宗麟の行動も収まったが、また遊びにふけるようになってしまった。

 宗麟が堕落していく一方、西の龍造寺・南の島津は勢力を急速に拡張していった。さらに北からは毛利家が進出。それらの対応に道雪は動き回ることになる。1569年には進出してきた吉川元春小早川隆景軍と対峙、1570年には龍造寺隆信を攻撃するが、味方が竜造寺家の名将・鍋島直茂に奇襲を受け敗退したので撤退。

1571年には名家・立花家の名前を継ぐ。1575年には娘に家督を譲り(娘に家督を譲るケースは武家の世界では希に見られる)、1581年には、その婿に盟友・高橋紹運から息子をもらう。これが立花宗茂である。ちなみに、宗茂は紹運の長男。最初は紹運も断ったが、主家のため、という道雪の言葉に、結局、養子入りさせた。高橋家は次男が継いだ。

 大友家が耳川の戦いで島津家に大敗北を喫した1578年からは、南方から迫る島津軍との戦いが九州の情勢の焦点となり、大友家の課題となった。この頃になると、道雪・紹運・宗茂が大友家を支える三本柱と言ってよかった。道雪も老躯をおして各地を転戦したため、1585年に発病。9月11日に死去したと伝えられる。

死に臨んで、道雪は大友家の行く末を案じ、また常在戦場の志があったのか、遺体は陣没の地に葬るように遺言を残し、背けば祟ると厳命した。
とはいえ、残された家臣たちからすればそんなことはできないので大いに悩んだ。
最終的に彼らが出した結論は、領地に戻って葬ること。
遺命に背くことになるが、もし道雪様が枕元に立って怒られるなら、光栄なことなので、喜んで腹を切ろう、と。

また、道雪の死に伴い、立花軍は陣を払うが、対陣していた島津軍は追撃することなく、その死を悼んでいたという。
さらに葬儀に当たっては大友家中のみならず、敵対していた勢力からも弔意が示された伝わっている。
それほどまでに立花道雪の名は響き渡っており、また尊敬されていたといえる。

 士を愛する道雪の人徳を表す逸話は多く残っている。例えば、「士で弱い者はいない、いたら大将の責任である」と、いつも家臣をいたわっていた。また、客の前で家臣が粗相をすると、「彼は畳の上ではこういうこともありますが、戦場に出ると誰よりも勇敢に戦います」と、かえって褒め、面目を失わせることもなかった。だからこそ、誰も輿を捨てて逃げ出すことはなく、道雪のために必死に戦ったのだった。

 ちなみに、彼の武勇は、東国まで行き届き、武田信玄も彼と手紙をやり取りしていたという。通信網のなかった時代であることを考えるととんでもない知名度である。

 家中の人望厚く、勇猛果敢な道雪が亡くなると、島津軍は一挙に押し寄せてきた。盟友・高橋紹運は、数万の島津軍に1000足らずの兵で籠城して抵抗。数度撃退し、大打撃を与え、自害。この時の抵抗による被害と時間のロスが豊臣軍の援軍まで大友家を持ちこたえさせ、主家を救ったという。その直後、主君宗麟は死亡する。道雪の養子・宗茂は秀吉に気に入られ、柳川13万石を与えられる。関が原の戦いでは西軍に味方し、一度は領土を失うが、家臣たちと苦労を乗り越え、後に旧領を回復した。

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